虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

手ごわい昆虫ゴミ屋敷の整理

  ゴミ屋敷化した昆虫写真の整理に取り掛かって気付いたのですが、何と今週のお題は「今年も折り返し」。折り返して、心機一転、人生を出直すためにも、ゴミのようにうずたかく積もった写真をなんとかしなければ。しかし、あせればあせるほど、物事はうまく進まないものです。

 そんな人間にとって、整理整頓のお手本のような虫がオトシブミの仲間。卵を産みっぱなしにしないで、きちんと葉っぱの中にしまい込み、まるで秘密の恋文のような、小さくて、きれいに形を整えられた巻物のような、揺りかごを作ります。この揺りかご(落とし文)が、幼虫の餌になるのですから、よく考えられた仕組みですね。

 今回は、まず、5月の高尾のルイスアシナガオトシブミです。

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ボディビルダーのような力こぶをひけらかすルイスアシナガオトシブミ

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 ルイスアシナガオトシブミは、ケヤキの葉を巻いて落とし文を作ります。アシナガの名の通り、前足が長いのですが、長さより、腿節(人間的には太ももとか、二の腕とかの感じ)の筋肉的な盛り上がりの方が目立ちます。この肉体美の前足は、特に♂に目立ちます。落とし文を作るには、もってこいの前足のように見えますが、♂は落とし文の作成には全く参加しません。後背から♀を襲ったりして邪魔するだけです。

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ルイスアシナガオトシブミのオスはメスの作業を邪魔するだけ

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完成したルイスアシナガオトシブミの落とし文

 

 次はヒゲナガオトシブミ。アブラチャンという木に多い種類です。イタドリでも見かけます。

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ヒゲナガオトシブミのオス(左)とメス(右)

 ヒゲナガオトシブミのメスはあまり特徴がないので、他のオトシブミと区別がつきにくいです。

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ヒゲナガオトシブミのメスは特徴に欠ける

 確実に判別するには、特徴あるオスとの交尾現場を押さえるのがいいですね。現場を押さえられたカップルにとってはいい迷惑ですが。

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交尾の現場を押さえられたヒゲナガオトシブミ

 ヒゲナガというほど、髭(触角)の長さは気になりませんが、♂の首の長さは気になります。この長い首が何の役に立つのか、全く分かりませんが、こういう自己主張の強い姿は好感が持てます。

 

 アカソの仲間の葉を巻くのは、ヒメコブオトシブミです。背中の小さなコブが目印。

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アカソの葉にいるヒメコブオトシブミ

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交尾中のヒメコブオトシブミ

 

 同じように背中にコブが有っても、エノキの葉を巻くのは、ヒメゴマダラオトシブミ。ゴマダラと言いながら、背中一面黒っぽいのが多く、黄色と黒のゴマダラ模様になているのは少ないので、遠目にはヒメコブと見間違えそうになります。

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エノキにいるヒメゴマダラオトシブミ

 別に見間違えたところで、世の中の大勢に影響はないのですが、そういう細かいところにこだわるのが、虫好きの困った側面ですね。よーく見ると、ヒメゴマダラは頭とか、腹の一部が黄色くて、真っ黒なヒメコブとは違いますね。なんてことは、一般社会的にはどうでもいいことです。

 害虫駆除の世界では、その虫が何を食べるのかが重要ですが、アカソもエノキもあまり人間の役に立つ植物ではないので、これまた大勢に影響なしです。駆除されなくて、まずは良かった。人間に無視されるということは、虫にとっては良いことのようです。

昆虫ゴミ屋敷の整理に着手

 部屋を片付けるとか、資料を整理するとか、ともかく苦手です。どんどん処理が遅れていきます。

 来週はもう7月というのに、5月に撮った虫たちの写真がまだ整理できていません。オーガナイズできない男、片付けができない男にありがちな行動です。集めるだけ集めて、あとはほったらかし。

 このままでは、写真のゴミ屋敷です。何とかしなければ。

 と、いうことで、ともかく片付けを開始することに。ブログに整理しないと、いつどこで集めたゴミ、あるいは虫なのか、分からなくなって、探そうと思った時には、もはや見つけ出すこともできなくなります。

 あまり気乗りせず読者になって下さった方々には申し訳ないですが、これからゴミの片づけに入りますので、「何で今頃、こんな虫が」と怒り出さないようお願いします。無視してもらって全然かまいません。

 まずは、何と、5月初めの高尾のウスバシロチョウです。

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5月上旬の高尾のウスバシロチョウ

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モンシロチョウのように見えますが、春だけに現れるアゲハの仲間です。

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半透明の羽が色っぽいウスバシロチョウ

  そしてアサギマダラ。

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アサギマダラの季節は高尾では春と晩秋

 アサギマダラが東京の低山で見られるのは、たいていは初夏までです。盛夏になると、涼しい高地に移動。富士山の森林限界あたりでも良く見られるようになります。

 次に低地で見られるのは、9月、10月ぐらい。そのころになると、東京都心の公園でもたまに見かけることがあります。東京だと秋の蝶の印象がありますね。

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アサギマダラは遠方まで渡りをする蝶ですが、高尾には幼虫の餌のキジョランが多いので、羽化直後と産卵の季節にたくさん見られます。

 

 かなり色あせたテングチョウがエノキで産卵しまくっていました。越冬明けの生き残りかもしれません。

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エノキに産卵中のテングチョウ

 こちらは自宅で育てたテングチョウの蛹。春に捕獲した小さな幼虫を育てたもので、5月前半に羽化しました。

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羽化直前のテングチョウの蛹。羽の模様が透けて見えます

 

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羽化したテングチョウを指乗せ

 娘や息子が成人式を迎えるというのに、まだ親はせっせと卵を産み続けているといった感じでしょうか。昆虫の繁殖にかける意気込みは半端ではないですね。

生きたウン〇マーク、とぐろを巻いたハバチ幼虫

 高尾駅周辺で、生きたウン〇マークを見つけました。とぐろを巻いたウン〇と、とびきりの笑顔。このアンバランスさが、人気の秘密ですね。うん〇ドリルとか、某国営放送でも平気で放送していたので、まったく問題ない言葉(恥ずかしいと思うこと自体が問題との指摘もあります)なのでしょうが、さすがにお食事中だと申し訳ないので、〇を入れました。

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ウン〇マーク風にとぐろを巻いたハバチ幼虫

 ハバチの仲間の幼虫ですが、何ハバチなのかは、現在調査中です。とぐろの部分も、ただどす黒いだけでなく、白い星をちりばめているところが、おしゃれですね。

 

 前出のハバチとは、白黒逆転させたようなハバチもいました。こちらはウン〇マークと言うよりは、チョコチップ入りのソフトクリーム。

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ソフトクリーム風にとぐろを巻いたハバチ幼虫

 見つけた場所は、京王線高尾駅から良く見える「みころも霊堂」裏の初沢城跡の森です。みころも霊堂は、労災で亡くなった方々のための慰霊の場で、いつか自分も慰霊されたい(でも労災は嫌)ほど立派な霊堂です。

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黄金のキントウンのような「みころも霊堂」

 金色の霊堂はソフトクリームなどではなく、西遊記やドランゴンボールに登場する黄金のキントウンと評するのがいいでしょう。

 

幸運を呼ばなかったオッドアイの白猫

〇幸運を呼ばなかったオッドアイの白猫

 5月の葛飾水元公園で、幸運を呼ぶという猫、オッドアイに出会いました。左右の目の色が違う不思議な白猫です。猫自身は野良猫のようで、あまり幸福には見えませんでしたが、昔話でも幸運を運んで来るのは、みずぼらしいお爺さんだったりするので、このオッドアイもきっとそういう類いなのでしょう。

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左右の目の色が違う白猫オッドアイの野良を見つけました

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オッドアイの目はブルーとイエロー。幸運を運ぶ猫といううわさ。

 野良猫なので、普段どこにいるのか分かりませんが、きっと水元公園内のどこかに住んでいるのでしょう。幸せが欲しい人は、水元公園に行ってみましょう。でも、その後昆虫記者には、これといった幸運は舞い込んでいないので、このオッドアイの御利益は疑わしいようです。

 水元公園は水郷公園なので、魚が豊富です。猫にとっては、願ってもないことです。ここには水郷らしく、金魚の養殖場もあります。

 昆虫記者は手が出せないような、値の張る珍しい金魚が多くいます。

 これは水泡眼。目の下が大きな水膨れになっています。

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水泡眼です

 これは頂天眼。瞳が上を向いた出目金です。

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頂天眼です

 普通の出目金はこちら。

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普通の出目金

 高級金魚の代表、ランチュウもいます。

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ランチュウ

 これはオランダ獅子頭。頭のボコボコが魅力のようです。

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オランダシシガシラ

 金魚なのに銀色の銀魚というのもいました。

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金魚なのに銀魚

 いろいろな金魚がいるものですね。オッドアイ養殖場の近くにいましたが、もしや金魚を狙っているのでは。でも養殖場はフェンスで防御されているので、猫が入り込むのは難しいでしょう。

 

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水元公園の金魚養殖場

 それに金魚はたぶんおいしくない。我が家に庭があった昔、金魚を池で飼っていたのですが、性悪の近所の猫は金魚を捕まえて遊んで殺すだけで、食べようとはしませんでした。

 水元公園の入口付近は無料の釣り堀のようになっていて、ヘラブナなどを狙う釣り師がひしめき合っています。そこでおこぼれを期待しているのは、猫だけではありません。

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 いつもアオサギが釣り師の後ろで身構えています。

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釣り師のおこぼれを待つアオサギ

 でも釣り師のおじさん、今日は何も釣れなかったのか、おこぼれを待つアオサギを無視して竿をたたみ始めました。

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今日はおこぼれなし

 細い流れには、小さな竿でタナゴを釣る人たちがいます。これはこれで、味のある釣りですね。

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タナゴ釣りに最適の細い流れ

 本日の釣果。タナゴはきれいな魚です。タイリクバラタナゴでしょうか。

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タナゴはきれいな魚。金魚屋でも結構な値段で売られている

 水郷らしいアヤメの咲く風景。

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 駆除を逃れたアメリカザリガニがいました。

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 おっと、昆虫を忘れていました。いつものキマダラカメムシです。

 ここではクヌギに多いですが、今回はヤナギ系の木にいました。

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キマダラカメムシとヒラタアブのコラボ

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いつの間にか都内の顔役になった外来のキマダラカメムシ

 

 突然季節外れの雪。そんなわけないですよね。ヤナギの綿毛が雪のように舞っていました。

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季節外れの雪?

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水面はヤナギの綿毛で真っ白に

 マユミの木には、これまたいつものキバラヘリカメムシ

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マユミの木には必ずキバラヘリカメ

 街中の「毒虫らしくない毒虫」の代表、アオカミキリモドキです。「カミキリムシ!」と思って、お子さんがつかまえたりしないようお母さんは注意しましょう。毒は結構強烈です。

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アオカミキリモドキには触らないように

 蝶は、ツマグロヒョウモンにアオスジアゲハ。

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 なんか、当たり前の虫ばっかりだなー。オッドアイの御利益全くなしです。皆さんも水元公園オッドアイには、会いに来ない方がいいです。まだ散策路で寝そべっているので、蹴飛ばしてやろうかと思います。

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寝そべるオッドアイ

 そんな罰当たりなことを考えるから、幸運も逃げていくのですね。

 水元公園には、北千住経由で地下鉄千代田線、JR常磐線で金町下車。北口を出て左端の乗り場からバスで10分弱で着きます。押上駅から京成金町線でのんびり行くのもいい雰囲気です。

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ローカルな雰囲気の京成金町線

 

カメノコテントウとクルミハムシの生と死のドラマ

〇カメノコテントウとクルミハムシの生と死のドラマ

 5月初めの連休が終わると、昆虫の季節は全開ですが、会社勤めに関しては7月半ばまで祝日がない地獄のような期間に入るわけで、生活面では全壊状態になります。

 週末に高尾方面に出かけたりすると、それはもう、虫だらけで、撮っても、撮っても、撮り切れないほど写真を撮るのですが、休みが少ないのでとても整理しきれない状況に陥ります。ブログを書く時間も厳しくなります。ブログはある意味、撮った虫の写真の保管場所、整理棚的な役割を果たすので、さぼってばかりいると、後が大変になります。

 こんな時になぜかマンションの大規模修繕なんてものが、重なってきて、ベランダの虫と、虫の食樹を片付けなければならなくなって、地獄のような日々です。

 当然、ブログの内容はなげやりにならざるを得ません。

 とりあえずビール、じゃくて、とりあえず何でもいいや、ということで、クルミの木で展開される、弱肉強食、生と死のドラマです。

 初夏のクルミの木の常連と言えば、カメノコテントウとクルミハムシですね。「ですね」って、そんなの聞いたことないという人がほとんどでしょう。

 まずは、テントウムシの幼虫とは思えない、巨大さのカメノコテントウの幼虫です。

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カメノコテントウの幼虫。クルミ、エノキなどにいる。

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とてもテントウムシの幼虫とは思えないビッグなカメノコテントウ幼虫

 そしてクルミの木で交尾するカメノコテントウのカップルです。のどかな風景ですね。

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クルミの葉上で交尾するカメノコテントウのカップ

 そしてお腹パンパンのクルミハムシの♀。

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クルミハムシの♀のお腹は卵でパンパン

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よく見るとクルミハムシ♀のお尻に♂がしがみついていました。情けない姿です。

 クルミハムシがどっさり卵を産むと、どっさり幼虫が発生して、クルミの葉はぼろぼろに。昔、学校の理科の時間にやった葉脈標本のようになります。

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クルミの葉を食べるクルミハムシの幼虫

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クルミハムシの幼虫に食べられた葉は葉脈標本のように

 水酸化ナトリウム溶液なんか使わずに、ハムシの幼虫を使って葉脈標本を作るのもいいでしょう。でも、最近の理科の先生は女性が多くて、虫が大嫌いな人も多いようなので、無理でしょう。

 

 カメノコテントウとか、クルミハムシとか、のどかな風景を見るためには、高尾駅から延々と歩くか、殺人的に混んだ小仏行きバスに乗るかしなければなりません。

 週末の小仏行きバス乗り場は、こんな大混雑です。

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高尾駅から小仏行きのバスは大混雑

 終点の小仏も大混雑です。

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小仏バス停もすごい人に。2台連なって運行するので、乗り切れないことはない。

 ほとんどの人はここから、小仏峠、城山、景信山、高尾山方面へと登っていきます。でも昆虫記者は、ここから登るのではなく、下ることが多いので、小仏バス停から先は、人影もまばらになります。

 

 クルミの木の下にカメノコテントウの蛹がありました。

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カメノコテントウの蛹

 抜け殻になった蛹の隣には、羽化後間もないカメノコテントウ。

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蛹の抜け殻と、羽化後間もないカメノコテントウ

 あまりにものどかな自然の営み。そのどこに生と死のドラマがあるのでしょう。

 発見しました。カメノコテントウがクルミハムシの卵らしきものを食べています。

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クルミハムシの卵らしきものを食べるカメノコテントウ

 そうなんです。テントウムシは肉食の種類が多いのです。ナナホシテントウとか、ナミテントウとかは、アブラムシを主食にしていますが、大型のカメノコテントウは、そんなものではお腹がいっぱいにならないので、ハムシの幼虫を主食にしています。

 その中でも特にお気に入りのお肉が、クルミハムシの幼虫なんですね。幼虫を食べている現場を探したのですが、みつかりません。

 ならばどうするか。カメノコテントウとクルミハムシの幼虫を一緒にして、観察するしかないですね。捕まえて一緒にしてみました。

 気が付いたら、もうカメノコテントウが、クルミハムシの幼虫にかぶりついていました。なんと残酷なのでしょう。動物虐待で訴えられそうです。

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クルミハムシの幼虫を食べるカメノコテントウ

 しかし、これが自然界の掟なのです。昆虫記者は、研究者としての興味から、ちょっと手を貸したにすぎません。

 人間界では、ハムシはたいてい害虫、肉食テントウは益虫とされていて、ハムシ幼虫の大量虐殺は「益」、つまり良いこととされているのです。良いことをちょっと手助けしたにすぎないのです。

 カメノコテントウは、クルミの木ばかりでなく、エノキにもいます。特に都会ではクルミが少ないので、エノキが定宿です。

 つまり、クルミハムシの幼虫だけでなく、エノキハムシの幼虫も、カメノコテントウの好きなお肉ということになります。

 試しに、クルミの木にいたカメノコテントウを、代用食のエノキハムシの幼虫と同居させてみました。

 すぐにかぶりつきました。

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エノキハムシの幼虫にかぶりつくカメノコテントウ

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エノキハムシの幼虫もカメノコテントウにとってはおいしいお肉です

「な、な、なんと、残酷なことをするんだ」と非難の声が上がりそうですね。若干やり過ぎました。反省です。

 でも、これも人間界的判断では善行であり、研究者的には大切な調査です。

 ハムシのお肉をたらふく食べたカメノコテントウは、栄養状態の良さそうなオレンジ色の卵をたくさん産みました。

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カメノコテントウの卵

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こちらはクルミハムシの卵と孵化したばかりの幼虫

 でもハムシはもっとたくさん卵を産みます。カメノコテントウがいくら頑張っても、数で圧倒するハムシを駆逐することはできないのです。

 

 ついでにもう一種類、カメノコテントウと同じくらい大型のテントウムシを見つけました。ハラグロオオテントウです。悪そうな名前ですね。

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ハラグロオオテントウも大型のテントウ

 こちらはクワの大害虫であるクワキジラミの幼虫を食べます。腹黒ですが、益虫、正義の味方なのです。

〇都会の水郷のカルガモ親子とイトトンボ夫婦

〇都会の水郷のカルガモ親子とイトトンボ夫婦

 今の季節、水辺の公園を回っていると、どこかでカルガモ親子に会うものですが、都会の公園だとテレビ取材班が繰り出すほどの大ニュースになります。都会の人々は自然に飢えているんですね。

 なんてことを言いながら、昆虫記者も東京の都市公園カルガモ親子を見たりすると、飽きることなく眺め続けてしまいます。小さな子供は何でもたいていかわいいものです。そして、少し大きくなると憎たらしくなるものです。

 今年のカルガモ親子との出会いの場は、葛飾区の水元公園でした。「虫撮る人々」なのに、なぜ虫(この公園には山ほどいます)よりもカルガモ親子を優先するかと言うと、虫より圧倒的に鳥の方が人気があるからです。悲しいことですが、事実です。

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水本公園のカルガモ親子。なんとかわいく、なんと憎らしいのでしょうか

 Hatenaブログのグループでも、昆虫は野鳥に圧倒的大差で敗北しています。悲しいことですが、事実です。

 なぜ、虫が負けるのか。それは親子関係が薄いから。たいていの虫は卵を産みっぱなし(一部のカメムシは卵と幼虫を守ります)ですが、鳥はちゃんと子育てをします。そして、虫の子供(幼虫)はあまりかわいくないケースが多い(一部のイモムシを除く)ですが、鳥の子供(ひな)はたいていかわいいです。

 つまり、昆虫グループが野鳥グループに大差で敗北している主な理由の一つに、カルガモ親子のかわいさがあるということです(頑張れ昆虫グループ)。

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昆虫グループが野鳥グループに負ける要因はカルガモ親子にあり

 そう考えると、かわいいと思っていたカルガモ親子が、妙に憎たらしくなってきますね。「お前ら、かわい子ぶってるんじゃねえよ」とか叫びたくなりますが、野鳥グループからの激しいバッシングが予想されるので、控えた方がいいでしょう。とりあえず「カルガモ親子は可愛いです」ということで。はい、納得です。

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 水辺の虫の中では、比較的かわいいということで、人気があるのはトンボです。特に細く、小さいイトトンボは、たくさんいて撮りやすく、弱々しく可憐なので、昆虫バッシングの対象にはなりにくい存在ですね。

 水本公園の菖蒲田付近に圧倒的に多いのは、オオイトトンボです。アジアイトトンボやアオモンイトトンボよりはるかに多いです。名前にオオ(大)が付きますが、さして大きくはないので、虫好き以外には全く相手にされません。カルガモ親子に群がるカメラマンたちに、足元のオオイトトンボの存在をアピールしても、足蹴にされるだけです。悲しい。

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スイレンの葉にとまるオオイトトンボ

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オオ(大)が付きますが、さして大きくないオオイトトンボです

 しかし、しかし、イトトンボの場合は、カルガモと違って交尾や産卵の様子を簡単に見ることができるのです。地球の自然の営みを目の当たりにすることが、いとも簡単にできるのです。鳥の交尾なんて、ほんの一瞬、♂が♀の背後でバタバタやったら終わりですが、イトトンボは、♂♀の長い尾が結び合ってハート型を作って、ねちっこく交尾します。しかも、産卵の際にも、♂が♀の首根っこをがっちりホールドした態勢で、立ち合い出産するのです。「これはもう、感動ものですね」なんて言っても、カルガモ撮影隊は振り向いてもくれません。悲しい。

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交尾中のオオイトトンボ、右のカップルのハート型の絡みに注目

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オオイトトンボの産卵

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細い水草に卵を産み付けているのが分かります

 たまに赤いイトトンボがいますが、たいていはアジアイトトンボとかの幼体です。大人になっても赤いベニイトトンボは東京では非常に少なくなっています。

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よく見かける赤いイトトンボはたいてい幼体

 

 こちらは、オオイトトンボよりかなり地味なクロイトトンボです。「交尾、出産の感動シーン」なんて言う昆虫記者の声も、だんだんと糸のようにかぼそくなってきます。もはや誰の耳にもとどきません。悲しさの極致です。

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クロイトトンボの交尾

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クロイトトンボの産卵

 ええい、やけくそだ。こうなったら、水辺の汚らしい虫で報復だ。

 というわけで、スイレンの隙間に浮かぶヒシの葉を食い荒らすジュンサイハムシの群れです。

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スイレンの葉の隙間に何やら汚らしい集団が

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ヒシの葉を食べるジュンサイハムシの群れでした

 おっと、いけない。これでは昆虫グループがさらに苦境に陥りますね。ならば、水辺の葦原で見られる金色のハムシはどうでしょう。スゲハムシの仲間です。

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スゲハムシの仲間

 湿地に多く生えるハンノキにも、昆虫グループを支える虫がいます。ミドリシジミですね。今頃はキラキラと緑色に輝く羽で飛び回っていることでしょう。しかし、昆虫記者が水元公園ミドリシジミに出会ったのは、5月中旬なので、まだイモムシです。

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ミドリシジミの幼虫

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ミドリシジミの幼虫は、ハンノキの葉のこんな隠れ家の中にいます

 だれにも注目されない悲しいイモムシですね。

 鳥にも、虫にも興味のない人々にとっても、水元公園は憩いの場です。広い水辺を眺めていると気分が晴れやかになります。昆虫グループの苦境で気分が落ち込んだ時にも、こういう景色は役立ちます。

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 都会の喧騒に疲れたら、ぜひ都会の水郷で傷ついた心を休めて下さい。

葛西で崩れ去ったビロードの夢とイモムシ超百科

 わが家からバス1本で行ける葛西臨海公園は、週末の朝に寝坊した時の定番スポットです。

 葛西と言えば、葛西臨海水族園。でも入園料700円はとても払えないので、9月15日からの高齢者無料週間にでも行こうと思います。

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葛西臨海水族館。柵の外から撮ったまるで入場したかのような写真

 その水族館脇のクスノキで見つけたのがビロードハマキの幼虫。葉っぱが何枚か束ねてあったので、不審に思って中を覗き込むと。

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 ジャジャーン。いました。ビロードハマキの幼虫です。まず、名前がいいですね。ビロードのソファーに座って、葉巻をくゆらす。かつての大富豪の生活が思い浮かびます。

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重なった葉の中に隠れていたビロードハマキの幼虫

 

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夏向きの涼しげな色合いのビロードハマキ幼虫

 大富豪は700円をけちったりしないものですが、昆虫記者は大富豪ではないので、けちります。葛西臨海水族館は、最初の大きな門を入ると、滝のように水の流れ落ちる壁に面した広場があるのですが、ここまでは無料です。この無料の空間にギフトショップがあり、ギフトショップの裏には、自販機が並んだ屋根付きの休憩スペースがあります。

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臨海水族館入口の滝のような壁

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ギフトショップ裏の休憩スペース。ここまでは無料で入れる

 この無料の休憩スペースは、空いていて非常に過ごしやすいところです。700円を惜しむ貧乏人には最適の休憩所ですね。

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青い表示のゲートから先が有料となります。

 

 話をビロードハマキに戻します。幼虫は夏向きのすがすがしい色合いです。薄黄色のレモネードの中にタピオカの粒が浮かんでいるようですね。

 持ち帰ったら、すぐに蛹室を作って、その中で、蛹になりました。透明なハンモックに揺られて、宙に浮かんでいるような状態は気持ちよさそうです。

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葉を束ねた蛹室

 

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宙に浮かぶビロードハマキの蛹

 そして成虫は、これまた美しいこんな姿になるはずでした。

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ビロードハマキ成虫はこんな姿になるはずでした。

 

 しかし、しばらくして蛹室を開いてみると、寄生蜂か寄生蝿の蛹が転がっているだけでした。大富豪の夢はおろか、きれいな蛾を羽化させる夢さえも、かなわなかったのでした。

 なぜそんな不幸に見舞われなければならないのか。よく考えてみると、前回の鎌倉恐怖体験編で、イノウエケイコさんの著書を紹介するつもりで、結局失念してしまったことに思い当たりました。

 こうした不義理が、不幸を招くのですね。

 ということで、ここでイノウエさんの御著書の「キモカワ!イモムシ超百科」を紹介します。

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モカワ!イモムシ超百科。幼虫、蛹、食痕、成虫等、すべてが分かる超百科です。

 

 もちろん、ビロードハマキも紹介されていて、「宙に浮いているようで神秘的」な蛹の写真も掲載されていました。

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イモムシ超百科、ビロードハマキのページです。

 さすがイモムシ専門家。