虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

稲作農家の大敵?、イネクビボソハムシのささやかな人生

〇稲作農家の大敵?、イネクビボソハムシのささやかな人生

 水田風景は日本人の心の故郷ですね。そして、農家にとっては大切な収入源、イネクビボソハムシにとっては生活の場そのものです。

 緑の森に囲まれた水田。谷戸の風景はいつ見ても心に染みます。老後資金2000万円問題で「死ぬまで働け」と命令されている昆虫記者の傷ついた心も癒してくれます。

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イネクビボソハムシ。5ミリに満たない小さなイネの害虫です

 しかしもちろん、こうした水田の風景は、傷心を癒すために存在しているのではありません。農家の大切な収入源、日本人の大切な食糧源なのです。関東では日照時間が異常に短かった今年の夏。作柄は大丈夫でしょうか。豊作を祈りたいですね。

 

 そして水田は、イネクビボソハムシの住処でもあります。農家にとってイネクビボソハムシは、イネの葉を食い荒らす害虫。昆虫記者にとっては可愛いハムシも、農家にとっては憎き親の仇のような存在なのです。

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傷心を癒す谷戸の田んぼの風景

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オレンジ色の花はノカンゾウでしょうか。日本人の心の故郷の景色ですね

 でもイネクビボソハムシは小さな虫なので、農家の大敵というほどではないかもしれません。せいぜい小敵でしょう。

 

 7月の千葉の谷戸にいたイネクビボソハムシの幼虫です。農作業ではねた泥のように見えますね。これは自分の糞を背中に背負っているのです。なので、別名イネドロオイムシとも呼ばれます。

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イネクビボソハムシの幼虫。別名イネドロオイムシ

 イネの葉に食痕の白い筋が入っているのが、犯行の証拠。泥のかたまりが、実は泥に化けた害虫であることの証拠です。

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イネクビボソハムシの幼虫の食痕です。

 

 幼虫はやがて、イネの葉の上に、こんな綿菓子のような蛹室を作って蛹になります。

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イネクビボソハムシの蛹室

 蛹室に穴が開いていたら、成虫が無事誕生したということです。

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イネボソハムシ成虫が脱出したあとの蛹室

 そして成虫誕生。

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 最近は害虫駆除の技術が進歩したので、イネクビボソハムシを見かける機会は少なくなったようです。それでも、丹念に探すと(そんな暇があったらもっと有意義な時間を過ごした方がいいです)広い田んぼのどこかにイネクビボソハムシの姿があります。われわれ日本人と同様に、イネに依存して生きる小さなイネクビボソハムシに共感がわきます…などと言うのは虫好きだけ。普通は反感がわきます。

スーパーの野菜を食べると必ず死ぬキアゲハ幼虫の怪

〇スーパーの野菜を食べると必ず死ぬキアゲハ幼虫の怪

 台湾旅行をわずか1週間後に控えているのに、まだパソコン上には8月の虫写真の在庫がたまっています。どきゃんかせんといかん。

 まず何から処理していくか考えた時に、心に重くのしかかる悲しい思い出がありました。悲劇のヒロイン(オスメスは不明ですが、ヒーローよりヒロインの方が響きがいいですね)は、キアゲハ幼虫です。

 

 この美しい姿をご覧ください。これがヒロインでなくて何でしょう。

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キアゲハの4齢幼虫

 物語の始まりは、歴史の香り高い北鎌倉。いかにもすてきな女性主人公が登場しそうな町ですね。「ビブリア古書堂の事件手帖」の美貌の女店主「栞子」さんの古書店があるのも、北鎌倉駅近くですね。栞子さん大好きです。1~4巻一気に読んでしまいました。

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騒々しい町中の鎌倉駅と比べて田舎のローカル線の駅のような雰囲気の北鎌倉駅

 そんな北鎌倉の小道で出会ったのは、どこか栞子さんを思い起こさせる(一体どこが!)キアゲハです。

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楚々とした美しさが栞子さんを思い起こさせるキアゲハ

 地面近くでバタバタと何をしているのでしょうか。ミステリーですね。

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地面近くで怪しい行動を見せるキアゲハ

 実は全然ミステリーではありません。キアゲハがしがみ付いていたのは、野生のミツバ。ミツバはセリ、セロリ、ニンジンなどと同じセリ科の植物で、キアゲハの幼虫の食草なのです。

 

 その証拠はこれ。キアゲハがしがみ付いていた葉の上には卵が産みつけられていました。

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野生のミツバに産み付けられたキアゲハの卵

 卵を持ち帰って、箱入り娘のように、大切に育てます。

 

 1~3齢の幼虫は、他のアゲハの仲間と同様に、黒っぽく地味なイモムシです。この段階は鳥の糞に擬態しているのでしょう。

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キアゲハの1~3齢幼虫は鳥の糞的姿

 興奮するとオレンジ色の臭い角(肉角、あるいは臭角)を出すので、黒くてもアゲハの仲間の幼虫であることが分かりますね。

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危険を感じるとオレンジ色の臭角を出します

 4齢になると、それまで隠されていた美貌が花開きます。「お前絶対整形しただろ」と言いたくなるほどの大変身ですね。

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美貌が花開いたキアゲハの4齢幼虫

 胴体は童話のお姫様のような、お菓子系の柄に彩られています。しかし、顔はなぜか泣き顔。一体何がそんなに悲しいのか。

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顔は少し泣き顔

 そして終齢。もう文句のつけようのないお嬢様ですね。ここまでは、現地で調達した野生のミツバで育ててきたのですが、ついに餌切れとなりました。そこで仕方なく、近所のスーパーでセリを買ってきて、幼虫に与えました。

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キアゲハの終齢幼虫。お菓子系のお姫様とでもいいましょうか。

 スーパーの野菜には苦い思い出があります。それまで野生のセリやベランダのパセリで元気に育っていたキアゲハの幼虫4、5匹が、スーパーのパセリを与えたその夜に、全員死亡したのです。ネットで調べてみると、同じような経験をした人がたくさんいるではありませんか。殺虫剤、化学肥料など、何らかの化学物質の影響でしょうか。ともかくキアゲハは、スーパーの野菜にはめっぽう弱いのです。

 

 そこで今回は、水耕栽培のセリを選んだのでした。パセリは危険と読んだのです。そして水耕栽培なら殺虫剤は不要のはずなので、安全性が高いのではと考えたのでした。

 

 しかし、スーパーのセリを与えたその夜、キアゲハの幼虫は死亡しました。

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悲劇のヒロインとなったキアゲハ幼虫

 手塩にかけて育てた娘を虐殺されたような思いです。死を目前にした終齢幼虫の顔は、やはり泣き顔でした。彼女を悲劇のヒロインと呼ばずに、なんと呼べばいいのでしょう。次回キアゲハの幼虫を育てる際には、決してスーパーの野菜を与えたりしないぞと強く心に誓った昆虫記者でした。でも、東京都心にセリ科の雑草って少ないんですよね。なので、来年からはプランターでパセリを栽培しようと思います。悲劇を繰り返さないために。

 

 

えーっ、7月の虫写真整理のトップが蝿って、ひどくない?

〇えーっ、7月の虫写真整理のトップが蝿って、ひどくない?

 まだまだ虫写真の在庫整理は延々と続きます。何とトップは蝿です。「うわー、やめてくれー」という非難の声がブログを揺るがします。金蝿、銀蝿、肉蝿、寄生蝿、どれもこれも嫌ですね。なんで蝿って、あんなに、嫌らしい生き物なんでしょうか。

 たいていだれでも、まずは良いとこ取りしますから、残り物の整理に過大な期待を抱いてはいけません。

 で、何蝿かというと、あまり聞いたことのないハマダラミバエの仲間です。蝿には全然詳しくないので、自信は全くありませんが、たぶんミツボシハマダラミバエだと思います。蝿を分類、研究している人って偉いですよね。でも虫の研究で生活しようと思ったら、お金を稼げる職業の一番手は、ハエとか、蚊とか、ゴキブリとか害虫の駆除、殺虫剤開発の分野でしょう。

 また前置きが長くなりましたが、7月分のゴミ処理のトップを飾る蝿はこれです。

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たぶんミツボシハマダラミバエ

 ハエとは思えない芸術性を備えた虫ですね。なんて言い訳しても、誰も賛同してくれないでしょう。やはり蝿は蝿です。

 

 2番手はカメムシです。これもひどい選択ですね。ブログがカメムシ臭くなりそうです。

 でもネムノキに多いこのオオクモヘリカメムシは、悪臭ではなく、さわやかな青リンゴの香りを出します。一度捕まえて匂いを嗅いでみて下さい。でもあまり近づきすぎないように。香水のいい香りでも、濃くすると悪臭になるらしいので、オオクモヘリの青リンゴも、濃くするとドリアンのようになるのかもしれません。

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ネムノキで交尾中のオオクモヘリカメムシ

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銀杏のように見えますが、オオクモヘリカメムシの卵です

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孵化したばかりのオオクモヘリカメムシの幼虫

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 次は愛情たっぷりのダブルハートマークのエサキモンキツノカメムシ

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エサキモンキツノカメムシ。♡マークでご近所に幸せを運んできそうですね

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腹の下に抱えているのは孵化したばかりの幼虫の群れ。エサキモンキは子育てもします

 次はトンボです。ロープの上にずらりと並ぶトンボの姿は壮観ですね。グルメ番組では「行列のできる店」がよく紹介されますが、きっとトンボにとっても、餌になる周囲の虫が良く見渡せる絶好の店、行列のできる店なのでしょう。トンボは詳しくないのですが(昆虫記者なんて言いながら、ほとんどの虫に詳しくないって、詐欺じゃないの)、これは分かります。ノシメトンボですね。なんて、言いながら、ノシメとコノシメという紛らわしい2種類がいるので、一応ネットで写真を確認しました。確かにノシメトンボです。

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ノシメトンボの行列のできるレストラン

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行列好きは人間だけではないようで。

 イモサルハムシを3色揃えてみました。

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一番きれいなのは緑色のイモサルハムシ

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銅金色のイモサルハムシ

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黒い地味はイモサルハムシ

 ハムシも自分の容姿を気にしたりするのでしょうか。自分で選べるなら、黒ではなくて緑になりたいでしょう。

 

 ツユクサをホストにするゾウムシはトホシオサゾウムシ。オサ(長)というのは、大きい生き物に付く名前だと思っていたのに、このゾウムシは非常に小さい。オサゾウムシという大型が多いゾウムシの仲間の小さなゾウムシなのです。

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ツユクサにいる小さなゾウムシはトホシオサゾウムシ

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 最後はフタオビミドリトラカミキリ。全然緑色には見えないですが、若干ウグイス色っぽいと言われれば、そうかと思ってしまいます。でもやっぱりミドリじゃないでしょ。

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えー、今頃ゼフィルス?。雨の季節の蝶と蛾とデンデン虫

〇えー、今頃ゼフィルス?。雨の季節の蝶と蛾とデンデン虫

 「雨の季節ですね」。と言っても、台風でも秋雨前線でもなくて、昆虫記者の在庫整理は未だに梅雨です。まったく、うっとうしいですね。

 

 ゼフィルスというのは西風の神様ですが、昆虫界では年に1回だけ初夏に登場する樹上性のきれいなシジミチョウの仲間のことで、「ゼフ」なんていう昆虫業界用語を使うと、かっこいいですね。

 

 東京周辺の平地性のゼフは、6月上旬から発生し、中旬が最盛期の感じでしょうか。

 ミドリシジミは5月分で紹介しましたね。6月1日の高尾で最初に出会ったゼフは、ウラゴマダラシジミでした。

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ウラゴマダラシジミです。植樹はイボタ系。

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ウラゴマダラシジミの翅裏は名前の通り、ゴマダラです

 次は一番出会う機会が多いアカシジミです。郊外に行くと山ほどいるのに、不思議なことに都心の公園では見かけたことがありません。

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6月1日に見たアカシジミ

 この日はなぜか、常連のウラナミアカシジミには出会えず。年によって当たり外れがあるのかも。ゼフの最後は、ボロボロのミズイロオナガシジミ。ここまでボロボロのも珍しい。ミズイロオナガは、都会でも時々出会います。葛西臨海公園にも多い。

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ボロボロのミズイロオナガシジミ

 ここでしばし休憩。梅雨時のスローペースの生き物と言えば、カタツムリ。昆虫記者の在庫整理と同じ超スローライフですね。

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雨に濡れた苔の緑が似合うカタツムリ

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雨の日のベンチはカタツムリのテリトリー

 ここからの第2部は、蝶と蛾です。

 まずはアサギマダラ。盛夏は涼しい高地に行っていて、秋風が吹きだすとまた平地に戻ってきます。

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6月の高尾のアサギマダラ

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アザミの花が似合うモンキアゲハ

 ここからはガガガガ―っとガです。

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飛び出す絵本のような立体的翅を持つクロホシフタオ

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岩場に群れていたビロードナミシャク。岩の割れ目に似ていることを自覚しているのかも

 

 小さい蛾にはきれいなのが意外に多い。これもそんな蛾の一つ。昆虫記者の貧弱な記憶力ではとても覚えられない長い名前の蛾なので、ブログ上に整理しておくと便利。

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ニセギンボシモトキヒメハマキというとても覚え慣れない名前の蛾

 

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ウスキオオエダシャク

 

 キアシドクガはミズキの多い場所で大量発生することが多く、樹上を乱舞する姿はモンシロチョウの群れのように見えます。

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羽化したばかりのキアシドクガ。上にあるのが抜け殻になった蛹

 

 そのキアシドクガの蛹から伸びた細い糸の先にぶら下がっているのは、ホウネンダワラです。ホウネンダワラは豊作を告げる吉兆とされますが、実はホウネンダワラチビアメバチという寄生バチの繭。キアシドクガの幼虫に寄生してた蜂の幼虫が、ドクガの蛹の中身を食べてから繭を作ったというわけです。ホウネンダワラはハチが害虫を駆除した証なので、豊作の吉兆なのです。

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キアシドクガの蛹にぶら下がったホウネンダワラ

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ホウネンダワラを近くで見るとこんな感じ

 

 草間彌生さんの水玉芸術を思い起こさせるツマキシロナミシャク

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たぶんツマキシロナミシャク

 6月分の在庫整理、もう少しの辛抱です。あとは蛾のイモムシが少々。

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久々に登場したムラサキシャチホコの幼虫です

 すさまじい馬面のイモムシがシオデとサルトリイバラにいました。トモエ蛾の仲間の幼虫でしょう。

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シオデにいたトモエ蛾の仲間の幼虫。たぶんシロスジトモエ。すごい馬面

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たぶんシロスジトモエの若齢幼虫

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終齢幼虫はこんな感じ

 

 クルミにいたバイバラシロシャチホコの異形の幼虫

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バイバラシロシャチホコの幼虫。シャチホコの仲間はエイリアン風幼虫が多い

 ふーっ、やっと終わった。と思ったら、1つ疑問の蛾の繭が残っていました。こんな変な、緑色の笹の葉のような繭が低木からぶら下がっていました。

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不思議な形の蛾の繭

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不思議な形の繭の中にはちゃんと蛾の蛹が

 この蛹を羽化させれば何蛾か分かったはずなのですが、掌の上で観察していた時に一陣の風が繭をどこかへ吹き飛ばしてしまいました。昆虫記者としたことがとんだ不覚です。というか、いつも不覚をとってばかりの昆虫記者です。どなたか、この繭が何蛾のものかご存知の方がいたら教えて下さい。

〇えーっ、今頃オオトラフコガネ?。積み残しもここまでくると犯罪です

 今回は6月分の積み残しの甲虫。初めて撮ったオオトラフコガネの♀もまだ、ブログに載せていなかったなんて、「怠けるのもいい加減にしろ」と言いたくなりますね。もはやここまで来ると犯罪行為です。

 ということで、何と6月22日、雨の裏高尾で撮ったオオトラフコガネの♀です。もう3カ月も前のことですね。撮ってもらったオオトラフも泣いていることでしょう。

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オオトラフコガネの♀(左)と♂(右)

 オオトラフコガネは比較的数が少なくて、昆虫記者も少年、青年時代は憧れていた虫でした。でも高尾周辺にはわりと多くいて、6月中旬、下旬ぐらいにはかなりの確率で見つけることができます。運がいいと、1日の散策で5、6匹見つけることもあります。なぜか沢沿いの低木や下草の葉先に多いようです。

 なーんて語っても、今はもう秋。来年まで待ちましょう。「てめー、いい加減にしろ。今頃オオトラフ紹介するなんて、何考えてんだ。殴ってやろうか」といった反応が予想されますね。

 

 上の写真、左の黒いのが♀で、右の派手なのが♂です。虫好きが憧れるのは当然、華やかな姿の♂です。昆虫は、♂♀で色模様の大きな違いがある場合、たいていきれいなのが♂で、地味なのが♀。でも甲虫でオオトラフコガネのように模様と美貌に大きな男女差があるのは、珍しいです。

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地味なオオトラフコガネのメス。見逃してしまう、と言うか、見かけてもナンパしようなんて思わない類いの虫です。

 鳥も♂がきれいで、♀が地味というのが多いですね。哺乳類でさえ、♂の方がタテガミが立派だとか、牙が大きいとか、目立つのが多いです。それなのになぜ、人間だけは♀の方がきれいなのでしょう。まあ、化粧とか、髪形とか、ファッションとかすべて取り去ったら、男とあまり変わらないかもしれないですが。

 

 あとの甲虫は、あまり取り柄のないのが多いですが、広く寛大な気持ちから、資料として載せてやろうと思います。

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ヌルデにいるヨツボシカミキリ

 ゴマフカミキリがクリの木で交尾していました。きっとこの木に産卵して、幼虫が木の中を食い荒らして枯らしていまうのでしょう。

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交尾中のゴマフカミキリ

 

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たぶんシラケトラカミキリ。背中に漢字の「火」の字があります

 6月の土場で一番多いのは、キイロトラカミキリ。なぜか天気が悪い日には少なく、日が照ってくると、突然どこからか湧いて出るように現れて、材木の上を忙しく走り回って、交尾、産卵をしまくります。

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交尾中のキイロトラカミキリ。6月の土場ではやたらこのカミキリが多い

 梅林の梅の実の上では、ツツムネチョッキリが交尾していました。最近ウメの害虫として注目されているらしい。

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ウメの実の上で交尾するツツムネチョッキリ

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 郊外のヒイラギナンテンの実には必ずいるクチナガチョッキリ。

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交尾中のヒシモンナガタマムシ

 最後はどこにでもいるけど、ちょっとかわいいキベリクビボソハムシ。我が家の近くの小さな公園の山芋にもいます。

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山芋にいるキベリクビボソハムシ

 

残務整理は何と5月のイモムシから

〇残務整理は何と5月のイモムシから。こんな仕事ぶりでは、勤務評価が低いのも頷けます。

 台湾旅行が2週間後に迫ってきました。なのに、パソコンの画面上には、5月の虫撮りのファイルが残っているではありませんか。これが会社の仕事だったら、即座に首ですね。

 ブログはある意味、資料整理の場でもあります。いつ、どこに行って、何をしたか、自分のブログ内の検索をかければ、すぐに分かります。でも、資料整理って、しんどいですよね。ネット時代の今時、新聞のスクラップとかやっている人は少ないでしょうが、職業柄(一応記者です)若い頃は熱心にスクラップしたものです。

  スクラップには、この「切り抜き」の意味のほかに、ゴミくずの意味もありますよね。資料とか、写真とかはため込むだけではゴミになるだけ。取捨選択して、整理した時に初めて、資産になります。

 また、前置きが長い。こういう前置きの長い人間も、社会的評価が低くなります。前置きに時間をとられて、作業が一向に進まないからです。

 ぐずぐすしている暇はないのです。5月の写真から整理を始めないといけないのですから。

 まずはヒカゲチョウの幼虫です。せっかく越冬させて終齢まで育てたのに、恩知らずのイモムシは、ベランダの笹の鉢植えから姿を消して、行方不明になりました。

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ヒカゲチョウの幼虫。胴体に斑紋があるのは少数派。

 体に黄色い斑紋が入るのは、少数派なので、大切に育てていたのに、蛹化前に行方不明になるとは、恩知らずなやつです。

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 次は5月25日撮影のヒオドシチョウの幼虫。どう見ても蛾になりそうな、毒々しい毛虫ですね。タテハ系の蝶の幼虫には、こういう毛虫風のやつが多くいます。だれも飼いたくないですよね、こんな毛虫。

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ヒオドシチョウの幼虫。植樹はエノキです。

 ヒオドシチョウは蛹までトゲトゲ。ドリアンのようで、触ると痛そうです。

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ヒオドシチョウの蛹

 次は1~2センチの幼少時代から育てていたトビモンオオエダシャクの幼虫。

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トビモンオオエダシャクの幼虫は日本最大級のシャクトリムシ

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 ここまで大きくしたのに、結局蛹化に失敗して死んでしまいました。来年再チャレンジです。

 

 これは5月25日に見つけた見知らぬシャクトリムシ。この時点では正体不明でしたが、羽化したらゴマフリエダシャクになりました。

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ゴマフリエダシャクの幼虫。

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ゴマフリエダシャク成虫。こういうきれいな蛾になってくれると、育ての親としては非常に嬉しい。

 

 これも正体不明だったシャクトリムシ。成虫が羽化不全だったので、疑問は残りますが、たぶんオオシロエダシャクではないかと思います。ただ、オオシロエダシャクの幼虫は、ネット検索しても見つからなかったので、確信はありません。

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たぶんオオシロエダシャクの幼虫。

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蛹になりました。たぶんオオシロエダシャク。

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結局羽化不全に。オオシロエダシャクっぽい。

 最後は5月27日に羽化したミドリシジミです。残念ながら♀(B型)だったので、緑色の輝きは拝めませんでした。

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ミドリシジミが羽化

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残念ながら♀(B型)のミドリシジミでした。ちょっとがっかり。

 これでやっと、5月分の整理終了。まだ、6、7、8月分が残っています。気が遠くなりそうです。

名作「少年の日の思い出」のあのコムラサキが羽化

〇名作「少年の日の思い出」のあのコムラサキが羽化

 コムラサキと聞いて、ムラサキシキブの仲間の植物を思い浮かべる人は、野草や園芸に造詣が深い人でしょう。しかし、虫好きにとってコムラサキは、オオムラサキに少し似た蝶です。しかし、国蝶のオオムラサキと比べると、知名度は格段に低く、大きさでも、美しさでもはるかに劣るので、一般の人々にはほとんど知られていません。

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都内の公園でも見かけるコムラサキ

 ところが、外国文学が好きな人の間では、この蝶は意外に良く知られているのです。ヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」に出てくるあの蝶だよね」などと語ると、「昆虫記者さんって、外国文学の知識もあるんですね。すっごーい、カッコイイ、見直しました」なんて、誤解してくれる人がいたらいいなと思います。

 実はこの話は、中学の教科書に載っていることが多いんです。そして、「主人公の少年が、自分の蝶の標本をすべて握りつぶす時の気持ちを書きなさい」なんていう、問題がテストで必ず出題されるのです。

 どうです。思い出しましたか。この主人公が捕まえた珍しい蝶がコムラサキです。小説の中でも重要な役割を担っているので、興味ある人は、「少年の日の思い出」を読み返してみましょう。

 

 前置きが長くなりましたが、今回の探索場所は、コムラサキが多い都区部の公園です。

 

 ここのクヌギの樹液には、たいていいつも、コムラサキの姿があります。キタテハぐらいの大きさで、オスの翅の紫色はオオムラサキほど鮮やかではありません。見逃していまいがちな蝶ですね。写真に撮れば十分で、捕まえようなんて思いません。

 

 でも昆虫記者は幼虫に執着があるのです。食樹はヤナギなので幼虫も簡単に見つかりそうなものですが、実はこれまで巡り会ったことがなかったのです。それが今回、目の前にぶら下がっていたヤナギの枝でついに幼虫を発見したのです。

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このヤナギの枝の先端近くにコムラサキの幼虫がいました。

 どうせいないだろうと思いながら、手のひらで軽く枝をしごいてみると、何やらフニャリとした感覚。おお、これこそはコムラサキ。これまで何百回、ヤナギの枝をしごいてきたことでしょうか。そのたびに、ハムシの糞で手が汚れたり、毒毛虫に刺されたりしてきた思い出がよみがえります。きっと「少年の日の思い出」の主人公も、同じ思いをしてきたに違いないと考えると、感慨もひとしおです。

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柳の葉によく似たコムラサキの幼虫

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 コムラサキの幼虫や蛹は、エノキの餌とするオオムラサキゴマダラチョウ、アカボシゴマダラとよく似ていて、近い仲間でることが分かります。でもコムラサキの植樹はヤナギなので、幼虫の体形はヤナギの葉そっくりで、非常に女性的です。女性の細くてしなやかな美しい腰つきを柳腰と言いますが、コムラサキの幼虫にも、そんな柳腰の魅力が感じられるのです。

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柳腰の魅力、感じていただけたでしょうか。

 終齢幼虫だったので、すぐに蛹になって、羽化しました。残念ながらメスだったようで、翅は茶色。紫色の輝きを見ることはできませんでいた。

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この葉裏で蛹になりました。

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コムラサキの蛹。ゴマダラチョウなどと良く似ています。

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出勤直前に羽化しました。

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メスのコムラサキ。残念、メスなので紫色の輝きがありません。

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カルピス味を付けた指先で食事中のコムラサキ

 しかし、何となく見つけるコツがわかったような気がするので、来年はオスを羽化させたいという野望がわき上がってきます。「少年の日の思い出」の、意地悪なエーミールが隣にいたら、「たかがコムラサキぐらいで、大人が何を興奮しているのか分からない」とさげすまれ、冷たい態度で、「そうか、つまり君はそんなやつなんだな」というあの名台詞を吐かれてしまうことでしょう。