虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

結婚衣装はゴージャスなコサギ。これ結婚サギ?

 またまた仙台堀川公園の「野鳥の島」周辺。もういい加減、あきあきしていて外出自粛疲れもピークに達しているのですが「人間辛抱だ」とかいう古い日本人的フレーズが今こそ大事なのかもしれませんね。野鳥の島の鳥を見ていると「ああ鳥になれたら」なんて、昔の流行歌の歌詞みたいなことを考えてしまいます。でも鳥は鳥で、コロナはなくとも鳥インフルとかで大変なのでしょう。

 

 今回のトップは、なんとコサギ。あのどこにでもいて、誰も見向きもしないコサギです。それでも馬子にも衣裳と言うように、たとえコサギでも結婚式の装いは美しいものです。いわゆる婚姻色と飾り羽というやつですね。

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目元に紫のアイシャドー、フワフワの結婚衣装。婚姻色、飾り羽モードのコサギです

 婚姻色は目元に出ます。コサギの目元は普段は黄色なのですが、婚姻色は赤っぽくなるそうな。このコサギの場合は紫色ですね。さらにフワフワの毛皮のようでもあり、薄いレースのようでもある飾り羽が、背中、首元、頭の上を飾っていて、まさに花嫁衣裳。でもコサギは♂♀の装いにあまり違いがないらしいので、花嫁、花婿衣装ということでしょうか。

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婚姻モードのコサギ2羽。♂♀の違いはあまりないらしいので、カップルの可能性も

 このコサギは4月に撮ったものです。4、5月に婚姻色がよく見られるようです。

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飛び立つ時は、飾り羽がじゃまそうに見えます。結婚式用ですから、あまり実用的ではないですね

 コサギとその他のシラサギの見分け方のポイントとして、良く挙げられるのが足の指。「指が黄色ければコサギで確定。黒ければ別物」のはずなのですが、何と婚姻色はコサギの場合足の指にも現れるのだそうな。黄色の指が、婚姻の興奮のせいか赤くなるのです。これはまぎらわしい。

 

 で、足の指を見てみると、やっぱり赤くなっていました。たかがコサギですが、ご近所にもこんな大自然の驚異(大げさ)があるのです。ちゃんと足の指の写真まで撮っているとは、さすがは鳥類学者(嘘です)。

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コサギの足の指は、婚姻色が出ると、黄色から赤に変化するのだとか

 ついでに、このあたりで見られるその他の鳥たちも紹介しておきます。

 

 バードウォッチャーお気に入りのカワセミも、ほぼ毎年見られます。今年も来ています。

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毎年律儀に仙台堀川公園にやってくるカワセミ。でも今年の写真は枝かぶりでひどいですね。

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以前仙台堀川公園で撮ったカワセミ。これもボケてる。

 ゴイサギも野鳥の島のねぐらにしています。今年も繁殖していたようで、息子が先日幼鳥のホシゴイを撮影してきました。私は今年は見ていないので、古い写真を載せておきます。

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今年もゴイサギが営巣中。ペンギンではありません。

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以前撮ったホシゴイ

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周辺にたくさんいるオナガ。きれいな鳥だが、鳴き声はきたない。

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最近はカワラヒワが増えてきました。

 どの鳥もいずれ劣らぬご近所の日常的な鳥ですね。東京は緊急事態宣言、外出自粛継続中なので悪しからず。

 

ドリームアイランドの夢とは程遠い虫たち

 家から歩いてドリームアイランドに行ってきました。どんな素敵なところかと、想像をめぐらせてしまった人には申し訳ありませんが、英訳するとドリームアイランドとなるのは、夢の島、ごみ埋め立てでできた江東区の人工島ですね。でも蝿公害で騒がれたゴミの山の時代は遠い昔。今は緑の多い都民の憩いの場、新型コロナで遠出ができない昆虫記者にとっては、癒しの虫撮り場になっています。

 

 と言っても、しょせんは都心のゴミ埋め立て地ですから、大した虫はいません。それでも、よく探せば、あの猫耳の日本最大級のシャクトリムシ、トビモンオオエダシャク幼虫の姿もあちこちに。

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日本最大級シャクトリムシとして有名なトビモンオオエダシャクの幼虫

 トビモンオオエダシャクは、大きさが魅力ですが、大きくなると数が減って、出会いの機会も激減します。でも小さい時は、4月末ごろに桜、シラカシなどのヒコバエや下枝にたくさんいるので、都心の公園でも1時間ほど探せば4、5匹は見つかります。あの巨大シャクトリの雄姿をどうしても見たいという人(希少価値の人です)は、小さい時に捕まえて、数週間飼育すると簡単に夢がかないます。是非お試しください。

 

 飼育を計画している人は、桜で探すのがいいでしょう。餌の調達が楽ですから。

 

 で、今回はまず4月下旬に桜にいた極小クラスのトビモンオオエダシャク幼虫です。ちょっとだけ猫耳です。

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極小クラスのトビモンオオエダシャク幼虫

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かすかに猫耳が見える。枝のように突っ立っている時はたいてい、細い糸を使ってバランスを取っている

 約1週間後には、トビモンオオエダシャク幼虫はこんなに立派になります。猫耳はウサギの耳のようになりました。

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だいぶ大きくなったトビモンオオエダシャク幼虫

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猫耳はウサギの耳のようになった

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 夢の島の桜には、一番普通のナナフシの「ナナフシモドキ」もたくさんいます。これも数が多い小さな幼虫の段階が見つけやすいですね。

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桜やエノキに多いナナフシモドキ

 あと、桜の常連と言えば、ムネアカアワフキ。小さい虫ですが、鮮やかな赤い紋が粋ですね。

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背中の桜吹雪ならぬ赤い紋が粋なムネアカアワフキ

 ナナフシはエノキにも多くいます。

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エノキのナナフシモドキ。手前にヨコバイ、後ろに虫こぶで、何だか良く分からない写真になりました。

 でもこんな風にエノキの葉を穴だらけのボロボロ状態にするのは、ナナフシではなく、エノキハムシの幼虫です。

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エノキの葉を穴だらけのボロボロにするのはエノキハムシの幼虫

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大バン、小バンがざっくざくになってほしい。近所で初見の野鳥「バン」

 もういい加減飽き飽きしてた外出自粛。緊急事態宣言延長で、まだまだ先は長そうですね。でも、近所の散歩が続くと、日頃気付かなかった以外なものを見つけたりします。

 いつもの仙台堀川公園の野鳥の島に、東京では初めて見る鳥がいました。「バン」です。短い名前ですね。ただの「バン」です。体が黒くて、クチバシが白い「オオバン」は冬場にたくさんいるお馴染みの鳥ですが、このあたりでは「バン」は結構めずらしいかも。二つ合わせてオオバン、コバン。花咲かじいさんの裏の畑(大判、小判がざっくざく)のようで、縁起がいいですね。

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近所で初見の鳥「バン」です

 同じクイナ科なので、体つきやクチバシの形はよく似ています。違いはオオバンの羽毛が黒、バンの羽毛が茶色とい点と、オオバンのクチバシが白で、バンのクチバシが赤という点。大きさはバンの方がかなり小さいです。

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こちらがご近所の冬場の常連「オオバン

 そしてあまり気付かれないのが、足の水かき。オオバンの足は弁足と言って、小さなお皿のような水かきが指にたくさん付いていますが、バンの足はニワトリのようで水かきがありません。なので、バンは泳ぎが苦手で、田んぼの中などを歩き回るのが好きなようです。都会ではあまりお目にかかれないのはそのせいかも。

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足指に小さなお皿のような水かきがあるのがオオバン

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「バン」は足に水かきがないので、泳ぎは苦手

 今回のバンはまだ幼い感じでしたから、これから毎年成長の様子を見せてくれるかも。

 大人っぽいバンは、こちら。台湾で撮ったバンです。

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大人?のバン

 

頬をピンクに染める嬉しい出会い。ベニモンアオリンガ

 近所の公園(猿江恩賜公園)で、頬をポッとピンクに染める嬉しい出会いがありました。かつての恋人にでも出会ったのでしょうか。そんな人生波乱万丈の出会いが昆虫記者にあろうはずはありません。

 出会ったのはもちろん虫。ベニモンアオリンガです。黄緑の羽にピンクの化粧をあしらったその姿は「頬をピンクに染めて恥じらう乙女」のようだと思うのは、日常感覚が相当に一般人とずれてしまっている昆虫記者ぐらいのものでしょう。

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恥じらう乙女のようなベニモンアオリンガが近所の公園に

 でも、都心のさして大きくもない近所の公園で、こんな愛らしい虫に出会えるのは、やはり嬉しいものです。

 

 食樹はツツジ類なので、都会でも生き残っています。と言うか、都会はツツジだらけなので、都会に多い蛾と言えるかもしれません。ちなみに、昆虫記者は毎年のように、1、2回ベニモンアオリンガに出会っていますが、そのすべてが東京都心です。探せば結構あちこちにいるのでしょうが、こんな小さな蛾を都心の公園で探す暇人は、新型コロナ禍で行き場を失った昆虫記者ぐらいのものです。

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両頬をピンクに染めるベニモンアオリンガ

 今回はツツジの植え込みの隣のクスノキにとまっていたので、ツツジとの関連性が画像で伝えられず残念です。

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ぺ二モンアオリンガがとまっていたのは残念ながらツツジではなく、近くのクスノキ

 数年前にツツジで撮った成虫と幼虫を再掲載しておきます。本来は、こんな風にツツジの生垣などを彩っています。

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ベニモンアオリンガの幼虫は地味

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こんな鮮やかなピンクのもいるが、無紋のも多い

 

隣の屋上で真昼の情事って?鳩の濃厚前戯とあっさり交尾

 新型コロナ対策でステイホームしていると、隣のビルの真昼の情事を眺めたりとか、無益なことに時間を費やしてしまいます。生産性のない行為ですね。でも昆虫記者は品行方正を売りとしているので、情事と言っても人間のことではありません。相手は隣のビルの看板裏に巣を作っている鳩の一家。鳩の情事の観察なんて、ますます無意味で、ますます非生産的です。

 

 でも鳩から学ぶこともあるのです。鳩はよく平和の象徴とされますが、♂♀の仲の良さもその一因かもしれません。隣のビルの鳩カップルの仲睦まじさが、ついつい羨ましくなってしまうのは、昆虫記者が愛情に飢えていることと無関係ではないでしょう。

 

 これから交尾に入りそうな鳩のカップルはすぐに分かります。前戯が濃厚なんですね。ともかくよくキスをします。鳥の情交は、あっさり、さっぱり、サバサバしていて、味気ないとか言いますが、前戯までふくめると、必ずしもそうとは言えませんね。

 

◆鳩にはオチンチンがない

 なぜ鳩の前戯が念入りかというと、そこには重大な理由があります。鳩の♂にはペニスがない。そうなんです。鳩を含め多くの鳥はオチンチンが欠落しているのです。

 

 ではどうやって交尾するのか。大半の鳥の場合、外性器はなくて、大小の排泄と交尾の全機能を兼務する「総排出腔」という穴があるだけです。交尾の際には、♂と♀がこの総排出腔をくっつけ合う必要があるのですが、外性器がないため、この結合は極めて不安定。

 

◆合意なしの交尾は不可能

 従って、♂と♀が極めて仲が良く、「さあこれから、明るく楽しく子作りするよ」という合意がなければ、交尾は成立しない。だから、合意形成のために、チュッチュなどの念入りな前戯が不可欠なのです。

 

 それでは隣のビルの鳩を例に、具体的に説明していきましょう。

 

 でも、腕を組んだり、手をつないだり、ロマンチックな場所を選んで告白したりといった、面倒な恋のやりとりはまだるっこしいという人もいるでしょう。「一番刺激的な場面を先に見せろ」というせっかちな人もいるでしょう。

 

 しかし、相手が鳩とはいえ、やはり人前で赤裸々なシーンは見せたがらないものです。これまでは、せいぜい♂が♀の上に乗っかって、羽をばたつかせている様子ぐらいしか見たことがありませんでした。

 

◆鳩の♀が♂を受け入れるため総排出腔を広げる刺激的?シーン

 ところが今回初めて、♀の鳩が、背中に乗った♂を受け入れるため、総排出腔を広げているシーンを目撃したのです。

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交尾のため総排出腔を突き出す鳩の♀

 野性の土鳩のこんなシーンを目にする機会はあまりありません。今回非生産的な鳩の交尾観察をアップすることにしたのは、そんな理由からでした。

 

 それでは改めて、順を追って隣の屋上での真昼の情事を紹介します。

 

 肩を寄せ合って、気を引くシーン

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肩を寄せ合う鳩の♂♀。後ろの黒いのが♂、羽に白線が目立つ前のが♀

 興奮を高めるため愛の言葉をささやくシーン

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愛をささやく鳩の♂

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 そして熱烈なキスシーンへとなだれ込む。

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最初のキスはためらいがちに

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次第に熱烈なキスへと変わる

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 人間のキスとはちがって、鳥の場合は求愛給餌という、恋と実益を兼ね備えた行為のようです。鳥の♂は♀に口移しで餌を献上することで、好意を示すのだそうです。鳩の場合は、餌を栄養豊富なミルクにして吐き戻す「ピジョンミルク」を両親がヒナに与える行為が有名ですが、恋愛の際にもこのピジョンミルクを口移しで与えているらしいです。ちょっと気持ち悪いですが、愛し合っている同士はそんなことは思いません。究極の愛の形ですね。

 

 そして♂が♀の背中に飛び乗ったら、もう交尾まで秒読み段階。

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もうすぐ後ろの♂が♀の背中に飛び乗ります

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♀に飛び乗った♂。基本的に交尾の姿勢はこの1通りだけのようです。

 

 メスが尾羽を上げて、交尾のために総排出腔を突き出します。

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♀の総排出腔がよく見える体勢で交尾に。こんなシーンを目にしたの初めて

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メスの総排出腔を拡大

 そして、♂が激しく羽をバタバタさせて事におよびます。♀は♂を受け入れやすいように、尾羽を横にずらします。愛の行為に興奮しているかのようにも見えますが、もしかしたら不安定な体勢を維持するためには、羽をバタつかせる必要があるのかも。メスも少しバタバタします。

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交尾そのものはあっさり。

 さすがに交尾の結合の様子は見えません。なにせオチンチンがないのですから。

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交尾の瞬間は尾羽に隠れてよく見えない

 交尾終了後の♂♀です。羽が毛羽立っていて、宴の後の感じですね。

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交尾直後の鳩の♂♀

 ♀の顔がうっとりした表情に見えるのは、人間の思い込みでしょう。

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交尾後の♀の表情は余韻に浸ってうっとりしているようにも見える。

 余談ですが、同じ鳥でもカモの仲間の雄には、結構立派なオチンチンがあるらしいです。なので、カモの♂はちょっと乱暴で、嫌がる♀に無理やり交尾することもあるそうです。もちろん、平和主義の昆虫記者は、愛情形成を重視する鳩のやり方の方が好きです。

 

 

プテラノドンのように恐いアオサギ幼鳥の群れ

 人間も獣も鳥も、子供はおしなべてかわいいものですね。でも例外もあります。例えばこれ。翼竜プテラノドンの群れのようですね。

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翼竜プテラノドンの群れではありません。餌をねだるアオサギの幼鳥です。

 どう見ても怪獣ですが、これでも子供。親鳥に餌をねだるアオサギの幼鳥です。

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アオサギ一家の全容。両脇が親鳥でしょうか。

 アオサギ親子の全容はこんな感じ。両脇にいるのは親鳥でしょうか。その間に幼鳥(と言うにはあまりにも大きい)がいます。

 

 場所は、江東区仙台堀川公園の野鳥の島。本当にちっちゃい島なので、ここを目当てにわざわざ出かけるとがっかりする場所ですが、このあたりでは最高の野鳥観察スポット、野鳥の天国です。新型コロナで遠出ができない昨今、体力維持と気晴らしにちょうどいい散歩の距離にあるので、週末にマスク着用でちょくちょく出かけています。

 

 ここまでデカくなったら「独り立ちしろ」と言いたくなりますね。デカい上に顔が恐い。顔が恐い上に、尖った巨大なクチバシが凶器のように威圧的。よくもこんな恐ろし気な子供を育てる気になるものです。アオサギの気が知れません。でもきっと、どんな子でも、親にとっては可愛いのでしょう。

 

 それでも中には、根性が悪く、いけ好かない子供もいるものです。たとえばこいつ。3羽の幼鳥のうち1羽だけ、妙に食い意地の張った、強欲なやつがいました。他の2羽を押し退けて、常に一番先に餌をもらおうと、大きく開いたクチバシ突き出していました。

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クチバシを突き出して意地汚く餌をねだるアオサギ幼鳥

 欲の皮が突っ張ったやつは醜いですね。でも結局こういう子だけが生き残って、世の中でも自分の意見を押し通して、組織の中で偉くなって…というのは人間界のことでした。つい感情移入してしまいました。

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勢い余って親鳥に噛みつくアオサギ幼鳥

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こんなやつでも、親鳥にとっては可愛い子供なのでしょうか。

 野生の世界は弱肉強食、適者生存の厳しい環境ですから、こういう嫌なやつこそが正義なのです。でも人間界はそうではない…と信じたい…などと言っている昆虫記者はやっぱり敗者なのでしょうか。涙、涙です。

 

 壮絶な画像の後は平和な風景。このあたりのアオサギは人馴れしているので、遊歩道脇でも悠然としています。

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遊歩道脇のアオサギ

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 野鳥の島の隣の横十間川親水公園のボート場は、新型コロナで閉鎖中で閑散。コロナ無関係の野鳥たちは静かな環境でいい気になっていますが、遊びに行けない人間はつらいですね。

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新型コロナで閉鎖中の横十間川親水公園ボート場

 

ツツジの天国は昆虫の地獄

 ツツジが満開の季節を迎えましたが、新型コロナも満開なので、根津神社のような名所に行くのは自粛。ということで、またまたご近所散歩です。美しく咲き誇るツツジを見て、恐ろしい地獄を思い描く人は、まずいないでしょう。でも美しい花と甘い誘いには気を付けましょう。おいし過ぎる話には裏があるものです。いつも騙されてばかりの昆虫記者が言うのですから、間違いありません。

 ツツジの地獄は、花が咲き誇る直前、つぼみの時期に展開されます。ツツジのつぼみは「苞」という殻のようなものに包まれていて、この苞が実は「昆虫ベタベタ鳥もち地獄」なのです。

 ツツジの近くのベンチに腰掛けた時に、茶色い蠅取り紙の切れ端のようなものが、服にへばり付いて、はがすのに苦労した経験がある人は多いでしょう。あれが苞の「成れの果て」です。あの強力な接着力は、人間にとっては、たちの悪い植物性のゴミですが、昆虫にとっては命を奪うネバネバ地獄なのです。

 ではその地獄の様子を見てみましょう。

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ツツジのネバネバ地獄で、鬼の形相で大往生したハチ

 武蔵坊弁慶の立ち往生のようですね。磔(はりつけ)にされた状態で壮絶な死を迎えたハチの怨念が感じられる一枚ですね。

 

 では次の地獄絵です。

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小さな虫を狙うハエトリグモの図に見えるが、どちらもツツジ地獄で既に息絶えている

 ハエトリグモが獲物の小さな虫を狙っているように見えますが、小さな虫も、その後ろにいるハエトリグモも、ツツジ地獄に捕まってすでに息絶えています。

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獲物を目前にして地獄で息絶えたハエトリグモの無念の表情

 まず上にいる小さな虫が地獄に磔にされて、それを狙って忍び寄ったハエトリグモも地獄の道連れになったという、恐怖のドラマが展開されたのかもしれません。恐ろしや、恐ろしや。

 

 ツツジ地獄のその他の犠牲者です。

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ツツジ地獄の犠牲者。ケヤキナガタマムシか。

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ツツジ地獄の犠牲者。ツツジに多いツノヒゲボソゾウムシのようです

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ツツジ地獄の犠牲者。まるで花にハチが群れ飛ぶ楽園の風景に見えますが、このハチもお亡くなりになってます

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ツツジ地獄の犠牲者。ツツジの害虫のルリチュウレンジというハバチです。地獄が狙う本命の悪者はこいつでしょう。でも無実の道連れが多すぎる。

 この苞はまだ薄黄緑色の若い時期から、すでに凶悪な殺人、もとい、殺虫能力を発揮します。

 たとえば、こんな感じ。

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ツツジ地獄の犠牲者。ヒイラギの大害虫のテントウノミハムシ

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ツツジ地獄の犠牲者。ノミゾウムシの仲間

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ツツジ地獄の犠牲者。マメゾウムシの仲間か

 ところが、このツツジのベタベタ地獄を物ともしない猛者がいるのです。このブログで毎年紹介しているので、ご存知の方も多いでしょう。それはツツジトゲムネサルゾウムシ。

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ツツジ地獄もなんのその。ツツジトゲムネサルゾウムシはベタベタに負けない特殊能力の持ち主

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ベタベタの上を平気で歩きまわるツツジトゲムネサルゾウムシ

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この長い口(口吻)をつぼみに突き刺す

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たぶんお食事中のツツジトゲムネサルゾウムシ

 ツツジトゲムネサルゾウムシは、このベタベタの上を平気で歩ける特殊能力を持っているのです。そして、つぼみを食べたり、つぼみに産卵したりします。どんな世界にも、上には上がいるものですね。ツツジの花がいくら防御を固めても、こいつにはかなわない。今年も近所のツツジで大活躍でした。つぼみがなくなると姿を消すので、見たい人(そんな奇特な人はめったにいない)は急いだ方がいいですね。

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でも、よく見ると、後ろ足にベタベタが糸を引いている。結構苦労して歩いているのかも

 ツツジ地獄で死んでいった他の虫たちの仇をとってくれるのが、このツツジトゲムネサルゾウムシだとも言えるでしょう。

 たいていの人はきれいな花を咲かせるツツジの肩を持つでしょうが、虫好きは断然ツツジトゲムネサルゾウムシを応援します。ざまあみろツツジ、参ったかツツジ

 

 そんなことを言うと、園芸家や花を愛する美しい乙女たちに嫌われてしまうので、最後はツツジ満開の天国の風景で締めましょう。

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ツツジ満開の天国の風景

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 ツツジトゲムネサルゾウムシは小さな虫なので、満開のツツジへのダメージはたいしたことはありません。大目に見てやってください。