新型コロナ対策でステイホームしていると、隣のビルの真昼の情事を眺めたりとか、無益なことに時間を費やしてしまいます。生産性のない行為ですね。でも昆虫記者は品行方正を売りとしているので、情事と言っても人間のことではありません。相手は隣のビルの看板裏に巣を作っている鳩の一家。鳩の情事の観察なんて、ますます無意味で、ますます非生産的です。
でも鳩から学ぶこともあるのです。鳩はよく平和の象徴とされますが、♂♀の仲の良さもその一因かもしれません。隣のビルの鳩カップルの仲睦まじさが、ついつい羨ましくなってしまうのは、昆虫記者が愛情に飢えていることと無関係ではないでしょう。
これから交尾に入りそうな鳩のカップルはすぐに分かります。前戯が濃厚なんですね。ともかくよくキスをします。鳥の情交は、あっさり、さっぱり、サバサバしていて、味気ないとか言いますが、前戯までふくめると、必ずしもそうとは言えませんね。
◆鳩にはオチンチンがない
なぜ鳩の前戯が念入りかというと、そこには重大な理由があります。鳩の♂にはペニスがない。そうなんです。鳩を含め多くの鳥はオチンチンが欠落しているのです。
ではどうやって交尾するのか。大半の鳥の場合、外性器はなくて、大小の排泄と交尾の全機能を兼務する「総排出腔」という穴があるだけです。交尾の際には、♂と♀がこの総排出腔をくっつけ合う必要があるのですが、外性器がないため、この結合は極めて不安定。
◆合意なしの交尾は不可能
従って、♂と♀が極めて仲が良く、「さあこれから、明るく楽しく子作りするよ」という合意がなければ、交尾は成立しない。だから、合意形成のために、チュッチュなどの念入りな前戯が不可欠なのです。
それでは隣のビルの鳩を例に、具体的に説明していきましょう。
でも、腕を組んだり、手をつないだり、ロマンチックな場所を選んで告白したりといった、面倒な恋のやりとりはまだるっこしいという人もいるでしょう。「一番刺激的な場面を先に見せろ」というせっかちな人もいるでしょう。
しかし、相手が鳩とはいえ、やはり人前で赤裸々なシーンは見せたがらないものです。これまでは、せいぜい♂が♀の上に乗っかって、羽をばたつかせている様子ぐらいしか見たことがありませんでした。
◆鳩の♀が♂を受け入れるため総排出腔を広げる刺激的?シーン
ところが今回初めて、♀の鳩が、背中に乗った♂を受け入れるため、総排出腔を広げているシーンを目撃したのです。
野性の土鳩のこんなシーンを目にする機会はあまりありません。今回非生産的な鳩の交尾観察をアップすることにしたのは、そんな理由からでした。
それでは改めて、順を追って隣の屋上での真昼の情事を紹介します。
肩を寄せ合って、気を引くシーン
興奮を高めるため愛の言葉をささやくシーン
そして熱烈なキスシーンへとなだれ込む。
人間のキスとはちがって、鳥の場合は求愛給餌という、恋と実益を兼ね備えた行為のようです。鳥の♂は♀に口移しで餌を献上することで、好意を示すのだそうです。鳩の場合は、餌を栄養豊富なミルクにして吐き戻す「ピジョンミルク」を両親がヒナに与える行為が有名ですが、恋愛の際にもこのピジョンミルクを口移しで与えているらしいです。ちょっと気持ち悪いですが、愛し合っている同士はそんなことは思いません。究極の愛の形ですね。
そして♂が♀の背中に飛び乗ったら、もう交尾まで秒読み段階。
メスが尾羽を上げて、交尾のために総排出腔を突き出します。
そして、♂が激しく羽をバタバタさせて事におよびます。♀は♂を受け入れやすいように、尾羽を横にずらします。愛の行為に興奮しているかのようにも見えますが、もしかしたら不安定な体勢を維持するためには、羽をバタつかせる必要があるのかも。メスも少しバタバタします。
さすがに交尾の結合の様子は見えません。なにせオチンチンがないのですから。
交尾終了後の♂♀です。羽が毛羽立っていて、宴の後の感じですね。
♀の顔がうっとりした表情に見えるのは、人間の思い込みでしょう。
余談ですが、同じ鳥でもカモの仲間の雄には、結構立派なオチンチンがあるらしいです。なので、カモの♂はちょっと乱暴で、嫌がる♀に無理やり交尾することもあるそうです。もちろん、平和主義の昆虫記者は、愛情形成を重視する鳩のやり方の方が好きです。