虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

芭蕉の奥の細道の旅立ちを虫撮りで偲ぶ

 「秋に添うて行かばや末は小松川」。江東区大島小松川公園を徒歩で目指す際、昆虫記者が一句詠めり…なんて言いたいところですが、文学の素養のない昆虫記者にはそんな詩作は不可能。作者はもちろん、地元の偉人、松尾芭蕉大先生です(地元の人と知ったのは最近のこと。そしてもちろん、この句のことは全く知りませんでした)。

 

 そんな無粋な昆虫記者も、たまには文学散歩に出て、松尾芭蕉を偲んでみようと思い立ったのでした。というのは全くの嘘です。それが証拠に、深川周辺の芭蕉ゆかりの地など全く訪問していません(そのうち悔い改めて、訪問してみようと思います)。

 

 小名木川沿いの遊歩道が最近きれいに整備されて、自宅近くの扇橋閘門から大島小松川公園まで、車道に遮られることなく小一時間の散歩ができるようになったので、健康維持のため時々歩いているだけのことです。

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モモブトカミキリモドキ。アスリートのような太ももは♂の象徴です。

 目的地の大島小松川公園の中で、一番昆虫が多いのは、荒川河口に一番近い「展望の丘」がある一帯です。「虫が多い」などと言うと敬遠されがちですが、高台になっていて気持ちのいいところですので、是非一度ご訪問下さい。

 

 今年1回目の訪問は4月末だったので、ハルジオンの花にモモブトカミキリモドキが集まっていました。小さい虫ですが、その名の通り、♂はアスリートのような太ももが魅力的な虫です。盛夏にはいなくなるので、太ももフェチ(そんなやつ、いるんかい)の人は急がないと見逃します。

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モモブトカミキリモドキの♂♀がそろって花の上に

 オスのモモブトは何気ない雰囲気を装っていますが、隙あれば♀に襲い掛かろうとチャンスをうかがっているのです。

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一瞬の隙に♀に襲いかかり、交尾に入ろうとする♂のモモブトカミキリモドキ

 こういう強引な交尾の際に、アスリート系の太ももが役に立つのでしょう。

 

 おっと、モモブトの交尾に興奮して芭蕉さんを忘れていました。冒頭の1句が詠まれたあたりの小名木川沿いに大島稲荷神社があって、そこに立派な句碑が残っています。何と江戸時代に建立されたものらしい。雨風にさらされて、句自体はかすかに読み取れる程度まで薄れています。時代を感じますね。

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大島稲荷神社の芭蕉の句碑「女木塚」

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句碑にはかすかに「小松川」の文字が読み取れます

 芭蕉奥の細道へと旅立ったのは、今から300年以上前のことです。旅立つ少し前に小名木川に浮かべた船で友人宅に向かう途中、このあたり(小松川)で詠んだ句なのだとか。

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句碑の紹介文にはこんな絵が描かれていました。歩いているのは芭蕉さん?

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こちらは比較的新しい芭蕉

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大島稲荷神社自体はこじんまりしているのでがっかりしないように。

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大島稲荷の境内にはなぜか牛と羊の石像。干支がらみでしょうか

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小名木川沿いの遊歩道は、こんな感じにきれいに整備されています

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先の方に見えるのが、大島小松川公園の見晴らしの丘あたりです

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荒川の手前の旧中川には、ウミネコと夏のパンダ柄になったユリカモメ

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ユリカモメはこの可愛いパンダ顔になったら、北方に移動するらしく、すぐに都心から姿を消します

 先の芭蕉の句の前書きには「女木川(おなぎがわ)」とあって、これは今の小名木川のことのようです。なので句碑の名は「女木塚」。さすがは昆虫記者の江戸歴史探訪ですね。

 大島稲荷神社は、小林一茶が句を詠んだ地でもあるらしく、境内には「七夕の相伴に出る川辺かな」など、当地で詠んだ句が紹介されています。「この地を訪れた際には是非一句」と言いたいところですが、現在の風景はあまり詩情を誘うものではありません。

 「モモブトの カミキリモドキ ハルジオン(作・昆虫記者)」なんて、全く趣がないですね。

 

 さて、目的地の大島小松川公園では、モモブト以外にも、どうでもいいけど、ちょっと面白い虫たちも見つけました。しかし歴史探訪(全然歴史を探訪してませんが)で長くなったので、その話は次回以降に。

 

 

外出自粛中の気分をさらに暗くする見た目も性格も暗いユーカリハムシ

 もうすぐ東京も緊急事態宣言解除に…と期待したいですね。そうでないと、どこにも行けない。虫撮りの一番いい季節は、梅雨入りまでの1、2カ月ですが、もう残り少なくなってしまいました。新型コロナの影響では、亡くなった方、入院中の方、破産に追い込まれた方もいて、虫撮りが自由にできない程度のことは、本当にどうでもいいことですが、それでもやっぱり悲しい。本当に苦境に陥っている方々と比べれば、1億分の1ぐらいでしょうが、それでも器の小さい俗人はやっぱり悲しいのです。

 

 と言うことで、今回は器の小ささを象徴するような、誰にも見向きもされない地味な虫の登場です。名前はいかにも外国風のユーカリハムシは、ユーカリの葉を食べるオーストラリア生まれの虫で、コアラとユーカリとともに、招かれもしないのに日本にやってきました。

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めくれた樹皮の裏で越冬するユーカリハムシ

 オーストラリア産なら、明るく陽気な虫かと思いきや、見た目の地味さ以上に性格も暗くて、幼虫は昼間はユーカリの半分めくれた樹皮の下などに潜んでいて、夜にこっそり葉を食べに出てくるという、夜盗虫のようなやつです。

 

 4月末にユーカリの森で有名なドリーム・アイランド(夢の島のことを昆虫記者はこう呼んでいます)を訪れると、まだ活動中の成虫は少なめでした。と言うことは、まだ越冬モードなのでしょうか。

 

 実は毎年のようにユーカリハムシを見にドリーム・アイランドに出向くのですが、これまで成虫の集団越冬は目にしたことがなかったのです。これはチャンスです。

 

 めくれかけたユーカリの樹皮(ユーカリの樹皮は毎年ぼろぼろとめくれて落ちていくようで、ユーカリハムシが越冬したり、隠れたりする場所には事欠きません)の隙間をちょっと広げてみると「ドッカーン」といました。越冬集団です。かなりお寝坊なハムシのようですね。

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ほの暗い樹皮の隙間に潜むユーカリハムシの越冬集団

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 小枝の根元の窪みにも、越冬集団らしき小さな集団がいました。

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小枝の根元の窪みにも小さな集団が

 活動を開始しているユーカリハムシも少しいて、交尾に励む姿も見られました。

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交尾中のユーカリハムシ

早くも産卵に入っているものも。

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樹皮の隙間に産卵中のユーカリハムシ

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頑張ってます。生みの苦しみが伝わってきます。声援したくなりますね。

 でも本当に産卵しているのか、前からの写真だけでは分かりません。もしかしたらトイレで気張って用を足しているだけかも。

 後ろからも確認してみる必要がありますね。

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後ろから見ると、お尻の下方に卵が確認できました。

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産卵管を突き出して、ちゃんと産卵していました。

 まだ幼虫はいない感じだったので、以前撮った幼虫の姿も紹介しておきます。

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以前撮ったユーカリハムシ幼虫。昼間は樹皮の下に隠れているので、食痕だらけの葉を探しても見つかりません。

 しかし、何と地味な連中なのでしょう。大抵の虫は卵、幼虫、蛹、成虫などと姿を変えていく過程のどこかで、華やかだったり、魅力的だったりする局面があるものなのですが、ユーカリハムシは徹底して地味です。まるで、新型コロナで巣ごもりしている私たちのようですね。暗い外出自粛生活を一層暗くするようなお話でした。

 でも明けない夜はない、出口のないトンネルはないのです。もうすぐそこに、かすかな光明が見えています。なんて言っていたら、すぐにジメジメの梅雨だったりして。昆虫だけが友達の小人物はやっぱり悲しいです。

 

 ちなみにドリーム・アイランドの駐車場は閉鎖中のようです。緊急事態宣言が解除されるまで、あと少しの辛抱です。

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夢の島公園の駐車場は閉鎖中だった

 

結婚衣装はゴージャスなコサギ。これ結婚サギ?

 またまた仙台堀川公園の「野鳥の島」周辺。もういい加減、あきあきしていて外出自粛疲れもピークに達しているのですが「人間辛抱だ」とかいう古い日本人的フレーズが今こそ大事なのかもしれませんね。野鳥の島の鳥を見ていると「ああ鳥になれたら」なんて、昔の流行歌の歌詞みたいなことを考えてしまいます。でも鳥は鳥で、コロナはなくとも鳥インフルとかで大変なのでしょう。

 

 今回のトップは、なんとコサギ。あのどこにでもいて、誰も見向きもしないコサギです。それでも馬子にも衣裳と言うように、たとえコサギでも結婚式の装いは美しいものです。いわゆる婚姻色と飾り羽というやつですね。

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目元に紫のアイシャドー、フワフワの結婚衣装。婚姻色、飾り羽モードのコサギです

 婚姻色は目元に出ます。コサギの目元は普段は黄色なのですが、婚姻色は赤っぽくなるそうな。このコサギの場合は紫色ですね。さらにフワフワの毛皮のようでもあり、薄いレースのようでもある飾り羽が、背中、首元、頭の上を飾っていて、まさに花嫁衣裳。でもコサギは♂♀の装いにあまり違いがないらしいので、花嫁、花婿衣装ということでしょうか。

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婚姻モードのコサギ2羽。♂♀の違いはあまりないらしいので、カップルの可能性も

 このコサギは4月に撮ったものです。4、5月に婚姻色がよく見られるようです。

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飛び立つ時は、飾り羽がじゃまそうに見えます。結婚式用ですから、あまり実用的ではないですね

 コサギとその他のシラサギの見分け方のポイントとして、良く挙げられるのが足の指。「指が黄色ければコサギで確定。黒ければ別物」のはずなのですが、何と婚姻色はコサギの場合足の指にも現れるのだそうな。黄色の指が、婚姻の興奮のせいか赤くなるのです。これはまぎらわしい。

 

 で、足の指を見てみると、やっぱり赤くなっていました。たかがコサギですが、ご近所にもこんな大自然の驚異(大げさ)があるのです。ちゃんと足の指の写真まで撮っているとは、さすがは鳥類学者(嘘です)。

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コサギの足の指は、婚姻色が出ると、黄色から赤に変化するのだとか

 ついでに、このあたりで見られるその他の鳥たちも紹介しておきます。

 

 バードウォッチャーお気に入りのカワセミも、ほぼ毎年見られます。今年も来ています。

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毎年律儀に仙台堀川公園にやってくるカワセミ。でも今年の写真は枝かぶりでひどいですね。

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以前仙台堀川公園で撮ったカワセミ。これもボケてる。

 ゴイサギも野鳥の島のねぐらにしています。今年も繁殖していたようで、息子が先日幼鳥のホシゴイを撮影してきました。私は今年は見ていないので、古い写真を載せておきます。

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今年もゴイサギが営巣中。ペンギンではありません。

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以前撮ったホシゴイ

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周辺にたくさんいるオナガ。きれいな鳥だが、鳴き声はきたない。

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最近はカワラヒワが増えてきました。

 どの鳥もいずれ劣らぬご近所の日常的な鳥ですね。東京は緊急事態宣言、外出自粛継続中なので悪しからず。

 

ドリームアイランドの夢とは程遠い虫たち

 家から歩いてドリームアイランドに行ってきました。どんな素敵なところかと、想像をめぐらせてしまった人には申し訳ありませんが、英訳するとドリームアイランドとなるのは、夢の島、ごみ埋め立てでできた江東区の人工島ですね。でも蝿公害で騒がれたゴミの山の時代は遠い昔。今は緑の多い都民の憩いの場、新型コロナで遠出ができない昆虫記者にとっては、癒しの虫撮り場になっています。

 

 と言っても、しょせんは都心のゴミ埋め立て地ですから、大した虫はいません。それでも、よく探せば、あの猫耳の日本最大級のシャクトリムシ、トビモンオオエダシャク幼虫の姿もあちこちに。

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日本最大級シャクトリムシとして有名なトビモンオオエダシャクの幼虫

 トビモンオオエダシャクは、大きさが魅力ですが、大きくなると数が減って、出会いの機会も激減します。でも小さい時は、4月末ごろに桜、シラカシなどのヒコバエや下枝にたくさんいるので、都心の公園でも1時間ほど探せば4、5匹は見つかります。あの巨大シャクトリの雄姿をどうしても見たいという人(希少価値の人です)は、小さい時に捕まえて、数週間飼育すると簡単に夢がかないます。是非お試しください。

 

 飼育を計画している人は、桜で探すのがいいでしょう。餌の調達が楽ですから。

 

 で、今回はまず4月下旬に桜にいた極小クラスのトビモンオオエダシャク幼虫です。ちょっとだけ猫耳です。

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極小クラスのトビモンオオエダシャク幼虫

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かすかに猫耳が見える。枝のように突っ立っている時はたいてい、細い糸を使ってバランスを取っている

 約1週間後には、トビモンオオエダシャク幼虫はこんなに立派になります。猫耳はウサギの耳のようになりました。

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だいぶ大きくなったトビモンオオエダシャク幼虫

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猫耳はウサギの耳のようになった

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 夢の島の桜には、一番普通のナナフシの「ナナフシモドキ」もたくさんいます。これも数が多い小さな幼虫の段階が見つけやすいですね。

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桜やエノキに多いナナフシモドキ

 あと、桜の常連と言えば、ムネアカアワフキ。小さい虫ですが、鮮やかな赤い紋が粋ですね。

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背中の桜吹雪ならぬ赤い紋が粋なムネアカアワフキ

 ナナフシはエノキにも多くいます。

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エノキのナナフシモドキ。手前にヨコバイ、後ろに虫こぶで、何だか良く分からない写真になりました。

 でもこんな風にエノキの葉を穴だらけのボロボロ状態にするのは、ナナフシではなく、エノキハムシの幼虫です。

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エノキの葉を穴だらけのボロボロにするのはエノキハムシの幼虫

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大バン、小バンがざっくざくになってほしい。近所で初見の野鳥「バン」

 もういい加減飽き飽きしてた外出自粛。緊急事態宣言延長で、まだまだ先は長そうですね。でも、近所の散歩が続くと、日頃気付かなかった以外なものを見つけたりします。

 いつもの仙台堀川公園の野鳥の島に、東京では初めて見る鳥がいました。「バン」です。短い名前ですね。ただの「バン」です。体が黒くて、クチバシが白い「オオバン」は冬場にたくさんいるお馴染みの鳥ですが、このあたりでは「バン」は結構めずらしいかも。二つ合わせてオオバン、コバン。花咲かじいさんの裏の畑(大判、小判がざっくざく)のようで、縁起がいいですね。

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近所で初見の鳥「バン」です

 同じクイナ科なので、体つきやクチバシの形はよく似ています。違いはオオバンの羽毛が黒、バンの羽毛が茶色とい点と、オオバンのクチバシが白で、バンのクチバシが赤という点。大きさはバンの方がかなり小さいです。

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こちらがご近所の冬場の常連「オオバン

 そしてあまり気付かれないのが、足の水かき。オオバンの足は弁足と言って、小さなお皿のような水かきが指にたくさん付いていますが、バンの足はニワトリのようで水かきがありません。なので、バンは泳ぎが苦手で、田んぼの中などを歩き回るのが好きなようです。都会ではあまりお目にかかれないのはそのせいかも。

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足指に小さなお皿のような水かきがあるのがオオバン

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「バン」は足に水かきがないので、泳ぎは苦手

 今回のバンはまだ幼い感じでしたから、これから毎年成長の様子を見せてくれるかも。

 大人っぽいバンは、こちら。台湾で撮ったバンです。

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大人?のバン

 

頬をピンクに染める嬉しい出会い。ベニモンアオリンガ

 近所の公園(猿江恩賜公園)で、頬をポッとピンクに染める嬉しい出会いがありました。かつての恋人にでも出会ったのでしょうか。そんな人生波乱万丈の出会いが昆虫記者にあろうはずはありません。

 出会ったのはもちろん虫。ベニモンアオリンガです。黄緑の羽にピンクの化粧をあしらったその姿は「頬をピンクに染めて恥じらう乙女」のようだと思うのは、日常感覚が相当に一般人とずれてしまっている昆虫記者ぐらいのものでしょう。

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恥じらう乙女のようなベニモンアオリンガが近所の公園に

 でも、都心のさして大きくもない近所の公園で、こんな愛らしい虫に出会えるのは、やはり嬉しいものです。

 

 食樹はツツジ類なので、都会でも生き残っています。と言うか、都会はツツジだらけなので、都会に多い蛾と言えるかもしれません。ちなみに、昆虫記者は毎年のように、1、2回ベニモンアオリンガに出会っていますが、そのすべてが東京都心です。探せば結構あちこちにいるのでしょうが、こんな小さな蛾を都心の公園で探す暇人は、新型コロナ禍で行き場を失った昆虫記者ぐらいのものです。

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両頬をピンクに染めるベニモンアオリンガ

 今回はツツジの植え込みの隣のクスノキにとまっていたので、ツツジとの関連性が画像で伝えられず残念です。

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ぺ二モンアオリンガがとまっていたのは残念ながらツツジではなく、近くのクスノキ

 数年前にツツジで撮った成虫と幼虫を再掲載しておきます。本来は、こんな風にツツジの生垣などを彩っています。

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ベニモンアオリンガの幼虫は地味

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こんな鮮やかなピンクのもいるが、無紋のも多い

 

隣の屋上で真昼の情事って?鳩の濃厚前戯とあっさり交尾

 新型コロナ対策でステイホームしていると、隣のビルの真昼の情事を眺めたりとか、無益なことに時間を費やしてしまいます。生産性のない行為ですね。でも昆虫記者は品行方正を売りとしているので、情事と言っても人間のことではありません。相手は隣のビルの看板裏に巣を作っている鳩の一家。鳩の情事の観察なんて、ますます無意味で、ますます非生産的です。

 

 でも鳩から学ぶこともあるのです。鳩はよく平和の象徴とされますが、♂♀の仲の良さもその一因かもしれません。隣のビルの鳩カップルの仲睦まじさが、ついつい羨ましくなってしまうのは、昆虫記者が愛情に飢えていることと無関係ではないでしょう。

 

 これから交尾に入りそうな鳩のカップルはすぐに分かります。前戯が濃厚なんですね。ともかくよくキスをします。鳥の情交は、あっさり、さっぱり、サバサバしていて、味気ないとか言いますが、前戯までふくめると、必ずしもそうとは言えませんね。

 

◆鳩にはオチンチンがない

 なぜ鳩の前戯が念入りかというと、そこには重大な理由があります。鳩の♂にはペニスがない。そうなんです。鳩を含め多くの鳥はオチンチンが欠落しているのです。

 

 ではどうやって交尾するのか。大半の鳥の場合、外性器はなくて、大小の排泄と交尾の全機能を兼務する「総排出腔」という穴があるだけです。交尾の際には、♂と♀がこの総排出腔をくっつけ合う必要があるのですが、外性器がないため、この結合は極めて不安定。

 

◆合意なしの交尾は不可能

 従って、♂と♀が極めて仲が良く、「さあこれから、明るく楽しく子作りするよ」という合意がなければ、交尾は成立しない。だから、合意形成のために、チュッチュなどの念入りな前戯が不可欠なのです。

 

 それでは隣のビルの鳩を例に、具体的に説明していきましょう。

 

 でも、腕を組んだり、手をつないだり、ロマンチックな場所を選んで告白したりといった、面倒な恋のやりとりはまだるっこしいという人もいるでしょう。「一番刺激的な場面を先に見せろ」というせっかちな人もいるでしょう。

 

 しかし、相手が鳩とはいえ、やはり人前で赤裸々なシーンは見せたがらないものです。これまでは、せいぜい♂が♀の上に乗っかって、羽をばたつかせている様子ぐらいしか見たことがありませんでした。

 

◆鳩の♀が♂を受け入れるため総排出腔を広げる刺激的?シーン

 ところが今回初めて、♀の鳩が、背中に乗った♂を受け入れるため、総排出腔を広げているシーンを目撃したのです。

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交尾のため総排出腔を突き出す鳩の♀

 野性の土鳩のこんなシーンを目にする機会はあまりありません。今回非生産的な鳩の交尾観察をアップすることにしたのは、そんな理由からでした。

 

 それでは改めて、順を追って隣の屋上での真昼の情事を紹介します。

 

 肩を寄せ合って、気を引くシーン

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肩を寄せ合う鳩の♂♀。後ろの黒いのが♂、羽に白線が目立つ前のが♀

 興奮を高めるため愛の言葉をささやくシーン

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愛をささやく鳩の♂

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 そして熱烈なキスシーンへとなだれ込む。

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最初のキスはためらいがちに

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次第に熱烈なキスへと変わる

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 人間のキスとはちがって、鳥の場合は求愛給餌という、恋と実益を兼ね備えた行為のようです。鳥の♂は♀に口移しで餌を献上することで、好意を示すのだそうです。鳩の場合は、餌を栄養豊富なミルクにして吐き戻す「ピジョンミルク」を両親がヒナに与える行為が有名ですが、恋愛の際にもこのピジョンミルクを口移しで与えているらしいです。ちょっと気持ち悪いですが、愛し合っている同士はそんなことは思いません。究極の愛の形ですね。

 

 そして♂が♀の背中に飛び乗ったら、もう交尾まで秒読み段階。

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もうすぐ後ろの♂が♀の背中に飛び乗ります

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♀に飛び乗った♂。基本的に交尾の姿勢はこの1通りだけのようです。

 

 メスが尾羽を上げて、交尾のために総排出腔を突き出します。

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♀の総排出腔がよく見える体勢で交尾に。こんなシーンを目にしたの初めて

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メスの総排出腔を拡大

 そして、♂が激しく羽をバタバタさせて事におよびます。♀は♂を受け入れやすいように、尾羽を横にずらします。愛の行為に興奮しているかのようにも見えますが、もしかしたら不安定な体勢を維持するためには、羽をバタつかせる必要があるのかも。メスも少しバタバタします。

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交尾そのものはあっさり。

 さすがに交尾の結合の様子は見えません。なにせオチンチンがないのですから。

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交尾の瞬間は尾羽に隠れてよく見えない

 交尾終了後の♂♀です。羽が毛羽立っていて、宴の後の感じですね。

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交尾直後の鳩の♂♀

 ♀の顔がうっとりした表情に見えるのは、人間の思い込みでしょう。

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交尾後の♀の表情は余韻に浸ってうっとりしているようにも見える。

 余談ですが、同じ鳥でもカモの仲間の雄には、結構立派なオチンチンがあるらしいです。なので、カモの♂はちょっと乱暴で、嫌がる♀に無理やり交尾することもあるそうです。もちろん、平和主義の昆虫記者は、愛情形成を重視する鳩のやり方の方が好きです。