虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

はらぺこあおむし

今回の虫本は、シンガポール赴任時代に子供のために買った絵本から「はらぺこあおむし」です。

世界的なベストセラー絵本作家のエリック・カール氏。日本で一番知られているのは、「はらぺこあおむし」ですね。エリック・カールさんの絵本には虫を主人公にした名作がたくさんありますが、キャラクターのかわいさではこれがナンバー1。
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英語版は特に、英語的な数の数え方、one piece of とか  one slice of とかを楽しく覚える教材にもなっています。イモムシに食べられて開いた穴が、ページをめくるとどんどん深い穴になっていく仕掛けも ate through  の端から端まで貫通しているスルーの感じがよく表されていて、英語圏の子供のためによく工夫された絵本になっています。
ただ、虫好きからすると、1点だけ、イモムシが繭を作って蝶になることが、ちょっとひっかかりますね。たいていの蝶は、繭ではなくて、裸の蛹から羽化しますから。

例えばアゲハは蛹です
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クスサンは蛾なので、すてきな繭を作りますね
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 この疑問に対するエリック・カールさんの回答は、本人のホームページ Official Eric Carle Web SiteのFAQのコーナーにありました。

やはり、世界中の虫好きが、この点を疑問に思っていたようです。エリック・カールさんはこれについて、主人公のイモムシは、ペロペロキャンディーやアイスクリームも食べる風変わりなイモムシだからと説明しています。また、英語圏の人は、「自分の殻に閉じこもらないで」という意味で、「コクーン(繭)から出てきなさい」などと言うことがあるようで、詩的表現として、クリサリス(蛹)より、コクーン(繭)の方が、響きがいいようです。エリック・カールさんの絵本は、まさに詩の世界ですからね。

しかし、これでも納得できない虫好きのための「科学的説明」も、エリック・カールさんは用意していました。それは、パルナシウス( Parnassius 、またの名はアポロ蝶)の仲間は、蝶でありながら、蛹を作るというものです。
高山や寒冷地に住むものが多いアポロ蝶の仲間は、日本では北海道大雪山のウスバキチョウ、関東の平野でも見られるウスバシロチョウが知られていますね。
考えてみれば、アカタテハの蛹室も繭のようなもの。それに、蝶と蛾の区別は、ほとんど意味がないと言われているので、蝶が繭をつくるかどうかに、こだわることにはあまり意味がないかもしれませんね。

エリックカールさんの絵本を堪能したら、絵本作家にもなりたかった昆虫記者の本、「昆虫記者のなるほど探訪」も、是非手にとってみてください。

第4章「海外(虫)旅行で家庭崩壊の危機」第2話は、台湾最南端の墾丁。明るい陽光の下を飛び交う昼蛾の美しさに、驚かされました。蛾と蝶の間には、実は明確な区別はないと言われますが、ここではそれを実感することができます。冒頭部分をちょっとだけ紹介します。

墾丁のカノコガの仲間
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キオビエダシャク
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クロツバメ
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◎台湾最南端、墾丁は今日も嵐
台湾南部の高雄にアジア最大級のアウトレットモール「義大世界(イーダ・ワールド)購物広場」ができた。昆虫記者には何の関係もないように思えるこのニュース。年末年始の家族旅行の行き先を台湾にするための大切な「餌」である。
何の餌もなければ、妻に「高雄はもう行ったでしょ」と言われるに決まっている。「今度はヨーロッパがいい」と言われるに決まっている。それを覆す材料が「アウトレット」という魔法の呪文なのだ。
本当の目的地は、高雄から車で2時間ほどの台湾最南端の海浜リゾート「墾丁(ケンティン)」。「墾丁は今日も晴れ」という台湾の青春テレビドラマがヒットし、日本でも放映されたので、墾丁の知名度は赤丸上昇中だ。常夏の地で、虫もかなりいるとの極秘情報もゲット。高雄でのショッピングを後半2日間に組み込み、前半は墾丁で虫三昧という、夢のような計画は、順調にスタートしたかに思えた……


◎取材を終えて
冬の墾丁は「落山風」と呼ばれる北東の季節風が強い上、天気は連日荒れ模様。虫日和はたった一日でしたが、それでも十分満足できる昆虫濃度でした。特筆すべきは、昼間に活動する色鮮やかな蛾「昼蛾」の多さ。蝶と蛾が入り乱れて、美しさを競う光景は南国ならではですね。、「はらぺこあおむし」のように、コクーンから美しい蝶のような蛾が出てくるシーンが、現実になるかもしれません。