ボルネオのキナバル公園での虫紀行。今回最大のターゲットは、昆虫界の三葉虫こと、サンヨウベニボタルでした。究極のキモカワ虫として、極々一部では人気のようです。
幼形成熟の♀は、見た目は太古の生物の三葉虫。なのに、その実態はベニボタルなのです。そんなものを狙って、わざわざボルネオまでやって来る物好きは、脳みそが幼形成熟した虫記者のほかには、まずいないでしょう。
サンヨウベニボタルは、東南アジアの熱帯雨林なら、どこにでもいるらしいです。特にキナバル公園では「本当にどこにでもいる」という話でしたが、どうもガセネタをつかまされたようです。
現地で調査した結果、乾季には見つかりにくくなるとのこと。3月24日は一匹も見つかりませんでした。
そこで、25日は、公園内の研究施設のスタッフに泣きついて、居場所を教えてもらいました。すると、いるわ、いるわ。昨日はいったいどこに隠れていたのか。木質がしっかりした大きめの朽木の、表皮が一部剥がれたようなところが穴場です。
こんな感じで、ドッカーンといるところも。
小さいのは、カブトのような部分が大きくて可愛い。小さい方が三葉虫に似ています。ペットにしたい虫ですね。
大きくなると、地底戦車のような様相になります。
その頭部を朽木の中に突っ込んで、何か食べているようです。粘菌を食べるという報告もあるようです。
英語では三葉虫はトリロバイト、サンヨウベニボタルはトリロバイトビートルと呼ばれています。ここキナバル公園では、trilobiteと言えば、サンヨウベニボタル♀のことです。
実はサンヨウベニボタルのオスは普通のベニボタルになります。紅色でホタルのような姿。サイズも1センチ前後で普通のホタルと変わりません。
しかし、メスは三葉虫に似た幼虫の形のままサイズだけが大きくなり、7~8センチの巨体になります。いわゆる幼形成熟ネオテニーです。種類によっては、オスの体長はメスの10分の1。単純にこれを3乗すると、体重は1000倍ということになりますね。
やさ男の♂のサンヨウベニボタルは、1000倍の体重で三葉虫の姿をした♀に恋をするという訳です。蓼食う虫も好き好きとは言え、交尾の構図は想像を絶する姿でしょう。
ベニボタルの仲間の♂。種類は分かりません。
別の種類の♂です。体長は1・4センチくらいでした。
この♀は体長6センチ強。もっと大きくなるようです。
それでも雄のサンヨウベニボタルにとっては、三葉虫のような♀は、グラマラスで迫力がありながらも、幼い日々の面影を残した魅力的女性なのでしょう。
キナバル公園では、シラウシラウ川沿いやボタニックガーデンに多いとのことですが、今回はボタニックガーデンは不発、シラウシラウ川沿いでは2匹だけでした。リワグトレイルに多く、パンダヌストレイルにも1匹いました。
拙著「昆虫記者のなるほど探訪」でも、アジアの虫撮りの穴場をたくさん紹介してます。海外旅行の際には、是非異国の虫に注目を。グローバル化で人間界の異国情緒は乏しくなっていますが、虫の世界はまだまだ異国情緒たっぷりです。