虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⓶

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⓶
 
3月11日続き
◇宮殿のようなホテルと、物置のような安宿
 まずは、タクシーの車窓から、かなり高級なホテルである「イスタナ・クアラルンプール」を眺める。「イスタナ」は宮殿の意味。まさに宮殿のような豪華なホテルである。
もちろん眺めるだけで泊まりはしない。泊まるのは、そのすぐ裏にあるお値段5分の1ぐらいの安宿だ。この安宿を選んだ主要な理由は「イスタナ」に近いこと。翌日早朝のタマンネガラのムティアラ・タマンネガラ・ホテルへの送迎バスは、イスタナのロビーから出発するのである。まるで、イスタナに宿泊した金持ち旅行者のような素振りで、何気なくシャトルバスに乗り込むのである。(注=私はムティアラにメールして1カ月ほど前に予約しましたが、通常はイスタナのメインロビーにあるムティアラのオフィスで、前日までに予約すればいいようです。クアラルンプール滞在中に突然思い立って、タマンネガラに行きたいと思っても、何とかなりそうです)。
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 タマンネガラへのバスが出る高級ホテル「イスタナ」のロビー。お値段が高いので泊まれません。

 安ホテルにチェックインし、部屋に荷物を置いて、ホッと一息。しかし、「あまりにもネットで見た部屋と様子が違うぞ」。一階の駐車場に面して、物置のようなスペースが並んでいて、その物置と思ったものこそが、実は客室だったのだ。
ドアを開けてもなお、そこはほぼ物置だった。物置の中にベッドがあり、奥にシャワーが付いているといった感じ。まあ、翌日からのジャングルでの夢のリゾート生活に向けて、1泊体を休めるだけだから、これで十分だ。でも、あのネット上の写真は「詐欺だ。フォト・マジックだ」。一部屋だけ、特別きれいに改装して、その写真をホテル紹介サイトに提供したのではないかと疑われる。
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 物置的な安宿の室内。名誉棄損で訴えられる恐れがあるので名前は明かしません。

しかし、まあいい。そもそも、このホテルには何も期待していないのだから、期待外れも何もないのである。手元には、無事生還したリュックがある。それだけで「素晴らしきかなマレーシア」である。
 
◇夜の街、熱帯のアバンチュール
その後、夜の街へ出かける。クアラルンプールは熱帯の大都会だから、電飾きらめくオープンテラスのバーやレストランが立ち並び、店内からは魅惑的な音楽が流れてくる。妻の目がとどかない旅先で、焼けつくような熱帯のアバンチュールを楽しもうというのか。
しかし、探検隊風のベストを着た昆虫記者は、アバンチュールには似つかわしくない姿だ。ではなぜ、夜の街へ向かうのか。目指すは観光名所のペトロナスツインタワーだ。宵闇の中で見上げると、まるでSF映画に出てくる近未来都市である。
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 ツインタワーの前はカップルの記念撮影ポイント。昆虫記者には縁のない話です。

タワーの下には巨大ショッピングセンター、スリアKLCC(クアラルンプール・シティー・センター)がある。これがまたすごい。時々買い物に行く錦糸町のショッピングセンターよりすごい。
普通はここで、マレーシア土産のお菓子でも調達するのだろうが、昆虫記者が一直線に向かったのは、家電量販店。そこで買ったのはスパイラル型の蛍光灯電球だ。
日本とマレーシアでは電圧が100ボルトと220ボルトという違いがある。だから、マレーシアのジャングルのホテルで、夜に虫を呼び寄せるためにベランダに設置する電球は、マレーシア製がいいのだ。
これまでは、わざわざ日本から電球を持ち込んでいたのだが、日本の電球を使うには、変圧器(トランス)が必要になる。このトランスがともかく重いのだ。長い時間使うと、過熱して作動停止したりする面倒なものでもある。マレーシアと日本では、電球ソケットの形状も若干違うらしいのだが、日本の物を使っても、問題はなかった。つまり、延長コードやソケットなどは日本から持ち込んだものがそのまま使えて(BFタイプ変換プラグは必要)、電球だけはマレーシア製を使うという裏技が使えるのだ(真似する場合は自己責任でお願いします)。なんと素晴らしい天才的発想なのか。(それくらい誰でも考え付くだろうが、普通はそんなことをする必要性がないだけという説もある)。
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 タワーの下には巨大ショッピングセンター。

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 スーパーも入っているので、食料調達にも便利。

すべて計画通りだ。うまくいきすぎて怖いぐらいだ。もちろん、異国の地であるから、小さなトラブルは幾つかあった。例えば信号機が壊れていて、いつまでも道路を渡れなかったとか、信号が機能している場所では、信号無視の車にひかれそうになったとか、夕食に入ったマクドナルドでは、セットメニューを頼んだのに店員がポテトを付け忘れたとか。それでもKLセントラル駅での大恩があるから、すべて笑って許せる。でも、ポテトがなかった時は、多少笑顔が引きつっていたと思う。
 
◇安宿の混乱の夜明け
安宿の夜明け。午前7時、まだ外は薄暗い。身支度を整え、チェックアウトのためフロントへ向かう。しかし、フロントには誰もいない。もう一組若い西洋人カップルが待っている。料金は支払ってあるから、普通なら鍵だけフロントに置いて立ち去ってもいいだろう。しかし、この安宿は客に100リンギものディポジットを要求していたのである。宿代の倍近い額だ。これを取り返さずに、立ち去ることはできない。
ムティアラへの送迎バスの集合時間の午前7時半が迫ってくる。乗り遅れたらどうしてくれるんだ。もしかしたら、これこそがこのホテルの戦略か。時間に追われる客が、ディポジットを取り返すことをあきらめて、泣く泣く去っていくのを、どこかの監視カメラで見守って、ほくそ笑んでいるのか。フロントのドアを蹴破って、ディポジット分の現金を強奪してやろうかと思う。
業を煮やした西洋人カップルの片割れの男が、フロント近くに書いてあった番号に電話する。しかし、応答がないようだ。男は外へ飛び出していく。警備員かだれかホテル関係者を探しに行ったのだろう。
そうこうしているうちに、ホテル関係者らしきマレー人が現れた。もうあまり時間がない。「ディポジットディポジット」と叫ぶ昆虫記者。眠そうな顔で、のんびりとフロントのドアを開け、緩慢な動作でデスクから現金と確認書類を取り出すマレー人。昆虫記者は、100リンギ札をひったくるようにつかむと、高級ホテル「イスタナ」に向かって走り出したのであった。KLセントラル駅でマレーシアから受けた10万円分の恩義は、この時点で1万円分ほど目減りしていた。
 
◇旅の美しき道連れ
イスタナのロビー(メインロビーの1階下のローアー・ロビー)には、既にムティアラ関係者が待っていた。この日の送迎バスの利用者は、中国系米国人の父親と息子、娘の3人連れと昆虫記者の計4人。しかし、この中国系の父親が、8時の乗車直前になって、「部屋に忘れ物をしたかもしれない。ラストチェック」とか言って、ホテル内に戻っていったのだ。ホテル内に戻ったということは、この高級ホテルに泊まっていたのか。それだけでも、腹が立つのに、出発時間を過ぎても戻ってこない。結局定刻を10分ほど過ぎてから、運動靴らしきものを手にして「ソーリー・ソーリー」とか言いながらバスに乗り込んできた。
タマンネガラで過ごす大切な時間を10分削られたのである。本来なら許せないが、汗を垂らして走って戻ってきたから、勘弁してやろう。それに、大福のような顔の父親に似ず、娘さんが可愛いので「ノー・プロブレム」とか言って、作り笑いで大人の余裕を見せておいた。こうした包容力が、いずれ、何らかの形でラッキーな展開をもたらすかもしれないのだ。
そして送迎バスで4時間ほどでテンベリン川沿いのクアラタハンの村に到着。目指すムティアラ・タマンネガラはテンベリン川を挟んで、村の向かい側だ。渡し舟の料金は片道1リンギ=約30円。荒川の矢切の渡しよりずっと短い距離だから安い。南岸の村には小さなホテルがいくつかあり、値段はムティアラの4分の1から2分の1ぐらい。南岸には水上レストランもたくさん並んでいるから、昼食、夕食もかなり安く食べられるだろう。しかし、公園の入り口に位置する北岸のムティアラの方が、圧倒的に便利だ。
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 テンベリン川南岸にはこんな感じの水上レストランが幾つもある。ムティアラから往復2リンギで川を渡って、安く食事をすることもできそうだ。

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 あっという間にムティアラ側へ。

便利さを取るのか、値段を取るのか、普通の旅行なら絶対値段の安さが優先だ。だが、「虫撮りの便は悪いが値段は安い」のと、「虫撮りに便利で値段が高い」のとでは、虫を重視せざるを得ないのが、昆虫記者の悲しい宿命なのである。まあ、ムティアラにしても、一部屋1泊8500円程度なので、例えば家族3人で泊まったとしたら、一人当たり3000円もしないのだから、昆虫記者のように「高い、高い」とギャーギャー騒ぎ立てるのは、経済大国日本の恥である。(注=日本のホテルは大抵1人いくらという設定なので、3人で泊まれば一部屋当たりの料金は掛け算で3倍になります。しかし海外のホテルは一部屋いくらの設定なので、3人で泊まれば、1人当たりの料金は割り算で3分の1になります。海外では多人数で泊まるとお得ということですね。でも日本の旅行会社の海外旅行パッケージを利用するとすべての値段が、人数分の掛け算になるので注意が必要です)。