虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑤

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑤
 
◇キャノピーウォークで吊り橋効果に期待
 さあて、今日も晴れ。毎日雨の予報だったけれど、現実は晴れ続き。強力晴れ男パワーで気分は最高。では、気分がいいついでに、タマンネガラ一番の売り、最大のアトラクションとされている長大なキャノピーウォークにでかけるか。
 まずはバイキング形式の朝食をガツガツ食べて、エネルギーを補充する。宿泊料は朝食込みなので、朝食は「ただ」みたいなものだ。朝食をたらふく食べておけば、昼食代を浮かせるし、ひいては夕食も軽く、安いもので済ませることができる。すべては、食べ放題の朝食をどれだけ食べられるかにかかっているのだ。
 たっぷり食べて、腹はパンパン。「もう食えないぞ」というところで、意気揚々とキャノビーを目指す。
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 森には地面があれば、屋根もある。キャノビー(樹冠)とは、森の緑の屋根である。しかし悲しいかな、人間は鳥のように飛ぶことはできない。屋根の上の世界を見ることは難しい。だから、キャノピーウォークがある。ジャングルの数々の巨樹を支柱にして、その間を吊り橋で結んだようなキャノピーウォークは、上から森を見たいという、鳥になりたいという、人間の強い欲望の成せる構造物だ。長さ400メートル以上のキャノピーウォーク。地面からの高さは40メートルもあるという。これはもう期待に胸が膨らむではないか。まるで、豊胸手術をしたかのように、はちきれんばかりに、胸が膨らむ。

ヒルもサソリも毒蛇も、キャノビーまでは上って来られまい。ジャングルの王者ターザンになった気分で、高笑いするのだ。「ワッハッハ、地面を這いつくばる者どもよ、ここまで来られるものなら来てみろ。ざまあみろ」。
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そして、吊り橋効果を利用して、プロポーズしようなんて姑息なことを考える人間も必ずいる。人間の脳は、吊り橋の恐怖を、恋の興奮と勘違いすることがあるらしいのだ。「キャー怖い」と高所恐怖症のふりをする女性と、「高い所なんてへっちゃらさ」と強がる男性がここで結ばれたりするのだ。そんなやつらは、40メートルの高さから突き落としてやりたい。
各地のキャノピー常連の昆虫記者としても、一度ぐらいは吊り橋効果を活用して、美人ツアーガイドさんなどに愛をささやいてみたいと思っているのだが、ガイドはいつも野獣のような男なのだ。吊り橋効果で、こんな野獣に好意を持たれても、あまり嬉しくはない。
 
◇キャノピー閉鎖の衝撃
そんな期待と、野望を胸にキャノピーへ向かう途中、例の中国系米国人家族人が、反対方向からこちらに歩いてくる。すでに森を一歩きしてきたようだ。なんと精力的な家族なのか。華僑が世界を制覇するのも、なるほどとうなずける。
「おはようございます。もうキャノピーへ行かれたのですか」。美しい娘さんの手前、丁寧にあいさつする。すると、父親から衝撃的な答えが返ってきた。「キャノピーは、安全性に問題があるとかで、当分閉鎖のようですよ」。ガガーン。うそだろ。「お父さん、うそ言ってますよね。娘さんに対してよこしまな気持ちを抱いた昆虫記者に懲罰を与えようとして、いじわるしてますよね」。
お父さんはさらに追い打ちをかけてくる。「本当ですよ。行くだけ無駄ですよ」。それでも、キャノピーへ向かおうとする昆虫記者に対し、お父さんは「ウオッチ・ユア・ステップ」と声をかける。ジャングルの道はすべりやすいから、足元に気を付けてとやさしい言葉をかけてくれたのか。いやいや、これは比ゆ的な言い回しではないか。「俺の娘にちょっかい出したらどうなるか分かってるな。人の道を踏み外さないよう気を付けろよ」ということに違いない。背後からの襲撃に注意した方が良さそうだ。
しかし、しばらく進むと、本当に「キャノピーウォーク閉鎖」の注意書きが林道脇に掲示されていた。どうしてくれるんだ、この胸の膨らみを、吊り橋効果への淡い期待を。キャノピーはタマンネガラ最大のアトラクションじゃないのか。何とかしろ。安全に問題があるなら早く直せ。直せないなら、宿泊料を半額にしろ。
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 3月2日は既にキャノピーウォークは閉鎖されていた。分かっていたなら、早く知らせてくれ。せめてチェックインの時には知らせて、衝撃を和らげるべきだろ!。そして、宿泊費を安くするか、サービスを充実させろ!。すいません、口汚くののしってしまいました。

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 人の気配のないキャノピーウォーク施設。入口は鎖で閉ざされ、床下ではコウモリが鳴き、屋根の上には落ち葉が舞っていました。
 最初に載せたキャノピーウォークの写真に人が写っていないのを不審に思った人もいたことでしょう。実は、閉鎖されたことを知りながら、諦めの悪さから、確認しに行ったのでした。

だが、こんなジャングルの真ん中で、不平、不満を叫んでいても、らちが明かない。とりあえず、気持ちを切り替えなければ。そうだ。ブンブンに行こう。ナンバーワンのアトラクションのキャノピーがだめなら、ナンバーツーのブンブンへ行くぞ。
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 途中で見つけたツケオグモの仲間。鳥のフンに擬態しているらしい。周囲の白い粉のようなものは、自ら分泌するのだろうか。

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◇タマンネガラにはブンブンがある
 タマンネガラにはブンブンがいくつもあるという。ブンブン?。えー、もしかして、こんなジャングルの奥地にまで、コンビニのセブンイレブン、通称ブンブンが進出しているのか。それはそれで、すごいことである。どんな野性的な店長がいるのか気になるところである。しかし、それは大いなる誤解だ。
ブンブンとは、動物観察小屋のことらしいのだ。生クリームとイチゴのスイーツなんかは置いてなくて、開放的な窓から熱帯の風とともにハエや蚊が次々に飛び込んでくるジャングルの中の高床式の小屋である。並外れた根性と環境適応能力があれば、宿泊もできるらしい。公園事務所の料金表には、「ブンブン5リンギ」と表示されている。1人1晩たったのリンギ、つまり150円程度で宿泊できるのだ。ムティアラに1泊8500円も払ったのは無駄だった。ムティアラに1泊する金で、ブンブンなら50泊以上できるぞ。
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 一番下の行にブンブンは5リンギと書いてある。

「ブンブン、是非行って下さいね」。タマンネガラの旅への出発前、そう優しく声をかけてくれたのは、昆虫文学少女として知る人ぞ知る新井麻由子ちゃんと、麻由子ママだった。マレーシア虫旅のベテランである2人も「そのうちタマンネガラに行きたい」と言っていた。でも「昆虫記者さん先に行って下さい」と言われた。「ブンブン巡りしてきてくださいね」と言われた。先遣隊、下見と言えば聞こえがいいが、毒見のようなものだ。昆虫記者が無事帰ってきたら、私たちも行きたいということだ。昆虫記者が瀕死の状態になったりしたら、やめようということだ。後続部隊のために、最前線で捨て石になる覚悟で臨めということだ。
 
◇近所の疑似ブンブン
 ブンブン巡りといっても、奥地のブンブンは体力的に無理。ということで、調べてみると、なんと、一番近いブンブン・タハンは、宿からわずか200メートルだ。ここには宿泊設備もないから、本当のブンブンとはとても言えない。例えてみれば、住宅展示場にあるモデルハウスのようなもの。それでも、いかにもジャングルの中で大冒険をしたかのような雰囲気の写真を撮ることができる。「三日三晩、飲まず食わずでジャングルをさまよった末に、ようやくブンブンにたどり着いた」といった大ボラを吹くこともできる。しかし、200メートルではあまりに、ひどい。子供の頃にテレビで観た、やらせばかりの「〇○○探検隊」的ではないか。大人はあの番組をエンターテインメントとして見ていたのだろうが、未来の探検家を夢見て画面にくぎ付けになり最後にがっかりする児童たちのことは考えていたのだろうか。
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 なかなか格好いい疑似ブンブンことブンブン・タハン

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 ブンブン・タハンの観察窓からの眺めはこんな感じ。

 ○○○探検隊のように、麻由子ちゃんを騙すなんてことは、やっぱりできない。
 と言うことで、次に近いところは。タハン川沿いのトレイルを3.1キロの距離にあるブンブン・タビンだ。