虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑧

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑧
3月13日続き

◇夜のサソリ探し単独行
 夕食後のロッジ。既に日は落ちている。ベランダには、いつものように虫をおびき寄せるライトトラップが設置されている。しかし、虫を待っているだけでは、時間が無駄になる。こっちから会いに出かけて行かなければならないのだ。
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 たぶんネブトクワガタの仲間の♂♀。ライトトラップに来たのは、こういう小さい虫ばかりだった。

 そこで昆虫記者がスーツケースの中から取り出したのは、通常のヘッドライトと、ブラックライトだ。夜のサソリ探し単独行に備えて、ネット通販でブラックライトを調達していたのだ。なんと用意周到な男なのか。
 ガイド付きのナイトウォークは一度参加すれば、それで十分。やり方が分かれば、2回目以降は自分で勝手に夜に歩けば、それで立派なナイトウォークだ。しかも無料。
 前日に歩いたナイトウォークのコースは、大混雑だった。さまざまな業者のツアーが入り乱れ、木道上ですれ違うのも大変だった。どうせ行くなら、前日とは違う、静かなコースを歩きたい。
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 ハゴロモの仲間とアワフキの仲間。

 しかし、単独行動でサソリを見つけることなどできるのだろうか。それこそが、今回の旅の主目的なのだが、ハードルはかなり高そうだ。大きな穴を住処とする大物のサソリは、穴の所在を知っていないと、見つけられないだろう。つまりガイドなしでは、困難ということだ。だが、小さなサソリなら、倒木の裂け目などを住処にしているから、行きあたりばったりでもなんとかなるのではないか。それに大物と比べれば、小物の方が圧倒的に数が多いはずだ。
 ということで、今回は小物探しに徹することに。まずはヘッドライトで、木道脇の倒木を探す。倒木を見つけたら、ヘッドライトを消してブラックライトを当てる。まあ、世の中、甘くないから、そんなに簡単には見つからないだろうな。
 なにせ相手は、官憲の目を巧みに逃れてきた悪辣なサソリだし。今まで一度も自力で見つけたことなんかないし。
 しかしなんと、暗闇にブラックライトを照射した瞬間、見えたのである。倒木のあちこちで、青白いハサミがチラチラとうごめいているのが。
 一本の倒木に匹、匹。みなハサミだけ、あるいは上半身だけを倒木の割れ目から覗かせて、獲物を待っている。すると、紫外線を好む蛾が倒木に寄ってきた。その瞬間「ガバッ」。蛾を捕えようと、さそりが隙間から飛び出してきたのだ。
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◇ブラックライトって何?
 ところで「ブラックライトって一体何だ」という疑問がわいてくる。ライトなのにブラック。点灯してみると、全然明るくない。壊れているのかと思ってしまう。実はブラックライトは、紫外線に近い光を出すライトなのだ。紫外線は人の目には見えないから、ほとんど明るくならないのである。何に使うかというと、紫外線硬化樹脂を固めるためとか。もっと身近なものでは、犬や猫のおしっこによる汚れとか、油汚れとか、目に付かない蛍光性の汚れを見つけるのに使うという。
仕組みはよくは分からないが、紫外線を別の波長の可視光線に変えて反射する物質があるらしいのだ。だから、暗闇の中で、ブラックライトを当てると、特定のよごれが光るのだ。一見きれいに見える部屋。明かりを消して真っ暗にしてから、床のじゅうたんにブラックライトを照射する。すると、あちこちに青白く光る斑点が。汚れ一つないように見えた絨毯が、実はよごれまみれだったのだ。よそのお家でこんなことをしたら、嫌がられること請け合いである。出入り禁止になるかもしれないから、実験は自宅だけにした方がよい。
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 ネット通販のAmazonで800円ぐらいで買ったVANSKY製の小型ブラックライト。小さなサソリを探すには、この程度の小さなライトで十分だ。単4電池3本使用。

◇今やサソリ・ツアーの必需品
一体誰が始めたのか、サソリ探しには今やこのブラックライトが欠かせないらしい。サソリはブラックライトを当てると、真っ暗なジャングルの中で青白く光るので見つけやすいのだ。
本当に光るんだなー。まるで夜空の星。さそり座が地上に落ちてきたと思うと、ロマンチックではないか。
「お前ら、ブラックライト浴びて暗闇で光るなんて、インスタ映えでも狙ってるのか」と言いたくなるほどきれいだ。サソリが紫外線で光ることと、放射能に強いということと、何か関係がありそうな気もする。核戦争後の未来の地球は、同じく放射能に強いといわれるゴキブリとともに、サソリが支配する世界になっているかもしれない。

◇蛍狩りと並ぶ人気イベントに?
 蛍狩りと同じように、カップルが愛を確かめ合うイベントとして、サソリ狩りが定着する日も遠くない…なんてことはないだろうが。なにせ、蛍と比べて、サソリのイメージは悪すぎだ。大きなハサミだけでも十分怖いのに、尻尾の先に毒針を持っているなんて、まるで怪獣映画のキャラクター。
さそり座の女」とか、梶芽衣子さん主演の映画「女囚さそり」シリーズとか、イメージ的には、怖い雌を思い浮かべてしまう。そうよ、私はさそり座の女なんて、言いながら、すり寄ってこられたら、どうしよう。むげに拒絶すると、痛い思いをさせられるかもしれないし。だが、サソリは、皆が思うほど悪役でもないのだ。サソリの毒は、本来は獲物になる虫とかトカゲとかを仕留めるためのものだから、人間を殺すのが目的ではない。何もしない人間にサソリの方から襲いかかってくることはない。気を付けていれば、攻撃されることはない。とか言われても、やっぱり怖いものは怖いのだ。
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 全然動かないので、変だと思っていたら、サソリの脱皮殻だった。

しかし、サソリは意外に敵が多く、イタチとか鳥とかに襲われて簡単に食われてしまうらしい。あの過剰装飾のクジャクなんかも、サソリを平気で食べるらしい。だからサソリは、昼間は穴に隠れて、暗くなってから活動する。実は臆病者なのである。固そうに見える体も、実はたいしたことはなくて、甲虫の甲羅よりも軟弱だという。最強の姿の割には、結構弱っちい。ちょっと残念な生き物である。それに、本物のサソリの雌は、背中に子供を乗せて守ってやったりする、愛情?あふれる母親であったりもするのだ。
 
◇ポイズンリムーバーを忘れたのが命取りに
 しかし、甘く見過ぎてはいけなかったのだ。やつらにも意地があったのだ。昆虫記者ごときに、なめられて、黙っているはずはなかったのである。
木の皮の隙間にいる赤ちゃんサソリをもっとよく見ようと、隙間を指で広げていた時のことだ。
ビリビリ。小指の先に激痛が走った。やられた。サソリに刺された。もうだめだ。昆虫記者の華やかな人生もこれまでだ。誰一人いない夜のジャングルで、激痛にのたうち回って死んでいくのだ。
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 昆虫記者を刺したのはこいつか。通常のフラッシュライトと、ブラックライトのカクテル光線を照射すると、こんな素敵な色合いになる。

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 普通のライトだけだと、こんなに地味なやつだ。

こんな時に限って、毒を吸い出すポイズンリムーバーを持ってきていない。なんてこった。「ポイズンリムーバーを部屋に忘れたのが命取りでしたね。本当に惜しい人を亡くしました。でも本望でしょう。虫撮りの最中に倒れたんですから」。そんな虫撮り仲間の会話が聞こえてくるようだ。やはり、ただほど怖いものはなかった。ガイドもなしに、人っ子一人いない静寂のジャングルに入り込んだのは間違いだったのだ。
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 ジャングルに行く時は、ポイズンリムーバーを忘れずに。これまで一度も使ったことはありませんが、万が一の場合には生死を左右するかもしれません。精神安定剤のつもりで持ち歩いた方がいいでしょう。

出発前に小遣いを渡してくれた際の、妻の捨て台詞が思い出される。「面倒なことを全部私に押し付けて、楽しそうでいいわね、虫撮り旅行なんて。サソリにでも刺されて死んだら本望でしょ」。そうです。本望です。楽しい旅行に行かせてくれてありがとう。もう思い残すことはありません。葬儀は質素でいいです。遺灰はジャングルに撒いて下さい。
しかし、その5分後。痛みはうそのように収まった。なにせ相手はベイビーサソリだ。針の一撃も若干かすった程度だったのだろう。何度死んでもよみがえるのが、昆虫記者なのだ。それにしても許せないのは、昆虫記者に刃を向けたサソリのやつだ。いつの日か、ゲテモノ料理屋で唐揚げにして食ってやる。たとえ、唐揚げにされたとしても、昆虫記者に食われるなら、悔いはないだろう。
でも「見た目からして、あまりおいしそうじゃないなから、やっぱりやめた」と思い直す。何を隠そう、昆虫記者は、食べ物に関しては超保守的で、ゲテモノ料理なんかは大の苦手なのである。
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 いつも頭を地面や壁に押し付けるような変な姿勢で張り付いているおかしな蛾。

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 上から見るとこんな感じ。墜落した飛行機のようです。

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 靴にまとわりつく巨大ヤスデ

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 緑色のセミをつかまえたヤモリ。