虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑩

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑩
天女の誘惑
 シロアリ、ゴキブリ、アリなどの相手をしているうちに、ようやく、ブキ・テレセクの裾野に。なだらかな木道に入り、ホッと息をつく。すると、見えてくるではないか。虫たちが。まるで、ご褒美のように。
 そしてなんと、目の前、手を伸ばせば簡単に捕まえられる場所に、最大のお目当て、天女のようなビワハゴロモが、まるでやらせ番組のように、とまっているではないか。そうか、へとへとの昆虫記者を励ますべく、ずっとここで待っていてくれたんだな。なんと優しいんだ、お前は。感動で涙が出るぞ。
 ネット上でも、実際にも、いままで見たことのない種類だ。繊細な模様をほどこした美しい羽。すらりと伸びた長い鼻。そしてその鼻の先には、火を灯したような真っ赤な飾り。ここから熱を発するとか、夜になると鼻先が光るとか、信じられていた時代もあったらしいが、それもなるほどと思われる姿だ。鼻先に触れたら、アッチッチッチーとなりそうだ。
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 英語ではランタンバグ、ランタンフライ(日本語に訳すと、ちょうちん虫)などと呼ばれている。だが、そんな低俗で、ちょうちん持ちのような名はお前にはふさわしくない。
◇昆虫記者、ストーカー疑惑
 そうだ、お前はビワハゴロモではなく「VIVA!ハゴロモハゴロモ万歳)」だ。お前こそが、この熱帯のジャングルにふさわしい高貴な虫だ。
 まるで無駄骨だったような山登り。と言っても高さたったの300メートルほど。その難行苦行の末にお前に巡り会えるとは。「う、う、嬉しい」。お前が待っていてくれなかったら、どれほどむなしい山登りだったことだろう。
 「うるさい奴だ。一体なにをそんなに感激しているんだ。うっとうしいし、気味悪い男だ」(ビワハゴロモの気持ちを代弁)。
 「いいよ、いいよ。いい表情だ。そう、そう、そのボーズ。もうちょっと、こっちに視線を向けて、もうちょっと羽を広げて。それ、それ、最高だよ、セクシーだよ」。カシャカシャカシャ。篠山紀信加納典明(ちょっと古い。アイドルのグラビアに息を荒くした昔がなつかしい)になったつもりで、夢中でシャッターを切る昆虫記者。
 「嫌いだって言ってるのに、カメラのレンズをどんどん接近させてくるし、鼻息は荒いし、ストーカーかよお前」。ビワハゴロモはきっと、そんな気持ちだったのだろう。
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 突然のストーカーの出現におびえ切って、ジリジリと後退するビワハゴロモ。そしてレンズが数センチにまで迫ったところで、ついに昆虫記者の熱い視線に耐え切れなくなり、ブブーンと飛び去っていった。
 いいさ、いいさ。どうせ、君には、この熱い気持ちは通じないんだ。ふと、都会の公園などでよく見掛ける光景が脳裏に浮かんだ。なんか分かるな。野外撮影会とかで、可愛いモデルさんに群がって、必死にシャッターを切り続けるカメラおやじたちの気持ち。
 「天女のようなモデルさん、どうかおじさんたちに優しくしてあげてください」。そして、虫撮りついでに、望遠であなたの写真を撮った私を許してください。
 ついでに、全然VIVAじゃない、普通のハゴロモたちも紹介。

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 何というぞんざいな扱い。ビワハゴロモに対する態度とは大違い。まさに容姿差別だ。

 そして、これはたぶんハゴロモ系の幼虫。毛が伸びすぎた羊のように見える。
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◇ジャングルで軽装の西洋人に文句たらたら

 それにしても西洋人たちの山歩きのスタイルにはあきれてしまう。恐れを知らないやつらだ。毒虫とかヒルとかへの知識は全くないのか。それとも、とてつもない抵抗力を持っているのか。
 こっちは、長そで、長ズボン、防水登山靴で完全武装して、汗みどろになって歩いているのに、彼らは半ズボンにTシャツ。女性に至っては、ノースリーブにホットパンツ、サンダル履きだったりする。ここはジャングルなんだぞ。サンタモニカの海岸じゃない。あんな、涼しそうな恰好で平気なんて、許せない。
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 まあ、女性の場合は見た目も悪くないから許そう。スラリとした長い足は、日本人から見ると、あまりに美しく、見せびらかしたくなるのも分からないではない。しかし、男どもは、同性として許せない。毒虫とか、ヒルとか、毒蛇とかに集団で襲われて、ヒーヒー逃げ惑っている姿を見てみたいものだ。そうでなければ、不公平だろ。割が合わないだろ。怒っていたら、余計に疲れた。やっぱり、山なんて登るもんじゃない。
 もう歩くのやだー。売店でジュースとリンゴを買って、ロッジへ向かう。今日の午後はのんびりするぞ。しかし、あのロッジ周辺は特に危険地帯なのだ。サルの群れが待ち構えている。
 案の定、家族連れの西洋人観光客が、サルの群れに大喜びして写真を撮っている。サルは、何か食べ物をくれるのではないかと、どんどん数を増やしていく。あそこを通り抜けなけばロッジに戻れない。大柄のサルが寄ってくる。売店でくれるレジ袋はオレンジ色。やつらはそれを知っているのだ。中に食べ物が入っていることも知っている。足を振り上げて、サルを追い払う。
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 西洋人たちの横を通る。子ザルが可愛いとか何とか言っている。老婆心から、あのサルたちには気を付けた方がいいと忠告してやる。
 「やつらは危険だ。人間の持っているものを、何でも奪っていく。やつらはドロボーだ」。
 しかし、そのすきをサルは見逃さなかった。昆虫記者が西洋人グループと会話しているのを見て「チャンス到来」と判断したのだ。
 リーダー格が駆け寄り、ジャンプしてレジ袋をひったくろうとする。昆虫記者の反応が一瞬でも遅れていたら、レジ袋は持ち去らていただろう。とっさに袋を上に持ち上げため、サルの爪先で、袋の一部が破けただけで済んだ。
 寄ってきたのは、サルだけではなかった。イノシシも出てきた。今朝はロッジ裏で4匹が群れているのを見ている。奴らだって、いつ襲ってくるか分からないのだ。これはもう、スタンガン程度では、とうてい太刀打ちできない。逃げるしかない。
 しかし、西洋人たちは、恐れを知らない。日本ではイノシシに襲われる被害が頻発しているということを教えてやれねばならない。彼らは、猪突猛進という言葉さえ知らないのだ。たまには、獅子鍋にして、食っているところを見せて、人間の恐ろしさをイノシシたちに周知させなければならない。
 山登り、野生動物たちとの格闘、なんやかんやで、ともかく疲れて、へたばった。夕食まで、部屋でうだうだと画像の整理でもしよう。そんなことでいいのか、昆虫記者。