マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑭完
3月16日続き
◇帰途・美女の首筋に入れ墨の蝶
帰りの渡し舟と送迎バスで一緒になったのは、アルゼンチンからやってきたという妙に女子力の高い女性3人組。行きも帰りも、なかなか運がいいぞ。しかし、アルゼンチンからなぜこんなマレーシアの奥地にやってきたのか、訳が分からない。でも、そんなことはどうでもいい。例によって、半パン、タンクトップというジャングルにはそぐわない姿だが、一緒にバスに乗るのに文句を付ける理由はない。むしろ感謝したいぐらいだ。
未明までの豪雨で川は増水し泥色 3人の中で特に目を引いた女性がいた。仮にモニカとしておこう。モニカは、体中に入れ墨をしているのだ。腕にも、足にも、背中は一面に。植物や蝶をあしらった、なかなかに素敵な入れ墨で、その圧倒的な量にもかかわらず、女性らしさを全然損なっていないのだ。
もしかして、ペインティングかと思ったが、ジャングルで汗をかいたら、すぐに滲んでしまうだろうし。本当に入れ墨なのか、聞いてみてもいいものだろうか。もしかして、マフィアのボスの愛人だったりしたら、昆虫記者の命がないのでは。でも女性3人のバカンスだから、マフィアではないだろうと、楽観的結論を出す。
恐る恐る聞いてみた。「それ、ペイティングですか」。モニカは、「ノー、ノー」と言った後、しばらく考え込んだ。一体何を、考えているんだ。この変な日本人を生かしておいていいのか、半殺しにすべきか。やがて、モニカは「タト?タツ?…」とか訳の分からないことを言い出した。少なくとも、ファック・ユー(むかつく)とか、キル・ユー(殺す)とかは言っていないようだ。それともスペイン語で「殺す」と言っているのか。
◇いつまでも君を忘れない
「とてもきれいですね」「ありがとう」。片言の英語での会話が続いた。モニカの入れ墨の中でも、昆虫記者が特に気に入ったのは、首筋に入った蝶だった。モニカの美しい横顔、紫色に染めた髪に、羽ばたく蝶の姿が映える。
舞い上がってしまった昆虫記者は、昆虫のイラスト入りの名詞を差し出して、「その蝶の写真撮ってもいいですか」と尋ねる。声が震えている。「もちろんオッケーよ」と言って、紫色の髪をかき上げてくれた。女性の首筋の写真など撮ったことはない。本物の蝶を撮る時よりもドキドキしながら、シャッターを切った。
美女の首筋に蝶。生きた蝶だろうと、入れ墨だろうと、これを撮らなければ、昆虫記者の名折れだ。
昆虫ブログとか、ツイッターとかに、写真をアップしてもいいですか。「もちろんオッケーよ」。モニカはいい人だ。たとえマフィアの愛人であって、今回の一件で、昆虫記者の命がボスに狙われても構わないという気になる。まあ、そんなことは絶対ないと信じたいが。
こんな美しい入れ墨を見たのは初めてだ。しかも全身。しかも美女。入れ墨は怖い印象があったが、こんなに美しく、魅力的にもなるものなのだと、初めて気づいた。
旅は、まさに一期一会。アルゼンチン1の入れ墨美女に、地球の反対側のマレーシアのタマンネガラで出会うなんて。
きっと二度と会うことはないだろう。アルゼンチンに虫撮りに行く資金なんてないし。でも、もし虫仲間のだれかが、アルゼンチンに行って、ブエノスアイレスの街角で、首筋に蝶の入れ墨を描いた紫色の髪の彼女に出会ったら「昆虫記者はいつまでも君を忘れない」と伝えてほしい。なーんちゃって。格好いいなー。そんなこと、一度言ってみたいなー。
そんな馬鹿なことを考えているうちに、送迎バスはクアラルンプール市内にさしかかった。遠くにペトロナスツインタワーが見える。
送迎バスは、行きの始発地点だった高級ホテル「イスタナ」に向かっている。でも、高速列車のKLセントラル駅で下してもらえれば、楽に帰れる。運転手に頼んでみると、「渋滞がひどくなければ、寄れるかもしれい」との答え。結構渋滞はしていたのだが、結局それでも、KLセントラル駅で下してくれたのだった。
「ありがとうございます。マレーシアに感謝です。色々文句も言いましたが、やっぱりマレーシア人はいい人たちです。マレーシアはいい国です」。絶対また来るぞマレーシア。いい人が多いし、ナシレマクはおいしいし、虫はいっぱいいるし。
最終回のついでに、載せきれなかった雑多な写真の中から一部を紹介します。
灯火に来たアミタオンワモンチョウの♀です。灯火に来た蝶は逃げないので、簡単に手で捕まえらるのがいいところ。
シロコフキコガネの仲間。
熱帯のコメツキは色鮮やか。
タケノホソクロバ的姿なので、毒がありそうに見える。
常連の黄色いサシガメ
ハムシの仲間色々
コメツキモドキの仲間
金色のハエトリグモの仲間
最後はいつもの、ナメクジ的カタツムリで、ねっとりと余韻を残して終わります。