先日GWの最中に鎌倉へ行ってきました。と言ってももちろん、寺社巡りではありません。昆虫写真家の森上信夫さんと、イモムシ専門家のイノウエケイコさんがご一緒という面子ですから、グルメ旅でないことも明らかですね。
鎌倉の休日の7不思議というタイトルなら、普通歴史秘話が語られるところですが、筆者が昆虫記者なので、そうは問屋が卸しません。歴史秘話など、全く知らないので、書きようがありません。
では、何の7不思議なのかというと、単なる駄洒落とこじつけです。
まず第1の不思議はナナフシ擬態。ほーら、ちゃんと「ナナフシギ」が入っていますね。ナナフシは大きくなると枝に擬態しますが、小さい幼虫は、木の葉の上にチョコンと乗っているので、恐らく葉脈に擬態しているのでしょう。
でも2匹並んでしまうと、葉脈としては不自然ですね。
続いて2つ目の不思議はナナフシギテントウ。そんなの、いません。ただのナナホシテントウですが、それが7匹いる偶然が不思議ですね。本当は10匹以上写っていた写真をトリミングしただけなので、何の不思議でもありません。それに、よーく見ると、7匹のつもりが、8匹目、9匹目がかすかに写ってしまっていました。
3つ目の不思議は、エゴフシギゾウムシ。そんなのもいません。本当の名前はエゴシギゾウムシです。エゴの木にいるシギのように口の長いゾウムシなので、合わせてエゴシギゾウムシです。何の不思議もないですね。
4つ目の不思議は、同じエゴの木にいるエゴツルクビオトシブミです。交尾中のカップルで、後ろから攻撃しているのが当然オスです。そのオスの首が鶴のように長いので、ツルクビ。メスが必死にエゴの葉を巻いて作っているのが、卵を包む揺籃、通称「落とし文」です。」交尾しながら、揺籃を作り続けるなんて、不思議ですね。
たぶんこれは、メスが一心不乱に作業していたところ、オスが後から飛んできて「今だ、チャンスだ」とばかり、交尾におよんだということでしょう。単にどさくさ紛れの行動ということで、実は全然不思議ではないですね。
5つ目の不思議は、ツチイナゴ。春にこんな大きなバッタがいるなんて、不思議ですね。実はツチイナゴは、成虫で越冬する変わり者のバッタなのです。越冬明けの春に産卵するので、春に大きいツチイナゴがいるのは当然。これも全く不思議ではありません。ほかのバッタと生活サイクルが違うので、成虫が恐ろしい天敵のカマキリに襲われることがないというメリットがあります。
オオカマキリはようやく、卵から孵化したばかりで、大きなツチイナゴを襲うことなど、とてもできそうにないですね。
6つ目の不思議は、この黒いかたまり。イモムシの糞のように見えますが、これでもハムシです。その名もムシクソハムシ。虫の糞(ムシクソ)に見えるので、こんな恥ずかしい名前で呼ばれています。
7つ目の不思議は…。ここまで来るとさすがに、こじつけも苦しくなってきます。モモブトカミキリモドキあたりで、ごまかしておこうと思います。オスの後ろ足の腿が太いからモモブト。虫のオスには、前足か後ろ足が長かったり、太かったりするのが多くいます。たいていは、メスを抑え込んだり、ライバルのオスを蹴散らしたりするのに都合がいいからで、全然不思議ではありません。人間でも昔は腕力の強いオスが、メスを獲得したものです。最近はイケメンかどうかの方が重要なようではありますが。
ついでに不思議な行動を取っている人々です。鎌倉虫撮り旅に同行してもらった、昆虫写真家の森上信夫さんと、イモムシ専門家で、最近「キモカワ!イモムシ超百科」という本を出したイノウエケイコさんです。ただの木の葉の写真を撮っているように見えますが、小さなエゴシギゾウムシを相手に、真剣勝負の最中です。本人は必死ですが、周囲からは「不思議な人たち」に見えるでしょうね。
最後は昆虫記者らしくない歴史秘話です。源氏山の近くで見つけた太田道灌の墓です。江戸城築城の偉業で知られる太田道灌の墓が、こんな人目につかない奥の細道に、目立たず、ひっそりとただずんでいました。