今の季節、水辺の公園を回っていると、どこかでカルガモ親子に会うものですが、都会の公園だとテレビ取材班が繰り出すほどの大ニュースになります。都会の人々は自然に飢えているんですね。
なんてことを言いながら、昆虫記者も東京の都市公園でカルガモ親子を見たりすると、飽きることなく眺め続けてしまいます。小さな子供は何でもたいていかわいいものです。そして、少し大きくなると憎たらしくなるものです。
今年のカルガモ親子との出会いの場は、葛飾区の水元公園でした。「虫撮る人々」なのに、なぜ虫(この公園には山ほどいます)よりもカルガモ親子を優先するかと言うと、虫より圧倒的に鳥の方が人気があるからです。悲しいことですが、事実です。
Hatenaブログのグループでも、昆虫は野鳥に圧倒的大差で敗北しています。悲しいことですが、事実です。
なぜ、虫が負けるのか。それは親子関係が薄いから。たいていの虫は卵を産みっぱなし(一部のカメムシは卵と幼虫を守ります)ですが、鳥はちゃんと子育てをします。そして、虫の子供(幼虫)はあまりかわいくないケースが多い(一部のイモムシを除く)ですが、鳥の子供(ひな)はたいていかわいいです。
つまり、昆虫グループが野鳥グループに大差で敗北している主な理由の一つに、カルガモ親子のかわいさがあるということです(頑張れ昆虫グループ)。
そう考えると、かわいいと思っていたカルガモ親子が、妙に憎たらしくなってきますね。「お前ら、かわい子ぶってるんじゃねえよ」とか叫びたくなりますが、野鳥グループからの激しいバッシングが予想されるので、控えた方がいいでしょう。とりあえず「カルガモ親子は可愛いです」ということで。はい、納得です。
水辺の虫の中では、比較的かわいいということで、人気があるのはトンボです。特に細く、小さいイトトンボは、たくさんいて撮りやすく、弱々しく可憐なので、昆虫バッシングの対象にはなりにくい存在ですね。
水本公園の菖蒲田付近に圧倒的に多いのは、オオイトトンボです。アジアイトトンボやアオモンイトトンボよりはるかに多いです。名前にオオ(大)が付きますが、さして大きくはないので、虫好き以外には全く相手にされません。カルガモ親子に群がるカメラマンたちに、足元のオオイトトンボの存在をアピールしても、足蹴にされるだけです。悲しい。
しかし、しかし、イトトンボの場合は、カルガモと違って交尾や産卵の様子を簡単に見ることができるのです。地球の自然の営みを目の当たりにすることが、いとも簡単にできるのです。鳥の交尾なんて、ほんの一瞬、♂が♀の背後でバタバタやったら終わりですが、イトトンボは、♂♀の長い尾が結び合ってハート型を作って、ねちっこく交尾します。しかも、産卵の際にも、♂が♀の首根っこをがっちりホールドした態勢で、立ち合い出産するのです。「これはもう、感動ものですね」なんて言っても、カルガモ撮影隊は振り向いてもくれません。悲しい。
たまに赤いイトトンボがいますが、たいていはアジアイトトンボとかの幼体です。大人になっても赤いベニイトトンボは東京では非常に少なくなっています。
こちらは、オオイトトンボよりかなり地味なクロイトトンボです。「交尾、出産の感動シーン」なんて言う昆虫記者の声も、だんだんと糸のようにかぼそくなってきます。もはや誰の耳にもとどきません。悲しさの極致です。
ええい、やけくそだ。こうなったら、水辺の汚らしい虫で報復だ。
というわけで、スイレンの隙間に浮かぶヒシの葉を食い荒らすジュンサイハムシの群れです。
おっと、いけない。これでは昆虫グループがさらに苦境に陥りますね。ならば、水辺の葦原で見られる金色のハムシはどうでしょう。スゲハムシの仲間です。
湿地に多く生えるハンノキにも、昆虫グループを支える虫がいます。ミドリシジミですね。今頃はキラキラと緑色に輝く羽で飛び回っていることでしょう。しかし、昆虫記者が水元公園でミドリシジミに出会ったのは、5月中旬なので、まだイモムシです。
だれにも注目されない悲しいイモムシですね。
鳥にも、虫にも興味のない人々にとっても、水元公園は憩いの場です。広い水辺を眺めていると気分が晴れやかになります。昆虫グループの苦境で気分が落ち込んだ時にも、こういう景色は役立ちます。
都会の喧騒に疲れたら、ぜひ都会の水郷で傷ついた心を休めて下さい。