〇カメノコテントウとクルミハムシの生と死のドラマ
5月初めの連休が終わると、昆虫の季節は全開ですが、会社勤めに関しては7月半ばまで祝日がない地獄のような期間に入るわけで、生活面では全壊状態になります。
週末に高尾方面に出かけたりすると、それはもう、虫だらけで、撮っても、撮っても、撮り切れないほど写真を撮るのですが、休みが少ないのでとても整理しきれない状況に陥ります。ブログを書く時間も厳しくなります。ブログはある意味、撮った虫の写真の保管場所、整理棚的な役割を果たすので、さぼってばかりいると、後が大変になります。
こんな時になぜかマンションの大規模修繕なんてものが、重なってきて、ベランダの虫と、虫の食樹を片付けなければならなくなって、地獄のような日々です。
当然、ブログの内容はなげやりにならざるを得ません。
とりあえずビール、じゃくて、とりあえず何でもいいや、ということで、クルミの木で展開される、弱肉強食、生と死のドラマです。
初夏のクルミの木の常連と言えば、カメノコテントウとクルミハムシですね。「ですね」って、そんなの聞いたことないという人がほとんどでしょう。
まずは、テントウムシの幼虫とは思えない、巨大さのカメノコテントウの幼虫です。
そしてクルミの木で交尾するカメノコテントウのカップルです。のどかな風景ですね。
そしてお腹パンパンのクルミハムシの♀。
クルミハムシがどっさり卵を産むと、どっさり幼虫が発生して、クルミの葉はぼろぼろに。昔、学校の理科の時間にやった葉脈標本のようになります。
水酸化ナトリウム溶液なんか使わずに、ハムシの幼虫を使って葉脈標本を作るのもいいでしょう。でも、最近の理科の先生は女性が多くて、虫が大嫌いな人も多いようなので、無理でしょう。
カメノコテントウとか、クルミハムシとか、のどかな風景を見るためには、高尾駅から延々と歩くか、殺人的に混んだ小仏行きバスに乗るかしなければなりません。
週末の小仏行きバス乗り場は、こんな大混雑です。
終点の小仏も大混雑です。
ほとんどの人はここから、小仏峠、城山、景信山、高尾山方面へと登っていきます。でも昆虫記者は、ここから登るのではなく、下ることが多いので、小仏バス停から先は、人影もまばらになります。
クルミの木の下にカメノコテントウの蛹がありました。
抜け殻になった蛹の隣には、羽化後間もないカメノコテントウ。
あまりにものどかな自然の営み。そのどこに生と死のドラマがあるのでしょう。
発見しました。カメノコテントウがクルミハムシの卵らしきものを食べています。
そうなんです。テントウムシは肉食の種類が多いのです。ナナホシテントウとか、ナミテントウとかは、アブラムシを主食にしていますが、大型のカメノコテントウは、そんなものではお腹がいっぱいにならないので、ハムシの幼虫を主食にしています。
その中でも特にお気に入りのお肉が、クルミハムシの幼虫なんですね。幼虫を食べている現場を探したのですが、みつかりません。
ならばどうするか。カメノコテントウとクルミハムシの幼虫を一緒にして、観察するしかないですね。捕まえて一緒にしてみました。
気が付いたら、もうカメノコテントウが、クルミハムシの幼虫にかぶりついていました。なんと残酷なのでしょう。動物虐待で訴えられそうです。
しかし、これが自然界の掟なのです。昆虫記者は、研究者としての興味から、ちょっと手を貸したにすぎません。
人間界では、ハムシはたいてい害虫、肉食テントウは益虫とされていて、ハムシ幼虫の大量虐殺は「益」、つまり良いこととされているのです。良いことをちょっと手助けしたにすぎないのです。
カメノコテントウは、クルミの木ばかりでなく、エノキにもいます。特に都会ではクルミが少ないので、エノキが定宿です。
つまり、クルミハムシの幼虫だけでなく、エノキハムシの幼虫も、カメノコテントウの好きなお肉ということになります。
試しに、クルミの木にいたカメノコテントウを、代用食のエノキハムシの幼虫と同居させてみました。
すぐにかぶりつきました。
「な、な、なんと、残酷なことをするんだ」と非難の声が上がりそうですね。若干やり過ぎました。反省です。
でも、これも人間界的判断では善行であり、研究者的には大切な調査です。
ハムシのお肉をたらふく食べたカメノコテントウは、栄養状態の良さそうなオレンジ色の卵をたくさん産みました。
でもハムシはもっとたくさん卵を産みます。カメノコテントウがいくら頑張っても、数で圧倒するハムシを駆逐することはできないのです。
ついでにもう一種類、カメノコテントウと同じくらい大型のテントウムシを見つけました。ハラグロオオテントウです。悪そうな名前ですね。
こちらはクワの大害虫であるクワキジラミの幼虫を食べます。腹黒ですが、益虫、正義の味方なのです。