〇スーパーの野菜を食べると必ず死ぬキアゲハ幼虫の怪
台湾旅行をわずか1週間後に控えているのに、まだパソコン上には8月の虫写真の在庫がたまっています。どきゃんかせんといかん。
まず何から処理していくか考えた時に、心に重くのしかかる悲しい思い出がありました。悲劇のヒロイン(オスメスは不明ですが、ヒーローよりヒロインの方が響きがいいですね)は、キアゲハ幼虫です。
この美しい姿をご覧ください。これがヒロインでなくて何でしょう。
物語の始まりは、歴史の香り高い北鎌倉。いかにもすてきな女性主人公が登場しそうな町ですね。「ビブリア古書堂の事件手帖」の美貌の女店主「栞子」さんの古書店があるのも、北鎌倉駅近くですね。栞子さん大好きです。1~4巻一気に読んでしまいました。
そんな北鎌倉の小道で出会ったのは、どこか栞子さんを思い起こさせる(一体どこが!)キアゲハです。
地面近くでバタバタと何をしているのでしょうか。ミステリーですね。
実は全然ミステリーではありません。キアゲハがしがみ付いていたのは、野生のミツバ。ミツバはセリ、セロリ、ニンジンなどと同じセリ科の植物で、キアゲハの幼虫の食草なのです。
その証拠はこれ。キアゲハがしがみ付いていた葉の上には卵が産みつけられていました。
卵を持ち帰って、箱入り娘のように、大切に育てます。
1~3齢の幼虫は、他のアゲハの仲間と同様に、黒っぽく地味なイモムシです。この段階は鳥の糞に擬態しているのでしょう。
興奮するとオレンジ色の臭い角(肉角、あるいは臭角)を出すので、黒くてもアゲハの仲間の幼虫であることが分かりますね。
4齢になると、それまで隠されていた美貌が花開きます。「お前絶対整形しただろ」と言いたくなるほどの大変身ですね。
胴体は童話のお姫様のような、お菓子系の柄に彩られています。しかし、顔はなぜか泣き顔。一体何がそんなに悲しいのか。
そして終齢。もう文句のつけようのないお嬢様ですね。ここまでは、現地で調達した野生のミツバで育ててきたのですが、ついに餌切れとなりました。そこで仕方なく、近所のスーパーでセリを買ってきて、幼虫に与えました。
スーパーの野菜には苦い思い出があります。それまで野生のセリやベランダのパセリで元気に育っていたキアゲハの幼虫4、5匹が、スーパーのパセリを与えたその夜に、全員死亡したのです。ネットで調べてみると、同じような経験をした人がたくさんいるではありませんか。殺虫剤、化学肥料など、何らかの化学物質の影響でしょうか。ともかくキアゲハは、スーパーの野菜にはめっぽう弱いのです。
そこで今回は、水耕栽培のセリを選んだのでした。パセリは危険と読んだのです。そして水耕栽培なら殺虫剤は不要のはずなので、安全性が高いのではと考えたのでした。
しかし、スーパーのセリを与えたその夜、キアゲハの幼虫は死亡しました。
手塩にかけて育てた娘を虐殺されたような思いです。死を目前にした終齢幼虫の顔は、やはり泣き顔でした。彼女を悲劇のヒロインと呼ばずに、なんと呼べばいいのでしょう。次回キアゲハの幼虫を育てる際には、決してスーパーの野菜を与えたりしないぞと強く心に誓った昆虫記者でした。でも、東京都心にセリ科の雑草って少ないんですよね。なので、来年からはプランターでパセリを栽培しようと思います。悲劇を繰り返さないために。