虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

シンガポールの沿線昆虫ガイド② ドラゴンに占拠されたマウントフェーバー

シンガポールの沿線昆虫ガイド② ドラゴンに占拠されたマウントフェーバー

 

 夜行便でシンガポールに到着した昆虫記者。安ホテルに荷物を預けたら、早朝からマウントフェーバーでドラゴン(チビフタオチョウ幼虫)探しです。結論から先に言うと、ドラゴンフェイスのイモムシは大豊作でした。どのくらい豊作だったかと言うと、こんな感じ。

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ドラゴン顔のイモムシ曼荼羅

 どうです。すごいでしょ。仏像曼荼羅、あるいは妖怪曼荼羅のようですね。「何バカなことやってるんだ」という意見が多いでしょうが、言い得て妙です。シンガポール旅と言えば、マリーナベイサンズに代表される豪華なホテルと、オーチャードロードに代表されるショッピング街と、ラウバサなどのフードコートに代表されるグルメが定番。開発の進んだシンガポールに来て、自然の魅力を味わおうなんて考える人はほとんどいないのです。

 

 でも考えてみて下さい。シンガポールはほぼ赤道直下の熱帯です。先進国だけに、自然保護区はきちんと管理されているので、安全かつ安易に、熱帯の自然を楽しめる場所が意外に多いのです。つまり、熱帯ジャングル探検の初心者体験コースとして、シンガポールは最適なのです。

 

 では、初心者コースを歩き始めることにしましょう。マウントフェーバーのケーブル駅から、頂上のフェーバ―ポイントの散策路に入り、見晴らし台を越えて、反対側に降りると、すぐにシャクトリ虫のようにうねうねと曲がりくねったヘンダーソンウェーブという橋が有ります。この橋は地表からの高さが36メートルもあるシンガポールで一番の高さを誇る歩道橋。遠くに海を臨むこともできて、夕暮れ時はカップルが愛を語り合う姿が多く見られるそうです。

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うねうねと波打つヘンダーソンウェーブ

 なーんてことは、昆虫記者には全く関係のないことです。ドランゴンフェイスのイモムシが山ほどいたのは、この橋を渡った先でした。探すべき食樹はナンバンアカアズキ。ニセアカシアによく似たマメ科の木で、道端に幼木がたくさん生えています。

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これがナンバンアカアズキ。道端にたくさん幼木が生えています

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ナンバンアカアズキの名前は、この赤い実が由来だろう

 幼虫は拍子抜けするほど簡単に見つかりました。事前学習の成果ですね。見つけ方は非常に簡単。幼虫はナンバンアカアズキの枝先の葉を2、3枚糸でつないで作った台座の上に、ドンと座っています。アカボシゴマダラとか、オオムラサキとかの幼虫を探したことのある人なら、この台座の雰囲気がよく分かると思います。

 

 台座の上に鎮座しているチビフタオチョウの幼虫です。

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3枚の葉をつないだ台座の上でくつろぐチビフタオチョウの幼虫

 その後もたくさん見つかりました。一般観光客には、雑草の葉を執拗に撮り続けるいる変な男と思われたようで、何度も奇異の視線を向けられました。

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道端の木にたくさん幼虫がいるが、誰も関心を示さない

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イモムシの写真を撮っていると奇異な視線を向けられた

 小さい幼虫は、ドラゴンフェイスが黒くて、これまた悪魔的ないい味を出しています。

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若齢のチビフタオチョウ幼虫

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小さい幼虫の悪魔的容貌

 蛹の抜け殻もありました。

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チビフタオチョウの蛹の抜け殻

 寄生バチの繭のホウネンダワラがぶら下がっていました。チビフタオチョウの幼虫も、大半はこうした寄生バチなどの天敵の餌食になるのでしょう。

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イモムシに寄生するアメバチの仲間の繭、ホウネンダワラ

 ここはたぶん、自然保護区ではないと思うので、虫を捕まえて刑務所に入れられることはないと思いますが、あらゆる不品行な行為に対する厳しい罰則で知られるシンガポールですから、危険は冒さない方が身のためです。シンガポールでは、ごみのポイ捨て、路上でのつば吐き、チューインガムの国内持ち込み、電車内での飲食など、ちょっとしたマナー違反で、500S(シンガポール)ドル、1000Sドルといった巨額の罰金を取られます。1Sドルは80円ぐらいですから、1000Sドルはかなりの大金。薄給の昆虫記者などは、翌日から食費もなくなって、路頭に迷うことになります。