シンガポール最大の繁華街と言えばオーチャードロードです。昆虫記者とは全く縁のない高級ブランドショップや、高級ホテル、高級レストランなどが立ち並ぶ通りですが、そんなところで昆虫記者が何をやっていたかというと、やっぱり虫探しです。こりないやつですね。
繁華街に虫はいないと思うのは、日本の常識にとらわれた素人と言わざるを得ません。熱帯の先進都市国家シンガポールは、そのオーチャードロードに、蝶の道「バタフライ・トレイル@オーチャード」を作ってしまったのです。
ガーデンシティーとして名高いシンガポールですから、繁華街にも木々や草花の緑が多く、公園も各所に配置されているのですが、そこに蝶の幼虫の餌となる植物や、成虫の蜜源となる植物を植えることで、買い物客やグルメ客のみならざず、蝶まで呼び込もうというのです。
買い物好きの奥様や彼女とオーチャードに行かざるを得なくなった虫好きの夫や彼氏(そんなケースはほとんどないとは思いますが)でも、オーチャードを楽しむことができるとは、何と素晴らしいことでしょうか。
奥様の買い物に付き合わされてうんざりとか、彼女が買い物をしている間、待ち合わせ時間まで何もすることがなくて退屈で死にかけるとか、そんな不毛な事態はなくなるのです。
オーチャード駅からドービーゴート駅までの通り沿いに6カ所も蝶のホットスポットが設けられているので、蝶や幼虫のイモムシを探すのに夢中になって、奥様や彼女との待ち合わせ時間に遅れて離婚や別れ話に発展する可能性すらあるのです。何と素晴らしいことでしょう。
銀座、新宿、渋谷の繁華街もこんなだったらいいですね。高度成長期が終わって、成熟期に入った国は、開発ばかりでなく、自然の再生にも目を向けてほしいものです。
地球のキャパシティーに限界がある以上、無限の経済成長などあり得ないし、不可逆的な状況まで環境を損なうような成長は、もはや成長とは言えませんね。そろそろ、経済成長や物の豊かさよりも、幸福度とか、環境の豊かさとかを重視する分岐点に人類はさしかかっているのかもしれません。
ということで、昆虫愛好家としては、都会にも自然を取り戻そうという、バタフライ・トレイル@オーチャードのような取り組みを大いに歓迎したいと思います。
荷物持ちのために妻の買い物に付き合わされている時でも、いつ何時意外な虫が飛び出してくるか分からないので、カメラや虫網は手放せないというような、そんな世界になったら非常に嬉しいと思う次第です。