ツツジが満開の季節を迎えましたが、新型コロナも満開なので、根津神社のような名所に行くのは自粛。ということで、またまたご近所散歩です。美しく咲き誇るツツジを見て、恐ろしい地獄を思い描く人は、まずいないでしょう。でも美しい花と甘い誘いには気を付けましょう。おいし過ぎる話には裏があるものです。いつも騙されてばかりの昆虫記者が言うのですから、間違いありません。
ツツジの地獄は、花が咲き誇る直前、つぼみの時期に展開されます。ツツジのつぼみは「苞」という殻のようなものに包まれていて、この苞が実は「昆虫ベタベタ鳥もち地獄」なのです。
ツツジの近くのベンチに腰掛けた時に、茶色い蠅取り紙の切れ端のようなものが、服にへばり付いて、はがすのに苦労した経験がある人は多いでしょう。あれが苞の「成れの果て」です。あの強力な接着力は、人間にとっては、たちの悪い植物性のゴミですが、昆虫にとっては命を奪うネバネバ地獄なのです。
ではその地獄の様子を見てみましょう。
武蔵坊弁慶の立ち往生のようですね。磔(はりつけ)にされた状態で壮絶な死を迎えたハチの怨念が感じられる一枚ですね。
では次の地獄絵です。
ハエトリグモが獲物の小さな虫を狙っているように見えますが、小さな虫も、その後ろにいるハエトリグモも、ツツジ地獄に捕まってすでに息絶えています。
まず上にいる小さな虫が地獄に磔にされて、それを狙って忍び寄ったハエトリグモも地獄の道連れになったという、恐怖のドラマが展開されたのかもしれません。恐ろしや、恐ろしや。
ツツジ地獄のその他の犠牲者です。
この苞はまだ薄黄緑色の若い時期から、すでに凶悪な殺人、もとい、殺虫能力を発揮します。
たとえば、こんな感じ。
ところが、このツツジのベタベタ地獄を物ともしない猛者がいるのです。このブログで毎年紹介しているので、ご存知の方も多いでしょう。それはツツジトゲムネサルゾウムシ。
ツツジトゲムネサルゾウムシは、このベタベタの上を平気で歩ける特殊能力を持っているのです。そして、つぼみを食べたり、つぼみに産卵したりします。どんな世界にも、上には上がいるものですね。ツツジの花がいくら防御を固めても、こいつにはかなわない。今年も近所のツツジで大活躍でした。つぼみがなくなると姿を消すので、見たい人(そんな奇特な人はめったにいない)は急いだ方がいいですね。
ツツジ地獄で死んでいった他の虫たちの仇をとってくれるのが、このツツジトゲムネサルゾウムシだとも言えるでしょう。
たいていの人はきれいな花を咲かせるツツジの肩を持つでしょうが、虫好きは断然ツツジトゲムネサルゾウムシを応援します。ざまあみろツツジ、参ったかツツジ。
そんなことを言うと、園芸家や花を愛する美しい乙女たちに嫌われてしまうので、最後はツツジ満開の天国の風景で締めましょう。
ツツジトゲムネサルゾウムシは小さな虫なので、満開のツツジへのダメージはたいしたことはありません。大目に見てやってください。