虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

精力絶倫ヒメシロコブゾウムシの交尾と恥じらいの出産と幼虫の大量発生

 日比谷公園の5月の名物と言えば。うーん、何だろう。考えてしまいますね。松本楼の10円カレーは、9月ごろだったし、桜もバラも季節外れだし。

 でも昆虫記者にとって、5月の日比谷公園と言えば、ヒメシロコブゾウムシです。アイビーとかヘデラとか呼ばれるセイヨウキヅタが所せましと生い茂っている中、ポツリ、ポツリと白い点が動き回っています。それがヒメシロコブゾウムシです。あまり注目されない虫ですが、よーくよく見るとミロのビーナスのような、大理石のギリシャ彫刻風の姿ですね。

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大理石の彫刻のようなヒメシロコブゾウムシ。下の蛆虫みたいなものの正体は?

 街中ではヤツデ、山ではシシウドでよく見かけるヒメシロコブゾウムシがなぜ、日比谷ではキヅタにいるのでしょうか。素晴らしい疑問ですね。

 それでは偉そうに解説しましょう。

 キヅタはツタの仲間ではありません。ツタはブドウ科ですが、キヅタは、ヤツデとかウドとかと同じウコギ科の植物なのです。従って、ヒメシロコブゾウムシがキヅタにいるのは何の不思議もないのでした。

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ヒメシロコブゾウムシのカップ

 でもキヅタでヒメシロコブゾウムシが大量発生している場所は、私の活動範囲では日比谷公園だけです。恐らくあまり好まれる餌ではないのでしょう。きっと日比谷にはほかにいい餌場がなかったので、しかたなくキヅタを食べているうちに、キヅタが国民食のようになったのでしょう。科学的根拠は全くありませんが、とりあえず、そういうことにしておきましょう。

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5月の日比谷公園はまだ外出自粛の最中。昼時にこんな静かな日比谷公園の風景なんて、普通ならあり得ない

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樹木の下をキヅタが埋め尽くしています

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心字池。以前会社が日比谷公園にあったので、よくここで弁当を食べたりしていた

 それはともあれ、気になるのは最初の写真の下半分の、気色悪い蛆虫のような奴らです。

 実は彼らは、ヒメシロコブゾウムシの幼虫なのです。大きさは1~2ミリほどでしょうか。こんな蛆虫モドキになぜ関心があるのかというと、実は全く関心などなかったのです。

 

 関心があったのは、ヒメシロコブゾウムシの産卵シーンだったのです。ではその産卵シーンを見てみましょう。

 

 さっきまで交尾していたヒメシロコブゾウムシのカップルのうち、♀がキヅタの葉の一部を折りたみはじめました。そして、折りたたんだ葉を腰巻きのようにして下半身を包みました。まるで、恥じらう乙女のようですね。なんかちょっと、セクシーです。

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キヅタの葉の腰巻きで下半身を覆って産卵するヒメシロコブゾウムシの♀。乙女の恥じらいを感じさせる

 ヒメシロコブゾウムシの♀は、この腰巻きの中で産卵するのです。出産シーンを目の前の♂に見られたくないという、乙女心ですね。

 

 ♀は産卵しながら次第に腰巻きを、ジプロックのように閉じていきます。何やらノリのようなものを分泌して、折りたたんだ葉を接着していくようです。

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 ♀がジプロックを閉じて、産卵を終えるやいなや、♂は恋人が腰巻きから産卵管を抜き取るのさえ待てないかのように、再び♀の上にのしかかって、交尾態勢に入りました。いやはや、おさんかなことです。

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いままさに、産卵管を腰巻から引き抜こうとするヒメシロコブゾウムシの♀

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立ち合い出産で、産卵の様子を見守るヒメシロコブゾウムシの♂

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♀が産卵管を腰巻から引き抜く

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すると、すぐさま襲いかかる♂。立ち合い出産の狙いはこれだったのか。

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出産直後の♀とすぐさま交尾態勢に入るせっかちな♂

 卵が産みつけられた腰巻きを「ベリベリ」と無理やり開いてみると、中には20~30個の卵が産みつけられていました。

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卵が産みつけられている場所は、ノリで貼り付けられたようになっている。

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折りたたまれた葉の中には、20~30個の卵

 この段階で、昆虫記者のヒメシロコブゾウムシの生態に関する関心はほぼ満たされたのでした。

 

 そして何日か後。ヒメシロコブゾウムシたちを自然に戻そうとプラケースの掃除を開始したのですが、その時、ケースの底の綿ゴミの中に、微小な蛆虫がうごめいているのに気付いたのでした。

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ケース底の綿ゴミの中でうごめいていたヒメシロコブゾウムシの幼虫

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霧吹きの水滴の中に取り込まれたヒメシロコブゾウムシの幼虫

 ヒメシロコブゾウムシの幼虫は、腰巻きの中で孵化すると、地面に落ち、土に潜って植物の根などを食べて育つらしいです。つまり、プラケースの底の蛆虫たちは、ヒメシロコブゾウムシの幼虫だということです。仕方なく、幼虫たちも拾い集めて、成虫と一緒に自然に戻しました。何と心優しい昆虫記者であることよ。

 

 近所の公園で来年、ヒメシロコブゾウムシが大量発生したら、見て見ぬふりをしようと思います。

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 まあヒメシロコブの植物への被害は、微々たるものなので、誰も気にはしないでしょう。日比谷公園のキヅタの緑は色あせることなく、毎年ヒメシロコブを養い続けていることですし。