虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

オー・ヘンリーの名作「最後の1葉」を思い出して泣けるヤマカマス

 「病の床から窓の外を眺めるジョンジー。窓外の壁には、冬の寒さでほとんど葉を落としたたツタの木。「あの最後の1葉が落ちたら私も死ぬのね」。しかしその葉は何日経っても落ちない。雪まじりの風雨の夜、その葉は落ちたはずだった。なのに翌日もその葉は残っていた。それもそのはず。その葉は、生きる気力を失ったジョンジーの話を耳にした老画家のバーマンが、雨の夜に落ちた葉の代わりに、壁に描いたものだったからだ。

 ジョンジーは、最後の1葉に勇気づけられて気力を取り戻し、病から回復する。一方、冷たい雨に打たれながら、壁にツタの葉を描いたバーマンは、肺炎で命を落とす。後にそれを知ったジョンジーはどんな気持ちだったのだろうか。壁に描かれた最後の1葉は、売れない老画家バーマンの人生最高の傑作だったのだ」。

 いやー、あらすじを書くだけでも、目頭が熱くなりますね。言わずと知れたオー・ヘンリーの名作「最後の1葉」ですね。

 

 前振りが異常に長かったですが、いつもこの「最後の1葉」を思い出させるのが、冬のヤマカマスです。この冬もあちこちでたくさん目にしました。

 

 葉をすべて落としたはずの木に、一枚だけ残った緑の葉。それはたいてい、ウスタビガの繭、通称ヤマカマスです。

f:id:mushikisya:20210228003600j:plain

カエデの木に付いた緑の最後の1葉(ここでは2葉ですが)はウスタビガの繭、通称ヤマカマス

f:id:mushikisya:20210228003750j:plain

白くなった古いヤマカマス(左の2つ)と緑のヤマカマス。これもカエデの木に付いていた

 ジョンジーが見ていた最後の1葉がもしヤマカマスだったら、バーマンさんが命懸けで葉を描く必要もなかったはずで、感動の名作「最後の1葉」は、虫好きが書いた駄作となって、酷評を浴びたことでしょう。

 

 しかし、今年見たヤマカマスに昆虫記者の心は、一瞬だけ喜びに満ち溢れました。そこにウスタビガの卵が付いていたからです。「あの卵を孵化させれば、ウスタビガの幼虫を飼育できるかも」と思ったのです。

f:id:mushikisya:20210228003954j:plain

右下にウスタビガの卵が付いたヤマカマス

 しかし、このヤマカマスがあったのは、他人の家の庭。勝手に入り込んで、枝を折るわけにはいきません。

 結局このヤマカマスの入手は断念。心の支えの最後の1葉が、涙の1葉になったという点は、オー・ヘンリーの名作と一緒ですね。でも、全く感動を呼ばないのはなぜでしょう。