虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

真夏の夜の夢、幻想世界に浸るならセミの羽化に勝るものなし

 真夏の夜の昆虫幻想世界と言えば、蝉の羽化の右に出るものはないかもしれません。セミヌードと表現した人(メレ山メレ子さん)もいたように、非常にセクシーでもあります。しかも深山幽谷に赴く必要もなく、近所の公園(小さめの桜が多いところがベスト)で、幻想的なショーを無料で十分堪能できるのです。

 コロナ禍で夜のライブショー、ライブコンサートに行く機会が激減しましたが、このセミヌードのライブショーは出演者が全部昆虫で観客が異常に少ないなので、コロナ感染の心配はまずありません。

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ミンミンゼミとアブラゼミが絡み合う妖艶なセミヌードショー。あまりにアクロバティックでハラハラします。

 まずは冒頭の写真で紹介したミンミンゼミとアブラゼミの妖艶な絡みのシーンです。何と羽化中のミンミンゼミの上にアブラゼミの幼虫がよじ登って、羽化を始めてしまったようです。間抜けで傍若無人なアブラの行為に、ミンミンは迷惑顔ですね。

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上の緑色のがミンミン、下の茶色のがアブラ

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妖艶なセミの羽化ショーの舞台はこんな所。低い枝がある桜の木がベストの観察場所です

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羽が透明になってきたミンミン。アブラの重みに耐え切れれば、もうすぐ羽化完了。

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どう見てももう限界。ミンミンはアブラもろとも落下寸前。

 結局ミンミンはアブラの重みに耐えきれず、2匹そろって地面に落ちてしまいました。かわいそうなので、拾って2匹とも気に戻してやりました。なんと優しい昆虫記者(って、普通そうするだろ!)。無料で妖艶なライブショーを見せてくれたことに対する、ほんのお礼の気持ちです。

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落下したミンミンとアブラを木に戻してやりました。

 羽化に向いている場所というのは、ある程度決まっているようで、蝉の幼虫の多くの抜け殻(不完全変態なので紗蛹にはなりません)が集中している場所があります。それが今回のミンミン、アブラの転落事故の一因となったようです。

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別の木で羽化していたアブラゼミ。白い羽が産着のようですね。

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羽化に人気の場所があるようで、幼虫の抜け殻(空蝉)は一か所に集中することが多い。

 だんだんと緑色を濃くしていく羽化直後のミンミン、白い羽が美しい羽化直後のアブラ。それに対して、ニイニイゼミは、羽化直後にすでに立派なニイニイゼミになっていて、ちっとも幻想的ではありませんでした。

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ちっとも幻想的でないニイニイゼミの羽化

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すこしでも幻想感を出そうと苦労する写真家

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なんか普通になってしまうニイニイゼミの羽化写真

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羽化直後でもすでに立派な普通のニイニイゼミ

 それでもニイニイの羽化をあえて評価するとすれば、それは泥だらけの幼虫と、新鮮なセミの対比でしょう。地上に出てきたニイニイの幼虫は湿った場所が好みのせいなのか、幼虫表面の材質のせいなのか、泥だらけで非常に汚いです。あえて美点を探すとすれば、泥だらけで働くかつての炭鉱労働者のような逞しさがあると言えるかもしれませんね。