たまにはちょっと自然科学者的な話もしないと、ただの虫バカ(実際そうですが)と思われてしまうので、今回は里山はおろか、都心の公園でも進行しているキクイムシ被害によるコナラ全滅の危機の話です。
コナラが全滅しても「痛くも痒くもない」という人も多いでしょうが、虫好きにとっては大事件です。なぜかと言うとそれは、コナラの樹液がカブトムシ、クワガタ、カナブン、オオムラサキなど、数えきれないほどの「樹液に集まる虫たち」の憩いの場だからです。
実はここ数年は、カブト、クワガタの大豊作の年でした。それも「カシノナガキクイムシ」という小さなキクイムシの影響でした。このキクイムシが大量発生したコナラの木は、被害を受けた何十もの穴から樹液を出し、それが発酵してカブト、クワガタを呼び寄せるのです。しかし、樹液の出ている穴は、コナラの木にとっては、いわば傷口です。傷が多ければ、数年後にはその木は弱ってしまいます。
つまり、ここ数年のカブト、クワガタの大豊作に狂気した虫好きは、これからその反動で冬の時代を迎えるのです。
しかし、この体長わずか5ミリほどの小さなキクイムシが、コナラの大木を簡単に死に至らせることなどできるのでしょうか。当然の疑問ですね。
実は、このカシノナガキクイムシは、かなりたちの悪い虫でして、ナラを枯らすナラ菌を体に付着させた状態で健康なナラの木に飛んできて、穴を開けて産卵するのです。なぜこんな悪事を働くのでしょうか。それは、この菌が幼虫の餌になるからです。菌の畑が広がれば、幼虫はたらふく餌を食べられ、木は枯れていくという構図です。しかも、このキクイムシは集合フェロモンを出して大集結し、樹木を一斉攻撃します。枯死した木から発生した新成虫は、周囲の木に食い込み、ナラ枯れが伝染病のように次々に広がっていくのです。
最近のカシノナガキクイムシ大発生の理由としては、温暖化や、里山の利用が減って樹林の更新が止まったことなどが挙げられています。
このキクイムシは、特に大木が好みなので、樹林の更新が止まって大木が増えた場所が大被害を受けると言われています。
こういうコナラの大木は、虫好きの間では、御神木などと呼ばれるカブト、クワガタのたまり場であることも多いので、虫好きの嘆きは計り知れません(昆虫記者のご神木も、何本も枯死し、切り倒されました)。
最近はカシノナガキクイムシの被害拡大を防ぐため、さまざまな対策が取られているようで、根本近くがフィルムでぐるぐる巻きにされた木もよく見かけますね。何と、都心の我が家のすぐ近所の、さして大きくない公園でも、数少ないコナラの大半が被害を受けて、対策が取られていました。上の写真はそんなフィルムの中で必死にもがいていたキクイムシです。
(動画は昆虫記者の以下のツイッターに)
https://twitter.com/kontyuukisya
彼もやはり虫ですから、駆除されるとなると、何だかかわいそうな気もしてきますね。