東京都心の新宿御苑でノコギリクワガタの決闘を目撃しました。田舎では夜の森を懐中電灯片手に散策していると、よく見かける光景ですが、都会の真ん中で見たのは初めて。メスをめぐる本気の決闘で、ちょっとドキドキしました。一人の女性をめぐって、男たちが命をかけて戦うって、西部劇ぐらいでしか目にしませんよね。それが目の前で展開されているのです。たかが虫同士の争いですが、ストレートな感情表現で感動的ですね。
新宿御苑は午前9時開園なので、夜行性のクワガタの決闘を目にする機会はほとんどありません。ところが運よく、今回の決闘の場は大きな木の、ほの暗い洞の中。こういう場所では、昼間でも密やかな愛の儀式や、恋の相手をめぐる暗闘が繰り広げられているようです。
大きなオス同士が牙をぶつけ合って格闘しているのを、小さなメスは少し離れて見守っています。オスの争いに口出ししないのが、クワガタ界のルール。決闘の勝者がメスを獲得するという単純な構図が、潔くていいですね。
決闘中の2匹のオスを見比べると、どう見ても右下のオスの方が体が大きくて、牙も立派で強そうです。ついつい判官びいきで小さい方のオスを応援してしまいますが、自然界は弱肉強食。たいていは、力の強い者が支配者となるのです。
体力のない昆虫記者は、クワガタに生まれなくて本当に良かったと思います。人間なら、意中の女性を口説くのに、金やら、経歴やら、親の七光りやら、イケメン度合いやら、体力以外に色々と手段があるのですが、クワガタの世界では戦闘能力だけが優劣を決めるのです。もちろん、昆虫記者は体力以外の手段においても、たいていの競争相手より劣っていて、特にイケメン度合いは全く勝負にならないのですが、それでも色々と口先でごまかすことが可能です。
子供の頃、運動会が本当に嫌いだった昆虫記者としては、戦闘能力のみで結婚や人生が決まってしまう世界は最悪です。
しかし、意外なことに、東京都心でのノコギリクワガタの真昼の決闘は、どう見ても不利な、小柄なオスの勝利に終わったようです。
小さい方のオスがメスの上に覆いかぶさり、交際の権利を主張。大きい方のオスはいったん引き下がってしまいました。小さい方のオスは体力では劣っても、攻撃のテクニックで上回ったのかもしれません。
しかし、いったん引き下がった大きい方のオスは、しばらくするとまた近寄ってきました。メスがよほど魅力的なのか、それとも図体の大きなオスがよほど諦めが悪いのか。
三角関係の今後の展開が懸念されるところではありますが、いつまでもクワガタごときの恋のバトルに付き合っていられない(日が高くなって熱中症の危険性が高まってきた上、藪蚊が汗のにおいに引き付けられて吸血に来ている)ので、次の現場に移動することに。
クワガタは日が昇ると、クヌギや樫の木の樹液酒場を後にして、土中にもぐることが多いので、朝方は木の根元近くでごそごそしている姿をよく見かけます。
あちこちから樹液が染み出た木の根元で、大型のノコギリクワガタのオス2匹と、超小型のノコギリクワガタのオスが鉢合わせしていました。
大型のオス同士は険悪な雰囲気。そこへバカな小さいオスが近寄って行きます。こんなところで喧嘩をしてもしかたないのですが、オス同士は顔を合わせれば喧嘩をするが本能のようで、ここでも小競り合いが起きていました。
メスの奪い合いでも、樹液の奪い合いでもない無益な喧嘩は避けた方がいいですね。たとえクワガタであっても、無駄に命を落としてはいけません。
昆虫記者が仲裁に入って、3匹を引き離しました。まあ実際は、喧嘩の仲裁という口実で、牙を振りかざしたオスの雄姿を接写しようとしただけなのですが。新宿御苑は採集禁止なので、写真を撮った後は木にもどしてやります。
大型のノコギリクワガタのオスは、男の子たちを夢中にさせる魅力を持っています。この雄姿が見られる豊かな自然が、大都会の真ん中にいつまでも残ることを願わずにはいられませんね。
最後は中型のノコギリクワガタ♂がメスを敵から守り抜く、愛情溢れる平和な情景です。
♂たるもの、男たるもの、常にこうありたいものです。オスに守られて安心して樹液を吸うメスの様子が心を打ちますね。