昆虫写真家・森上信夫氏の新著「オオカマキリと同伴出勤」は、これまで読んだ虫系の本の中で「一番の感動の書」でした。などと言うと、どんなすごい「大発見と大冒険」の書なのかと期待する人がいるかもしれませんが、全くその逆なのです。
虫好きで、なおかつ相当にヘタレな人々(昆虫記者のような人です)が読むと、「そうか、ヘタレでも、それなりに素晴らしい人生が送れるのだな」と納得し、暗くわびしい未来に、一筋の光明が見えるのです。
森上さんとは何度も虫撮りでご一緒しているので、ある程度ヘタレであることは知っていたのですが、これほどのヘタレとは。昆虫記者もヘタレ度ではだれにも負けない自信があったのですが、何事にも上には上があるものですね。完敗です。ヘタレ度で負けたというのは、悲しむべきなのか、喜ぶべきなのか、微妙なところです。
森上さんは、平日の昼間はサラリーマン。平日夜と休日だけ、プロの昆虫写真家。そのことだけでも、既に相当なヘタレですね。プロを自称(本格昆虫図鑑の写真もたくさん撮っているので本当にプロです)しながらも、昆虫写真だけで食べていく(かなり厳しい生活になるようです)勇気がなく、なかなかサラリーマンから足を洗えない。それが足かせとなって、季節と時間の制約が大きい昆虫生態写真はいつも綱渡り状態。それはもう、涙無くして語れないほどの、挫折と失敗と苦労の連続です。それでも何とか、昆虫写真家として、それなりの(本人は謙遜していますが、昆虫記者から見ると雲の上の人です)名声と成功を手にしているのは、奇跡と言えるでしょう。
新著の最初の方、休日のホタル撮影で不審者扱いされ、女性に悲鳴を上げられたのは笑えました。産卵直前のオオカマキリの出産を遅らせるため、職場に連れていって、ストレスをかけ続けたのは、サラリーマンの悲哀ですね。そして1人でマレーシアのジャングルに行く度胸がなく、冒険派の写真家に同行してもらい、現地での英語のやり取りに全くついていけなかったというエピソードでは、昆虫記者は勝った(ヘタレ度では負けた)と、ドングリの背比べ的感覚を味わったのでした。
ちなみにこのマレーシアの話で出てくるA氏は昆虫記者で、M子ちゃんはこのブログでも時々登場する昆虫文学少女の麻由子ちゃんです。昆虫記者は度胸と勇気では麻由子ちゃんに負けていますが、ヘタレ度では勝っています。ヘタレ度=森上氏>昆虫記者>麻由子ちゃん。度胸と勇気=麻由子ちゃん>昆虫記者>森上氏。という方程式ですね。