どこにでもある雑木「イヌビワ」の実(雌株の花嚢)は意外においしいのです。ビワという名ですが、実際はイチジクの仲間で味もイチジク風。しかし、イヌビワの木には雄雌があり、間違えると大変なことになります。
雄株の実(実際は内側に花を咲かせる袋のようなもの=花嚢)は雌株の実より大きいのが多く、いかにもおいしそうなのですが、この大きい実の中には、イヌビワコバチという小さな蜂がぎっしり詰まっています。蜂が中に入ることで、内側に虫こぶがたくさんできて実が大きくなるようです。
この蜂は極小なので、実を割ってみても、なかなか、その存在に気付きません。蜂の姿をしているのはすべて雌です。羽のない雄は花嚢の中で雌と交尾し、花嚢の中で息絶えるといいます(残念な虫として、先日yahooニュースで紹介しました)。
雄株の実を間違えて食べてしまっても、たぶん舌を刺されまくるといった大惨事にはならないと思います(保証はしません)。しかし、雄株の実はほぼ無味(つまり昆虫記者は間違えて食べたということ)です。その上、大量の蜂を生きたまま食べていることになるので、後味が悪い、というか気持ち悪い。
ちゃんと羽のある雌は、雄株の実の中で羽化した後、実から脱出して飛び回り、産卵のため雄株か雌株の実の中に潜り込みます。雄株の実に入った雌は産卵できますが、雌株に入った場合は、受粉の役には立つものの、産卵できないそうです(このあたりのことを詳しく知りたい人は、昆虫記者の浅薄な知識に頼らず、学術論文などを参照してください)。
雌株の実の中にも、授粉作業を終えた雌の蜂の遺体が1つある可能性がある(たいていは酵素で分解されるらしい)のですが、実を食べる際には、それは気にしないことにしましょう。
店頭に並ぶ普通のイチジクも、「無花果」という漢字名からわかるように、花は外から見えず、花嚢の内側に花が咲きます。本来はイヌビワと同様にイチジクコバチという小さな蜂が花粉を運ぶことで、花嚢が熟して中に種ができるのですが、日本で栽培されているイチジクは、単為結果と言って、受粉せず花嚢が熟しておいしくなる改良品種。なので、コバチの出番はありません。虫嫌いの人は一安心ですが、虫好きにとっては「自然の摂理に反するぞ」と叫びたいほど、非常に残念なことです。