カラスウリ② レース職人トホシテントウ
クロウリハムシはカラスウリに丸いパンチ穴を次々に開けていくだけだが、トホシテントウは、円形にトレンチを描き、苦い摂食阻害物資を遮断した後で、円形の内部をレース編みのように食べていく。
つまり、レース作品は、固い繊維質の葉脈部分の食べ残しの跡なのである。食育にうるさい管理栄養士などであったら、「好き嫌いを言わずに繊維まで全部食べなさい」と言うところだ。繊維質を十分に摂らないと、血糖値スパイクになるとかなんだとか、小言を言うだろう。
楕円形や半円形の切れ込みを入れて摂食阻害物質を遮断したあと、さらに嫌いな葉脈部分を残して、レース状に食べ進むトホシテントウ成虫。
しかし、虫の命は短い。おいしいものだけを食べて早死にするなら、それで本望だと考えているのかどうか。ともかく、固い繊維は嫌いなようなのである。
親がそんなだから、子供も栄養士の言うことは聞かない。幼虫たちもまた、繊維質を残して、カラスウリの葉のおいしいところだけを食べる。
親が親なら、子も子である。食べたいところだけを食べて、あとは食べ残す。だいたい、何から何まで、食べ物を無駄にせず、全部食べるというのが、体にいいのかどうか。そのあたりも疑問だと考えているのかどうかは分からない。
クロウリハムシと一緒にいることも多いが
こういう歯形が残っていたら、それはトホシテントウの仕業。
葉っぱを食べ尽くし、レース編みの芸術が出来上がるころには秋も深まり、そろそろ越冬準備だ。
今頃の季節、カラスウリが枯れて見通しの良くなった藪には、トホシテントウ幼虫の集団越冬の姿が見られる。太い木の幹や、コンクリートの壁などに張り付いている極小のタワシのようなのがそれである。
え、これ、蛹じゃないの。と思うほど生命感がないが、つかまえて裏返してみると、ちゃんと顔があり、モソモソと動き出す。だが、かわいそうだから、そんなまねはしてはいけない。まあ、だれもそんなことをしたいとは思わないだろうから、無駄な気遣いである。
その後しばらくして、一皮むけると、今度は本当に蛹になって、動かなくなる。春先はこの姿だ。
そして4月になると、次々に羽化してくる。
羽化後の抜け殻は、こんなである。幼虫の脱皮殻と蛹の脱皮殻がワンセットになっていて、急いで風呂に入った時のズボンとパンツが一緒になった状態に似ている。