虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

今年も懲りずにオオムラサキ飼育。東京都心の公園に雄姿を復活させたい

 今年も懲りずに、またオオムラサキツツジの種類ではありません。蝶です)の幼虫を4匹飼育しています。

 東京ではオオムラサキ(蝶です。日本の国蝶です)を目にする機会がめったになくなったので、オオムラサキオオムラサキとこれだけ連呼しても、何のことやら分からない人が多くなっていると思われます。

 知らない人のために、以前に町田市で撮った成虫の写真を載せておきます。羽が紫色で大きいからオオムラサキ。分かりやすいですね。

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樹液を吸う東京産オオムラサキ


 日本最大級のタテハ蝶で、特にメスは、「デカい」ということばがふさわしいくらい大きいです。胴体の太さも半端ではなくて、力も強く、国蝶にふさわしい風格です。

 これが以前撮ったメス。

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埼玉産オオムラサキのメス

 「あれっ、紫色じゃないよ」。そうなんです。メスは茶色なんですね。ちょっと残念な国蝶ですね。

 以前撮った越冬中の幼虫です。もちろん、こんな分かりやすい状態で越冬してはいません。

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エノキの落ち葉の中で越冬するオオムラサキ幼虫

 積もった落ち葉の中に埋もれているので、落ち葉を際限なくひっくり返さないと見つかりません。

 このこげ茶色の体のまま、春になるとエノキの幹を上って行きます。幹の色と同じなので、擬態になります。

 今年見つけた春先の幼虫。幹の途中で休憩していました。

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春先にエノキの幹を上るオオムラサキ幼虫

 そして体が緑色に変わってくると、ようやく葉に移動して、食事を開始します。緑でギザギザの体は、エノキの葉と似ていて、これまた擬態になります。都合よくできてますね。

 そして現在。我が家の鉢植えの小さなエノキにいる幼虫です。かなり太ったのもいれば、まだまだ栄養不良なのもいます。

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わが家のオオムラサキ幼虫

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こんなやせ細ったのもいます。

 我が家の鉢植えのエノキはこんなに小さな木なので、幼虫が大きくなったら、近所の空き地からエノキの葉を調達してこないといけないでしょう。

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 東京だと、町田とか八王子近辺まで行かないと、オオムラサキはみつかりません。明治神宮とか、新宿御苑とか、都心の公園にもいると嬉しいのですが、一度いなくなると、容易には戻って来ませんね。

 こうして都会では、国蝶なのにオオムラサキを「見たことがない」とか、「知らない」とかいう人が増えていくわけです。昆虫記者としては非常に悲しい現実です。

 「八王子あたりの産地から人工的に移住させればいいのに」とか思う人もいるでしょう。しかし、蝶には地域別に遺伝子の特製とかあるらしく、生態系維持の観点からは、遠く離れたところから移住させるのは良くないとされています。

◆東京都心に国蝶オオムラサキを呼び戻す秘策

 従って、都心にオオムラサキを呼び戻すためには、八王子とか町田あたりから都心までエノキの並木を作って(クヌギとか、成虫の餌となる樹液の出る木も間に挟んで)、自主的に移住を促すしかないということになります。しかも、幼虫が越冬できるよう、エノキの落ち葉がたまる場所を作る必要があります。

 これは、昆虫記者が環境大臣にでもならない限り不可能でしょう。「日本国民が自然の中で国蝶に親しめる環境を整備すべき」が、今後国会議員に立候補する際の昆虫記者の公約です。(絶対当選しない)。

 去年飼っていたオオムラサキは幼虫段階で全滅しました。今年の4匹のうち何匹か羽化したとしても、それを都心に放すことは、良くない行為とのことなので、産地まで連れて行って放すか、死ぬまで飼うか、標本にするか、苦しい選択を迫られることになります。全部オスなら(圧倒的にオスの方が数が多いです)、繁殖しないので、放してもいいような気がしますが、どうなのでしょうか。環境省に聞いてみないといけないですね。

春の津久井湖、ハムシ、カミキリ、その他編

 春の津久井湖は新緑が美しく、目に優しいですね。でもこの新緑を「美しい」ではなく、「おいしい」と感じる者たちがいます。確かにワラビとかタラの芽とか山菜はおいしいですが、クルミとか、フジとか、エゴノキとかの若葉ってどんな味がするのか気になりますね。

 たぶん人間にとっては不味いのではないかと思われます。おいしかったという報告はどこにもありませんから。

 ではまず、クルミの若葉を食べてみましょう。「って、誰がそんなもん食べるかい!」

 ということで、まずはクルミの葉が大好きなクルミハムシです。

 オスがメス(体が大きく、腹が膨れている方)に言い寄っていますね。

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クルミハムシ。オスがメスに言い寄っています

 そして、メスがクルミの葉を食べるのに夢中になっている隙に、後背に回り込んで、ちゃっかり交尾。

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巨大なメスのお尻に噛り付くように交尾するクルミハムシのオス

 高い枝先で交尾しているのもいます。交尾していると言うよりは、巨大な饅頭に噛り付いている感じですね。スリムなスタイルがいいなんて言うオスはクルミハムシの世界にはいないのでしょう。豊満でポチャポチャで、お尻の大きなメスが大人気です。

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風船か、饅頭のように見えるのはクルミハムシのメスの巨大なお尻です

 一方、人間たちは、新緑を目で楽しみます。桜の小道を上っていくと、こんな素敵な展望台があります。

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 こちらはちょっときつい坂の近道。ここにクルミハムシがたくさんいます。

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 続いてはフジです。フジと言えばフジハムシ。美しい紫色のフジの花と絶妙のコントラストを成すオレンジ色の成虫ですね。

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フジハムシの成虫

 卵もオレンジがかったおいしそうな色です。

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フジハムシの卵

 でも幼虫は、全く美しくありません。ハムシの幼虫は概してあまり美しくはありません。そして、基本的に嫌われ者の害虫です。

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フジハムシの幼虫

 津久井湖城山公園にはバーベキュー場もあります。津久井湖観光センターの裏手ですね。その近くのフジが、フジハムシの餌場になっていました。

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 花の苑地も散歩するにはいいところです。八重桜が散って、ピンクの絨毯になっていました。

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津久井湖城山公園、花の苑地

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 こちらはシデの木にいたハムシの幼虫。シデなので、ズグロキハムシあたりかと思います。

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 エゴノキの葉を食べるのはエゴツルクビオトシブミ。メスが葉を巻いて、子供のための揺りかご、揺籃を作っています。エゴツルクビオトシブミの揺籃は、枝にぶら下がったままで、地面には落ちないので、落とし文(オトシブミ)にはなりません。ぶら下がり文です。この中心部に卵が産みつけられています。

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エゴツルクビオトシブミの揺籃、ほぼ完成です


 これはクロボシツツハムシ。色々な葉を食べます。

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クロボシツツハムシ

 ついでにカミキリです。まだ数は少ないですが、チラホラと材木置き場などに姿を見せはじめました。

 カラカネハナカミキリ。金属光沢が美しいカミキリですが、材木の陰にいたので、色合いは今一つです。

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金属光沢が美しいカラカネハナカミキリ

 杉の材があれば必ずいるヒメスギカミキリ。

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杉の材があるところ、ほぼ必ず現れるヒメスギカミキリ

 トラカミキリ系も出始めました。たぶんキンケトラカミキリですね。

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たぶんキンケトラカミキリ。青葉の上に鮮やかな虎模様

 あとは雑多な虫。

 太い髭が自慢のヒゲブトハナムグリ。小さい上にブンブン飛び回るので、撮りにくい虫です。春だけの虫ですので、撮りたい人(そんなのいない?)は急いだ方がいいです。芝生に雑草が混じった日当たりのいいところに多くいます。津久井湖城山公園では子供たちがワイワイ遊んでいる四季の広場付近にいます。

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太い髭が自慢のヒゲブトハナムグリ。普通の髭のメスにはめったに出会えません

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 ヒラタアオコガネもほぼ春限定のコガネムシです。

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春限定のヒラタアオコガネ

 ツマキアオジョウカイモドキは尻先の黄色が可愛いですが、小さい虫なので尻先を撮るのは大変。

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お尻の先がアクセントのツマキアオジョウカイモドキ

 ナナフシ(正式名はなぜかナナフシモドキです。全然もどきではなく、本筋のナナフシなのに)は孵化したばかりの今頃が、体長に比べて一番足が長い感じで、写真写りがいいです。6本足のキリンという感じですね。

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春の津久井湖、蝶、蛾、イモムシ編

 京王線、JR横浜線に加えて、リニア新幹線もやってくるという橋本駅。地価も上昇して、にぎやかで便利な街になりましたね。そんな今を時めく橋本の街には目もくれず、昆虫記者はここからバスに乗って、津久井湖を目指します。

 北口の01番のバス停から三ケ木行きのバスで20分ほどで津久井湖観光センター前に到着。バスは休日でも1時間に4、5本あるので、1本乗り損ねても大丈夫。

 キアゲハがたくさん飛んでいました。キアゲハはナミアゲハより発生が早い感じがします。食草のセリ科の雑草が早春から繁茂しているからかもしれません。

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成虫はこんなにナミアゲハに似た模様なのに、幼虫は姿も餌も全く違うんです。不思議。

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全体に黄色いだけでなく、上翅の胴体寄りの部分が灰色に塗りつぶされているのがナミアゲハとの違い。

 バス停で降りたところです。

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 右手に見えているのが、津久井湖観光センター。バス停の目の前の山側の道を上っていきます。

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 上るといっても非常になだらかな坂道で、小さな子供でも、高齢者でも全く問題ありません。城山の頂上を目指すと、すこしきつい道になりますが、きつい道にはあまり虫がいないので、楽な道を選びます。

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 上りはじめてすぐのエノキの幼木が、色々なイモムシの集会所のようになっていました。こういう木を見つけてしまうと、昆虫記者はしばらく動けなくなってしまいます。せっかく津久井湖まで来たのに、こんな一般人にとってはどうでもいい場所で、何10分もウロウロしてしまうのです。虫好きと一緒に風光明媚な観光地に繰り出すのは、やめた方がいいですね。きれいな風景など全く見ずに、イモムシだけ見て旅が終わる恐れもあります。

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上にチャバネフユエダシャク、下にテングチョウの幼虫がいます。

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チャバネフユエダシャクと言えば、真冬に発生するホルスタイン柄の羽のない♀成虫が有名ですが、幼虫の美しさも特筆ものです。

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テングチョウの幼虫です。越冬した成虫がバンバン卵を産むので、春には次世代のイモムシが大量発生します。

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黒っぽかったテングチョウの幼虫が脱皮して、きれいになっていました。

 春先に枝擬態していた茶色のアカボシゴマダラの幼虫が、黄緑と薄いピンクの若葉擬態の姿に変わっていました。

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エノキの若葉に擬態中のアカボシゴマダラ幼虫。見つけられるでしょうか。

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拡大してみましたが、やっぱり若葉にみえる。

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越冬明けのテングチョウ

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ミスジは終齢幼虫で越冬するので春の発生が早い

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ミカンの木に産卵するナミアゲハ

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胴体が赤いクロアゲハはジャコウアゲハ

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ツマキチョウの♀です。春にだけ発生するツマキチョウはそろそろ姿を消します。

 虫ばかり見てないで、たまには風景も見ないとね。

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下を見れば津久井湖

  八重桜の花びらが青葉の上に落ちているのかと思ったら、小さな蛾でした。

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フタホシシロエダシャクのようです。

 モミジの枝先にきれいなヒゲナガガの仲間、と思ったら、顔が無精ひげに覆われていて、汚い。

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髭もじゃの顔のヒゲナガガは、その名もケブカヒゲナガ

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こんなに毛深い顔のケブカヒゲナガは♂だけのようです。♀がこんなに毛深かったら不気味ですよね。

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ケブカヒゲナガの♂に接近してみました。この毛深さがセックスアピールになるのでしょうか。

 気味悪いものを見た後は、かわいいシジミチョウでほっと一息。

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トラフシジミです。

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 最後はやっぱりイモムシで締めましょう。トンボエダシャクの幼虫の列車の窓のような整然とした模様にはいつも感心します。

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トンボエダシャクの幼虫。青葉の間を列車が通過。

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 ヒロオビトンボエダシャクの幼虫は、さらに凝った模様です。

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ヒロオビトンボエダシャクの幼虫。うーん、見事な模様だけど、目立ちすぎて鳥に食べられたりしないのか。

 

千葉の春、花盛りは虫盛り

 千葉市若葉区泉自然公園の春は、花盛りでした。植物の後を追うように小さな虫たちも盛りを迎えます。

 まずはきれいどころのカシルリオトシブミ。小さいけれど金属光沢のピカピカのオトシブミですね。

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小さいけれど金ピカで接写の練習に最適のカシルリオトシブミ

 超普通種なので、近所の公園にもいるはずです。一番見つけやすいのは道端のイタドリの葉の上。揺籃を作っている時は近づいても、ポロっと落ちて逃げることが少ないので、接写の練習に最適です。

 

 公園の下の段です。大きな池があって、冬にはオシドリが来ます。カワセミが必ず見られる公園でもありますね。

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 バードウォッチャーが多い公園です。虫撮りしている人は、いつも昆虫記者一人だけです。悲しい。

 蝶は越冬明けのテングチョウ。色は褪せていますが、翅に傷一つないのは立派。

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越冬明けにしてはきれいな羽のテングチョウ

 春にだけ発生するツマキチョウは、菜の花と相性がいいですね。

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 桜はソメイヨシノが終わって、シダレザクラが満開でした。

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 この季節のタンポポの花の中には、モモブトカミキリモドキが潜り込んでいます。オスの立派な太ももは見ごたえがあります。

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魅力的、肉感的な太ももを持つモモブトカミキリモドキはオスです

 サクラソウの花畑は盛りを過ぎた感じでした。

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 春の朝方はまだ寒いので、アジサイの若葉が丸まっている中で寒さをしのいでいる虫が多くいます。朝方の虫探しの穴場ですね。

 この日は、トゲヒゲトラカミキリとケブカサルハムシが隠れていました。

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よく見ると触覚にトゲがあるので、トゲヒゲトラカミキリ

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ケブカサルハムシの仲間

 ニリンソウもまだ頑張っていました。

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 菫色のスミレの群生の片隅に、ただ一人我が道を行く白いスミレ。

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 こういう谷戸の風景は心が和むし、いかにも虫がいそうでいいですよね。

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 畑の大敵、キスジノミハムシがいました。非常に小さいハムシですが、年に何回も世代を繰り返す繁殖力の強さから、アブラナ科の野菜の重要害虫とされています。かわいいなんて思うのは、マニアックな虫好きだけ。

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アブラナ科の野菜の大敵、キスジノミハムシ

 糞虫も活動を開始していました。センチコガネです。

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 モミジの木には冬の名残のヤマカマス。ウスタビガの繭ですね。

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 ニンフジョウカイの仲間は早くも、子孫繁栄の活動に励んでいました。

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交尾中のニンフジョウカイの仲間

 

 

月の女神、オオミズアオ羽化

 月の女神アルテミスの名を持つ妖艶な蛾、オオミズアオが4月上旬に羽化しました。

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月の女神アルテミスの化身、オオミズアオが羽化

 ある日の夕刻、仕事を終えて帰宅すると、飼育容器の中でガサゴソと音がするので何事かと思ったら、オオミズアオが羽化していました。蝶は未明から早朝に羽化するのが多いですが、夜行性の蛾は夕方が羽化タイムなのかもしれませんね。

 英語ではムーンモス(月の蛾)と呼ばれるオオミズアオの仲間。学名には月の女神アルテミスの名が入っています。月夜を彩るこの蛾の美しさに魅了されるのは、世界共通のようです。

 と言っても、もちろん虫好き、蛾好きの話であって、虫嫌い、蛾嫌いの人々にとっては、妖怪変化に見えることでしょう。

 羽化直後は、まだイモムシだったころの面影が残っています。羽は短くて、太く長い腹部が異様な存在感を示していますね。

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羽化直後のオオミズアオ。長く太い腹部にイモムシ時代の面影が。

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手の上を歩く羽化直後のオオミズアオ。感触はイモムシ的です。

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イモムシ時代のオオミズアオはこんなでした。

 実はこの異様に長い腹部が大切なのです。ここにたっぷりと蓄えられた体液を、翅脈に流し込むことで、翅を大きく広げていくからです。

 腹部が縮んでくるのと反比例するように、翅が伸びていきます。オオミズアオは大きな蛾なので、その様子が手に取るように分かりますね。「まさに生命の神秘」などと思うのは、もちろん虫好き、蛾好きだけです。

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だいぶ腹部が縮んだオオミズアオ。春物のショートコートを羽織ったような姿。

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 だいぶ翅が伸びて、全体に丸い和菓子のような姿になりました。この段階が一番かわいいと感じました。

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 しかし、まだ、ちゃんと翅が伸び切るのか心配です。育ての親の親心ですね。体液が足りないと、翅が伸び切らず、いわゆる羽化不全となっててしまいます。

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 ここまで羽が伸びてくれば、もう安心。

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 閉じていた羽を開くようになったら、ほぼ羽化終了です。

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 月夜の晩に、月に向かって飛んでいくのでしょうか。かぐや姫の昔話「竹取物語」は、もしかすると、一所懸命オオミズアオの幼虫を育て、月夜の晩に蛾になって去っていく姿を、涙ながらに見送った人の話なのかもしれません。きっと平安時代にも虫好き、蛾マニアはいたのでしょう。

今頃モズの高鳴き

 千葉市若葉区泉自然公園付近の田園地帯。4月も半ばというのにモズが高鳴きしていました。餌場の縄張りを主張する強欲なモズの、勝ち誇ったような高鳴きは、秋から冬の風物詩と思っていたのですが、春本番に聞いたのはこれが初めて。

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大口を開けて高鳴きするモズ

 キチキチキチというあの独特の鳴き方は、キチキチバッタ(ショウリョウバッタの♂)が飛ぶときの音を拡声器でボリュームアップしたような感じですね。電線がショートして火花を散らす音のようでもあります。

 わりと近くから撮れたので、声を張り上げる様子をアップでお伝えします。

 口の中の赤色が目立ちますね。くちばしの下にも赤い部分があるのことに初めて気づきました。かなり大口を開けないと、露出しない部分なのかもしれません。

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 近くに♀らしきモズがいたので、繁殖期に巣の周辺の縄張りを守るためにも高鳴きをするのかもしれませんね。

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近くにいた♀らしきモズ。ズームしている暇がなく、ボケボケ。

 ♀らしきモズはさかんに田んぼのあぜ道に降りて、餌を探していました。

 たぶんこんなアマガエルが餌食になるのでしょう。

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 ついでに、近くの泉自然公園の池で甲羅干しする亀です。この写真を含め、目にした数十匹は全部ミドリガメ(アカミミガメ)でした。まだ特定外来生物に指定されていないのが不思議ですね。あまりに数が多すぎて(日本中の池に居る亀と言えば、ほぼすべてミドリガメ)いまさら対策が不可能なのかもしれません。

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 私が子供のころには、公園の池で日向ぼっこしているのは、クサガメかイシガメかスッポンだったものです。今の子供たちはきっと、亀と言えばミドリガメと思っているに違いないですね。グローバル化の弊害、伝統、文化の駆逐とよく似た状況という気がするのは、昆虫記者だけでしょうか。

春の小石川植物園、見どころベスト30(基準は昆虫記者の独断と偏見)

 春の小石川植物園で必見のお勧めトップ30をご紹介しましょう。なにせ、入園料が数年前に値上げされ、今や大人400円。できればベスト40ぐらい探し出して、1件当たりの料金を10円ぐらいに抑えないと、コストパフォーマンスが悪いですよね。桜だけ見て帰ったらもったいない。

 しかし、昆虫記者が選ぶベスト30ですから、当然トップ10は昆虫系です。引き続いて、11~20位の植物、21位から30位の風景を紹介するという、まさに独断と偏見のペスト30です。すべて4月6日(土)に撮った写真です。

★1位=ツマキチョウ

 まず、小石川の春と言えばツマキチョウ。栄えある第1位です。

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春にだけ現れる蝶、スプリングエフェメラルの中で都心で簡単にみられるのが、このツマキチョウ

 飛んでいるとモンシロチョウと間違えがちですが、よく見ると、羽先の黄色い紋がチラチラしているのに気づくはずです。小石川ではこの季節、モンシロより多いので、是非見つけて下さい。

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飛んでいるとモンシロに見えるが、羽先の黄色に注目。イチロー選手並みの動体視力が要求されます。

 さらに厄介なのが、草原でとまった時の擬態。羽の裏側は、若葉の緑と春の陽光、白い小さな花々といった風景の中に溶け込んでしまう迷彩服模様なのです。

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小石川のツマキチョウは、特にユキヤナギの中に隠れるのが得意。見事な擬態です。

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画面左下に擬態中のツマキチョウがいます。

 しかし、擬態している時は、擬態に絶対の自信を持っているので、10センチぐらいの距離まで近づいても逃げないことが多いです。接写のチャンスですね。

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擬態中は接写のチャンス。マクロでも撮れます。

 そしてもう一つやっかいなのが、ツマキチョウの♀です。メスには黄色の斑紋がないので、羽の表側はほぼモンシロチョウです。

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ツマキチョウの♀が飛んでいると、モンシロと見分けがつきにくい。

 とまったら、羽裏の模様でやっとツマキチョウだと分かります。

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静止した♀のツマキチョウ

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同好の士が二人、ユキヤナギの前でツマキチョウを狙っていました。

★2位=イタドリハムシ

 食用にもなるイタドリ、別名スカンポが地面からタケノコのような芽を出してくると、どこからかイタドリハムシが飛んできます。

 オレンジと黒の粋な模様は、テントウムシを連想させますが、長い触覚がハムシであることを主張しています。

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イタドリの葉の上に鎮座するイタドリハムシ。虫撮りは植物の勉強にもなりますね。

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葉裏のイタドリハムシ。これから食事に入るようです。

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イタドリよりシダの方がつかまりやすいようで、近くのシダにもイタドリハムシがたくさんいました。

★3位=ビロードツリアブ

 春に花畑でホバリングしている毛玉のような虫がビロードツリアブです。ハナダイコンの花に集まっていました。

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ハナダイコンの蜜を吸うビロードツリアブ。

 毛玉と呼ぶと可愛いですが、どちらかと言えば、空飛ぶタワシですね。

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ビロードツリアブは空飛ぶタワシ。

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地面にいる時は、口先が針のようでちょっと強面のビロードツリアブ。

★4位=ツツジトゲムネサルゾウムシ

 これも春限定の虫ですね。ツツジのつぼみを食害し、つぼみに産卵するという、ツツジの大敵です。でも小さな虫なので、多少の悪さは大目に見ましょう。

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ベタベタのツツジのつぼみの上を平気で歩ける技を持つツツジトゲムネサルゾウムシ。

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この長い口でツツジのつぼみをブスブスします。

★5位=アカボシゴマダラ幼虫

 エノキの若葉が出始めるころ、落ち葉の下や物陰で越冬していたアカボシゴマダラの幼虫が、木に登り始めます。そして、枝の股の部分などで、春の衣装に着替えるまでの間、こうしてじっとしていることが多いようです。

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小枝の股の部分に越冬明けのアカボシゴマダラの幼虫がいます。

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エノキの葉が伸びるまでは枯れ枝擬態ですが、若葉が茂ると今度は若葉擬態になるので、次の段階も楽しみですね。

★6位=ヒメアカタテハ

 東京では成虫越冬は難しいと言われていたヒメアカタテハですが、最近は気温上昇で、もしかすると成虫越冬したのではという個体を時々見かけます。

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産卵するためのヨモギの新芽を探しているのかも。

★7位=ミノウスバの幼虫

 小石川では毎年、マユミの木にミノウスバの幼虫が大量発生します。おかげでマユミの木は悲惨な状態になります。

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ミノウスバの幼虫の集団攻撃はすさまじい。マサキ、マユミなどがボロボロにされます。

★8位=ナナホシテントウ

 気味悪いイモムシ集団の後は、口直しにナナホシテントウです。

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★9位=ムーアシロホシテントウ

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一番よく目にする小柄なシロホシテントウの仲間。

★10位=モンシロチョウ

 ツマキチョウより少し大きい。ツマキチョウよりもゆっくり飛んで、よく花にとまるので、花にいる蝶を「もしやツマキチョウ」と思って撮ると、たいていモンシロでがっかりします。

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★番外

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テントウの中でも、とてつもなく小さいのがヒメテントウの仲間。これはたぶんアトホシヒメテントウ。

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サクラの花を食べていた蛾の幼虫。以前名前を調べたが、もう忘れてしまった。

 以下11位からは、植物です。なにせ小石川植物園ですからね。たとえ11位以下とは言え、植物を観なければ400円の入園料の意味がありません。

 

★11位=堂々の11位は、もちろん桜です。春と言えば花見、花見と言えば桜です。

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★12位=オドリコソウ

 ここで目立たない日陰に咲く花、オドリコソウをもってくるあたり、日陰者の昆虫記者らしいですね。

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白鳥の湖バレリーナの乱舞のようなオドリコソウの花

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でも実際は、傘をかぶった日本の踊子の集団らしいです。阿波踊りとか。

★13位=ウマノスズクサの仲間

 ちょっとウツボカズラに似ているウマノスズクサの花。小石川にジャコウアゲハがよく飛んでいるのは、色々なウマノスズクサの仲間が植えてあるからですね。

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★14位=シロバナタンポポ

 小石川では白い花のタンポポをよく見かけます。主流の黄色いタンポポの攻勢に、必死で抵抗している感じが好きです。

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★15位=タラヨウ

 タラヨウの注目は花ではなく、葉裏です。郵便局の木と呼ばれるタラヨウ。その大きな葉の裏側に尖った物で字を書くと、しばらくしてインクで書いたようにきれいな字が浮かび上がります。葉書の代わりにもなるので、郵便局の木なんですね。

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たくさん落書きがあります。

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ただし、合格祈願は葉が落ちるリスクがあるので、危険かも。

★16位=もみじ

 小石川には、モミジのトンネルがあります。秋は美しでしょうか、花の咲く春もまた、見頃ですね。

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★17位=椿

 冬の花のツバキですが、春に満開になるのもあるようです。

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 ツバキはきれいですが、お見舞いにはタブーとされています。花が丸ごとボトッと落ちるのが、息絶える様子を連想させるからとか。それに赤いのは特に、血を連想させるので、ダメらしいです。

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 こういう落ち方がダメなんですね。

★18位=ツツジ

 もう満開のツツジも多いですね。季節の変化は迅速です。

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葉が出るより先に花が咲くタイプのツツジは満開が早い。

★19位=シャガ

 アヤメ、ハナショウブの小型版みたいなシャガもこの季節の定番ですね。

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★20位=カリン

 可憐なカリンの花。ゲゲゲの鬼太郎の下駄の音みたいですね。からーん、からーん、からん、からん、ころん。

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★番外

ヤマナシ

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ミズバショウ

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なんと、小石川にはミズバショウもあるんです。

ニリンソウ

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 21位からは風景です。都心の比較的小さな植物園なのに、豊かな自然に囲まれたような感覚になれるのは不思議ですね。

★21位=花見

 春ですから、まずは花見の風景。400円払っての花見ですから、比較的すいていることを期待しているのでしょうが、結構盛況です。

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★22位=日本庭園から東大総合博物館分館を望む

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そういえば、ここは東大の付属植物園なんですね。

★23位=桜の花を背景にコゲラ

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小さなキツツキのコゲラ。春は桜を背景に。

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 写真は撮れなかったけど、ちゃんと木の中の虫を捕まえて食べてました。

★24位=高台から日本庭園を望む

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この高低差が小石川の魅力の一つ。でも斜面を迷路のように走る小道を上り下りすると疲れる。

★25位=温室

 温室はリニューアル工事中でした。なんだかとっても立派な温室ができそう。

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★26位=柴田記念館

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この正面にシダ園がある。

★27位=深い森

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園の奥の方には結構深い森もある。

★28位=大震災記念石

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関東大震災の際には3万人以上がこの植物園に避難したという。

29位=ニュートンのリンゴ

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ニュートン万有引力に気付いた生家のリンゴの木の末裔らしいです。

★30位=メンデルのブドウ

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遺伝学の基礎を築いたメンデルが実験に使ったブドウの木の末裔とのこと。

★番外

池の鯉

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日本庭園の池には錦鯉とか食用ガエルのオタマジャクシとか亀とかがいます。

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よく見えませんが、食用ガエルのオタマジャクシです。

 以上、お付き合いありがとうございました。これで400円の入園料を払う前の、心の準備と、散策プランはできたでしょうか。お役に立てれば幸いです。