虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

鎌倉の休日の恐怖体験、首だけの蛇と骸骨

〇鎌倉の休日の恐怖体験、首だけの蛇と骸骨

 「北鎌倉で降りて歩いてみませんか」なんていう歌詞がありましたね。「源氏山から北鎌倉へ、あの日と同じ道程で」なんていう歌詞もありました。

 北鎌倉駅前は、鎌倉駅前とは全く違って、ひっそりと静まり返ったところです。列車が到着すると、観光客がたくさん降りてきますが、目指すのは神社仏閣なので、たいてい裏側の出口から出て、円覚寺明月院方面へと向かいます。駅前には、派手なカフェやレストランや土産物屋なんかは、ほとんどありません。閑静な街並みを維持する努力があるのでしょう。

 しかし、昆虫記者一行は、駅の目の前の円覚寺には行きません。すぐ近くの明月院にもいきません。縁切寺東慶寺になど、絶対行きません。足を延ばして建長寺にも行きません。

 なにせ、狙いはイモムシ、毛虫ですから。どうしてこうなったかと言うと、イモムシ専門家のイノウエケイコさんが、旅に参加しているからです。

 それはそれは、恐ろしい、おどろおどろしい、イモムシ、毛虫旅になることが予想されますね。

 ということで、最初の画像は、クヌギの木の洞から顔を出したアオダイショウです。

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木の洞から顔を出すアオダイショウ。地獄の門番のようです。

「うわー、やめてくれー」という悲鳴が聞こえてきます。せっかく読者になってくれた人々が雪崩を打って、あるいは潮が引くように、去っていく様子が目に浮かびます。

 これもみな、イノウエケイコさんのせいです。イモムシ、毛虫を見ると鳥肌が立つという人は「ここで引き返した方が身のため」という警告ですね。

 閑散とした北鎌倉駅前から、静かな山道へと分け入っていきます。

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閑散とした北鎌倉駅

 するとすぐに現れたのは、どくろ顔のヒロバトガリエダシャク幼虫。ここから先は危険という表示ですね。イノウエケイコさんのようなエキスパートが一緒でないと、立ち入り禁止の危険地帯ということです。

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どくろ顔のヒロバトガリエダシャク幼虫

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気の弱い人は帰れと威嚇するヒロバトガリエダシャク

 今ならまだ引き返せます。気の弱い人は、今からでも駅裏に回って、円覚寺明月院に行きましょう。

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円覚寺には行きません。

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明月院にも行きません。

 しかしイノウエさんは前進します。すると、頭に血痕のついた黒い毛虫が現れました。ヒメヤママユの若齢幼虫です。

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頭に血の赤がにじむのはヒメヤママユの若齢幼虫

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この時期を過ぎるとただの緑色の毛虫になってしまうヒメヤママユ

 ミズキの葉を巻いていたのは、キアシドクガの毛虫幼虫。

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ミズキに多いキアシドクガ幼虫。1本の木に百匹ぐらいいることも。

 せっかく鎌倉に来て、おしゃれなカフェも、土産物屋も、なーんにもない山道で、毛虫を撮影する人々って、どうなんでしょう。

 キアシドクガにカメラを向けているのがイノウエケイコさんです。その後ろで、カメラ操作など指導しているのが、昆虫写真家の森上信夫さんです。

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イノウエケイコさんと森上信夫さん

 その後も次々と、イノウエさんにとっては可愛い、一般人にとってはおぞましいイモムシ、毛虫が次々に登場しました。

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オオノコメエダシャクの幼虫

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シャクガの仲間は歩かせれば分かるそうです。

 

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たぶんヒメノコメエダシャクの幼虫

 

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オカモトトゲエダシャクの幼虫

 

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チャバネフユエダシャクの幼虫

 

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たぶんヒロオビトンボエダシャクの幼虫

 

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フクラスズメの幼虫

 

 最後は、お口直しに、ちょっと素敵な蝶で締めましょう。エノキの若葉に擬態していると思われるアカボシゴマダラ春型の終齢幼虫です。

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アカボシゴマダラ春型の幼虫はエノキの若葉に擬態

 春型幼虫は若葉色にほのかにピンク色を乗せて、芽吹いたばかりの葉に体色を合わせています。アカボシゴマダラは成虫の蝶も、春型と夏型で別の種類のように、色合いが違いますね。

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アカボシゴマダラ成虫の春型(上)と夏型(下)。別の種類のように見えます。

 お口直しの蝶はいかがだったでしょうか。と言っても、すでにこの記事を見ている人はほぼセロのなっているのではないかと懸念されます。すべてイノウエさんのせいです。

 そしていよいよ、地獄旅も終わり、源氏山経由で寿福寺裏の出口、寿福寺トンネルへ。

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地獄門のような寿福寺トンネル

 まさに地獄旅にふさわしい、地獄門のような出口ですね。裏側には、鎌倉時代の墓である「やぐら」と思われる穴が開いていました。

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寿福寺トンネルを抜けると地獄旅も終わり。

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トンネルの裏側には鎌倉時代の墓「やぐら」らしきものが。

 ここを過ぎると、鎌倉駅はすぐそこ。普通の人々の明るく楽しい世界が待っています。

 

鎌倉の休日の財宝探し

鎌倉の休日の財宝探し

 GWの鎌倉はとんでもない混雑と想像する人が多いことでしょう。鶴岡八幡宮に通じる小町通りあたりは、それは、それは、大変なことになっていたと推察されます。

 しかし、外国人がドッと押し寄せる寺社やおしゃれな街並みだけが鎌倉の魅力ではないのです。鎌倉は東京近郊でありながら豊かな自然が多く残る場所でもあるのです。そして、その自然はあまり観光客には人気がありません。

 大仏ハイキングコースとか、ごく一部の知名度の高い散策路は少し人が多いですが、それ以外にも迷路のように森の中の散策路があるのです。そんなところを歩くのは、犬を散歩させる地元住民か、昆虫記者など、変わった趣味の人々が中心です。

 しかし、そんな観光客に見捨てられた自然の中にも、キラリと輝くお宝が隠されているのです。

 今回はそんな、キラキラ系のお宝をご紹介します。鎌倉は人が多いから嫌、という人は、もうすぐ閉鎖のヤフーブログの虫撮る人々の過去記事などを参考に、休日でもだれも歩いていない自然豊かな裏道を探索してみてはいかがでしょう。でも誰も歩いていないということは、つまり、虫好き以外には非常に人気のないコースということでもあります。そのへんは、最初から覚悟が必要ですね。

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背中の金のⅩは財宝のありかを示すセモンジンガサ

 鎌倉の財宝と言えば、まず宝の地図がなければ話になりません。地図上には宝のありかを示す金色のⅩマークがあります。幕府の財宝が隠されている印ですね。でもこの印は、あちこちにあります。とくに桜の木のあるところに集中しています。

 そうなのです。お宝とは桜の木のことなのです。何のことはない、つまりは、宝のありかを示すと思われたⅩマークは、サクラの葉を食べるジンガサハムシの仲間の模様なのでした。

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セモンジンガサハムシは背中の金色のⅩ文字が売りです。

 

 同じジンガサハムシの仲間で、本家ともいえるその名もずばり「ジンガサハムシ」は、全身金色のがいます。でも全身茶色のもいて、当たりくじ、外れくじみたいな感じですね。

 今回のカップルは下の♀が茶色、上に乗っている♂が金色でした。でも葉裏にいたので、せっかくの金色もパッとしない構図になってしまいました。

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ジンガサハムシには金色の当たりと、茶色の外れがあります。

 その金色を必死で撮ろうとしているおかしな人物は、旅に同行していただいた昆虫写真家の森上信夫氏です。大変なお仕事ですね。

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苦闘する森上信夫氏

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 売れる昆虫写真を撮る人(森上氏)と、遊びの昆虫写真を撮る人(昆虫記者)は、意気込みも根性も全く違います。

 ここは鎌倉の中心部からさほど離れていない場所ですが、小町通りのすさまじい人込みが信じられないほど、静かです。たまに聞こえてくるのは、虫捕りや魚取りをする子供たちの声。観光地のすぐ隣に、ホッとできる静かな自然がある。これが鎌倉の魅力かもしれません。

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 日本のハムシの中では出色の美しさを誇るアカガネサルハムシもいました。普通はノブドウにいます。ハムシ界のタマムシとでも呼ぶべき、玉虫色のハムシです。

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ハムシ界のタマムシ、アカガネサルハムシ

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宝石ハムシとか、玉虫色ハムシとか呼ぶべきですね。

 カワトンボがたくさん見られる季節になりました。このトンボも金属光沢が美しい、財宝系の虫ですね。

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 蛾の中にも、いいのがいました。オオギンスジハマキです。金ほどの値打ちはないですが、銀ですから、まずまずのお宝と言えるでしょう。

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オオギンスジハマキ。渋い銀色のお宝。

 何と、蜂にもきれいなのがいました。さすが鎌倉ですね。クロムネアオハバチと言うらしいです。緑色の輝きが見事で、蜂にしておくのは惜しいような蜂です。

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蜂にしておくのはもったいないクロムネアオハバチ

 きれいどころと言えば、やはり蝶を外すことはできません。まずは普通のナミアゲハ。いわゆるアゲハチョウです。

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そこそこきれいなナミアゲハ

 そこそこきれいですね。そしてキアゲハです。アゲハチョウよりは、深みがありますね。キアゲハを見てからナミアゲハをみると、ナミアゲハはちょっと薄っぺらく見えます。

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ナミアゲハより深みのあるキアゲハ

 小さいけれど意外にきれいなのがシジミチョウの仲間。これはツバメシジミの♂です。

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ツバメシジミの♂

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 メスはこれ。あまりきれいではありません。

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ツバメシジミの♀

 蝶は♂の方がきれいという種類が多いですね。蝶よ花よとおだてられ、咲いて見せればすぐ散らされるのは、♂の方です。たいてい♂の方が短命で、交尾を終えると用済みとなります。派手な装いのせいで敵にも狙われやすく、長生きできないというわけです。その分、地味な♀はしぶとく生きながらえて、子孫を残します。人間の♀は「蝶よ花よ」と、ちやほやされた上に、♂より長生きでいいですね。

 

 春だけの蝶、ツマキチョウは、これが最後の生き残りでしょう。

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春の名残のツマキチョウ

 最後の締めはカラスアゲハです。クロアゲハと比べるとはるかに美しいのに、カラスと呼ぶのは、あまりにも不当です。

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きれいなのにカラスアゲハとはかわいそうな名前。

クジャクとまでは言わずとも、キジぐらいの名前にしてあげたいですね。

鎌倉の休日の7不思議

 先日GWの最中に鎌倉へ行ってきました。と言ってももちろん、寺社巡りではありません。昆虫写真家の森上信夫さんと、イモムシ専門家のイノウエケイコさんがご一緒という面子ですから、グルメ旅でないことも明らかですね。

 鎌倉の休日の7不思議というタイトルなら、普通歴史秘話が語られるところですが、筆者が昆虫記者なので、そうは問屋が卸しません。歴史秘話など、全く知らないので、書きようがありません。

 では、何の7不思議なのかというと、単なる駄洒落とこじつけです。

 まず第1の不思議はナナフシ擬態。ほーら、ちゃんと「ナナフシギ」が入っていますね。ナナフシは大きくなると枝に擬態しますが、小さい幼虫は、木の葉の上にチョコンと乗っているので、恐らく葉脈に擬態しているのでしょう。

 でも2匹並んでしまうと、葉脈としては不自然ですね。

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葉脈に擬態しているつもりのナナフシですが、2匹並んだら無理がある

 

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こんな感じだと、葉脈に似ています。

 続いて2つ目の不思議はナナフシギテントウ。そんなの、いません。ただのナナホシテントウですが、それが7匹いる偶然が不思議ですね。本当は10匹以上写っていた写真をトリミングしただけなので、何の不思議でもありません。それに、よーく見ると、7匹のつもりが、8匹目、9匹目がかすかに写ってしまっていました。

 

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ナナフシギテントウなんていません

 3つ目の不思議は、エゴフシギゾウムシ。そんなのもいません。本当の名前はエゴシギゾウムシです。エゴの木にいるシギのように口の長いゾウムシなので、合わせてエゴシギゾウムシです。何の不思議もないですね。

 

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エゴフシギゾウムシなんてのもいません。

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エゴの実を食べるエゴシギゾウムシ

 4つ目の不思議は、同じエゴの木にいるエゴツルクビオトシブミです。交尾中のカップルで、後ろから攻撃しているのが当然オスです。そのオスの首が鶴のように長いので、ツルクビ。メスが必死にエゴの葉を巻いて作っているのが、卵を包む揺籃、通称「落とし文」です。」交尾しながら、揺籃を作り続けるなんて、不思議ですね。

 たぶんこれは、メスが一心不乱に作業していたところ、オスが後から飛んできて「今だ、チャンスだ」とばかり、交尾におよんだということでしょう。単にどさくさ紛れの行動ということで、実は全然不思議ではないですね。

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メスが揺籃を作っているどさくさに紛れて交尾するエゴツルクビオトシブミのオス

 

 5つ目の不思議は、ツチイナゴ。春にこんな大きなバッタがいるなんて、不思議ですね。実はツチイナゴは、成虫で越冬する変わり者のバッタなのです。越冬明けの春に産卵するので、春に大きいツチイナゴがいるのは当然。これも全く不思議ではありません。ほかのバッタと生活サイクルが違うので、成虫が恐ろしい天敵のカマキリに襲われることがないというメリットがあります。

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成虫で越冬するツチイナゴ。春先に大きなバッタがいたら、それは私です。

 オオカマキリはようやく、卵から孵化したばかりで、大きなツチイナゴを襲うことなど、とてもできそうにないですね。

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春に孵化したオオカマキリ

 

 6つ目の不思議は、この黒いかたまり。イモムシの糞のように見えますが、これでもハムシです。その名もムシクソハムシ。虫の糞(ムシクソ)に見えるので、こんな恥ずかしい名前で呼ばれています。

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イモムシの糞に見えるムシクソハムシ

 

 7つ目の不思議は…。ここまで来るとさすがに、こじつけも苦しくなってきます。モモブトカミキリモドキあたりで、ごまかしておこうと思います。オスの後ろ足の腿が太いからモモブト。虫のオスには、前足か後ろ足が長かったり、太かったりするのが多くいます。たいていは、メスを抑え込んだり、ライバルのオスを蹴散らしたりするのに都合がいいからで、全然不思議ではありません。人間でも昔は腕力の強いオスが、メスを獲得したものです。最近はイケメンかどうかの方が重要なようではありますが。

 

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筋肉質の太ももを誇るモモブトカミキリモドキのオス

 ついでに不思議な行動を取っている人々です。鎌倉虫撮り旅に同行してもらった、昆虫写真家の森上信夫さんと、イモムシ専門家で、最近「キモカワ!イモムシ超百科」という本を出したイノウエケイコさんです。ただの木の葉の写真を撮っているように見えますが、小さなエゴシギゾウムシを相手に、真剣勝負の最中です。本人は必死ですが、周囲からは「不思議な人たち」に見えるでしょうね。

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何を撮っているのか分からない不思議な人たち

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カメラのレンズの前に小さなゾウムシがいるのが分かるでしょうか。

 最後は昆虫記者らしくない歴史秘話です。源氏山の近くで見つけた太田道灌の墓です。江戸城築城の偉業で知られる太田道灌の墓が、こんな人目につかない奥の細道に、目立たず、ひっそりとただずんでいました。

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あまり知られていない太田道灌の墓です。

 

富豪マリーナで地味なハムシを撮る貧乏人

 ヨットやクルーザーが無数に浮かぶ夢の島マリーナ。素敵ですね。どんなお金持ちがオーナーなんだろうかと、想像してしまいます。うらやましいですね。そして、悲しいですね。貧富の差をひしひしと感じます。

 羨んでばかりいても仕方がないので、地味にハムシなど探します。夢の島ユーカリの森です。まるで、オーストラリアにいるような気分になります。でも日本なので、コアラはいません。

 しかし、オーストラリアから入ってきた虫、ユーカリハムシがいるのです。コアラはさすがにユーカリに紛れ込んで密入国できないでしょうが、小さなハムシは簡単に、餌のユーカリに紛れて密入国できるのです。

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後ろ足だけで立ち上がった変な姿勢のユーカリハムシ。実は樹皮裏に産卵中です。

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すぐ近くには、ヨット、クルーザーが並ぶ夢の島マリーナ

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ユーカリハムシは長い産卵管を樹皮の下に伸ばして、卵を産み付けます。

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近くのマリーンセンターではクルーズ仲間でバーベキューが楽しめるようです。昆虫記者は縁がないです。


 地球の反対側にいたハムシなので、性格も日本のハムシとは対照的で、夜行性のようです。しかも、ハムシらしく葉に卵を産むのではなくて、ユーカリのはがれかけた樹皮の裏側に産卵します。

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樹皮裏に産み付けられたユーカリハムシの卵をちょっと拝見

 

 幼虫は完全に夜行性で、昼間は樹皮裏などに隠れていて、夜にこっそりと葉を食べに出てくるようです。

 

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以前に撮影した幼虫の写真。昼間は樹皮裏に隠れているので、葉の上を探しても見つかりません。

 こんな変な性格のハムシ、恐らく日本にはいないと思います。有袋類とか、カモノハシとか、変な生き物の多いオーストラリアらしいですね。

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熱帯植物館もありますが、有料施設なので入りません。

 

 あとは日本のハムシ。ネズミモチの木があれば、たいていどこにでもいるクロボシトビハムシです。

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小さなクロボシトビハムシ。手前にある白い点のようなのが、恐らく食痕。

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「えっ、見たことない」。当然です。なにせ、体長2ミリぐらいの小さなハムシですから、誰も気づきません。でもたいてい、どのネズミモチにもいます。葉に針で突いたような小さな穴がたくさん開いていたら、それがクロボシトビハムシの犯行の跡です。

 

 エノキハムシはまだ幼虫でした。

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エノキがあるところ必ずいるエノキハムシの幼虫

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エノキハムシ幼虫が発生すると、エノキの葉はこんな丸い穴だらけになります。

 エノキの葉が穴だらけになっているのは、たいていこの幼虫のせいですね。今頃はもう姿を消しているので、犯人を捜しても無駄です。でも、もうすぐ成虫が出てくるので、逮捕するのはそれからにしましょう。

夢の島の福竜丸展示館の蛾で思い起こす水爆とモスラの関係

 夢の島第五福竜丸展示館と、その近くにいた迷彩模様の蛾は、原水爆実験と大怪獣モスラの関係を思い起こさせます。(いかにも社会派の記事ですね。記者を名乗るだけのことはあります)

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迷彩柄の蛾はウンモンスズメ

 

 モスラ映画第1作は、原水爆実験場近くの放射能に汚染された島に流れ着いた沈没船の船員の話から始まります。船の名前が第二玄洋丸というのも、第五福竜丸を連想させますね。映画では核実験をした国は、ロリシカ国となっていますが、これはロシアとアメリカを合わせた名前だとすぐに分かります。第五福竜丸は米国の水爆実験場となったビキニ環礁近くで被爆しました。

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ビキニ環礁付近で被爆した第五福竜丸

 福竜丸展示施設の前にモスラがいたら良かったのですが。そうすべてうまくは行きません。モスラのモデルはヤママユガとかヨナグニサンとか言われています。ヨナグニサンは日本では与那国島まで行かないと見られません。

 今回、展示施設の前にいたのは、ウンモンスズメです。ヤママユ系ではなくて、スズメガの仲間ですが、迷彩服の模様が戦争を思い起こさせます、と言うのはもちろんこじつけです。

 オスメスのカップルが腹部を寄せ合うようにとまっていたので、恐らく交尾後の余韻を楽しむ至福の時だったのでしょう。邪魔してしまいました。人の恋路の邪魔するやつは、というシチュエーションですね。昆虫記者は犬に食われるか、馬に蹴られて死ぬ運命です。

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ウンモンスズメの♂♀カップル。この右手に第五福竜丸展示館があります

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ウンモンスズメ・カップルの至福の時。交尾後の余韻を楽しんでいるようです。

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上から見るとこんな感じ

 

 これが第五福竜丸展示施設。無料(これが重要)なので、是非訪れて下さい。夢の島公園は、半蔵門線京葉線新木場駅の目の前にあります。

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三角屋根の第五福竜丸展示館

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 福島の原発メルトダウン、水素爆発という世界史上最悪級の原発事故があったため、忘れ去られがちですが、第五福竜丸は戦後の日本人の被ばく事件としては最初のものでしょう。実験に使われた水爆の威力は、広島の原爆の1000倍だったと言います。改めて、原子力兵器、原発事故の恐ろしさを感じますね。

 などと社会派のコメントを吐きながら、実は蛾の撮影に夢中になっていた昆虫記者です。

 モスラは幼虫のカッコよさが印象に残っている人が多いのではないでしょうか。あれは、たぶんカイコ(蚕)がモデルですね。

 今回は蚕系のイモムシは見つかりませんでした。代わりに、フジの葉を食べるキシタバのイモムシを見つけました。結構大きくて迫力があります。顔がなかなかに怪獣的。

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フジの葉を食べるキシタバの幼虫

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キシタバの幼虫はかなり大きなイモムシです

 

 こちらはオビカレハの毛虫です。これも展示館前にいました。

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きれいな縦縞模様のオビカレハ幼虫

 

 エノキの若葉の間に枯れ葉が一枚。これも蛾です。チャハマキと言います。

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どう見ても枯れ葉に見えるチャハマキ。ハマキガの仲間です。

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接近すると蛾だと分かりますね

 

 ツマジロエダシャクはどこにでもいる蛾なので、相手にされませんが、そこそこカッコいい蛾です。

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ツマジロエダシャク

 

葛西のカニ釣りと股舐め猫とテントを張るイモムシ

 葛西臨海公園では、カニ釣りが大盛況。老いも若きも、男も女も、カニ釣りに興じておりました。

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葛西の海辺はカニ釣りで大盛況

 要領は、かつて男の子ならだれでも経験したザリガニ釣りと同じようです。棒の先にひもを付けて、紐の先に裂きイカを付けて、海辺の石垣の隙間を探ります。

 がっついカニはハサミで裂きイカをつかみ、釣り上げられてもイカを離そうとしません。

 結構たくさん釣れるようですね。ザリガニ釣りより効率がいい感じです。それに、ザリガニ釣りと比べて、服が泥だらけにならずに済んで、保護者は洗濯の手間が省けます。

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本日の収穫のカニ

 やはり、カニ釣りという遊びの性格上、親子連れが主流ですが、夢中になっているのは、子供より親の方ということがよくあります。これはザリガニ釣りでも時折見られる光景ですね。親としては、子供に負けるわけにはいきません。昔取った杵柄。親の威厳を示すのはこういう時です。

 しかし、カニ釣りはやるもので、見るものではありません。やっている人は夢中ですが、見ている方は飽きてきます。なにせ、ここのカニはちっこい。

 そろそろ虫撮りに繰り出すことにします。

 スイカズラの茎にバラのトゲのようなものが張り付いていました。昆虫記者はこれをツインピークスと呼んでいます。

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スイカズラツインピークススイカズラクチブサガの繭

 この不思議な物体は、スイカズラクチブサガという蛾の繭です。成虫の蛾は本当にどうでもいい感じのありきたりの蛾ですが、この繭はなかなか凝った作りですね。このツインピークスのテントの中に蛹が入っています。

 幼虫はスイカズラの新芽付近を食い荒らしています。新芽のあたりが、ぐしゃぐしゃと小汚くなっている中に幼虫が隠れています。

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スイカズラを食い荒らす幼虫

 

 取り出してみると、こんな幼虫です。これまたどうでもいい感じの幼虫ですね。

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スイカズラクチブサガ幼虫の全体像

 結局この蛾の取り柄は、繭だけということになります。それでも、何の取り柄もない昆虫記者よりはましです。

 

 キレイどころとしてはナナホシテントウが交尾していました。

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 こちらはベニヘリテントウ。カイガラムシの仲間を食べる益虫ですね。

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ベニヘリテントウ。小さいです。

 これもテントウムシに見えますが、テントウノミハムシというハムシです。益虫のテントウそっくりの害虫のハムシです。

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テントウそっくりの害虫、テントウノミハムシ

 テントウノミハムシは、生垣のヒイラギ、ヒイラギモクセイの大害虫です。ヒイラギの垣根がボロボロになっているのは、すべてこのハムシの被害です。こんな小さなハムシが、生垣が枯死するほどの大被害を与えるとは信じがたいですね。

 すさまじい被害をもたらすのは、成虫ではなく、幼虫です。テントウノミハムシの幼虫は、ヒイラギの葉の中に、こんなふうに潜り込んで、葉を内部から食べ進んで枯らします。

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葉の中に潜り込んで食い荒らすテントウノミハムシの幼虫。こういうのを潜葉性の幼虫と言います

 大きな幼虫は頭だけ葉の中に突っ込んで、お尻は外に出していることも多いですね。

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頭だけ葉の中に突っ込んだ幼虫

 ついでにマミジロハエトリ。正面から見ると、人間的な顔をしています。

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白い眉毛が特徴のマミジロハエトリ。ハエトリグモの仲間です。

 小さい虫ばかり見ていると、視野が狭くなるので、時々公園の風景を眺めます。鯉のぼりが泳いでいました。

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 そして、野良ネコが物欲しそうに鯉のぼりを眺めていましたが、何を思ったか、野良ネコは突然、股を舐め始めました。毛づくろいの一環のようですが、特に股舐めは気持ちがいいようで、飽きもせずいつまでも舐めていました。

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 人間だったらちょっと恥ずかしい姿勢ですが、しょせん猫ですから、恥も外聞もありません。

 

 人々は、バーベキューをしたり、海辺の広い芝生の上で、広い空を見上げたりして、くつろいでいます。

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 しかし、昆虫記者は近視眼的に茂みの中を覗き込みます。怪しい行動ですね。

 葛西臨海公園名物のアカスジキンカメムシがいました。これは越冬明けの終齢幼虫です。前から見ると、キンカメムシの片鱗の輝きが若干見受けられます。

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アカスジキンカメ幼虫。たいてい終齢幼虫で越冬します。

 後ろから見ると、大口を開けた変な笑い顔ですね。

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笑い顔の模様がアカスジキンカメ終齢幼虫の特徴

 もうすぐ赤と緑のピカピカの成虫になりますので、是非探して下さい。鳥類園の散策路に多いです。

葛西の巨大観覧車に託す巨大シャクトリムシと土瓶割りの夢

 春の葛西臨海公園。大型連休中に家族やカップルで訪れる人が多かったことでしょう。昆虫記者は、家族連れの明るい歓声が響く中、一人寂しく虫撮りをしておりました。

 葛西臨海公園と言えば、大観覧車が目玉施設の一つです。海辺の風景と、公園の緑、都会の街並みのすべてが一望できて、天気が良ければ富士山も見えるというサービス満点の乗り物なので、デートで乗れば恋が成就することでしょう。もちろん、幸薄い昆虫記者は乗ったことがありません。

 観覧車を背景に芸術的な虫写真を撮ってみました。

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巨大観覧車に託す巨大シャクトリムシの夢

 どこが芸術的なのか全く分かりませんね。左手から突き出ている棒きれのようなものは一体何なのでしょう。風景の邪魔でしかないですね。

 この棒きれはシャクトリムシです。色合いや猫耳が特徴の頭の形から、もしかすると「土瓶割り」として有名な巨大シャクトリムシのトビモンオオエダシャク幼虫ではないか、などと期待に胸を膨らませるのは、ごく少数派の虫好きの中でも、極めてまれなイモムシ好きだけでしょう。

 トビモンオオエダシャク幼虫は、最終的には全長9センチほどになるという巨大シャクトリムシですが、この時期はまだ小さくて、トビモン小エダシャクです。しかも、このサイズではトビモンかどうかさえ、不明確です。このままのサイズで蛹になって、小さな別の蛾になる可能性だってあります。さらに十中八九は、蜂などに寄生されていて、正体不明のまま死んでいきます。

 シルエットでない姿はこんな感じです。

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トビモンオオエダシャクであってほしい小エダシャク

 もっと小さいのもいました。

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 この場所では計4匹、同じシャクトリムシを確認しました。いつの日か、巨大シャクトリムシになって、土瓶を割ってほしいものです。

 「土瓶割り」とはトビモンオオエダシャク幼虫の愛称です。農家の人が野良仕事の際に、巨大シャクトリを木の枝と思って土瓶を掛けたところ、枝がグニャリと曲がって土瓶が落ち、粉々になったという逸話によるもののようです。

 全く農家の人をバカにした話ですね。農家の人は都会の人と違って、自然の知識が豊富なはず。従ってトビモンオオエダシャクのことも良く知っているので、こんな間違いは犯しません。

 農家の人に謝罪する気持ちで、もう一枚、観覧車の芸術的インスタ映え写真を撮ってみました。歩道橋の円形模様は観覧車をイメージしたものでしょうか。そこを自転車の車輪が通過することで、五輪の風景になりました。

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葛西の観覧車と歩道橋と自転車のインスタ映え写真

 たぶんまだ誰も、ここでインスタ映え写真を撮った人はいないのではないかと思います。(もしかしたらいるかも。いたらすいません)。今後ここがインスタ映えの名所になって、近隣の方々の大迷惑となっても、昆虫記者は責任を負いません。

 広い葛西臨海公園内を巡る園内周遊の機関車風バスも、名物の一つです。

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葛西の園内周遊機関車風バス

 周遊機関車をバックにトビモンオオエダシャクのインスタ映え写真を撮ってみました。こちらは誰も真似しないでしょう。

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トビモンオオエダシャクと周遊機関車のインスタ映え写真

 一匹だけ持ち帰ったトビモンオオエダシャク幼虫(希望的観測です)が少し大きくなって、猫の耳も大きくなりました。

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この猫顔を見ると、トビモンオオエダシャクの期待が高まります。

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 トビモンオオエダシャクであってほしいものです。(誰も期待してない)。