虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

〇大した面相でもないのに威張り散らすダイミョウセセリ

〇大した面相でもないのに威張り散らすダイミョウセセリ

 先日セセリ蝶界で一番の美貌を誇るアオバセセリを紹介してしまったので、あとのセセリは、もはや搾りかすのようなものです。それなのに、偉そうな名前で威張り散らしているやつがいます。その名もダイミョウ(大名)セセリ。

 幼虫も成虫も、あまりにも地味で、全く世間の注目を集めませんが、蛹だけは、ちょっとだけ芸術の香りがします。

 どんな感じかというと、こんなです。

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ダイミョウセセリの蛹。ちょっと芸術の香りがする。

 芸術の香りとか言ったわりには、大したことなかったですね。でも、ほかはもっと地味なので、蛹の段階で少しは点数を稼いでおかないと、その後の展開が苦しくなります。

 

 地味な幼虫はどこにいるかというと、山芋の葉を折りたたんだ中に潜んでいます。

 下の写真では、折りたたんだ場所が4カ所ありますね。このどこかに幼虫が隠れている可能性大です。

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ダイミョウセセリの幼虫は、山芋の葉の一部を折りたたんだ隠れ家の中にいる

 この折りたたみ部分を開いてみると

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 小さな幼虫がいました。

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小さな隠れ家には小さな幼虫

 こういう大きな折りたたみの中には

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 蛹化間近の大きな幼虫がいます。

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 ここにも大きな折りたたみ。

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 中にいたのは、こんなやつでした。

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 全く芸のないイモムシですね。頭は真っ黒で、体は白くてブヨブヨ。ろくに運動もしないで、昼間は折りたたんだ葉の中に引きこもっているので、こんな姿になったのでしょうか。

 

 これが葉で作った蛹室です。

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ダイミョウセセリの蛹室

 開いてみると、中にあの蛹がありました。

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蛹室の中のダイミョウセセリの蛹

 あの白くてブヨブヨの幼虫の姿からすれば、なかなか見事な変身と言えるでしょう。

 

 そして羽化。全く地味な蝶ですが、お情けで手乗りさせてやります。

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羽化したばかりのダイミョウセセリ

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 ところで、なぜ「大名」かと言うと、このとまり方が理由です。

 

 蝶は基本的に羽を閉じてとまることが多くて、羽を開くのは、日光浴する時や、花の蜜を吸う時など、いわば特別な時です。それも、魅力的な表側をチラ見せして異性の気をひくような感じです。

 それなのに、ダイミョウセセリは、とまる時はほぼいつでも、羽を全開にしています。羽を閉じている姿を撮るのが難しいぐらいです。

 この姿が、紋付の羽織袴を着た殿様や大名のように見えることからダイミョウの名があるようです。

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 もう一つの説は、大名行列の際に道端に平伏する人々の姿に似ているというものです。こちらの説だと、ダイミョウセセリは別に威張っているわけではなく、昆虫記者の目の前でひれ伏している「かわいいやつ」ということになります。

 しかし、ビュンビュン飛び回って、あちこちで羽を広げるダイミョウセセリの行動は、大名行列を前にしてひれ伏しているようには思えないのです。こんな落ち着きのないやつは、大名のお付きの武士の手で、即刻斬り捨てごめんになるでしょう。

 

 

〇日本のセセリ界随一の美貌を誇るアオバセセリ

〇日本のセセリ界随一の美貌を誇るアオバセセリ

 セセリ蝶という蝶の仲間を知っているでしょうか。シジミチョウ、モンシロチョウなどと並んで、どこにでもいる蝶の代表なのですが、非常に人気薄な蝶です。小さい上にたいていが目立たない茶色で、しかも飛び方が、全然優雅ではなくて、まるで蜂やハエのように素早い。虫に詳しくない人々は、蝶ではなく蛾だと思っている人も多いぐらい、冷遇されている蝶です。

 チョウの写真を投稿する人でも、イチモンジセセリとか、チャバネセセリとかをアップする人はほとんど見かけません。そういう昆虫記者も、イチモンジセセリの写真をアップした記憶はありません。なんという差別、なんという非人道的行為でしょうか。しかし、セセリ画像なんかアップしたら、もともと人気のない昆虫ブログがさらに砂漠のように枯れ果ててしまうことでしょう。

 しかし、日本で唯一と言っていい、きれいなセセリ蝶がいるのです。それはアオバセセリ。飛び方があまりに素早い上、食樹のアワブキという木がどこにでもある木ではないので、アオバセセリが一般の人々の目に触れる機会は少ないのですが、虫好き、特に蝶好きの間では、この蝶だけを目的に山に入る人も多いくらい人気があるのです。

 それでは、どんだけ美しいかというと、こんなです。

 

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セセリ界随一の美貌のアオバセセリ

 どうです。きれいですね。セセリ蝶の仲間が浴びせられてきた、蛾のように汚い蝶の汚名をすべてそそぐほどの気品ですね。アオバセセリがいなかったら、日本のセセリチョウ界はどれほど寂しい状況だったことでしょう。まあ、ほかのセセリ蝶はそんなこと全然気にしていないとは思いますが、虫好きとしては、セセリもバカにしたものじゃないということを、声を大にして言いたいわけです。

 

 そして、蝶好きは成虫にばかり目を奪われがちなのですが、アオバセセリの場合は、幼虫もまた、日本のセセリ界にあって、ほとんど唯一、見栄えのする美しい幼虫なのです。

 

 どんだけ美しいかというと、こんなです。

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アオバセセリは幼虫もセセリ界随一の美貌を誇る

 どうです。美しいですね。繊細な縞模様とナナホシテントウのような頭。単に美しいというだけでなく、コミカルで愛嬌がありますね。

 

 でもこれまた、一般の人々の目に触れる機会はほとんどないのです。アワブキの木が少ない上に、昼間は葉っぱを丸めた隠れ家の中に潜んでいることが多いからです。セセリ系の幼虫はおしなべてみなシャイなのです。普通のセセリ系の幼虫は、頭が黒や茶色で、体が白っぽくぶよぶよしているで、他人に姿を見られたくないと思うのも納得なのですが、アオバセセリの可愛い幼虫がいつも姿を隠しているのは残念です。

 

 こんな巣の中にいます。

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アオバセセリの幼虫の隠れ家。右の緑の葉がアワブキ

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巣を開くと、中に縞模様が見えます

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アオバセセリ幼虫の頭はテントウムシ風。擬態の一種かも

 こんな小さな巣の中には

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 こんな小さな幼虫。

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 餌の葉を食べる時だけ、巣から出てきます。

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 蛹化したての蛹もまた、美しいです。

 どんだけきれいかというと、こんなです。

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蛹化して間もないアオバセセリの蛹

 しばらくすると、蛹は白くなります。

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白くなったアオバセセリの蛹

 そして羽化。

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アオバセセリ成虫の翅は光の当たり方で、青や緑に輝きます

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恒例の指乗せ。セセリの仲間で指乗せしたいと思うのはアオバセセリだけかも

 完全なえこひいきです。他のセセリたちにも愛を注いでほしいものですね。

ベランダのミカンに発生したアゲハは生きるべきか死ぬべきか、それが問題

〇ベランダのミカンに発生したアゲハは生きるべきか死ぬべきか、それが問題

 都会にはナミアゲハが多いですね。ミカン、ナツミカン、キンカンなどの柑橘類が庭木や公園の木として植えられているからです。我が家の近くも、下町風の細い路地には、軒先から道路にはみ出すように植木鉢がたくさん並んでいる家が多く、その中にはたいてい1本はミカン科の木があります。

 街中を飛ぶアゲハの姿は心安らぐもの。虫たちが生きていく空間がまだ、都会にも残されているんだなとホッとします。。

 しかしそれは、アゲハが他人の家のミカンの木に卵を産む場合だけ。他人の家のミカンの木が、アゲハの幼虫に食い荒らされて、ボロボロになって、果ては枯れてしまっても、さして気になりません。たかがアゲハの幼虫ぐらいで枯れることはないだろうと、軽く考えている人もいるでしょうが、それは大間違い。

 ちょっと気を抜いていると、数日間のうちに、アゲハ蝶は10個、20個ぐらいの卵を産み付けていきます。ミカンの木が大木ならばたいしたことはないかもしれませんが、路地のミカンはほとんどが、せいぜい2メートルほどの小さな木。卵や若齢幼虫ならともかく、終齢の大きな幼虫が、20匹も、30匹も発生したら、あっという間に葉はほとんどなくなってしまうのです。

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 自然が豊かなところでは、そんなことは起きません。寄生蜂、寄生蝿、イモムシを餌にするアシナガバチなどがうじゃうじゃいて、アゲハの幼虫を駆除するからですね。100個の卵の1%が成虫まで生き残れば御の字らしいです。

 1匹のメスのアゲハ蝶が産む卵の数は、200個ぐらいらしいので、このうち2個以上生き残れば、♂♀同数だとすれば計算上生息数は維持されることになります。

 しかし、都会では自然のバランスが崩れているので、アゲハも大量発生する年もあれば、非常に少ない年もあって、その天敵も安定発生しません。天敵が非常に少ない場合には、産み付けらたアゲハの卵のほとんどが、大きな終齢幼虫になるという自然界では考えられないことが、都会ではよく起きるのです。

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 話を元に戻します。例えアゲハの幼虫が大量発生しても、他人の家のミカンの木なら、ボロボロになろうが、枯れてしまおうが、気になりませんが、自分の家のミカンの場合は大問題なのです。かわいいアゲハも親のかたきのような憎き存在になるのです。

 わが家はマンションの中層階なので、ベランダのキンカンに産卵されることは少なかったのですが、今年の夏はマンション大規模修繕で、地上の駐車場脇に植栽の移動を強いられました。このため、毎日のようにアゲハが飛んできて、卵を産んでいくのです。高さ1メートルちょっとの小さなキンカンの木なので、幼虫が10匹もいれば、すぐに裸にされてしまいます。

 仕事が忙しく、数日放っておいたら、もう小さな幼虫が10匹も発生していて、かなり葉が食い荒らされていました。なるべく卵のうちに駆除してきたのですが、見落としがかなりあったようです。

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アゲハに襲撃された、わが家の小さなキンカンの木

 卵を削り落とすのは、なぜかさほど罪悪感がありません。人の人工中絶とは全く話が違いますが、命という点は共通しているのかもしれませね。人工中絶にも妊娠22週未満でなければならないという制限があり、それ以降の中絶は堕胎罪に問われる可能性があるようです。

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キンカンに産み付けらたアゲハの卵

 たかがアゲハですが、卵はともかくとして、幼虫を駆除するのは気が引けます。しかしわが家のキンカンが枯れるのを見過ごすのはもっと気が引けます。仕方なく、幼虫をプラ容器に保護し、近所の公園の大きなミカンの木から葉を拝借して、育てることに。

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こんな幼虫が大量発生して、わが家のキンカンはボロボロに

 ただのナミアゲハです。小学生の自由研究じゃあるまいし、大の大人がナミアゲハを育てるなんて、生物学者でもない限り、普通は考えられません。

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蛹になりかけのアゲハの終齢幼虫

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蛹になりました

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もうすぐ羽化

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プラケースの底に落ちてしまった蛹も、もうすぐ羽化

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落ちた蛹は羽化しやすいよう、棚に貼り付けました。親心ですね。

 そして、幼虫は終齢になり、蛹になり、羽化。そうなると、なぜか寂しいのです。親心のようなものですね。子供が独り立ちするのは嬉しいはずなのに、なぜか悲しい。

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落ちた蛹から出てきた蝶は、羽が伸びるのに時間がかかってちょっと心配

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だいぶ翅が伸びてきましたが、まだまだクシャクシャ。

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あと一息

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羽化不全かと心配しましたが、ここまで来ればもう大丈夫。


 「今度はわが家のキンカンではなく、ほかの家のミカンに産卵しろよ」と言い聞かせて、野外に放しました。

東京都心でカブト対クワガタの真昼の決闘(と言うほど格好良くない)に遭遇

〇東京都心でカブト対クワガタの決闘に遭遇

 大都会東京の真ん中にある新宿御苑でカブトムシ対ノコギリクワガタの決闘に遭遇してしまいました。

 まずはカブトムシに遭遇。と言ってもメスばかりです。メスを4匹見つけたところで、オスはどこへ消えたのか探してみると、足もとににカラスに襲撃されたと思われる死骸が転がっていました。総じてオスの方が寿命が短いのは、昆虫全般、あるいは生物全般に言えることなので、すでにオスの最盛期は終わったのかもしれません。

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クヌギの樹液酒場のにぎわい

 その上、ここ新宿御苑は大型のノコギリクワガタが非常に多いので、カブトのオスは日々ノコギリとの闘いに明け暮れて、早死にするのかもしれません。男たちの世界は厳しいのです。男たちの生きざまは悲しいのです。そしてメスたちは、オスの死を悲しむこともなく、せっせと産卵にいそしむのです。

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カラスに襲われたのか、こんな姿になってもまだもがき苦しむカブト

 餌場争いの闘いが激しいクヌギ林では、生き残ったカブトムシのオスは少ないに違いないと判断した昆虫記者は、シラカシの林に向かいます。樹液のおいしさからすると、クヌギは高級クラブ、シラカシは場末、ガード下の酒場といったところでしょうか。

 それにシラカシの樹液は根元から出ることが多いので、天敵のカラスに見つかる可能性が小さいと思われます。場末の酒場でちびちびやっているカブトの方が、結果的に長生きするというのは、貧乏人の昆虫記者にとっては、嬉しい逸話です。

 そして、ついに、安酒場で飲んだくれているオスのカブトムシを発見しました。つきあってくれるメスもいない悲しい酒ですね。

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一人寂しく場末の酒場で飲んだくれるオスカブト

 何となく親近感を感じて、すぐそばに寄り添って写真を撮っていたら「男は一人で酒を飲みたいときもあるのさ」という感じで、さびしいカブトは席を立ってしまいました。

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1人にしてくれ、と去っていくオスカブト

 しかし、移動した先が悪かった。カシの木の裏側にも小さな酒場があって、カブトはそこへ移動しようとしたのですが、何と先客がいたのです。

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はしごした酒場には、ガラの悪い先客が

 それも女連れ。顔を泥だらけにした荒くれ者風の大型のノコギリクワガタのオスが、傍らにメスをはべらせていい気持ちになっていたのでした。

 

 ノコギリクワガタのオスが牙を振り上げると、カブトのオスはすぐに戦意を失って、退散です。ノコギリのオスには守るべき相手がいる。それに対し、カブトのオスは、いい格好を見せる相手がいないのです。勝負の行方は火を見るより明らかなのでした。

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カブト対ノコギリの対決はあっさりノコギリの勝利に

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メスを守るノコギリクワガタ♂は戦意旺盛

 ちょっと格好悪いカブクワ対決を見た後は、熱帯温室を覗きます。なにせ500円の入園料を払っているのですから、一番値が張りそうな施設である温室に行かないと、大損をした気分になります。温室もガラガラで、昆虫記者以外は1、2組しか入場者はいませんでした。やはり500円は一般庶民にとっては相当な痛手なのでしょう。

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新宿御苑の熱帯温室は週末なのにガラガラ

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温室の見ものはウツボカズラ。色々な種類がそろっています。

 その後、新宿三丁目駅近くのQQタピオカで豆腐スイーツとでも言うべき豆花(トウファー)を買って帰りました。

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 なぜ今豆花なのか。それは、次の海外虫旅行の目的地が台湾だからです。日本と本場台湾の味を比べてみたいと思ったのです。食の大国の台湾で虫探しだけと言うのはもったいないですからね。それに台湾は温泉王国でもあります。虫旅に食と温泉も加えた欲張りな旅をもくろんでいるのです。

東京都心でノコギリクワガタの決闘を目撃

 東京都心の新宿御苑ノコギリクワガタの決闘を目撃しました。田舎では夜の森を懐中電灯片手に散策していると、よく見かける光景ですが、都会の真ん中で見たのは初めて。メスをめぐる本気の決闘で、ちょっとドキドキしました。一人の女性をめぐって、男たちが命をかけて戦うって、西部劇ぐらいでしか目にしませんよね。それが目の前で展開されているのです。たかが虫同士の争いですが、ストレートな感情表現で感動的ですね。

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ノコギリクワガタのオス同士の決闘。東京都心で見たのは初めて

 新宿御苑は午前9時開園なので、夜行性のクワガタの決闘を目にする機会はほとんどありません。ところが運よく、今回の決闘の場は大きな木の、ほの暗い洞の中。こういう場所では、昼間でも密やかな愛の儀式や、恋の相手をめぐる暗闘が繰り広げられているようです。

 

 大きなオス同士が牙をぶつけ合って格闘しているのを、小さなメスは少し離れて見守っています。オスの争いに口出ししないのが、クワガタ界のルール。決闘の勝者がメスを獲得するという単純な構図が、潔くていいですね。

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小さなメスは決闘の行方を冷静に見守る

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 決闘中の2匹のオスを見比べると、どう見ても右下のオスの方が体が大きくて、牙も立派で強そうです。ついつい判官びいきで小さい方のオスを応援してしまいますが、自然界は弱肉強食。たいていは、力の強い者が支配者となるのです。

 

 体力のない昆虫記者は、クワガタに生まれなくて本当に良かったと思います。人間なら、意中の女性を口説くのに、金やら、経歴やら、親の七光りやら、イケメン度合いやら、体力以外に色々と手段があるのですが、クワガタの世界では戦闘能力だけが優劣を決めるのです。もちろん、昆虫記者は体力以外の手段においても、たいていの競争相手より劣っていて、特にイケメン度合いは全く勝負にならないのですが、それでも色々と口先でごまかすことが可能です。

 子供の頃、運動会が本当に嫌いだった昆虫記者としては、戦闘能力のみで結婚や人生が決まってしまう世界は最悪です。

 

 しかし、意外なことに、東京都心でのノコギリクワガタの真昼の決闘は、どう見ても不利な、小柄なオスの勝利に終わったようです。

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意外や意外、小さい方のオスが決闘の勝者に

 小さい方のオスがメスの上に覆いかぶさり、交際の権利を主張。大きい方のオスはいったん引き下がってしまいました。小さい方のオスは体力では劣っても、攻撃のテクニックで上回ったのかもしれません。

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決闘に勝利し、メスを我が物にした小さい方のノコギリクワガタのオス

 しかし、いったん引き下がった大きい方のオスは、しばらくするとまた近寄ってきました。メスがよほど魅力的なのか、それとも図体の大きなオスがよほど諦めが悪いのか。

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諦めの悪い大きい方のノコギリクワガタ♂が戻ってきた

 三角関係の今後の展開が懸念されるところではありますが、いつまでもクワガタごときの恋のバトルに付き合っていられない(日が高くなって熱中症の危険性が高まってきた上、藪蚊が汗のにおいに引き付けられて吸血に来ている)ので、次の現場に移動することに。

 

 クワガタは日が昇ると、クヌギや樫の木の樹液酒場を後にして、土中にもぐることが多いので、朝方は木の根元近くでごそごそしている姿をよく見かけます。

 あちこちから樹液が染み出た木の根元で、大型のノコギリクワガタのオス2匹と、超小型のノコギリクワガタのオスが鉢合わせしていました。

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木の根元にはノコギリクワガタのオス3匹が集合

 

 大型のオス同士は険悪な雰囲気。そこへバカな小さいオスが近寄って行きます。こんなところで喧嘩をしてもしかたないのですが、オス同士は顔を合わせれば喧嘩をするが本能のようで、ここでも小競り合いが起きていました。

 メスの奪い合いでも、樹液の奪い合いでもない無益な喧嘩は避けた方がいいですね。たとえクワガタであっても、無駄に命を落としてはいけません。

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ここでも喧嘩が始まりました

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 昆虫記者が仲裁に入って、3匹を引き離しました。まあ実際は、喧嘩の仲裁という口実で、牙を振りかざしたオスの雄姿を接写しようとしただけなのですが。新宿御苑は採集禁止なので、写真を撮った後は木にもどしてやります。

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喧嘩の仲裁を口実に大型のノコギリクワガタ♂の雄姿を接写

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 大型のノコギリクワガタのオスは、男の子たちを夢中にさせる魅力を持っています。この雄姿が見られる豊かな自然が、大都会の真ん中にいつまでも残ることを願わずにはいられませんね。

 

 最後は中型のノコギリクワガタ♂がメスを敵から守り抜く、愛情溢れる平和な情景です。

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オスに守られて安心して樹液を吸うメス。

 ♂たるもの、男たるもの、常にこうありたいものです。オスに守られて安心して樹液を吸うメスの様子が心を打ちますね。

 

ハイパーインフレをタマムシの金運で乗り切る

 梅雨が明けたら突然の猛暑。1日中、外で虫撮りなんかしていたら、虚弱体質の昆虫記者は間違いなく熱中症で倒れるでしょう。「夏こそ昆虫の季節なのに、弱音を吐いてどうする」と昆虫の神様の厳しい声が聞こえてきますが、死んでしまっては元も子もないので、午前中だけ近場に出かけることに。

 今回の目的地は新宿御苑です。びっくりしたのは入園料の高さ。何と500円もするのです。前に来た時はたしか200円だった気がします。ついに日本もデフレを脱却して、ハイパーインフレの時代に入ったようです。

 これなら、年間パスポート(2000円)を買った方がお得。年に4回来れば元が取れるのです。あるいは、シニア料金が適用される65歳になるまでは、来ないようにするか。

 とてつもない値上げのせいか、猛暑のせいか、土曜日なのに園内の人影はまばら。外国人がちらほらいるだけで、日本人はほとんどいません。

 500円の衝撃は貧乏人には非常に大きいものです。何一ついい虫が取れなければ、大損した気分になります。かと言って、元を取るために1日中園内の歩き回っていたら、絶対に熱中症で倒れます。

 早めにいい虫が出てきてくれることを祈るだけです。

 すると、昆虫記者の声が天に届いたのか、倒木の上に、キラキラと輝く虫の姿が。おお、あれこそは、金運をもたらすという伝説の虫。と言うほど大したことはありません。結構都内にも普通にいるヤマトタマムシです。

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東京都心にも多いタマムシ

 玉虫厨子とか、玉虫色とか、持ち上げられている虫なので、かなり珍しいのでは、と思っている人もいるようですが、都心でもある程度の規模がある公園なら、たいていタマムシが生息しています。

 明治神宮新宿御苑、代々木公園にはかなりの数がいます。昆虫文学少女の新井麻由子ちゃんによれば、靖国神社にも毎年たくさん出現するそうです。

 エノキが好物ですが、都内にやたら多い木のケヤキやサクラにもいるので、幼虫が食い込めるような古木がある公園や神社なら、ほぼ確実にタマムシが生息しています。

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最高気温35度。猛暑の日の虫撮りは午前中だけにしないと命取りに

 タマムシをあまり見かけないという人は、恐らく暑さに弱い人です。タマムシが好物のエノキの周りをブンブン飛び回るのは、真夏のカンカン照りの日が多いので、暑さをものともしない、勇敢なる虫好きだけが、毎年のように出会えるのです。最近昆虫記者がタマムシと出会う機会が少ないのは、昼間は冷房がないと生きていけない体になっているからです。

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太い倒木の近くで待っていると、タマムシが産卵にやってくる

 美しいタマムシに迫る魔の手。

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 と言ってもポーズだけです。新宿御苑は生き物の採集が禁止なので、金運にめがくらんでも、タマムシをつかまえてはいけません。

 

 危険を察知したタマムシは、ブブーンと飛んでいってしまいました。タマムシは重々しい見た目にもかかわらず、非常に良く飛びます。近づくとすぐに飛んで逃げるので、遠くから望遠で写真を撮っておいてから、徐々に近づくことをお勧めします。

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ボケボケで何だか分かりませんが、タマムシが飛び去る姿です

 今回はタマムシの写真が撮れたので、500円の入園料の衝撃も幾分緩和されました。その後、ノコギリクワガタやカブトムシもたくさん見つけたので、なんとか元が取れたかもしれません。カブト、クワガタは次回に紹介します。

 たぶん、今年はもう2度と新宿御苑には来ないと思うので、もったいぶって、ネタを小出しにすることに。だって、もう1回来たら、合わせて入園料1000円ですよ。皇居東御苑とか、明治神宮とか、代々木公園とか、葛西臨海公園とか、どこも無料なのに、この値段はきつい。

〇変顔でエゴイストの虫と言えば

〇変顔でエゴイストの虫と言えば

 若者の街、渋谷原宿は、変顔でエゴイスト(エゴノキが好み)の虫の季節を迎えていました。言わずと知れたエゴヒゲナガゾウムシ、別名ウシヅラヒゲナガゾウムシですね。

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うわっ、何これ、と言いたくなるほど変顔のウシヅラヒゲナガゾウムシ

 ウシズラは、エゴの葉を巻くエゴツルクビオトシブミ、長い口をエゴの実に突き刺すエゴシギゾウムシと合わせたエゴ3兄弟の虫の中で、一番遅く出てくる末っ子のような存在です。末っ子は要領のいい世渡り上手が多いですが、ウシヅラヒゲナガゾウムシのオスは非常に屈折した変な顔をしています。

 

 メスは平べったい顔ではありますが、人並みで愛嬌があると言ってもいいでしょう。

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ウシズラヒゲナガゾウムシのメス。平べったい愛嬌のある顔

 しかし、オスは頭上に飛び出た角のようなものの先に目玉が付いていて、人間的基準からは、お世辞にも「イケメンですね」とは言えない風貌です。

 さほど目玉が飛び出ていないオスは、「まあちょっと、個性的なお顔ですね」程度の変顔です。

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エゴの実の上に乗るウシズラヒゲナガゾウムシのオス。エゴの実に付いた食痕も変顔に見える

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この程度の変顔は、個性的と言って済ませることもできる

 しかし、極端に目玉が飛び出たのもいて、そうなると、要望についてコメントするのもはばかれる雰囲気になります。

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鈴なりのエゴの実の上に、目玉の飛び出た後ろ姿を発見

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こちらに向かって歩いてきた超変顔のウシズラヒゲナガゾウムシのオス

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ここまで変顔になると、容姿のコメントを躊躇します

 でも昆虫界や野生動物界では、こういうオスの特異な形状が際立っていればいるほど、男らしいと評価されるようなのです。

 変顔の極みのようなウシズラヒゲナガゾウムシのオスは、実はメスにもてもての超イケメンなのです。変顔、変顔とからかわれてきたウシズラのオスが何だかちょっと、うらやましくなりますね。