虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

犬の顔を持つ猫、あるいは犬と猫の合成生物?

 今回は、ほんとうにどうでもいいネタです。

 ある日、息子が携帯で、ご近所の動物写真を撮ってきました。

 「可愛い猫がいたから見て」と携帯画面を見せます。息子の言う「可愛い」はいつも「どこが可愛いのか、理解不能」のことが多いので、昆虫記者と妻は「またか」という感じで、画面をのぞき込みました。

 

 「何言っての、これ、犬じゃん」というのが、妻の第一声。息子の審美眼には、大きな疑いを抱いてきたのですが、ついに犬と猫を見間違えるほど錯乱してきたかと思いつつ、昆虫記者も携帯の写真に見入ります。すつるとやはり、それは「犬じゃん」。

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小さな画面で、離れたところから見たら、ビーグル犬のキョトンとした顔に見えました

 しかし息子が「違う、違う、猫だよ」と言い張るので、よくよく目を凝らしてみてみると「猫じゃん」。

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ちょっと解像度を上げてみると、犬ではないような

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もっと解像度を上げると

 猫のお尻の模様がビーグル犬の模様になっていたのです。猫の尻尾も、まるでビーグル犬の垂れ下がった耳のようなのでした。

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全体像はこんなです。この前かがみの姿勢も、お尻の犬の顔を際立たせていたのですね

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普通に歩き始めたら、普通の猫でした

 しかし、昆虫記者も妻も一瞬で、お尻の模様がビーグル犬そっくりと気づいたのに、写真を撮った当人は全く気付いていないとは、どういうことなのか。これは、審美眼がどうのこうのというよりも、ずっと深刻な問題のようです。

昆虫写真家・森上信夫氏の新著は世のヘタレな人々のバイブル

 昆虫写真家・森上信夫氏の新著「オオカマキリと同伴出勤」は、これまで読んだ虫系の本の中で「一番の感動の書」でした。などと言うと、どんなすごい「大発見と大冒険」の書なのかと期待する人がいるかもしれませんが、全くその逆なのです。

 虫好きで、なおかつ相当にヘタレな人々(昆虫記者のような人です)が読むと、「そうか、ヘタレでも、それなりに素晴らしい人生が送れるのだな」と納得し、暗くわびしい未来に、一筋の光明が見えるのです。

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昆虫写真家・森上氏の新著はヘタレのバイブル

 

 森上さんとは何度も虫撮りでご一緒しているので、ある程度ヘタレであることは知っていたのですが、これほどのヘタレとは。昆虫記者もヘタレ度ではだれにも負けない自信があったのですが、何事にも上には上があるものですね。完敗です。ヘタレ度で負けたというのは、悲しむべきなのか、喜ぶべきなのか、微妙なところです。

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ご一緒した時の森上氏。森上氏は常に重装備のため、動きは昆虫記者の方がやや俊敏

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後方が森上氏。いつもこの長靴姿。ファッション的には昆虫記者が若干優位。

 森上さんは、平日の昼間はサラリーマン。平日夜と休日だけ、プロの昆虫写真家。そのことだけでも、既に相当なヘタレですね。プロを自称(本格昆虫図鑑の写真もたくさん撮っているので本当にプロです)しながらも、昆虫写真だけで食べていく(かなり厳しい生活になるようです)勇気がなく、なかなかサラリーマンから足を洗えない。それが足かせとなって、季節と時間の制約が大きい昆虫生態写真はいつも綱渡り状態。それはもう、涙無くして語れないほどの、挫折と失敗と苦労の連続です。それでも何とか、昆虫写真家として、それなりの(本人は謙遜していますが、昆虫記者から見ると雲の上の人です)名声と成功を手にしているのは、奇跡と言えるでしょう。

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森上さんの案内で見つけたタケウチトゲアワフキ

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キンケノミゾウムシの食痕と蛹室。森上さんはこういう変なものが好き

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森上さんが見つけてくれたコブシの新芽に擬態するオオアヤシャク幼虫

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森上さんの案内で見つけたミイデラゴミムシ。100度以上の高温の毒ガスを発射する。

 新著の最初の方、休日のホタル撮影で不審者扱いされ、女性に悲鳴を上げられたのは笑えました。産卵直前のオオカマキリの出産を遅らせるため、職場に連れていって、ストレスをかけ続けたのは、サラリーマンの悲哀ですね。そして1人でマレーシアのジャングルに行く度胸がなく、冒険派の写真家に同行してもらい、現地での英語のやり取りに全くついていけなかったというエピソードでは、昆虫記者は勝った(ヘタレ度では負けた)と、ドングリの背比べ的感覚を味わったのでした。

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森上さんの新著の中のマレーシアの昆虫写真

 ちなみにこのマレーシアの話で出てくるA氏は昆虫記者で、M子ちゃんはこのブログでも時々登場する昆虫文学少女の麻由子ちゃんです。昆虫記者は度胸と勇気では麻由子ちゃんに負けていますが、ヘタレ度では勝っています。ヘタレ度=森上氏>昆虫記者>麻由子ちゃん。度胸と勇気=麻由子ちゃん>昆虫記者>森上氏。という方程式ですね。

新宿3丁目駅から徒歩5分で憧れのヤマトタマムシに会える

 大都会東京の繁華街新宿には、大型の虫の中ではピカイチの美しさを誇るヤマトタマムシがたくさんいます。新宿3丁目駅で地下鉄を下車して徒歩5分ほどで、もう昆虫天国の新宿御苑に到着です。

 

 タマムシは、虫と植物の関係・新宿御苑編のフィナーレを飾るにふさわしい虫ですね。

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ヤマトタマムシは、上羽を広げた時だけ見える柔らかい腹部まで、完璧に着飾っています

 タマムシ成虫の餌になる植物として一般的なのはエノキですね。でもエノキはどこにでもある木で、かなりの大木になります。そしてタマムシは、カンカン照りの日にエノキの上の方の日当たりのいい場所を飛んでいることが多いので、写真に撮るのは至難の業です。

 

 なのでエノキにやってきたタマムシの写真は、苦労して撮った過去写真です。これも都心での撮影です。

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エノキに食事に来たタマムシ

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 タマムシの写真を簡単に撮りたい人は、伐採木置き場に行くのが得策です。わりと太めの広葉樹(エノキ、ケヤキ、桜などが好みですが、クヌギ、コナラにもよく来ます)の材が多い所で、これまたカンカン照りの日にじっと待ち続けていると、熱中症になる頃にたいてい2、3匹は目撃できることでしょう。

 

 タマムシの仲間は、前羽(鞘翅)を広げた際に見える柔らかい腹部まで、キンキラです。今回は羽の下の腹部までよく見える写真(冒頭の1枚)が撮れました。奇跡の1枚とはこのこと。さすがプロ(誰が?)ですね。

 

 タマムシは表(背中)側だけでなく、ひっくり返した裏側も無駄にきれいです。ひっくり返すとたいてい死んだふりをするので、裏側の写真を撮るのは、プロ(誰が?)でなくても簡単です。

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タマムシはひっくり返した裏側も無駄にきれい

 そして今回は、もう1種類、新宿御苑の植物と虫の関係を語りたいと思います。

 

 卵、幼虫、蛹、蛹の抜け殻をご覧ください。これで何の虫か言い当てる事ができたら、あなたも立派な虫屋(だれも立派な虫屋になりたいとは思わない?)です。

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ある虫の卵

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ある虫の幼虫孵化シーン

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ある虫の孵化直後の幼虫

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ある虫のかなり成長した幼虫

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ある虫の蛹

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ある虫の蛹の抜け殻

 ジャガイモ、ナスなどの大害虫として、農家に嫌われていると言えば、ピンと来た人も多いでしょう。

 

 そうです。ニジュウヤホシテントウですね。でも畑のない都会では、ニジュウヤホシは害虫どころか、益虫と呼んでもいい存在なのです。ナス科のいやらしい雑草のイヌホウズキやワルナスビなどをボロボロにしてくれます。

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正解はニジュウヤホシテントウでした

 特にトゲトゲで繁殖力の強いワルナスビは名前からして悪い茄子ですから、ニジュウヤホシは「悪者退治の正義の味方」ですね。なーんて言っても、どこからも拍手は聞こえてきません。なにせ、どこにでもいる、目立たない、超雑虫のニジュウヤホシですから。ニジュウヤホシが大好きなんて人は、虫好きの中でも聞いたことがありません。

 「タマムシまででやめておけば良かったのに」という落胆の声が聞こえてきます。失敗しました。

真夏の夜の夢、幻想世界に浸るならセミの羽化に勝るものなし

 真夏の夜の昆虫幻想世界と言えば、蝉の羽化の右に出るものはないかもしれません。セミヌードと表現した人(メレ山メレ子さん)もいたように、非常にセクシーでもあります。しかも深山幽谷に赴く必要もなく、近所の公園(小さめの桜が多いところがベスト)で、幻想的なショーを無料で十分堪能できるのです。

 コロナ禍で夜のライブショー、ライブコンサートに行く機会が激減しましたが、このセミヌードのライブショーは出演者が全部昆虫で観客が異常に少ないなので、コロナ感染の心配はまずありません。

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ミンミンゼミとアブラゼミが絡み合う妖艶なセミヌードショー。あまりにアクロバティックでハラハラします。

 まずは冒頭の写真で紹介したミンミンゼミとアブラゼミの妖艶な絡みのシーンです。何と羽化中のミンミンゼミの上にアブラゼミの幼虫がよじ登って、羽化を始めてしまったようです。間抜けで傍若無人なアブラの行為に、ミンミンは迷惑顔ですね。

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上の緑色のがミンミン、下の茶色のがアブラ

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妖艶なセミの羽化ショーの舞台はこんな所。低い枝がある桜の木がベストの観察場所です

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羽が透明になってきたミンミン。アブラの重みに耐え切れれば、もうすぐ羽化完了。

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どう見てももう限界。ミンミンはアブラもろとも落下寸前。

 結局ミンミンはアブラの重みに耐えきれず、2匹そろって地面に落ちてしまいました。かわいそうなので、拾って2匹とも気に戻してやりました。なんと優しい昆虫記者(って、普通そうするだろ!)。無料で妖艶なライブショーを見せてくれたことに対する、ほんのお礼の気持ちです。

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落下したミンミンとアブラを木に戻してやりました。

 羽化に向いている場所というのは、ある程度決まっているようで、蝉の幼虫の多くの抜け殻(不完全変態なので紗蛹にはなりません)が集中している場所があります。それが今回のミンミン、アブラの転落事故の一因となったようです。

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別の木で羽化していたアブラゼミ。白い羽が産着のようですね。

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羽化に人気の場所があるようで、幼虫の抜け殻(空蝉)は一か所に集中することが多い。

 だんだんと緑色を濃くしていく羽化直後のミンミン、白い羽が美しい羽化直後のアブラ。それに対して、ニイニイゼミは、羽化直後にすでに立派なニイニイゼミになっていて、ちっとも幻想的ではありませんでした。

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ちっとも幻想的でないニイニイゼミの羽化

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すこしでも幻想感を出そうと苦労する写真家

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なんか普通になってしまうニイニイゼミの羽化写真

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羽化直後でもすでに立派な普通のニイニイゼミ

 それでもニイニイの羽化をあえて評価するとすれば、それは泥だらけの幼虫と、新鮮なセミの対比でしょう。地上に出てきたニイニイの幼虫は湿った場所が好みのせいなのか、幼虫表面の材質のせいなのか、泥だらけで非常に汚いです。あえて美点を探すとすれば、泥だらけで働くかつての炭鉱労働者のような逞しさがあると言えるかもしれませんね。

新宿御苑の植物と虫の関係を捜査

 誰からも捜査依頼がないのに、新宿御苑の虫と植物の関係の捜査開始です。まずはエゴノキで、♂のウシズラ(牛面)が有名なエゴヒゲナガゾウムシを捜索します。

 

 いました。下でエゴノキの実を食べているのが♀、上でそれを見守っているのが変顔の♂です。

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エゴノキの実で熱愛デート中のエゴヒゲナガ(ウシヅラヒゲナガ)ゾウムシ

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 ♀はたぶんこれから実の中に産卵するのでしょう。エゴの種の中にいるエゴヒゲナガゾウムシの幼虫は、釣り餌になるチシャ虫です。まだ釣り餌として使ったことはないので、釣果は保証できません。エゴにはエゴツルクビオトシブミとエゴシギゾウムシもいますが、まだエゴシギはここで確認していません。

 

 クワの木には、常連のキボシカミキリがいました。もっと大型のクワカミキリも、時々ここで見かけます。そしてイヌビワでも初めてキボシカミキリを見つけました。イヌビワはイチジクの仲間なので、キボシカミキリの植樹の1つらしいのですが、東京では圧倒的にクワかイチジクが人気で、イヌビワは非常食のようなものかもしれません。以前にキボシカミキリがカナムグラに群れているも見たことがあるので、かなり環境適応能力が高いカミキリと言えそうです。

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クワの木に多いキボシカミキリ

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初めてイヌビワで見つけたキボシカミキリ

 マテバシイ(大砲ドングリ)の幼木に卵を産みに来たのはムラサキツバメというシジミチョウ。幼虫は葉を丸めた中にいて、たいていはアリの群れと一緒に暮らしています。アリに甘い汁を提供する代わりに、アリに身を守ってもらっているらしいのですが、はた目には単に意地悪なアリにいじめられているように見えます。

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マテバシイに産卵するムラサキツバメ

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芸術の域に達しているムラサキツバメの卵

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アリにいじめられているように見えるムラサキツバメの幼虫。実は結構仲がいいらしい。

 近い仲間のムラサキシジミは、アラカシが好きで、マテバシイにいる幼虫はたいていムラサキツバメです。

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こちらは尾状突起がないので、ムラサキシジミ

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ムラサキシジミはアラカシに産卵することが多い

 ツユクサに一番多いハムシは、地味なキバラルリクビボソハムシですが、時々形は同じでも色柄が違うのがいます。それは、アカクビボソハムシという別種。

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ツユクサに一番多いハムシはキバラルリクビボソハムシ

 今回御苑で見かけたアカクビボソハムシはツユクサの上で交尾していたので、オスメスともアカクビボソと分かりますが、違う場所でばらばらに見つけたら、種別判定に迷いますよね。だからこそ、虫と植物の関係の捜査が重要なのです。顔写真だけを頼りに犯人を捜したら捜査が難航するのは必至。犯人が立ち寄りそうな場所を張っている方が、効率がいいですよね。

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ツユクサの上で交尾していたアカクビボソハムシの夫婦

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上の♂と下の♀は全く模様が違うが、どちらもアカクビボソハムシ

 しかし、今回の犯人は地味なやつらばかりでした。痴漢、コソ泥の類ですね。続編はもう少し、見栄えのいい犯人を追いかけたいと思います。

新宿御苑の巨大リュウゼツラン開花。数十年に一度の花を咲かせて枯死する壮絶な生涯。

 カブト、クワガタ、タマムシなどで有名な(?)新宿御苑ですが、ここは植物観察にも貴重(虫より植物がメインという意見もあります)な場所です。

 

 8月8日に訪れた際には、アオノリュウゼツランが開花していました。テキーラの原料としても有名なアロエの巨大版のような植物ですが、そのサイズは超ビッグ。花を咲かせるための塔のような花茎は10メートル近い高さにもなります。しかも、開花するのは数十年に一度で、花を咲かせた後は、龍の舌のように強靭に見えた株全体が枯れてしまうというのです。これは見逃せない生命の大イベントですね。生きている間に御苑での次の開花を見られるかどうか分からないのです。

 

 7月下旬に訪れた際には、下の方の花がようやくほころびかけた段階でした。8月8日には、下の方の花は枯れて、中間部分が花盛り、最上部はまだつぼみという感じでした。中間部分が開花している今が満開ということかもしれません。

 

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7月下旬の新宿御苑リュウゼツラン。まだ下の葉も元気いっぱい。

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左端の写真を撮っている人と比べると、リュウゼツランの大きさが分かる

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7月下旬は一番下の花がほころびかけた段階だった

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8月8日の新宿御苑リュウゼツラン。中間部分が満開に。葉は既に枯れかけている。

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満開のリュウゼツランの花

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最上部はまだ開花待ち


 「昆虫記者がなぜ植物?」。バカを言ってはなりません。植物の知識なくして、昆虫なしと言われるほど(誰もそんなこと言ってない)、虫探しに植物の知識は欠かせないのです。

 

 ついでに、新宿御苑温室のウツボカズラ。これは食虫植物ですから、虫との関係大ありですね。

 

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 そして、本格的に虫と植物の関係に踏み込んでいきましょう。まずは小手調べに、あまりにも小さくて、ほとんど誰も気づかないけれど、実はなかなかに個性的な「タバゲササラゾウムシ」です。名前からして個性的ですね。毛の束がササラのようにびっしり生えているゾウムシということのようです。

 でも、まずはササラからして分からないですね。ササラ(簓)とは、竹や細い木などを束ねた道具で、洗浄器具、楽器、大衆舞踊の際の装身具などにもなるらしいです。勉強になりますね。

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タバゲササラゾウムシ。これだけ毛深いゾウムシも珍しい。

 クエスチョンはこのタバゲササラ(束毛簓)ゾウムシがいる植物です。だいたいササラも分からないし、タバゲササラゾウムシなんて、聞いたことも、見たことも、興味も何もないという人が99.9%なのに、餌の植物が何かなんて、質問すること自体が無意味ですね。なので、あっさり紹介しましょう。ここ新宿御苑では、クワ科のカジノキです。郊外の森では、圧倒的にヒメコウゾが好物のようです。

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カジノキやヒメコウゾにこんな食痕があれば、葉裏にタバゲササラゾウムシがいる

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葉を裏返すとすぐにポトリと落ちるタバゲササラゾウムシ。たまたま下の葉の上に落ちた交尾中のカップルです。

 また分からないですよね。カジノキとかヒメコウゾとか。実は和紙の原料として有名なコウゾは、このカジノキとヒメコウゾを掛け合わせたものらしいのです。勉強になりますね。そして、このヒメコウゾは野山ではクワと同じくらいたくさん生えていて、その実はクワの実よりもおいしい(個人の趣味によります)ので、是非来年の初夏には食してみて下さい。ちょっとベタベタして、糸を引くので、クワの実が腐っているのかと勘違いする人もいるかもしれませんが、勇気を出して食べてみましょう。間違って、本当に腐ったクワの実を食べてしまった人については、昆虫記者は責任を負いません。

 

 最後は帰りに見かけた満開の花のような新宿タイガーマスクさんです。新宿の平和のために今も頑張っているんですね。

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新宿タイガーマスクさん?

 

多摩ニュータウンは虫好きのための街?ゼフとオニアシナガゾウムシ

 車を廃車にしてからは、電車で簡単に行ける昆虫スポットの探索に努めていたのですが、今年の夏はサンリオピューロランド多摩ニュータウンで有名な多摩センター駅周辺をしつこく探索しています。去年は鎌倉周辺を執拗に探索したのですが、東京都民が他県へ足を延ばすのは、コロナ禍の今はためらわれます。このあたりは町田市と八王子市の境。つまり東京都なのです。コロナ危機以降、まだ都外に出ていないって、律儀ですよね。小池都知事に表彰してほしいものです。

 

 まずは、多摩センター駅小田急線に乗り換えて1駅の唐木田駅から、よこやまの道を経て小山田緑地を目指します。ゴルフ場開発が進んではいるものの、畑も多く、里山の雰囲気も濃厚で、昆虫濃度もまずまずといった感じでした。最初に訪れたのは6月下旬。

 

 カブト、クワガタといった派手な虫の登場はまだ先の季節だったので、今回は地味ながら、異様な存在感を誇るオニアシナガゾウムシあたりから始めようかと思います。でも彼らだけではあまりに地味なので、ギリギリ間に合った平地のゼフィルスも援軍として登場します。

 

 オニアシナガゾウムシを探すなら(わざわざ探す人はほぼ皆無)エノキの立ち枯れを見つけることです。今回は比較的新しい伐採木に山ほど群れていました。

 

 何と言ってもオニアシナガゾウムシ見どころは♂の長い前足ですね。この前足を使って、♀を押さえ込んで、一気に交尾に持ち込みます。ワルですね。顔つきもかなりワルです。

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オニアシナガゾウムシの♂。長い前足は主に交尾の最に役立つようだ

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おしとやかな♀に背後から迫る変質者風のオニアシナガゾウムシ♂

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そして一気に交尾に持ち込む

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エノキの伐採木の上は、オニアシナガゾウムシの社交場

 これでカブクワぐらい大きかったら、見ごたえも迫力もあって、テナガコガネみたいに人気になったかもしませんが(顔が悪いから無理か)、なにせ体長1センチ前後と小さい。それに枯れ木や倒木など、薄暗い環境にいることが多くて目立たない。これでは決してスターダムに上り詰めることはできないでしょう。永遠に日の目を見ない雑虫ですね。

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オニアシナガゾウムシ♂は顔もワル風

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 ということで、ちょっとは花を添えないといけないので、ゼフィルス(樹上性のシジミチョウ)です。もはや季節終盤だったので、ボロばかりですが、オニアシナガゾウムシよりは、見栄えがいいでしょう。容姿差別と言われそうですが、相手は虫ですから、どんなに差別しても構わないのです。

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ウラナミアカシジミ

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アカシジミ

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ミドリシジミの♀

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 小山田緑地への行き方も簡単に紹介します。

 

 私の住居は都営新宿線沿線なので、京王線乗り入れ列車の橋本方面行きで京王多摩センター下車。

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多摩センター駅。虫好きが住むには絶好の緑の多い町だ

 小田急線に乗り換えて唐木田まで1駅です。

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サンリオキャラクターだらけの通路を通って

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小田急線に乗り換えて

 唐木田からは下の地図で、よこやまの道方面へ。

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今回は「現在地」から小山田緑地方面へ

 今回は小山田緑地へと脇道に入りました。このあたりは、小山田の道とか、からきだの道とか、よこやまの道経由で長池公園とか、昆虫濃度の濃い散策路がたくさんあるので、飽きることがありません。

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小山田緑地までの道は右は農地、左はゴルフ場

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ゴルフ場の中を縫うように散策路が続く。

 ゴルフ場がなければ、もっと虫が多いはずなのに、などと嘆く者は極めて少数派。いつの日か、昆虫愛好家がゴルフ人口をしのぐようになって、ゴルフ場が昆虫広場に変わってほしいものですね(誰もそんなこと望んでないぞ)。