虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

梅雨時の楽しみのカタツムリには右巻きと左巻きがあるって、知ってっても何の役にも立たない

 明日は関東も大雨らしいです。とっくに梅雨入りしていると思っていたら、関東はまだらしいので、明日こそ梅雨入り宣言かも。

 

 と言うことで、雨の日の楽しみのカタツムリ探しです。ただ探すだけでは芸がないので、ここで一つ、虫好きならたいてい知っているうんちくを一つ。ほとんどの巻貝は右巻きで、カタツムリも例外ではなく、たいていは右巻き(渦巻きを正面から見ると時計回り)です。でも、関東地方などにはヒダリマキマイマイという、左巻き(反時計回り)の変わり者のカタツムリがいるのです。それも大型で目立つし、結構数も多い。

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これは先日埼玉で見つけたヒダリマキマイマイ。正面から見ると渦巻きが反時計回りですね。貝の開口部が左側に来ます。

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大型のカタツムリの中では一番多く見かけるミスジマイマイは右巻き。渦巻きが時計回りになってますね。

 そんなこと知ってたって、なんの役にも立たない、と思う人も多いでしょう。確かに、役に立ちそうにないですね。でも、カタツムリって、結構女子に人気じゃないですか。ということは、雨の日の相合傘デートの時に、アジサイの葉の上なんかにカタツムリを見つけて、「ねえねえ、知ってる?。カタツムリって右巻きと左巻きがあるって。左巻きの貝って珍しいから、四葉のクローパーみたいな幸運のご利益があるかも」なんていう会話ができるかも。

 

 そして、たまたまヒダリマキマイマイを見つけたりしたら、「うわー、ラッキー!。神様が二人の愛を祝福してくれてるのかも」なんて、愛の告白をするのもいいでしょう。(先に紹介した通り、関東では結構ヒダリマキが多いので、こうなる確率は高い。先にヒダリマキを見つけておいて、現場に仕込んでおく手もあり)。

 

 でも、相手の女子がカタツムリに全く興味を示さず、「何つまらないことではしゃいでるの。ばっかじゃない。あんた、つむじが左巻きなんじゃないの」とか言われても、昆虫記者は責任を取りません。

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晴れの日のヒダリマキマイマイ

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晴れの日のミスジマイマイ(右巻き)。

 ちなみにつむじが左巻きだと、つむじ曲がりのひねくれ者、変わり者とか、よく言われますが、日本人は特に左巻きの人が多いらしいので気にすることはありません。

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以前撮った東京のヒダリマキマイマイです。

 

厳しい冬を乗り切り、最晩年に鮮やかな青い姿に変身するホソミオツネントンボ。人間の女性なら、美魔女のような存在ですね。

 成虫越冬した虫はたいてい、子孫を残したら春から初夏にかけて、色落ちしてボロボロになって、死を迎えます。悲しいですが、それも自然の掟ですね。ところが、成虫越冬した後に、美しいカラフルな姿に変わる掟破りの虫がいます。ホソミオツネントンボです。人間の女性でいえば妖しい美魔女のような存在ですね。でもホソミオツネントンボの場合は、特にオスの青色が鮮やかです。

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冬を越して、地味な茶色から鮮やかな青へと変身するホソミオツネントンボ

 8月ごろ羽化した新成虫は茶色です。その目立たたない茶色の姿のまま、木々の小枝につかまって冬を越します。そして春を迎えると、茶色の体色が鮮やかな青に変わるのです。劇的ですね。こんな虫は、ほかにいないのではないかと思います。

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真冬のホソミオツネントンボはこんなに地味。まるで枯れ枝のようにじっと動かない。

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いると信じて探さないと絶対見つからない冬のホソミオツネントンボ

 成虫の寿命は1年ぐらいのようなので、成人した後、老年期、最晩年に入って、美貌に拍車がかかるという、不思議な人生、虫生ですね。寄る年波ともとに近年容姿の劣化が著しい昆虫記者としては、うらやましい限りです。

 

 トンボは特に好みの虫ではないのですが、このホソミオツネントンボにだけは強い思い入れがあるのは、こうした波乱のドラマのせいでしょう。

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毎年ホソミオツネントンボの越冬を観察している公園

 

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夏のホソミオツネントンボは、森に近接した田んぼに多い。

 

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冬の姿を知っているだけに、この青が一層目にしみて、感動の涙が流れます(嘘)。

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 今回訪れたのは、毎年のように越冬を観察している公園です。ここは森の周囲に田んぼが広がっていて、ホソミオツネントンボにとっては絶好の環境です。森で冬を越した後、水が張られた田んぼで、早苗の中で恋と産卵の季節を迎えるのです。こういう環境、昔は東京でもたくさんあったんだろうなと、つい昔の風景に思いをはせてしまいますね。

イチモンジチョウの越冬幼虫を見つけるのは至難の業?

 もう初夏だと言うのに、今頃イチモンジチョウの越冬幼虫の話です。単に怠けてアップし忘れていたのです。そしてあまりにも地味で目立たない越冬姿なので、時機を逸するとアップする気力が失せてしまったのでした。でも先日、昆虫写真家の森上信夫さんとご一緒した近場の虫撮りで、イチモンジチョウの終齢幼虫に出会ったので、この機会を逃すと、もはや永遠にアップできないと思い、意を決して(と言うほどではないですが)アップすることに。

 

 まずは、越冬のための家づくりです。食草のスイカズラ(忍冬)の葉に切れ込みを入れて、下の方を筒状に巻いて、その中で寒さをしのぎながら越冬します。

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越冬用の家作りに励むイチモンジチョウの若齢幼虫

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 これ見つけるの結構大変なんです。何年も探していて(バカですね)昨年11月に多摩丘陵でやっと見つけました。イチモンジチョウは珍しい蝶でも何でもないし、越冬幼虫は超地味だし、こんなの探している人はよほどの暇人ですね。

 

 忍冬の葉を巻いた中で、冬を忍ぶというのは、俳句のようで風情がありますね。忍冬というのはスイカカズラから作る生薬の名でもあるようです。ちなみにスイカズラの名は、花を下から吸うとおいしい蜜が味わえるからとか。さらにちなみに、英語名のハニーサックル(honeysuckle)もたぶん、蜜を吸うという同じような意味から来ているのでしょう。こういう知識を振りかざす「うんちくオヤジ」は、誰からも好かれません。

 

 越冬態勢の幼虫がなかなか見つからないのは、スイカズラが多すぎることが一因でしょう。これは超普通種のヤマトシジミの幼虫を、野原のカタバミで見つけるのが難しいのと一緒ですね(と言っても誰からも共感を得られないのは当然。誰もヤマトシジミの幼虫を探さないからです)。

 

 何はともあれ、ついに念願の(バカですね)イチモンジチョウの越冬態勢の幼虫を見つけたのでした。

 

 しかし、ここから越冬用の家(越冬巣などと呼ばれます)を完成させるまでは、相当な時間がかかりそう。日も暮れかけてきていたので、寒空の下で観察を続けるなど、とてもできません。

 

 しかし何と、周辺を探すと、都合のいいことに、すでに完成した越冬巣があったのです。何という幸運。虫撮りの先々で神社があれば必ずお参りして、お賽銭を入れてきた(いつも5円か10円、ときどきけちって1円)信心が、こういう時に報われるのです。

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完成したイチモンジチョウ幼虫の越冬巣。独特の食痕のある葉の近くを探すと見つかるかも

 筒状の越冬巣の中を覗くと、完全に越冬態勢に入ったイチモンジチョウの幼虫がいました。

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越冬巣の中には幼虫らしき姿が確認できる

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確かに幼虫だ

 

 これだけではあまりにも地味すぎるので、成長した幼虫、蛹、成虫の姿も載せておきます。ハリセンボンのような顔の幼虫、デビルマンのような蛹は、結構見ごたえがありますよ。

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まずは先日森上さんと見つけた終齢幼虫

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ハリセンボンのような顔も、イチモンジチョウ幼虫の魅力

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デビルマン的なイチモンジチョウの蛹(裏側)

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蛹の表側はツタンカーメンの棺を思い起こさせる?

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成虫はこんなです。下の過去記事のリンクをご覧ください。

 

  若齢幼虫の独特の食痕や糞塔作り、羽化の様子は過去記事をご覧ください。

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貞操帯とシースルー。成人向けの話ではありません。ウスバシロチョウの話です。

 スプリングエフェメラルのウスバシロチョウ(ウスバアゲハ)の季節は、そろそろ終わりですね。先週の高尾のウスバシロチョウはもう、ボロボロのばかりでしたが、若いころより、熟年になって魅力が増すこともあります。ウスバシロチョウの場合は、もともと鱗粉が少ないので、熟年になると羽がますますシースルーになってきて妖艶です。ステンドグラスのようにも見えますね。

 

 そしてもう一つ、発生後期になると、ほとんどの雌はお尻に大きな袋を付けるようになります。これは、雄と交尾した際に、雄に(無理やり?)付けられる交尾嚢(のう)というもので、不倫を防止する貞操帯のようなものらしいです。ギフチョウなんかも交尾嚢を付けるようですが、ウスバシロチョウのように目立つ貞操帯も珍しいでしょう。

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ウスバシロチョウ♀のお尻の先には貞操帯(左)。発生後期になると羽のシースルー感が増してくる(右)。

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雨上がりだったので、羽が濡れて飛べなくなっていたウスバシロチョウ

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飛べないのをいいことに、失礼してお尻の先を見ると、やっぱり交尾嚢がありました。中空になっているけど、これで貞操帯として役に立つのか疑問。

 ほかの虫の夫婦関係は定かではありませんが、交尾嚢の付ける蝶は、基本的に一夫一婦制で、浮気はなく、しかも交尾は一生に一回だけということですね。清く正しくて良い行いですが、人間に置き換えて考えると、少し残念、少し悲しい気もしますね(一般論です。個人的感想ではありません)。

 

 何年か前に自分が書いた記事を見ると、交尾嚢のことを、もう少し上品に「結婚指輪」なんて言い方をしてました。人間、品の良さが大切ですね。

 

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アサギマダラ幼虫、東京の野外で越冬できることを確認。さすが研究者。

 毎年のように1、2匹、アサギマダラを自宅で羽化させてきましたが、これまでは冬に見つけた幼虫を室内で飼育するという過保護な扱いでした。幼虫が凍え死にしないようにという親心からなのですが、そうすると逆に、蝶が生きていくには寒すぎる2月末とか3月とかに羽化してしまうという、むごい仕打ちになったりします。

 そこで今回は、心を鬼にして、厳寒期もベランダの鉢植えで野ざらしにすることに。東京都区部でアサギマダラが幼虫越冬できることを確認するというのも、昆虫学者(誰が?)の責務ですね。なーんちゃって、実際は、ほったらかしが一番楽だからです。

 

 1月半ばの孵化したばかりの小さな幼虫時代は、こんなんで厳しい冬を生き抜けるのかと、本当に心配(うそ)したものです。

 

 そして結果は。パンパカパーン。4月後半に見事羽化しました。

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アサギマダラは東京の野外で幼虫越冬できる

 1月半ばの様子はこんなでした。鼻くそみたいに小さい、頼りない幼虫です。

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矢印のところに小さな幼虫がいます。黒い穴は食痕。

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こんなんで厳寒の東京の冬を生き抜けるのか

 しかし、3月半ばになってベランダのキジョランの鉢植えを確認すると。ドドドーン。きれいな組み紐のような立派な幼虫になっていました。

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アサギマダラの終齢幼虫。野外でほったらかしのため、この間の観察はすべてはぶきました。

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キジョランの鉢植え。ベランダに3つほどあります。

 なぜ1月半ばから3月半ばまで、タイムラインが一気に飛んでいるのかというと、その間全く観察記録をとっていなかったからです。研究者(誰が?)の風上にも置けない姿勢ですね。こうして完全に放っておかれたにもかかわらず、3月下旬には蛹になりました。

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3月下旬のアサギマダラの前蛹

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蛹化したばかりのアサギマダラ

 4月中旬になると、蛹の様子に羽化が近いことを示す変化が。

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何となくもうすぐ羽化しそう

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横から見ると、うっすらと羽の模様らしきものが。

 慌てて室内に移動させると、その後数日で見事に羽化しました。

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羽の模様がくっきりしてきました。

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蛹の写真はこのあたりの段階が撮り頃。この後は真っ黒になっていく。

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4月下旬に羽化したアサギマダラ

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恒例の手乗りアサギマダラ

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再びベランダに移動。

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このあとどこかへ飛んで行きました。

 風に乗って何百キロも旅をすることで知られるアサギマダラですから、高尾か奥多摩あたりまで飛んで行けること(たぶん無理)を期待して、大空に飛び立たせてやりました。めでたし、めでたし。パチパチパチ。

 

どくろ顔のろくろ首と吸血卵

 うわー、出たー。そろそろ夏らしくなってきたので、怪談です。今頃の野山では、髑髏(どくろ)顔のろくろ首が、あちこちから首を出していて、簡単に怪談気分が味わえますね。ご存知、ヒロバトガリエダシャクの幼虫です。

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どくろ顔のろくろ首のようなヒロバトガリエダシャク幼虫。レイバン(サングラスのブランド)と呼ばれることもあります

 かなり数が多い芋虫なので、下草や木々のひこ生えを眺めて歩くと、結構な確率で見つかります。

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こんな感じでろくろ首が顔を出します

 そして昨日は、そのどくろ顔のろくろ首が、生き血を吸い取られ、干物になって、糸で吊るされているという、さらに身の毛もよだつ怪談の現場に遭遇しました。

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干からびてさらし首になったろくろ首。上の卵型の物体は恐らく寄生蜂の繭

 下の干からびているのが、たぶんヒロバトガリエダシャクの幼虫の遺体。その上にある卵のような物体は、たぶん幼虫の生き血を吸い取った寄生蜂の繭です。

 

 恐怖のあまり、ページを閉じようとしている人がいるかもしれないので、口直しに、今頃ご近所でも出会う可能性のある身近な宝石系の虫をアップします。

 

 ここ数日に見つけたアカガネサルハムシとアオハムシダマシです。玉虫色のアカガネサルハムシは、ブドウの害虫なので、ノブドウなどブドウの仲間の植物で見られますね。皇居東御苑では常連で、浜離宮でも見かけたことがあります。

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アカガネサルハムシ(左)とアオハムシダマシ

 これで気味悪い系の虫のおぞましい記憶が払しょくされるといいのですが、既に手遅れかも。

ツマキアオジョウカイモドキ、名前が長い虫はたいてい小さい

  この季節、あちこちで見かけるけど、小さくてチョコマカと動き回って、よく飛ぶので、撮りにくいツマキアオジョウカイモドキの飛び立つ瞬間が撮れたので、アップします。場所は葛飾区の水元公園ですが、結構どこにでもいます。

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鞘翅の先の黄色い紋がアクセントのツマキアオジョウカイモドキ

 ジョウカイモドキの仲間では、ツマキアオジョウカイモドキのほかに出会ったことがあるのは、ヒロオビジョウカイモドキだけです。きれいな虫ですが、これも小さい。

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ヒロオビジョウカイモドキ

 ジョウカイモドキの仲間は♂の触覚に特徴があるらしいのですが、これまであまり意識したことがなくて、♂の写真が全く撮れていません。次回は♂を探さねば。

 

 それにしても、名前が長くて、書くのも面倒、読むのも面倒、どこで区切っていいのかよく分からないですね。そもそも、常人にはジョウカイって何?って感じなのに、そのモドキですから、何が何やらですね。

 

 ついでに、水元公園で見かけたコウモリ。公園のトイレとかでよく昼寝しているやつですね。たぶんアブラコウモリという種類かと。コウモリは、新型コロナとか、SARSとかの感染源と疑われているので、この時期見かけるとちょっと怖い。

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たぶんアブラコウモリ。目立つところにぶら下がっていることも多い。

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顔を撮ってみました。新型コロナの感染源かもと思うとちょっと怖い。