虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

田園調布でカブトムシ探し。まさか本当にいるとは!

 昨日は超高級住宅街の田園調布で、昆虫文学JDの真由子ちゃんのお母さんとの虫探しでした(今やJDの真由子ちゃんは試験勉強で忙しく参加できず)。なにせ田園調布なので、大した虫はいないと高をくくって、ほとんどの時間は付近のオシャレなレストランと喫茶店で、あたかも田園調布の住人のように(とてもそうは見えないでしょうが、気分だけ)、ぜいたくな時を過ごし、その合間に1時間ほど多摩川台公園を散策。「まさか、カブトとかクワガタとかはいないよね」などと冗談を飛ばしていたら、真由子ママが何と、本当にカブトムシを見つけてしまいました。

田園調布の森でカブトムシ発見。

 ちょっと羽化不全で下羽がはみ出していましたが、立派な角を持った大型のオスでした。すごいぞ田園調布。

ちょっと羽化不全でしたが、立派な角の大型のオスカブトでした。

 キマダラセセリがたくさんいたので、ついでにイネ科の葉を巻いた中にいるはずの幼虫を探してみました。

キマダラセセリの写真を撮る真由子ママさん。

 記憶にあるイチモンジセセリ、チャバネセセリと違う顔の幼虫を見つけたので「きっとこれがキマダラセセリの幼虫ですね」などと無責任なことを言ってしまったのですが、翌日に脱皮すると、あれあれ、チャバネセセリ幼虫の顔に変わってしまいました。真由子ママさん、すいません、嘘を言いました。

脱皮前はこんな顔だったセセリ幼虫。

翌日脱皮したら、あれあれ、見慣れたチャバネセセリの顔になりました。

 ついでにもう一つ嘘の告白です。エゴの木の虫こぶを、エゴネコの手と教えてしまいましたが、あれはエゴネコ足です。

 猫の手も借りたいとか、招き猫とか、猫と言えば手の印象があったので、ついネコの手と言ってしまいました。すいません。

エゴネコアシ。猫の手ではありません。花のようですが、虫こぶ。中にはエゴネコアシアブラムシがいます。

多摩川台公園アジサイの名所のようで、いくつものグループが撮影に来ていました。

 

握り寿司?いいえ、シロシタホタルガの幼虫です。

 緑のバランの上に乗った握り寿司?。ネタは卵に海苔にトビコあたり?。いえいえ、これはサワフタギの葉に乗ったシロシタホタルガの幼虫です。おいしそうですが、食べてはいけまんせ。毒があります。

カラフルでおいしそうな握り寿司?いえいえ、シロシタホタルガの幼虫です。

 シロシタの幼虫はカラフルで可愛いので、探していたのですが、そもそも主な食樹のサワフタギのある公園が少ないので、かなりご無沙汰でした。しかし、今年は5月下旬に千葉市の公園で、サワフタギを発見しました。

 うれしいことに、サワフタギの葉の上には、例の握り寿司が乗っていたのです。幼虫の季節は最終盤のようで、繭が幾つか見られ、幼虫は丸々と太った終齢幼虫でした。

 驚いて身を縮めた姿がまた可愛い。裏返すと、頭が肉の中に埋もれて、これまたチャウチャウ犬のようで、愛らしい。

驚いて身を縮めたシロシタホタルガの幼虫。

裏返しになったホタルガ幼虫。チャウチャウ犬のようで愛らしい。

繭になっているものも多かった。

 しかし、この幼虫をあまりいじめてはいけません(もうすでにいじめてる)。ホタルガの仲間の幼虫は、いじめられると体表から毒液を染み出させるからです。この体液に触れるとかぶれるそうです。

 成虫は上から見ると、ホタルガと良く似ています。上翅の白い線が高い位置にあって、水平に近いのがシロシタホタルガ、白い線が中央の下に向かってⅤ字型になるのがホタルガです。シロシタの翅は全体に青っぽく、ホタルガの翅は真っ黒。

シロシタホタルガ成虫(左)とホタルガ成虫(右)

 でもシロシタホタルガとホタルガの最大の違いは、シロシタの下翅のかなりの部分が白いこと。ホタルガの下翅は真っ黒です。

シロシタホタルガは、その名の通り、下翅のかなりの部分が白い。ビニール袋に入れて確認。

 シロシタの下翅の白い部分は、裏から見るとよく分かるのですが、ガラス窓にでもとまっていないと、裏を見るのは難しいですね。どうしても裏を見たい人(そんな人はまずいない)は、シロシタを捕まえてビニール袋に入れて観察するのがいいです。

 

まさか!ニジュウシトリバが羽化!あのゴミみたいな幼虫が憧れの蛾になるとは!

 我が家で本日(6月3日)ニジュウシトリバが羽化していました。5月21日に、食痕のある汚いスイカズラの花を発見し、「ニジュウシトリバの幼虫が中に居たりして。まあ、そんなに都合よく物事は運ばないよね」とか思いながら、一応花を確保。その花を割ってみると、中にメイガの幼虫のような小さなイモムシがいました。「まさかね。これがニジュウシトリバの幼虫だったりしてね」とか思って、近くの花と蕾と一緒に持ち帰りました。

 その後はすっかり忘れ去り、その間に花も蕾も枯れて廃棄物状態になっていたのですが、今日プラケースを除くと、ケースの蓋にマダラニジュウシトリバ(旧名ニジュウシトリバ)が張り付いているではありませんか。まさか、まさかの、びっくり仰天ですね。

我が家で6月3日に羽化を確認したニジュウシトリバ。

片方の翅に12本の羽根(フェザー)があります。数えてみて下さい。

 これまでずっと探し続けて、今年正月に初めて公園のトイレで成虫を発見した時には狂喜したものですが、こんなに簡単に、自宅で羽化させられるとは、全く想定外でした。

 幼虫を見た時は、ニジュウシトリバになるなど、ほとんど、全く予想していなかったので(本当は密かに1%ぐらい期待してました)、非常にいい加減な写真しかとっていなかったのが悔やまれます。次の機会には、資料価値がある幼虫の写真を撮りたいと思います。

 プラケースの中には、繭らしきものと、羽化後に抜け殻となった蛹がありました。ネット上を探しても、ニジュウシトリバの幼虫、蛹の写真がほとんど見当たらないので、お目汚しですが、一応アップしておきますね。

たぶんこれがニジュウシトリバの幼虫。スイカズラの花の中にいました。

たぶんこれがニジュウシトリバの繭。

羽化後、抜け殻になったニジュウシトリバの蛹。

 スイカズラがどんな花か知らない人もいるかと思うので、一応花の写真もアップしておきます。野山のあちこちにあるありきたりの雑草です。ただし、こんなきれいな状態の花には、ニジュウシトリバの幼虫はいません。

スイカズラの花。花の蜜を吸うと甘いので、吸い葛。英語でも同様の意味でハニーサックルと言います。

 幼虫がいるのは、穴が開いていたり、すこしクシャクシャになっている花や蕾です(写真は撮り忘れました。すいません)。

 

スミナガシ羽化。口紅を塗ったような真っ赤な口吻で口づけ。

 少し前のことですが、今年も我が家のスミナガシが羽化しました。毎年同じような写真ではつまらないので、今年は真っ赤な口(口吻)に注目してみました。真っ赤な口って、蝶の中ではかなり少ないかも。

口紅を塗ったような真っ赤な口吻が魅力的なスミナガシ。

 いつものように指乗せして、砂糖水で誘ってみます。すると、赤いストローのような口がスルスルと伸びてきました。

スミナガシの真っ赤な口で指先を舐め回されるとゾクゾクしてきます。

 こんな口で指先を舐め回されるのって、ゾクゾクしますね(お前は変態か!)。

 

 スミナガシがどんな蝶か知らない人もいると思うので、一応全身の写真も紹介します。

水面に墨を流したような姿のスミナガシ。

 スミナガシの蛹が枯れ葉そっくりだということを知らない人もいると思うので、一応今年羽化した蛹の写真も載せておきます。

枯れ葉擬態のスミナガシの蛹は、冬の風物詩ですね。

 

 

怪虫ざんまい、虫のオスとメス見分けられますか、昆虫食スタディーズ=献本感謝

 昆虫関係の書は春に出すと一番売れるそうで、今春は色々献本していただきました。昆虫記者がブログで紹介したところで、売り上げにはほとんど貢献しないのですが、いただいた1冊分ぐらいの効果があれば、それで良しとしましょう。

 1冊目は裏山の奇人として知られる昆虫学者、小松貴氏の「怪虫ざんまい・昆虫学者は今日も挙動不審」です。

 小松氏とは極寒の2月に、沢の冷水の中でのヒメドロムシ探しにご一緒しました。その難行苦行の様子を時事ドットコムの「昆虫記者のなるほど探訪」で紹介しているので、どれほどの奇人かは、同記事の行間からもにじみ出ていると思います。

 「怪虫ざんまい」は、非常にマニアック(昆虫学者などという者はたいていマニアック)ですが、UMA(未確認生物)を探す探検・冒険物としても非常に楽しく読めます。

小松貴氏の「怪虫ざんまい」

「怪虫ざんまい」の漫画的な中見出し。虫探しを楽しむ小松氏の行動は漫画的に面白いです。

 2冊目は、昆虫記者の虫撮り仲間、虫友でもある昆虫写真家、森上信夫氏の「虫のオスとメス、見分けられますか」です。

 さすが昆虫写真家という写真の美しさが際立つ一冊です。小中学校で虫博士として名をはせるためには必読の書です。昆虫記者でさえ知らない(浅学なので当然ですが)見分け方が丁寧に説明されています。なお、カバー裏面と10、11ページにあるヒゲコメツキの写真のうち、オスはたぶん昆虫記者が被写体を提供したものだと思います。なので、光栄なことに、協力者一覧の中に昆虫記者の名前(本名)も出てきます。

森上信夫氏の「虫のオスとメス、見分けられますか」

このヒゲコメツキのオスはたぶん、昆虫記者が提供したもの。

 3冊目は、昆虫食の普及に力を入れている異色の昆虫学者、水野壮氏の「昆虫食スタディーズ・ハエやゴキブリが世界を変える」です。

 面白がって虫を食べる(興味を持つという点でこれも非常に大事です)だけでなく、タンパク源としての重要性、生産効率、環境負荷、昆虫食の歴史など、さすがは学者(昆虫記者とは大違い)という的確な情報分析、鋭い考察に満ち溢れた一冊です。昆虫記者お勧めの食材であるヤシオオオサゾムシの幼虫、バラエティー系美人タレントの井上咲楽.さんの好物らしいモンクロシャチホコの幼虫(俗称サクラケムシ、咲楽さんの眉毛とは無関係)なども登場します。

水野壮氏の「昆虫食スタディーズ」

ヤシオオオサゾウムシやモンクロシャチホコも登場します。

 

虫好きにとって銀一(ギンイチ)は銀座1丁目ではなくて、ギンイチモンジセセリです

 銀一(ギンイチ)と言えば、銀座1丁目、それとも銀河特急1号?。虫好きの間では、言わずと知れた(一般人は誰も知らない)ギンイチモンジセセリですね。

 ギンイチモンジセセリは、春に撮ってこそ。夏型はギンイチの名の由来である銀色の一本線がほとんど見えないので、ギンイチであってもギンイチでないのです。

翅裏の銀色の筋が粋なギンイチモンジセセリ

 今年は何とか、多摩川河川敷と荒川河川敷で、ギンイチモンジセセリの春型を撮ることができました。などと言うと、どんなにきれいな蝶なのかと思う人がいるかもしれませんが、大してきれいな蝶ではありません。なにせセセリですから。

4月上旬、多摩川河川敷で撮ったギンイチモンジセセリ

4月中旬、荒川河川敷のススキ原で出会ったギンイチモンジセセリ

翅の表は黒一色で地味の極致のギンイチモンジセセリ

 それでも、銀色の一文字が鮮明な春型は、虫好きにとってはなかなか粋な姿です。でもわざわざギンイチモンジセセリを狙って、多摩川河川敷や荒川河川敷に来ている人は誰もいませんでした。

 ギンイチモンジセセリの今年の撮影場所の1つは荒川沿いの秋ヶ瀬公園でした。カメラを構えたすごい人だかりがあったので、何を狙っているのか尋ねたところ、答えはもちろん「ギンイチ」ではなくて、コマドリとのことでした。

コマドリを撮ろうと群がる人々

はるか昔にロンドンで撮ったヨーロッパコマドリ

 最寄り駅の西浦和でもカメラを構えたすごい人だかりができていまいた。狙いはもちろん「ギンイチ」ではなく、寝台特急カシオペアでした。

寝台特急カシオペアを撮ろうと群がる人々

西浦和駅を通過した寝台特急カシオペア撮り鉄ではないですが、来れば撮る。

 鳥と電車に比べて、虫のなんと人気のないことか。とくにセセリでは、全く勝負になりませんね。バードウォッチャーや撮り鉄の人口はきっと、虫好きの100倍、1000倍ぐらいなのでしょう。もっと頑張って虫を盛り上げないと、と使命感に燃える昆虫記者でした。

 

蜘蛛(クモ)は交尾しないって、どういうこと?

 

 蜘蛛(クモ)は交尾をしません。じゃあ、どうやって繁殖するの?という疑問が生じますね。

 クモの雄はちゃんと精子を雌に受け渡すのですが、その方法が、生殖器同士を接触させる交尾とは違うのです。

  クモの仲間の雄は、腹部から出した精子を、頭部付近の触肢という手のような器官で吸い取り、その触肢を雌の腹部の生殖器に挿入します。これがクモの生殖行為。つまり生殖器同士が接触しないので、この行動を「交尾」とは呼ばず、「交接」と呼ぶようです。まあ、一般的にはこれも交尾の一種ととらえることもありますが、厳密には交接なのだそうです。

ワカバグモの交接。雄が雌のお腹をくすぐっているようにも見えますね。

 何だか、注射器で精子を注入する人工授精みたいで、クモの生殖行為は味気ないなとか思っていたのですが、実際に目にする、それがなかなかどうして、結構エンジョイしている感じでした。

 今回目撃できたのは、ワカバグモという全身若葉色のクモのカップルの交接現場。雄雌ともにお尻から出した糸で空中にぶら下がった状態での交接は、アクロバティックで、かなり技術を要するのではないかと推察されました。

ワカバグモの交接。雄の背中側から撮影。

ワカバグモの交接を雌の背中側から撮影。8本の脚が絡み合って阿修羅像のようですね。

 体の大きい方が雌、小さいほうが雄です。雌は昏睡状態のように体を伸ばし切った状態でほとんど動きません。雄だけがせっせと触肢を動かして生殖行為に励んでいる感じです。

 細い糸に支えられた空中ブランコのような状態なので、激しい動きはできないのでしょう。静かな愛の営みでした。

 昆虫の場合は、雄が不要な単為生殖のものもいますが、大抵は交尾して子孫を増やします。ただ、トンボの場合は、雄が生殖器から副生殖器精子を移してから交尾する(雄雌のお尻の先が接することはありません)ので、クモの交接に近い感じかもしれません。