
贄というのは生贄(いけにえ)のこと。ちょっと恐い。というか、かなり怖いですね。突き刺さった獲物が死に損なって、まだかすかに動いていることもあって、そんな早贄はさらに恐いです。特に、トカゲやカエルの串刺しは気味が悪いので、敢えて凝視したりしないようにしましょう。
しかし、虫記者としては、串刺しになった虫は、仔細に観察しなければなりません。周辺にどんな虫が生息しているのかを知る手がかりになるからです。
モズがなぜこんなことをするのかには、諸説があります。後で食べるため。つまり保存食とも言われます。なるほど、程よく乾燥したバッタ、イモムシなどはうまみが凝縮しているように思われます。干しシイタケとか、白い粉を吹いた乾燥昆布がうまいのと同じ原理ですね。
恐いもの見たさで、毎年探してしまいますが、そう簡単に見つかるものではありません。小さな虫の串刺しは、意外に目立ちません。だからモズ自身も、どこに刺したのか忘れてしまって、獲物がカチカチの日干しになってしまうのでしょう。それはもう食料の姿ではなく、まさに神にささげた贄です。
当然ながら、早贄を作るには、太く長く鋭いトゲがたくさんある木が便利。カラタチなんかは最高です。冬に落葉したカラタチは、針山地獄のようです。眠れる森の美女の城を覆い隠したイバラの茂みを思わせます。モズの餌場の草原の真ん中に、そんな木があれば言うことなしです。
そしてついに、そんな絶好の磔の木を見つけました。荒野の中の磔の木。マカロニウェスタン風ですね。

串刺し、吊るし首など平気でやってのける悪役ガンマンはもちろん、モズです。高鳴きなどしている姿は、悪役の鑑です。


カラタチの木に磔にされて、荒野の風に吹きさらしになっている村人たちの役は、バッタ、イモムシ、ケムシなどの虫たち。





そこへ颯爽と現れるクリント・イーストウッド風の正義のガンマンは、もちろん虫記者です。
しかし、虫記者は、哀れな村人たちを、木から下ろして埋葬してやる…なんて、ことはしません。モズの虫探しの超絶した能力に感心し、ほめたたえ、虫の刺し方などを調査し、バチバチと記念写真を撮りまくります。実は虫記者は、名悪役モズの単なる追っかけファンなのでした。
