虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅③

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅③
◆エラワン7段の滝早分かり
 ここで、エラワンの7段の滝の簡単な説明をしておこう。何せ「タイで一番美しい滝」と書いてしまった責任がある。蝶とビキニの話だけでは「滝はどこへ消えてしまったのか」と、タイの観光当局から激しい批判を浴びることになりかねない。七つの滝は、それぞれに趣が異なり、一つ一つに特徴を示す名前が付けられている。
 滝の名前はタイ語と、その音を表すアルファベットでしか表示されていないので、英語のサイトなども活用して、日本語で説明を付けることにした。何と親切な対応なのだ。ただし、訳が間違っていても、一切責任は取らない。
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 「簡単な説明」と書いたが、これだけ詳しい日本語での説明は、たぶんほかにはないのではないかと思う。さすがは、マニアックな昆虫記者。「そんな説明、何の役に立つんかい」という声もあるだろうが、全くその通りだ。覚えたところで、嫌われ者の「うんちくおやじ」になるだけである。
 一番下の滝は「LAI・KUEN・RANG(元に戻るという意味らしい。静かな川の流れに戻る場所ということだろう)」。
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 散策路のスタート地点から500メートル。木陰になっていて涼しいが、水深が浅いらしく、泳ぐ場所ではないようだ。朝は水浴している人はまだ、誰もいなかった。絶景独り占めである。

 石灰棚の上を緩やかに見ずが流れ下る様子にうっとり見とれるには、このあたりが最適。
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 この1段目へ向かう途中で、左の森の中へと入っていく道があった。「美しい滝なんかどうでもいい、猛暑の中、汗みどろで虫探しだけを貫き通すのだ」という見上げた根性の人は、そちらの道を行くのもいいだろう。
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 「虫捕りなら、こっちの道がいいよ」と、脇道へ誘い込もうとする大型カメムシ

 この周辺にはとてつもなく長い散策路もあるらしいので、挑戦する価値はある。ただ、方今音痴の人は、行方不明になる恐れが大きい。滝沿いの道以外を歩いている人はほぼ皆無なので、救助は期待できない。

◆人の皮膚を食べる魚
 2段目の滝は「WANG・MACHA(魚のいる場所といった意味。文字通り魚が多い)」と呼ばれる。スタート地点から600メートル。1段目と比べて滝つぼが深く広い上、日当たりもいいのでタイ人に大人気で、既に地元の人たちが泳いでいた。泳げない人には、ライフベストを貸してくれているようだ。
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 ここは人も多いが、魚も多い。多いというか、多すぎる。
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 1段目の滝の滝つぼを覗くと、いるわ、いるわ、すごい数の魚。恐怖を感じるほどだ。この大きいのは、ドクターフィッシュではない。日本のハヤ(ウグイ)に似た魚だった。

 そこには恐らく相関関係がある。ここの魚の主食は人の皮膚らしいのだ。エラワンの滝つぼには「ドクターフィッシュ」がいると紹介されていることが多いが、日本の水族館や入浴施設などで活躍しているつくだ煮の小魚程度の類いとは種類が違うようで、かなり大きい。ドクターフィッシュと言えば、足裏の角質などを食べて、美容に貢献してくれる働き者。足裏の水虫まで食べてくれれば、薬用効果も期待できる。
 公園の規則では、魚への餌やりは禁止されている。しかし、人間の皮膚は例外。ここの魚にとっては、人間自体が餌になるのである。魚が好きな人は餌になるために水に漬かった方がいい。そうなのだ。魚たちは今か今かと待っているのだ。美しい水辺の風景につられて人間たちが水の中に入ってくるのを。飛んで火にいる夏の虫、足裏の水虫というわけだ。
 昆虫記者も、魚は嫌いではないので、人肌のフィーディング(餌付け)に挑戦。浅瀬に手を突っ込んでみたら、すぐに小さい魚が寄ってきた。10センチぐらいのも多くいて、かみつかれるとかなり痛い。
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 これがいわゆるドクターフィッシュらしい。ガシガシ噛みついてくるので、結構痛い。

 美容専門の魚としては「大き過ぎだろ」と言いたい。角質はもちろんだが、子供の足の小指ぐらいは食べてしまいそうだ。
 人間と魚の共生、自然と人間の調和がここにある。人は景色を楽しみ、余分な角質を掃除してもらい、足裏をコチョコチョされる快感を得る。
 おっさんの足と金髪美女の足、どちらが好ましいか。人間界では議論の余地がないが、魚たちは公平である。容姿差別など存在しない。むしろ、きれいに手入れされた美しい足より、長年ほったらかしで、あかのたまった足の方が食べ応えがあり、おいしいのではないか。
 周辺には30センチぐらいの魚もうようよ泳いでいる。まさか、指を食べには来ないだろうとは思ったが、痛さと恐怖に耐えられず、すぐに手を引っ込めた。それにしても、人の皮膚やあかばかりを食べている魚は、焼き魚にしたらどんな味がするのだろうか。かなり不気味だが、ちょっと興味がある。
 汚いおじさんの足裏を掃除した魚だと抵抗感があるが、若くてきれいな女性の肌を掃除した魚となれば、がぜん食べてみたくなるのだ。

◆この先は食料持ち込み不可
 2段目の滝より上は食料持ち込み不可で、飲み物は1本当たり20バーツのデポジットを取られる。ボトルのポイ捨てをさせないための策のようだ。持ち込むペットボトルには、マジックで番号が書き込まれ、そのボトルを持ち帰るとデポジットが返金される仕組み。デポジットが惜しければ、ボトルを捨てないというわけだ。
この先はだんだんと傾斜が急になってくるため、さらに上に進む人は、ここでいったん腹ごしらえをしておいた方がいい。
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 水辺のお出迎えはいつものヤツボシハンミョウ。

 ピクニック気分のタイの人々はたいてい、2段目の滝までしか行かない。水遊びが目的なら、ここで十分であり、この先はつらい山道を食料補給なしに登らなければならないからだ。ところが、なぜか西洋人はずんずんと上流を目指す。開拓者精神なのか。彼らは歩くのが好きだ。しかも、疲れを知らない。すぐに座りたがる、寝転びたがる日本人とは大違いだ。家の中でも靴を履いている人々と、畳の上で胡坐をかく人々の違いだ。

 橋で流れを渡って3段目の滝へ向かう。3段目は「PHA・NAM・TOK(岩壁の滝)」。スタート地点から700メートルの距離だ。川の流れが突然崖下に崩れ落ちるような、極めて滝らしい滝である。
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 滝の奥に空間があって、裏側から滝を眺めることも可能だ。滝の下の岩に座って、滝行をすることもできるという。ここもまた、おいしそうな魚が山ほどいる。
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◆鬼女の巨大な乳房
 4段目は「OK・NANG・PHEE・SUE(鬼女の胸)」。タイの叙事詩に登場する「PHEE・SUE・SAMUT」という鬼女の胸を意味する名の滝らしい。確かに二つの丸い岩が、巨大な乳房のように見える。スタート地点から1050メートル。つるつるした丸い岩を利用して観光客が滝滑りを楽しめるところだという。
 この鬼女は、美女に化けてタイの王子をたぶらかし、子供をつくったという。美女の乳房と思って岩を滑り下りるのは快感だろう。しかし観光客が滝つぼに落ちた途端、美女は恐ろしい鬼女に戻って、観光客を水底に引きずり込んで食い殺すかもしれない。
 この鬼女の身の毛もよだつ姿を見たい人は「PHEE・SUE・SAMUT」と入力して画像検索してみるといい。その姿を知ってから滝滑りをすれば、涼しさが一層増すだろう。
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 特定趣味の人にはたまらない巨大な乳房。ただし、不謹慎な欲望を抱くと鬼女に呪い殺される恐れもある。

 このように、それぞれの滝にそれぞれの楽しみ方がある。エラワンを満喫したい人には、すべて試してみることを勧める。

 5段目は「BUAR・MAI・LONG(決して退屈しない場所)」。スタート地点から1550メートル。いろいろな姿の滝が混在していて見飽きないということか。
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 近くに蝶が群れている場所があった。世界最小のかわいいアゲハチョウ「スソビキアゲハ」も何匹かいて、心が和む。
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 蝶と魚がにらめっこをしている場面にも出くわした。雷魚のような貪欲そうな顔をした魚が蝶をにらんでいる。水を飲みに来た蝶が、もう一歩近づいてきたら、水面からジャンプしてパクリと一のみにしようと狙っているのかもしれない。
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 1段目の滝の手前と、この5段目周辺が、一番蝶が多い。歩くことが生きがいのような西洋人に負けじと、むきになって山道を登るよりも、このあたりで、のんびりと時間をつぶすことをお勧めしたい。午前中にここで、もっと蝶の写真を撮っておけばよかったというのが、今回の反省点である。
 滝と蝶のおもてなしは、確かに飽きることはないが、この辺りから疲れがたまってくる。体力の限界は近い。
◆森のある場所に一人たたずむ女性
 6段目は「DONG・PRUK・SA(森のある場所)」。スタート地点から1750メートル。緑に囲まれた、まさに森の中の滝だ。
 木漏れ日の中にシャワーカーテンのように水が降り注ぐ。西洋人女性が一人、滝の前に立っていた。「絵になるなあ」。これが昆虫記者だったら「邪魔だよ邪魔、早くどいて」となるのに。
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 ここにイナズマチョウのメスがいた。ヤマオオイナズマだろうか。オスとは全く違う姿で、夜空に星をちりばめたような模様は、これもまた見事な図柄だ。最初に見たオスとカップルになったら、見事な取り合わせだろう。オスとメスで模様が大きく異なる蝶は少なくないが、たいていはどちらか一方が美しく、他方は地味という組み合わせだ。まるで別種のようで、それぞれに美しいのは、神のみぞなせる業だ。
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 たぶん、この滝の少し下だったと思うが、階段状になった小さな滝の連続を、まさに階段のように歩いて登れるところがあって、この階段を上って6段目に行くこともできるらしい。
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 ただし、水量の多い時はかなり危険だと思う。本格的に滝の写真を撮りにきたと思われるマレー系のカップルが、この滝の階段を上っていた。マレー系の女性は全く肌を露出させていない。かなり暑苦しそうだ。西洋人女性のビキニ姿を何人も見てきた後で、何か不思議な気がする。この滝で十分に休んでおかないと、次の7段目に進むのはきつい。