虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅②

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅②
6月18日(火曜)
◆サイヨークとエラワンはワンセットがお得
 サイヨーク国立公園のホテルに泊まっているのに、なぜエラワンという別の国立公園に行くのか。実はサイヨークとエラワンは隣り合っており、ワンセットと考えてもいい位置関係なのだ。宿泊施設はサイヨーク側に集中しているので、エラワンはサイヨークからの1日観光とする一石二鳥プランを立てたのである。
 しかし問題は交通の便だ。カンチャナブリからならエラワン行きのバスが出ているが、サイヨークとエラワンの間には公共交通機関がない。ホテルのソンテウ(小型トラックを改造した乗合タクシー)を利用する以外に方法がないのである。
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  住み込み従業員の子供たちだろか。朝はホテルから通学用のソンテウが出ていた。

 エラワン1日観光でホテルのソンテウをチャーターすると、午前8時から5時間コースで3000バーツ。これは痛い出費だ。1バーツ3円30銭で計算すると、1万円近い。もっと安くならないか。今は6月。蒸し暑い雨期の閑散期で、ホテルの宿泊客はまばらだから、ソンテウを利用する者はほとんどいないはずだ。運転手と粘り強く、しつこく交渉したが、結局3000バーツは変わらなかった。
 しかし、チャーター時間は8時間ほどに延長できることになった。閑散期ならではの割引だ。運転手も暇なのだ。しかし、そこまで苦労して、エラワンに行く価値はあるのだろうか。それがあるのである。「タイで一番美しい滝」と評判のエラワンの滝を見ずに死ねるか。と言うほどのものではないが、ソンテウ代をけちって後で悲しい思いをするのは嫌だ。
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 しつこい交渉に根負けして割引に応じてくれたソンテウの運転手。

 翌朝8時にホテルを出発し、まずはクウェーヤイ川上流のダムで写真を撮って、9時過ぎにエラワン到着。
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◆観光客値段に不満爆発
 入場料は300バーツ(タイ人は100バーツ)、車は+30バーツ。東南アジア恒例の観光客値段である。まあ、海外旅行できる外国人は、みな金持ちに分類されるのだろうから、高い料金を請求して当然ということなのだろう。しかし、途上国から来た観光客も、同じ観光客値段を要求されるのである。タイ人の観光客で、昆虫記者より高収入の人もたくさんいるに違いない。不条理だ。
 何だか、ぼられている感じがしないでもないが、これは公的機関がきちんと決めた差別料金だから、払わないといけない。
 普通のタクシーとか、飲食店とかでも、観光客はよくぼられるわけだが、そこには、こうした公的観光客値段が影響しているかもしれない。公的機関が3倍の料金を取るのだから、何でもかんでも、観光客向けは、本来の値段の10倍ぐらいふっかけるべきだと考えてもおかしくない。
 いっそ、自国民はただにすれば、すっきりするような気もする。しかし、そうなると、観光地は地元民であふれかえり、外国人観光客が、あまりの人出にうんざりしてしまい、観光地の人気が落ちることになる。
◆日本は外国人観光客を優遇し過ぎ?
 地元割引という考え方ならば、日本の観光地も外国人観光客に、観光客値段を設定し、日本人には安くするべきではないのか。日本政府は、外国人観光客を増やそうと必死だが、観光と無関係の地元の人々や、日本の観光地を訪れる日本人にとっては、あまりに多い外国人観光客は、ありがたくない。日本もこれだけ外国人観光客が増えたのだから、その分、迷惑を被る日本人観光客に、いくらか還元してくれてもいいのではないか。
 箱崎の東京シティーエアターミナルから成田までのリムジンバスは、外国人が1900円、日本人が2800円と、外国人を優遇していた。これはおかしくないのか。日本以外にも、外国人に対してこんな大幅割引をしている国はあるのだろうか。
 しかし、入場料の外国人差別に怒って帰るわけにもいかないし、地元経済に貢献するのも嬉しいので、喜んで(実は渋々)330バーツを支払う。こんなところで、もめて、時間を無駄にするわけにはいかないのだ。昆虫記者には、どうしても急がないといけない理由がある。
◆エラワン観光に出遅れは禁物
 昼時のエラワンは、地元民を中心にともかく人出が多く、大混雑のピクニック広場状態になるという話を聞いていたからである。
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 昼時になると、団体客が次々にやってくる。

 特に土日、祝日のエラワンはすごい人出になるという。さらに4月13~15日のタイの旧正月を祝うソンクラン(水掛け祭り)の際は、本当にお祭り騒ぎになるらしいので要注意だ。祭りは無礼講。バケツで水を掛け合ってバカ騒ぎするには、水に囲まれたエラワンが最高というわけだ。もちろん、バカ騒ぎがしたいという人にとっては、ソンクランの時期がベストシーズンになるので、そういう人は是非トライして、どれほど破廉恥な状況になったか報告してもらいたい。
 あまりにも破廉恥でとても写真など載せられないという状況ならば、昆虫記者も事件記者としての純粋な義務感から現場を視察したいと思う。
 しかし、美しい滝の風景とともに、水辺の蝶(チョウ)を撮るのが、今回昆虫記者に与えられた崇高な任務である。観光客がドッと繰り出してきてからでは、水辺の蝶は追い散らされてしまうだろう。静かで美しい滝の風景も、「観光地は今日も大賑わい。子供たちの歓声が響き渡っていました」のニュース映像のようになってしまう。
静かな美しい滝、水辺で戯れる蝶に憧れるなら、平日の朝を狙うべきだ。タイでは6月には祝日がないから、6月はタイ人にとって観光のオフシーズンと思われる。去年カオヤイ国立公園に行ったのも6月だったが、ホテルはガラガラ、公園内の宿泊施設も閑古鳥が鳴いていた。狙い目は6月の平日の朝。これで決まりだ。
◆完全に出遅れ
 ホテルで尋ねた時には、エラワン公園の開園時間は午前9時と聞かされた。車で1時間ほどの距離なので、8時ごろ出発するのがいいだろうということになった。しかし、実際には、開園時間は午前8時だったのだ。完全に出遅れた。
 8時出発を提案したのは、ホテルの色男マネジャーだった。許せないぞ。蝶が撮れなかったらお前のせいだ。もし、これがメイ嬢の提案だったら、多少の出遅れは全然気にならない。笑って許せる。もしメイ嬢が涙を流して「ごめんなさい」なんて謝ってくれたら、やさしく肩を抱いて「君に涙は似合わないよ」なんて、タイ語で言ってみたいものだ。
 まあ、それはともかく、エラワンの一日は短く、午後3時ぐらいから、一番上の段か順に閉鎖され、午後4時半には完全に閉園になるというから、エラワンへのお出かけは早い方がいい。
◆タイのパムッカレ
 エラワンといえば、滝である。エラワンの滝は、エラワン国立公園の代名詞でもあるのだ。「タイで一番美しい滝」との賛辞が、ネット上にあふれている。当然期待してしまう。ネット上の写真は、素晴らしい景観だ。美し過ぎて声も出ないようなものもある。「タイ」「滝」のキーワードでネット検索すれば、トップからズラリとエラワンの滝が並ぶ。石灰岩の岩肌を滑らかに流れ落ちる滝は、極めて女性的だ。水には石灰が溶けて、滝つぼはエメラルドグリーンに彩られている。
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 昔々、セブンスターというたばこのCMで、トルコのパムッカレの石灰棚の風景を見た。純白の石灰岩が形作る棚田のような風景だった。棚にたたえられた水は、ある時は空を映して青く、ある時は石灰の白い粉を溶かしてエメラルドグリーンに輝く。その上空を飛ぶジェット機の後ろに白い飛行機雲が一筋描かれていく。実に感動的だった。
 エラワンの滝も同じ石灰棚。もしかして、エラワンは「タイのパムッカレ」なのか。日本のベニスとか、日本のスイスとか、そういう例えは、あまり信用できないと思うものの、果たして「タイのパムッカレ」はいかに。
 7段の滝は1500メートルの流れの間に点在し。カンチャナブリでは最大級らしい。ツアーだと、駆け足で2時間ほど。ソンテウの運転手に尋ねたところ、最上段まで行っても1時間ぐらいだという。なんだ、全く楽勝ではないか。
 スタートが遅れた割には、比較的すいている。2段目までは、泳いでいるタイ人がいたが、その先は、まだ人が少ない。無人の滝つぼもあり、人がいても、西洋人カップルが1組ぐらい。なかなかに美しい。これなら「タイのパムッカレ」と呼んでもいいだろう。
 やはり、6月の平日の朝の選択は正しかった。もちろん、公園紹介の公式ページにある写真は、最高のタイミングで、最高の技術で撮ってあるから、写真そのままの天国のような景観を期待してはいけない。ああいう奇跡のような写真は、タイの観光当局と、共犯のカメラマンが仕組んだ詐欺だと思っておいた方がいい。
◆イナズマチョウとビキニの魅力
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 赤や黄色の派手派手しい蝶もいいが、こういうシックな美をたたえた蝶もいいものだ。

 肝心の蝶はというと、最初に出会ったイナズマチョウのオスが、ドキッとするほどきれいだった。派手ではないが、これまでに撮ったどのイナズマチョウもかなわないシックな美しさ。イナズマチョウをあまりきれいと思ったことはなかったが、見直した。こんな輝きを見せるときもあるのだ。
 そしてもう一つ、昆虫記者の目を引き付け、心をときめかせたのが、観光客の水着姿である。
 観光客がエラワンを訪れる最大の目的は、水着になって、滝つぼの池で水浴を楽しむことである。熱帯の日差しの中、清流での水浴。しかも、背景はタイでナンバーワンの美しさを誇る滝である。国立公園としては、カオヤイに次いで2番目に人気のスポットであり、泳げる滝がメインの観光資源であるため、ここを訪れる西洋人の大半は水着を着こんでいるのだ。
◆衝撃のビキニ禁止令
 ただし、残念な点が一つある。滝から滝への遊歩道を歩く際などは、ビキニなどきわどい水着姿は禁止らしいのだ。もちろん昆虫記者の目的は水辺の蝶であり、水辺の水着女性などではないから、ビキニなどどうでもいいのだが、やはり残念だ。
 2012年に、国立公園局が、テストケースとしてエラワン国立公園でのビキニ禁止の通達を出したのである。地元紙は「国立公園でビキニ禁止令」と報じた。「ビキニはだめよ」の看板もどこかに立てられているらしい。
 しかし、完全な禁止ではないようで、記事で紹介された公園関係者のコメントによれば、水泳可能な滝つぼでのビキニ姿は容認されているという。
歩道を歩く際には、ビキニの上に何か羽織ればいいということのようだ。
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 そんなことを調べるのは下心があるからだろうと勘ぐる向きもあるだろうが、どんな取材でも万全の準備を整えるのが記者というものだ。
 ビキニ禁止の理由は、観光客の安全確保と、タイ文化の尊重。安全確保というのは、毒虫やヒルに襲われる危険を減らすという意味らしい。文化尊重というのは、タイの常識に従うということだ。確かにエラワンを訪れるタイ人女性の服装は、しとやかで、慎み深いものが多い。泳ぐときもあまり肌を露出させない。
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 地元タイ人女性は水着でも露出控えめ

 しかも、エラワンは神聖な場所であり、僧侶もよく訪れる。エラワンの名は、ヒンズー教の神話に登場する三つの頭を持つ白いゾウに由来するという。7段のうち、一番上の段の滝が似ているらしい。ヒンズー教と仏教は違うではないかという疑問もあるだろうが、タイではかなり混然一体化している。仏教に登場する神々はたいてい、ヒンズー教に由来しているのである。
◆首なしマネキンの恐怖
 また、遊歩道のあちこちで、きらびやかなドレスや装飾品が飾り付けられた大木を見かける。美しく着飾った首なしマネキンもあって、まるで心霊スポットのようだ。夜に訪れたらさぞかし恐ろしい光景だろう。
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 しかし、これは大木に住むと信じられている木の妖精に捧げられたもの。妖精を喜ばせ、幸運を授かるために、人々が貢物を贈っているのである。
 つまり、きわどいビキニ姿で道を歩くことは、仏教王国タイの公序良俗に反し、神聖な場所を汚し、妖精を怒らせるということだ。昆虫記者にとっては、きわどい水着は嫌悪感ゼロで、むしろ好感度が高いのだが、国によって、また、人それぞれに物の感じ方は違うのである。
◆ビキニ規制の実態は
 そして実態はどうかというと。「オオッ。けっこうきわどいじゃないか」。
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 西洋人女性たちは国立公園局の通達など全く気にせず、堂々とビキニ姿で遊歩道を歩いている。それをとがめる人はだれもいない。規制は有名無実のようだ。もしかすると、心の広い昆虫記者のような人々の間でビキニ擁護運動が展開され、規制が覆ったのかもしれない。
 また目の前をビキニ姿の西洋人女性が通り過ぎていく。「やめてくれ、気が散るぞ。虫なんか撮ってられないぞ。でも嬉しいぞ」。