虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

イモムシ、蛹、羽化シリーズ・クロヒカゲとヒカゲチョウのどうでもいい区別

 イモムシ・蛹・羽化シリーズ。今回はほとんどの人にとってどうでもいい、非常に紛らわしい2種類の蝶の区別です。その蝶は、クロヒカゲとヒカゲチョウ。どちらも日陰者で、一見蛾のように地味で、注目を浴びる事もない、虫好き以外の人々にとっては本当にどうでもいい蝶なので、全く期待しないで見て下さい。

 

 まずは成虫の蝶を並べて観察してみましょう。

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左がクロヒカゲ、右がヒカゲチョウ。ほとんど同じで、遠目には全く区別が付きません。

 写真は典型的なクロヒカゲとヒカゲチョウなので、その名の通りクロヒカゲの方が黒っぽいですが、実際はもっと薄い色のクロヒカゲとか、もっと濃い色のヒカゲチョウとかもいて「うーん、どっちなんだろう」と悩むことになります(普通の人は悩みません)。確実な見分け方は、下羽の眼状紋(目玉模様)の方へと食い込んでいる線が、眼状紋近くまでグッと食い込んでいるのがクロヒカゲで、わずかに折れ曲がっている程度なのがヒカゲチョウというものです。あと、前羽の下の方にある線が2本ならクロヒカゲ、1本ならヒカゲチョウという見分け方もあります。

 

 わざわざ見比べてくれた人には丁重にお礼を申し上げますが、「だから何なんだ。見分けられたからって、何かいいことがあるのか。全くどうでもいいじゃないか」と言われたら返す言葉がありません。

 

 しかーし、虫好きにとっては、これが重大事なのです。特にイモムシ好きにとっては、天と地ほどの差があるのです。

 

 実は成虫がこれほど似ているのに、幼虫は相当に見た目が違うのです。不思議ですよね。まず若齢の時から顔が全く違います。終齢になると、体の色と模様も全く違ってきます。

 まずはクロヒカゲの幼虫です。ヒカゲチョウと同様に笹の葉を食べます。どちらの顔も猫耳系ですが、クロヒカゲはウサギ耳に近いかも。

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クロヒカゲの若齢幼虫。頭が黒っぽくて、角が左右に長く幅広に突き出ています。

 

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ちょっと大きくなったクロヒカゲの幼虫。体が薄茶色に。遅くまで緑色のもいるらしい。

 そしてクロヒカゲの終齢幼虫と前蛹と蛹。

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 これに対してヒカゲチョウの幼虫は、小さいときからあまり様子が変わりません。ずっと緑色(たぶん)で、頭の真ん中寄りに小さい角があって、真上に伸びています。

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ヒカゲチョウの幼虫

 

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ヒカゲチョウの幼虫

 

 ヒカゲチョウの幼虫の中には胴体の左右側面に3つずつの紋が出るタイプもいます。こっちはちょっとだけオシャレ。

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 どうです?。幼虫を見ると、クロヒカゲとヒカゲチョウが全く違う蝶だということが分かりますね。「だから、それがどうした」と言われると、またしてもグーの音も出ないのですが、ともかく違うのです。

 

 ついでにクロヒカゲが羽化したら、黒バックで眼状紋を撮ってみましょう。羽が黒っぽいので、紋の青色が際立って、まるで夜空の星座、星雲のように見えてきれいですね。

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クロヒカゲの眼状紋を黒バックで撮ると、夜空の星のように見える

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 地味なクロヒカゲも撮りようによっては、きれいにもなる。お見合い写真の撮り方のようですね。

 「でも結局は地味な蝶なんでしょ」と言われれば、全くその通りなのですが。