虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑤

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑤
6月19日火曜
 ◆泰緬鉄道で戦場にかける橋へ
 タイのクウェー川には、今も旧日本軍が建設した「戦場にかける橋」クウェー川鉄橋があり、タイ国鉄の南本線、ノーンプラドック=ナムトック支線の列車が橋の上を通っている。戦時中の日本軍の物資輸送路として、突貫工事で完成させた泰緬鉄道。ビルマ・シャム鉄道の一部は、名前を変えて、今も現役で人々を運んでいるのである。
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 かつての戦場にかける橋は、今では一大観光名所。大勢の観光客と、少数の鉄道ファンと、たった一人の昆虫記者の夢のかけはしとなっている。

 普通の観光客はバンコクトンブリー駅)から西進し、クウェー川鉄橋駅へ向かうのだが、昆虫記者は支線の西端に近いナムトック駅から東進し、鉄橋を目指す。なぜなのか。答えは簡単である。虫の少ない大都会のバンコクではなく、虫の多いジャングルが広がるナムトック側に宿をとっているからである。
 それにバンコクからカンチャナブリまでの車窓の眺めは、取り立てて素晴らしいものではない。景色がいいのはカンチャナブリから先、ナムトックまでだ。この区間の列車旅を堪能したいなら、カンチャナブリかナムトックの周辺に泊まるのが望ましい。
 どちらがいいかと問われれば、昆虫記者としては虫の多いナムトックを勧める。しかし、それは「尋ねる相手を間違えた」ということになる。昆虫記者のプランには誰一人として賛同しないだろう。ナムトックの宿は、たいていひどく不便なのである。
 つまり、今回の泰緬鉄道の旅の行程は、常識を備えた普通の人々にとっては、全く参考にならないものなのである。
◆鉄道ファンの聖域を冒す
 現在の終着駅。タイのナムトック・サイヨークノイから先には、ミャンマーに隣接するサイヨーク国立公園がクウェーノイ川沿いに広がっている。すぐ隣、クウェーヤイ川の上流には、7段の滝で有名なエラワン国立公園。昆虫記者などと名乗るならば、虫が多い国立公園内だけを探索すればいいではないか。神聖な鉄道ファンの領域を冒すなど、もってのほかだという意見もあるだろう。
 しかし、目の前にある泰緬鉄道に乗らないというのも、なにかもったいない。大損した気分になる。
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 昆虫マニアには、たいてい鉄道マニアの血が多少なりとも流れているのである。財政上と年齢上の理由から最近車を手放した昆虫記者は、移動手段として、鉄道を多く利用しているから、当然、鉄道マニアの血が濃くなりつつあるのだ。したがって、泰緬鉄道が目の前を走っているのに、それを無視することなどできないのである。
 泰緬鉄道方面に出かけることになったのには、さらに伏線がある。推理小説には必ず、こういうさりげない伏線があるものだ。
 車ではなく列車を利用すると、列車内での暇つぶしに読書をするようになる。さらに、近く定年を迎え、定年後嘱託となるのを機に、窓際から、また別の窓際へ職場移動となり、とっくに忘れてしまった英語の翻訳作業をやることになったので、急遽英語の本なども読み始めたのだ。そして手にした一冊が「戦場にかける橋(THE BRIDGE ON THE RIVER KWAI)」だったのである。
 1冊の本がきっかけで、タイ・カンチャナブリ県に出かける男。そこで殺人事件に遭遇する。サスペンス物のドラマにありそうな筋書きではないか。
 色々と面倒な前振りをしたが、実際には、読書が一つの契機にはなったものの、虫撮りができて、有名な鉄道にも乗れる旅行先としてカンチャナブリが選ばれたという、至極単純なことなのである。別にサスペンス・ドラマ仕立てにする必要もないのだ。
◆未明のナムトック駅
 平日に運行されるのは3等席のみの通常列車だけだ。通常と言うからには、日本の山手線のように、次から次へと列車がやってくると思うかもしれないが、それは大間違いだ。1日2、3往復しかないのである。途中下車するにはかなりの勇気がいる。待てども、待てども次の列車は来ないのだ。綿密な計画が必要となる。ルーズな昆虫記者には、困難な課題だ。いつもの行きあたりばったり戦法は通用しない。
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 バンコクまでの直通は1日2往復しかない。途中駅までの往復を入れても3往復だ。非常に分かりやすい時刻表である。

 サイヨークのジャングルの中のホテルからナムトック駅までは、ホテルのソンテウ(乗合小型トラック)で30分ほど。ナムトック始発の一番列車は、列車午前5時20分発。あとは、午後0時50分発しか選択肢はない。余裕を持つには、午前5時20分発に乗る必要があり、とんでもない早起きを強いられることになった。
 ここで注意が必要な点が一つ。ナムトック線の平日の列車は、路線西端のナムトック・サイヨークノイ駅までは行かない。一つ手前のナムトック駅が始発、終着駅となるのだ。間違って、ナムトック・サイヨークノイ駅で列車を待っていたら、一日中駅で待ちぼうけを食らうことになる。
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 ナムトックの始発列車。外はまだ真っ暗だ。

 昆虫記者には関係ないが、土日祝日には、ちょっと高級な臨時観光列車が、バンコクからナムトック・サイヨークノイ駅までやってくるらしい。戦没者墓地のあるカンチャナブリやクウェー川鉄橋、サイヨークノイ滝を観光する時間も設けられているらしい。すべて「らしい」である。昆虫記の日程は日曜夜から金曜までなので、スケジュール的にこの列車には乗れないのである。たとえ、スケジュール的に可能であったとしても、昆虫と縁のない観光列車には乗らないのである。しかも料金が高いらしい。ナムトック線の普通列車なら、外国人料金はどこまで行ってもたったの100バーツだ。
 ホテルを出るのは、余裕をもって、午前4時半。めちゃめちゃ眠い。が、こういう早朝の時間帯は、虫探しには貴重なのだ。無駄にしてはならない。ホテルでソンテウを待っているわずかな時間に、フロントの照明の近くで、オオゾウムシを見つけた。虫撮りのためなら1分、1秒も無駄にしない。昆虫記者はさすがである。
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 早朝のフロント係はこの巨大ヤモリ「トッケイ」。蛾、蚊、ハエなど嫌な虫を掃除する働き者だ。

 ソンテウでまだ暗いナムトック駅に到着。駅で待っている乗客は、昆虫記者を含め3人しかいなかった。ライトを点灯した列車がホームに入ってくる。乗り込んだ車両は、昆虫記者が独り占めである。
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 この路線は。もともとは泰緬鉄道の一部分だが、今はミャンマーまでつながってはいない。ミャンマーまで乗って行けるなら最高と思っている鉄道ファンは多いだろう。昆虫ファンとしても、熱帯のジャングルの中をタイからミャンマーまで走り抜ける鉄道は夢である。途中駅はすべて、昆虫天国に違いないからだ。
 クウェー川鉄橋駅への到着予定時間は、午前7時12分。帰りの列車は鉄橋駅10時55分発に乗るつもりなので、3時間半以上の自由時間が鉄橋周辺で確保できる。
 ナムトックに12時20分に戻れるから、ナムトック駅からナムトック・サイヨークノイ駅までのんびり歩いて、サイヨークノイ滝で時間をつぶすこともできそうだ。
◆1時間程度の遅れは覚悟
 しかし、後で知ったことだが、列車でタイを旅行する際には、こうした綿密な計画は無駄になる可能性が高い。時刻表とにらめっこをして、ち密な計画を立てたとしても、タイの列車は1時間、2時間の遅れは当たり前なのである。遅れなければ列車にあらずと言わんがばかりだ。
 特にこのナムトック線は、遅れることで有名らしい。土日は観光客が多いため、観光客向けの列車もあり、名所の駅では長い停車時間を取るが、その時間がいい加減らしい。撮影スポットでは、とりわけゆっくりと走ったりするので、どんどん遅れる。しかも運行本数が少ないので、良く言えば、運行に融通が利き、運転手の自由裁量にゆだねられている範囲が広いのだろう。あまり時刻表にはとらわれないようだ。時刻表にうるさい日本の筋鉄にとっては、悪夢のような列車だ。
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 列車にはちゃんとトイレもついている。ボトルに水道の水をためて流すようだ。

 それでは、一体なんのための時刻表なのかと言うと、それは、時刻表に書かれた時間より早く出発することはないという意味の時刻表なのだ。それより遅く出発するのは当たり前なのである。
 日本的感覚でいると、30分、1時間と待たされると、頭に血が上って、「駅員を襲撃」なんてことになりかねない。怒りが爆発して、クウェー川鉄橋を、映画のようにプラスチック爆弾で爆破してやろうなんて、考えてはならない。第二次大戦中なら、橋を爆破してヒーローになれたが、今爆破すればテロリストだ。
 しかし、「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く。日本人は急ぎすぎなのである」なんて言っていると、全然物事がスケジュール通りに進まないのだ。ギリギリの予算、ギリギリの休暇日程の虫旅。日本に帰ったらすぐまた仕事。タイ時間に毒されてしまったら、もう日本時間には戻れない。
◆電車が15分しか遅れない。これは事件だ
 だが、ナムトック午前5時20分の始発列車は、乗客が数人しかいないこともあって、ほとんど遅れもなく、順調に走行していた。
 しかし、サスペンス・ドラマでは、こういう時に事件が起きるのである。バシッ。頬に激痛が走る。狙撃されたのか。走る列車に向けて、銃を発射するとは、ゴルゴ13並みの腕前だ。
 だが、頬の傷はたいしたものではない。銃弾ではなく、木の枝が窓から入り込んだのだった。
 普通列車は、冷房がないので、大きな窓が開け放しになっている。列車と森の間には、ほとんど空間がないから、前夜のうちに線路側に倒れ掛かった草木の枝が、窓枠をバシン、バシンとたたいていくのだ。特に始発列車は、その被害を受けやすいのだろう。窓から顔を出すのは極めて危険だ。
もちろん、昆虫記者は顔を出していたわけではない。窓枠から5センチは離れていたと思う。それでも、枝が顔に当たるのである。
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 タムクラセの木造橋。日本では旧名のアルヒル桟道橋と呼ばれることが多い。

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 タムクラセ橋付近は、崖すれすれを列車が走る。崖側の窓からは絶対に顔を出してはいけない。こういう美しい風景に見とれていると、突き出た枝で負傷することが多い。

 そして、列車は無事クウェー川鉄橋を渡り、たったの15分遅れで、クウェーリバー・ブリッジ(クウェー川鉄橋)駅に到着した。これは事件だ。タイ国鉄の信頼回復だ。まだ午前7時半。この時間だと、観光客はほとんどいない。

異形の蛾フサヤガ

 春が来たと思ったらまた真冬に逆戻り。東京も窓の外は雪景色です。虫記者のような中高年もつらいですが、越冬中の虫もつらいことでしょう。
 
 外に出られないので、今回は1月半ばに見つけた越冬中の変な姿の蛾、フサヤガです。八王子霊園近くを散策中に見つけました。久々の嬉しい出会いです。

 苔だか、ゴミだか、何だか分かりませんが、何かに擬態しているのでしょう。ともかく、あまり虫らしくは見えませんね。
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 一見きたならしい感じですが、指乗せしてみると、かなり芸術感のある姿です。
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 正面から、横から、いろいろな角度から見てみても、実に不思議な姿です。
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 越冬中の虫をもう一つ。常連のアカスジキンカメムシ幼虫です。常緑樹の木の葉の中で越冬しているのを見つけたのは、もしかしたらこれが初めてかも。ツバキの葉が毛虫やクモの糸で丸まった中にいました。こういう場所には、真冬に色々な虫が隠れていますね。
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 今回の場所はアカスジキンカメの冬の定宿と思われます。このツバキの上には、大きなコブシの木が枝を広げていました。コブシにはよくアカスジキンカメがいます。春からの活動シーズンには、コブシの若芽や実から汁を吸って、冬は下のツバキで越冬するという理想的環境。

 初夏になったら、ここのコブシで成虫を探してみたいと思います。でも外は吹雪。暖かい季節はまだ遠いですね。

春近し、テングチョウがお目覚め

 1カ月前とはまた違うフユシャクが見られるかもと思って、再び向ケ丘遊園駅から生田緑地へ。
 そうしたら、まず出てきたのは、蛾じゃなくて蝶。もう春が近いんですね。越冬から早めに目覚めたテングチョウが、日光浴していました。
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 テングチョウが飛んでいたのは、こんな風景の中。
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 フユシャク探しをしていると、寒さが身に染みてきますが、日光浴中の蝶を目にすると、春の日差しの温かさを感じます。人間の感覚は不思議なものです。
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 テングチョウですから、どれほどテングなのか、その鼻の長さをしっかりと写真に収めたいものです。
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 なかなかの長さですね。この鼻はパルピとか下唇髭とか呼ばれている器官ですが、一体何の役に立つのかよく分かりません。でも何となく、高速で飛ぶ戦闘機の先端のようで、格好いいですよね。何らかの感覚器官としての役割があるのかもしれませんが、高速飛行の際の空気抵抗を減らすため、なんていうのも夢があっていい答えかもしれません。

 ツバキの葉裏には、ウラギンシジミの姿もありました。これも、もうすぐ越冬から目覚めるのかも。
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 メジロとか、コゲラとか、鳥の姿も何だか春めいて見えます。
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 でもまだ、季節は冬。ちゃんとフユシャクの姿もありました。
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 ナミスジフユナミシャク

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 ウスバフユシャク

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 たぶんシロオビフユシャク

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 ナミスジフユナミシャクの♀かな。でも雰囲気がちょっと違うような。

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 これもフユシャクの♀ですが、種類は不明。
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サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅④

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅④
◆見逃せない最後の7段目の滝
 エラワンの滝の最後の7段目は「PHU・PHA・ERAWAN(エラワンの岩壁)」。スタート地点から2000メートル。流れを渡り、急なはしごを何本も登って、何とか滝にたどり着いた。エラワンの滝とは、この7段目のことでもあるので、ここまで来なければ、エラワンを語ることはできない。
 別にエラワンを語らなければならない義務はないので、途中でリタイアしても全く構わないのだが、入場料と駐車場代、計330バーツを払わされた外国人観光客にとっては、7段の滝の一つ一つに47バーツの価値があるのである。一つ見逃せば、47バーツの損失だ。
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 ここがトレイルの終点。途中で昆虫記者を苦も無く抜いていった憎き西洋人たちがここに集合していた。

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 川沿いで見かけることが多い三日月形のオナガアカシジミ

 最も人が多かったのが、この7段目だ。運動不足の昆虫記者は息を切らせながら、虫を撮りつつ、ゆっくり登ってきたので、多くの西洋人たちに途中で抜き去られた。その西洋人たちが全員、ここに集結していたのである。西洋人たちもまた、47バーツが惜しかったに違いない。やはりみな、元を取ろうと考えているのだ。

神聖な白いゾウを水着の尻に敷く
 この滝の中には、ヒンズー教の神話に登場する三つの頭を持つ白いゾウ「エラワン」に似た岩が見えるらしい。しかし、信仰心が希薄で邪念ばかりの昆虫記者には、白いゾウの姿はどこにも見えず、岩の上の水着の女性たちだけしか目に入らない。白いゾウを見つけられなれば、何のためのエラワンなのか。詐欺で330バーツをかすめとられたようなものではないか。
 だが、しばらくして、ふと気付いたのである。「もしかすると、水着の女性が座り、子供たちが踏みつけにしているあの丸い岩の連なりこそがゾウの頭ではないのか」。絶対そうだ。見れば見るほど、禿げ頭の連なりに見えてくる。
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 右側の三つの丸く白い岩の連なりが、三つの頭を持つ神聖なるエラワンの白象の頭部分ではないのか。一番下の頭は、水着美女2人の尻に敷かれているし、一番上の頭は水着の子供たちに踏みつけられているように見えるのだが、それでいいのだろうか。

 もしそうなら、神聖なるエラワンの上にお尻を乗せたりしていいのだろうか。まあ、タイではゾウは乗り物の一種でもあるし、神様も水着姿のきれいな女性を頭の上に乗せるのは嫌ではないだろうから、おとがめはないのかもしれない。
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 明るい陽光が似合うキンミスジ

◆たるんだ中高年には厳しい道のり
 1時間で登り切れると思っていたのに、実際には9時半スタートで、7段目到着は昼頃になった。何と2時間半もかかったことになる。筋肉プヨプヨの中高年昆虫記者は、トレイルランナーのように山道を駆け抜けることはできないのだ。
 4段目までは楽々。5段目は少しきつい上り階段が多くなるが、それでも余裕だった。問題はそこから先だった。6段目、7段目を目指す道のりは、ロッククライミングボルダリング沢登りと、踏み台昇降を組み合わせたようなコース。サンダル履きでは、かなり厳しい。軽装でやってきた肥満気味の西洋人女性が途中で息を切らし、死にそうになっていた。

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 中高年にとっては、死の上り坂

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 インディージョーンズ風の危険な岩登りも経験できる。


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 体重制限がありそうな今にも崩れそうな階段。

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 一人瞑想する男。仏陀かお前は。

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 「瞑想する男に迫る毒グモ」という設定

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 「瞑想する男に襲い掛かるコモドドラゴン」という設定。本当はおとなしいミズオオトカゲ

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 大きなフグリを誇示するマッチョなオス猿

 マレーシアのタマンネガラでは、水辺での、まったり虫撮りの味をしめた。熱帯の水辺の快楽。ここもまた、まったり派のための場所に違いないと思ったのだが、大間違いだった。タマンネガラは緩やかな川沿いの道だったが、ここは滝沿いの険しい(昆虫記者にとっての話です。健康な若者にとってはたぶん朝飯前です)道なのだ。
 昆虫記者のような、運動不足、虚弱体質の中高年にとっては、上り切るだけで大変なのだ。まったりしている余裕など全くないのだ。
 しかし今回のタイ旅行では、多少なりとも厳しい道のりは、ここだけ。何が何でも達成するぞという意気込みで臨んだのだ。旅の実質初日。これをやり切らなかったら、今後の士気が失われる。何事も達成できないダメ人間、ダメ昆虫記者である。
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 たぶんマルバネワモン。ワモンチョウの仲間は木陰に多い。

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 チビイシガケチョウの仲間

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 ロクスシロサカハチシジミ 

 体力に自信のない中高年が、すべての滝を制覇し、なおかつ、蝶の写真もじっくり撮りたいというなら、朝8時の開園と同時に散策を開始し、各滝ごとに休憩して、水に足を浸して涼を取り、ビキニ姿で目の保養をしながら蝶を撮り、丸一日ここで過ごすつもりで臨んだ方がいいだろう。きっと、一日中いても飽きないだろうし、滞在時間が長ければ長いほど、330パーツのお得感が増すだろう。

◆帰りの滝つぼは市民プール状態
 帰り道。どの滝にも行きと比べて、人がずいぶん増えている。平日でも昼頃になると、団体客が大勢繰り出してくるようだ。行きに蝶の水飲み場となっていたような場所も、人々が占拠して、蝶の姿は見えなくなっていた。蝶を撮るなら人の少ない朝という戦略は、まずまず成功だった。道端の蝶も、帰りにはほとんど見掛けなかった。
 そして、タイ人に1番人気の2段目の滝に戻ってきた。地元の人々であふれ返り、周辺にはレジャーシートが敷き詰められている。これが土日だったら、一体どんな光景になるのか、恐ろしくなる。朝は「タイのパムッカレ」だった滝つぼは、午後には大にぎわいの市民プール、公衆浴場と化していた。
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 エラワンの滝に関するネット上のどの記事を読んでも、「思っていたのと違って、すごい人出だった」と書いてあった。それがこの光景なのだ。地元の小中学生のグループが来ていることも多いようだ。レジャーシート敷きまくり、お弁当食べまくりでわいわい、がやがや。午後のエラワンは、全然秘境ではない。日本で言えば、袋田の滝のような感じだ。違うのは、みんなで滝つぼに入って遊べること。遊園地的なにぎわいである。すさまじく大衆的な滝だ。まるでディズニーランド、ディズニーシーのようではないか。子供たち、若いカップルたちが、はしゃいで水をかけ合っている。
 「息をのむほど美しい大自然に囲まれ、滝のマイナスイオンを胸いっぱいに吸い込んで、澄み切った心で静かに虫を撮る」。そんなことは、たとえ平日でも、昼時のエラワンで期待してはいけない。「これではとても蝶の写真なんて撮れないな」と諦めかけたその時だった。レジャーシートの空白地帯に、黒いアゲハの仲間の群れが見えたのである。

◆人込みの中を飛ぶルリモンアゲハ
 ルリモンアゲハも2匹混じっている。そうなのだ。蝶の中には人の汗や人の食料・飲料のおこぼれに群がる浅ましい連中もいるのだ。2段目の滝の周辺は飲食自由だから、何かおいしい液体でもこぼれているのだろうか。
 地面に群がる蝶を撮った。「なんか違うな。こんなのを撮りに来たはずじゃないのに」。でも、蝶は蝶である。
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 日本人は「神聖な滝」と聞くと、つい静かな場所を想像してしまう。かの剣豪、宮本武蔵も滝に打たれて修行し、剣の極意を得たと言われているし、滝行で罪やけがれを洗い落とそうとする人もいる。
 仏教の盛んなタイだから、神聖な場所には浮ついた気持ちで臨んではならないと、気を引き締めていたのだが、どうやらタイの庶民は神聖な場所や神仏との接し方が日本人とは違うようだ。にぎやかな日常生活の中にこそ、神仏が存在しているのだ。
 目が慣れてくると、「こういうのもいいな」と思えてくる。自然の造形そのままの滝つぼで思いっきり遊べるのは、うらやましいと思えてくる。これもまた、神聖な滝の楽しみ方の一形態なのだ。
 エラワンに秘境、深山幽谷を期待してはいけない。聖なる地を、日本人的に静かに味わうのが、必ずしも正しいとは言えない。タイの人々には、タイらしい楽しみ方があるのだ。滝つぼに響き渡る歓声の中で蝶を撮っている間に、そんな気分になってきた。

 ルリモンアゲハは、人が至近距離に迫ると飛び立つが、しばらくするとまた戻ってくる。かなりの根性だ。毎日のことで慣れてしまったのだろうか、警戒心が薄い。
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 あこがれのルリモンアゲハも大衆的な蝶に成り下がっていた。

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 朝方の静かなエラワンの滝、人気のない水辺で戯れる蝶もよかった。それとは対照的に、昼時のにぎやかなお花見気分のエラワンの滝、レジャーシートの間を飛び回る蝶もまた捨てがたい。一粒で2度おいしいアーモンド・キャラメルのようなものである。エラワンの滝は、登りと下り、それぞれに違った味をかみしめられる、まか不思議な場所であった。
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 シロオビアゲハのお尻の方にいる小さなネッタイタマヤスデが、おまけのお菓子のようでかわいい。

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 オナシモンキアゲハ

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 ベニモン型のシロオビアゲハの♀

 エラワンの滝を午後2時ごろに後にして、ホテルに戻る途中にあるサイヨークノイ滝に寄ってみた。乾季のサイヨークノイ滝は、チョロチョロの流れで、みすぼらし眺めだが、さすが雨季なので、まずまずの水量があって、そこそこの迫力だった。平日なので、人でもそれほど多くはない。大通り沿いにあるので、近隣のタイ人にとっては、家族総出で弁当片手に出かけるお手軽なピクニックに最適の場所である。休日に見に行くと、ちょっとがっかりするかもしれないので、昆虫記者が撮った素晴らしい写真に感動して、あまり期待しすぎないように。
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 ここには、タイ国鉄ナムトック線の終着駅、ナムトック・サイヨークノイがあるのだが、この駅が利用されるのは土日だけ。平日は、一つ前のナムトックが終点となる。だから、線路上を歩いても安全だ。後日この線路を歩いてみようと思う。

八王子神社初詣の目的はアサギマダラ

 今年も初詣は東京都八王子市の八王子神社。世間一般の初詣の定番神社ではありません。なので、初詣客は全くいません。牛頭天王(ごずてんのう)の八人の王子、つまり八王子を祀った神社なので、まさに八王子市民の氏神様のような神社ですが、高尾駅から登山口までのバスが土日しか出ていないという不便さから、冬のこの時期に訪れる人は数えるほど。この日朝のバスも、終着駅の八王子城跡まで乗ったのは虫記者1人だけでした。
 つまり、この神社の神様は八人の王子なわけですが、虫記者にとっては、この神社の神様はアサギマダラ様です。

 山頂の神社へと続く階段脇にあった小さなキジョラン。その葉には、神様が食べた痕跡の丸い穴。
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 葉裏を覗くと、やっぱりいました。アサギマダラの幼虫です。この季節としてはかなり大きな幼虫です。こういう大きいのは、生き残りが難しいようで、2月ごろに遺体でみつかることが多いのはこういうサイズの幼虫です。
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 先ほどの階段を上ったことろにあるこれが、八王子神社です。毎年きちんとお参りしているので、毎年きちんとアサギマダラの幼虫に出会うことができます。
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 高尾山名物のテングもいます。
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 かわいいお地蔵さんも多い。
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 天使の羽毛のようなものがたくさん落ちています。これがキジョランの種ですね。
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 もっとずっと小さい、孵化後間もないような印象の幼虫が冬を越すのに都合がいいようです。
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 こんな感じでか噛み噛みした跡が新鮮で、摂食阻害物質の白い液の痕跡がはっきりしている丸い食痕があれば、ほぼ確実に近くに幼虫がいます。
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 幼虫を正面から見ると、まさに頭に牛のような大きな角の生えた牛頭天王のお姿ではありませんか。この地のアサギマダラの幼虫は、牛頭天王の生まれ変わりなのです。手を合わせて拝まずにはいられません。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅③

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅③
◆エラワン7段の滝早分かり
 ここで、エラワンの7段の滝の簡単な説明をしておこう。何せ「タイで一番美しい滝」と書いてしまった責任がある。蝶とビキニの話だけでは「滝はどこへ消えてしまったのか」と、タイの観光当局から激しい批判を浴びることになりかねない。七つの滝は、それぞれに趣が異なり、一つ一つに特徴を示す名前が付けられている。
 滝の名前はタイ語と、その音を表すアルファベットでしか表示されていないので、英語のサイトなども活用して、日本語で説明を付けることにした。何と親切な対応なのだ。ただし、訳が間違っていても、一切責任は取らない。
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 「簡単な説明」と書いたが、これだけ詳しい日本語での説明は、たぶんほかにはないのではないかと思う。さすがは、マニアックな昆虫記者。「そんな説明、何の役に立つんかい」という声もあるだろうが、全くその通りだ。覚えたところで、嫌われ者の「うんちくおやじ」になるだけである。
 一番下の滝は「LAI・KUEN・RANG(元に戻るという意味らしい。静かな川の流れに戻る場所ということだろう)」。
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 散策路のスタート地点から500メートル。木陰になっていて涼しいが、水深が浅いらしく、泳ぐ場所ではないようだ。朝は水浴している人はまだ、誰もいなかった。絶景独り占めである。

 石灰棚の上を緩やかに見ずが流れ下る様子にうっとり見とれるには、このあたりが最適。
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 この1段目へ向かう途中で、左の森の中へと入っていく道があった。「美しい滝なんかどうでもいい、猛暑の中、汗みどろで虫探しだけを貫き通すのだ」という見上げた根性の人は、そちらの道を行くのもいいだろう。
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 「虫捕りなら、こっちの道がいいよ」と、脇道へ誘い込もうとする大型カメムシ

 この周辺にはとてつもなく長い散策路もあるらしいので、挑戦する価値はある。ただ、方今音痴の人は、行方不明になる恐れが大きい。滝沿いの道以外を歩いている人はほぼ皆無なので、救助は期待できない。

◆人の皮膚を食べる魚
 2段目の滝は「WANG・MACHA(魚のいる場所といった意味。文字通り魚が多い)」と呼ばれる。スタート地点から600メートル。1段目と比べて滝つぼが深く広い上、日当たりもいいのでタイ人に大人気で、既に地元の人たちが泳いでいた。泳げない人には、ライフベストを貸してくれているようだ。
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 ここは人も多いが、魚も多い。多いというか、多すぎる。
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 1段目の滝の滝つぼを覗くと、いるわ、いるわ、すごい数の魚。恐怖を感じるほどだ。この大きいのは、ドクターフィッシュではない。日本のハヤ(ウグイ)に似た魚だった。

 そこには恐らく相関関係がある。ここの魚の主食は人の皮膚らしいのだ。エラワンの滝つぼには「ドクターフィッシュ」がいると紹介されていることが多いが、日本の水族館や入浴施設などで活躍しているつくだ煮の小魚程度の類いとは種類が違うようで、かなり大きい。ドクターフィッシュと言えば、足裏の角質などを食べて、美容に貢献してくれる働き者。足裏の水虫まで食べてくれれば、薬用効果も期待できる。
 公園の規則では、魚への餌やりは禁止されている。しかし、人間の皮膚は例外。ここの魚にとっては、人間自体が餌になるのである。魚が好きな人は餌になるために水に漬かった方がいい。そうなのだ。魚たちは今か今かと待っているのだ。美しい水辺の風景につられて人間たちが水の中に入ってくるのを。飛んで火にいる夏の虫、足裏の水虫というわけだ。
 昆虫記者も、魚は嫌いではないので、人肌のフィーディング(餌付け)に挑戦。浅瀬に手を突っ込んでみたら、すぐに小さい魚が寄ってきた。10センチぐらいのも多くいて、かみつかれるとかなり痛い。
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 これがいわゆるドクターフィッシュらしい。ガシガシ噛みついてくるので、結構痛い。

 美容専門の魚としては「大き過ぎだろ」と言いたい。角質はもちろんだが、子供の足の小指ぐらいは食べてしまいそうだ。
 人間と魚の共生、自然と人間の調和がここにある。人は景色を楽しみ、余分な角質を掃除してもらい、足裏をコチョコチョされる快感を得る。
 おっさんの足と金髪美女の足、どちらが好ましいか。人間界では議論の余地がないが、魚たちは公平である。容姿差別など存在しない。むしろ、きれいに手入れされた美しい足より、長年ほったらかしで、あかのたまった足の方が食べ応えがあり、おいしいのではないか。
 周辺には30センチぐらいの魚もうようよ泳いでいる。まさか、指を食べには来ないだろうとは思ったが、痛さと恐怖に耐えられず、すぐに手を引っ込めた。それにしても、人の皮膚やあかばかりを食べている魚は、焼き魚にしたらどんな味がするのだろうか。かなり不気味だが、ちょっと興味がある。
 汚いおじさんの足裏を掃除した魚だと抵抗感があるが、若くてきれいな女性の肌を掃除した魚となれば、がぜん食べてみたくなるのだ。

◆この先は食料持ち込み不可
 2段目の滝より上は食料持ち込み不可で、飲み物は1本当たり20バーツのデポジットを取られる。ボトルのポイ捨てをさせないための策のようだ。持ち込むペットボトルには、マジックで番号が書き込まれ、そのボトルを持ち帰るとデポジットが返金される仕組み。デポジットが惜しければ、ボトルを捨てないというわけだ。
この先はだんだんと傾斜が急になってくるため、さらに上に進む人は、ここでいったん腹ごしらえをしておいた方がいい。
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 水辺のお出迎えはいつものヤツボシハンミョウ。

 ピクニック気分のタイの人々はたいてい、2段目の滝までしか行かない。水遊びが目的なら、ここで十分であり、この先はつらい山道を食料補給なしに登らなければならないからだ。ところが、なぜか西洋人はずんずんと上流を目指す。開拓者精神なのか。彼らは歩くのが好きだ。しかも、疲れを知らない。すぐに座りたがる、寝転びたがる日本人とは大違いだ。家の中でも靴を履いている人々と、畳の上で胡坐をかく人々の違いだ。

 橋で流れを渡って3段目の滝へ向かう。3段目は「PHA・NAM・TOK(岩壁の滝)」。スタート地点から700メートルの距離だ。川の流れが突然崖下に崩れ落ちるような、極めて滝らしい滝である。
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 滝の奥に空間があって、裏側から滝を眺めることも可能だ。滝の下の岩に座って、滝行をすることもできるという。ここもまた、おいしそうな魚が山ほどいる。
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◆鬼女の巨大な乳房
 4段目は「OK・NANG・PHEE・SUE(鬼女の胸)」。タイの叙事詩に登場する「PHEE・SUE・SAMUT」という鬼女の胸を意味する名の滝らしい。確かに二つの丸い岩が、巨大な乳房のように見える。スタート地点から1050メートル。つるつるした丸い岩を利用して観光客が滝滑りを楽しめるところだという。
 この鬼女は、美女に化けてタイの王子をたぶらかし、子供をつくったという。美女の乳房と思って岩を滑り下りるのは快感だろう。しかし観光客が滝つぼに落ちた途端、美女は恐ろしい鬼女に戻って、観光客を水底に引きずり込んで食い殺すかもしれない。
 この鬼女の身の毛もよだつ姿を見たい人は「PHEE・SUE・SAMUT」と入力して画像検索してみるといい。その姿を知ってから滝滑りをすれば、涼しさが一層増すだろう。
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 特定趣味の人にはたまらない巨大な乳房。ただし、不謹慎な欲望を抱くと鬼女に呪い殺される恐れもある。

 このように、それぞれの滝にそれぞれの楽しみ方がある。エラワンを満喫したい人には、すべて試してみることを勧める。

 5段目は「BUAR・MAI・LONG(決して退屈しない場所)」。スタート地点から1550メートル。いろいろな姿の滝が混在していて見飽きないということか。
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 近くに蝶が群れている場所があった。世界最小のかわいいアゲハチョウ「スソビキアゲハ」も何匹かいて、心が和む。
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 蝶と魚がにらめっこをしている場面にも出くわした。雷魚のような貪欲そうな顔をした魚が蝶をにらんでいる。水を飲みに来た蝶が、もう一歩近づいてきたら、水面からジャンプしてパクリと一のみにしようと狙っているのかもしれない。
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 1段目の滝の手前と、この5段目周辺が、一番蝶が多い。歩くことが生きがいのような西洋人に負けじと、むきになって山道を登るよりも、このあたりで、のんびりと時間をつぶすことをお勧めしたい。午前中にここで、もっと蝶の写真を撮っておけばよかったというのが、今回の反省点である。
 滝と蝶のおもてなしは、確かに飽きることはないが、この辺りから疲れがたまってくる。体力の限界は近い。
◆森のある場所に一人たたずむ女性
 6段目は「DONG・PRUK・SA(森のある場所)」。スタート地点から1750メートル。緑に囲まれた、まさに森の中の滝だ。
 木漏れ日の中にシャワーカーテンのように水が降り注ぐ。西洋人女性が一人、滝の前に立っていた。「絵になるなあ」。これが昆虫記者だったら「邪魔だよ邪魔、早くどいて」となるのに。
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 ここにイナズマチョウのメスがいた。ヤマオオイナズマだろうか。オスとは全く違う姿で、夜空に星をちりばめたような模様は、これもまた見事な図柄だ。最初に見たオスとカップルになったら、見事な取り合わせだろう。オスとメスで模様が大きく異なる蝶は少なくないが、たいていはどちらか一方が美しく、他方は地味という組み合わせだ。まるで別種のようで、それぞれに美しいのは、神のみぞなせる業だ。
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 たぶん、この滝の少し下だったと思うが、階段状になった小さな滝の連続を、まさに階段のように歩いて登れるところがあって、この階段を上って6段目に行くこともできるらしい。
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 ただし、水量の多い時はかなり危険だと思う。本格的に滝の写真を撮りにきたと思われるマレー系のカップルが、この滝の階段を上っていた。マレー系の女性は全く肌を露出させていない。かなり暑苦しそうだ。西洋人女性のビキニ姿を何人も見てきた後で、何か不思議な気がする。この滝で十分に休んでおかないと、次の7段目に進むのはきつい。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅②

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅②
6月18日(火曜)
◆サイヨークとエラワンはワンセットがお得
 サイヨーク国立公園のホテルに泊まっているのに、なぜエラワンという別の国立公園に行くのか。実はサイヨークとエラワンは隣り合っており、ワンセットと考えてもいい位置関係なのだ。宿泊施設はサイヨーク側に集中しているので、エラワンはサイヨークからの1日観光とする一石二鳥プランを立てたのである。
 しかし問題は交通の便だ。カンチャナブリからならエラワン行きのバスが出ているが、サイヨークとエラワンの間には公共交通機関がない。ホテルのソンテウ(小型トラックを改造した乗合タクシー)を利用する以外に方法がないのである。
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  住み込み従業員の子供たちだろか。朝はホテルから通学用のソンテウが出ていた。

 エラワン1日観光でホテルのソンテウをチャーターすると、午前8時から5時間コースで3000バーツ。これは痛い出費だ。1バーツ3円30銭で計算すると、1万円近い。もっと安くならないか。今は6月。蒸し暑い雨期の閑散期で、ホテルの宿泊客はまばらだから、ソンテウを利用する者はほとんどいないはずだ。運転手と粘り強く、しつこく交渉したが、結局3000バーツは変わらなかった。
 しかし、チャーター時間は8時間ほどに延長できることになった。閑散期ならではの割引だ。運転手も暇なのだ。しかし、そこまで苦労して、エラワンに行く価値はあるのだろうか。それがあるのである。「タイで一番美しい滝」と評判のエラワンの滝を見ずに死ねるか。と言うほどのものではないが、ソンテウ代をけちって後で悲しい思いをするのは嫌だ。
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 しつこい交渉に根負けして割引に応じてくれたソンテウの運転手。

 翌朝8時にホテルを出発し、まずはクウェーヤイ川上流のダムで写真を撮って、9時過ぎにエラワン到着。
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◆観光客値段に不満爆発
 入場料は300バーツ(タイ人は100バーツ)、車は+30バーツ。東南アジア恒例の観光客値段である。まあ、海外旅行できる外国人は、みな金持ちに分類されるのだろうから、高い料金を請求して当然ということなのだろう。しかし、途上国から来た観光客も、同じ観光客値段を要求されるのである。タイ人の観光客で、昆虫記者より高収入の人もたくさんいるに違いない。不条理だ。
 何だか、ぼられている感じがしないでもないが、これは公的機関がきちんと決めた差別料金だから、払わないといけない。
 普通のタクシーとか、飲食店とかでも、観光客はよくぼられるわけだが、そこには、こうした公的観光客値段が影響しているかもしれない。公的機関が3倍の料金を取るのだから、何でもかんでも、観光客向けは、本来の値段の10倍ぐらいふっかけるべきだと考えてもおかしくない。
 いっそ、自国民はただにすれば、すっきりするような気もする。しかし、そうなると、観光地は地元民であふれかえり、外国人観光客が、あまりの人出にうんざりしてしまい、観光地の人気が落ちることになる。
◆日本は外国人観光客を優遇し過ぎ?
 地元割引という考え方ならば、日本の観光地も外国人観光客に、観光客値段を設定し、日本人には安くするべきではないのか。日本政府は、外国人観光客を増やそうと必死だが、観光と無関係の地元の人々や、日本の観光地を訪れる日本人にとっては、あまりに多い外国人観光客は、ありがたくない。日本もこれだけ外国人観光客が増えたのだから、その分、迷惑を被る日本人観光客に、いくらか還元してくれてもいいのではないか。
 箱崎の東京シティーエアターミナルから成田までのリムジンバスは、外国人が1900円、日本人が2800円と、外国人を優遇していた。これはおかしくないのか。日本以外にも、外国人に対してこんな大幅割引をしている国はあるのだろうか。
 しかし、入場料の外国人差別に怒って帰るわけにもいかないし、地元経済に貢献するのも嬉しいので、喜んで(実は渋々)330バーツを支払う。こんなところで、もめて、時間を無駄にするわけにはいかないのだ。昆虫記者には、どうしても急がないといけない理由がある。
◆エラワン観光に出遅れは禁物
 昼時のエラワンは、地元民を中心にともかく人出が多く、大混雑のピクニック広場状態になるという話を聞いていたからである。
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 昼時になると、団体客が次々にやってくる。

 特に土日、祝日のエラワンはすごい人出になるという。さらに4月13~15日のタイの旧正月を祝うソンクラン(水掛け祭り)の際は、本当にお祭り騒ぎになるらしいので要注意だ。祭りは無礼講。バケツで水を掛け合ってバカ騒ぎするには、水に囲まれたエラワンが最高というわけだ。もちろん、バカ騒ぎがしたいという人にとっては、ソンクランの時期がベストシーズンになるので、そういう人は是非トライして、どれほど破廉恥な状況になったか報告してもらいたい。
 あまりにも破廉恥でとても写真など載せられないという状況ならば、昆虫記者も事件記者としての純粋な義務感から現場を視察したいと思う。
 しかし、美しい滝の風景とともに、水辺の蝶(チョウ)を撮るのが、今回昆虫記者に与えられた崇高な任務である。観光客がドッと繰り出してきてからでは、水辺の蝶は追い散らされてしまうだろう。静かで美しい滝の風景も、「観光地は今日も大賑わい。子供たちの歓声が響き渡っていました」のニュース映像のようになってしまう。
静かな美しい滝、水辺で戯れる蝶に憧れるなら、平日の朝を狙うべきだ。タイでは6月には祝日がないから、6月はタイ人にとって観光のオフシーズンと思われる。去年カオヤイ国立公園に行ったのも6月だったが、ホテルはガラガラ、公園内の宿泊施設も閑古鳥が鳴いていた。狙い目は6月の平日の朝。これで決まりだ。
◆完全に出遅れ
 ホテルで尋ねた時には、エラワン公園の開園時間は午前9時と聞かされた。車で1時間ほどの距離なので、8時ごろ出発するのがいいだろうということになった。しかし、実際には、開園時間は午前8時だったのだ。完全に出遅れた。
 8時出発を提案したのは、ホテルの色男マネジャーだった。許せないぞ。蝶が撮れなかったらお前のせいだ。もし、これがメイ嬢の提案だったら、多少の出遅れは全然気にならない。笑って許せる。もしメイ嬢が涙を流して「ごめんなさい」なんて謝ってくれたら、やさしく肩を抱いて「君に涙は似合わないよ」なんて、タイ語で言ってみたいものだ。
 まあ、それはともかく、エラワンの一日は短く、午後3時ぐらいから、一番上の段か順に閉鎖され、午後4時半には完全に閉園になるというから、エラワンへのお出かけは早い方がいい。
◆タイのパムッカレ
 エラワンといえば、滝である。エラワンの滝は、エラワン国立公園の代名詞でもあるのだ。「タイで一番美しい滝」との賛辞が、ネット上にあふれている。当然期待してしまう。ネット上の写真は、素晴らしい景観だ。美し過ぎて声も出ないようなものもある。「タイ」「滝」のキーワードでネット検索すれば、トップからズラリとエラワンの滝が並ぶ。石灰岩の岩肌を滑らかに流れ落ちる滝は、極めて女性的だ。水には石灰が溶けて、滝つぼはエメラルドグリーンに彩られている。
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 昔々、セブンスターというたばこのCMで、トルコのパムッカレの石灰棚の風景を見た。純白の石灰岩が形作る棚田のような風景だった。棚にたたえられた水は、ある時は空を映して青く、ある時は石灰の白い粉を溶かしてエメラルドグリーンに輝く。その上空を飛ぶジェット機の後ろに白い飛行機雲が一筋描かれていく。実に感動的だった。
 エラワンの滝も同じ石灰棚。もしかして、エラワンは「タイのパムッカレ」なのか。日本のベニスとか、日本のスイスとか、そういう例えは、あまり信用できないと思うものの、果たして「タイのパムッカレ」はいかに。
 7段の滝は1500メートルの流れの間に点在し。カンチャナブリでは最大級らしい。ツアーだと、駆け足で2時間ほど。ソンテウの運転手に尋ねたところ、最上段まで行っても1時間ぐらいだという。なんだ、全く楽勝ではないか。
 スタートが遅れた割には、比較的すいている。2段目までは、泳いでいるタイ人がいたが、その先は、まだ人が少ない。無人の滝つぼもあり、人がいても、西洋人カップルが1組ぐらい。なかなかに美しい。これなら「タイのパムッカレ」と呼んでもいいだろう。
 やはり、6月の平日の朝の選択は正しかった。もちろん、公園紹介の公式ページにある写真は、最高のタイミングで、最高の技術で撮ってあるから、写真そのままの天国のような景観を期待してはいけない。ああいう奇跡のような写真は、タイの観光当局と、共犯のカメラマンが仕組んだ詐欺だと思っておいた方がいい。
◆イナズマチョウとビキニの魅力
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 赤や黄色の派手派手しい蝶もいいが、こういうシックな美をたたえた蝶もいいものだ。

 肝心の蝶はというと、最初に出会ったイナズマチョウのオスが、ドキッとするほどきれいだった。派手ではないが、これまでに撮ったどのイナズマチョウもかなわないシックな美しさ。イナズマチョウをあまりきれいと思ったことはなかったが、見直した。こんな輝きを見せるときもあるのだ。
 そしてもう一つ、昆虫記者の目を引き付け、心をときめかせたのが、観光客の水着姿である。
 観光客がエラワンを訪れる最大の目的は、水着になって、滝つぼの池で水浴を楽しむことである。熱帯の日差しの中、清流での水浴。しかも、背景はタイでナンバーワンの美しさを誇る滝である。国立公園としては、カオヤイに次いで2番目に人気のスポットであり、泳げる滝がメインの観光資源であるため、ここを訪れる西洋人の大半は水着を着こんでいるのだ。
◆衝撃のビキニ禁止令
 ただし、残念な点が一つある。滝から滝への遊歩道を歩く際などは、ビキニなどきわどい水着姿は禁止らしいのだ。もちろん昆虫記者の目的は水辺の蝶であり、水辺の水着女性などではないから、ビキニなどどうでもいいのだが、やはり残念だ。
 2012年に、国立公園局が、テストケースとしてエラワン国立公園でのビキニ禁止の通達を出したのである。地元紙は「国立公園でビキニ禁止令」と報じた。「ビキニはだめよ」の看板もどこかに立てられているらしい。
 しかし、完全な禁止ではないようで、記事で紹介された公園関係者のコメントによれば、水泳可能な滝つぼでのビキニ姿は容認されているという。
歩道を歩く際には、ビキニの上に何か羽織ればいいということのようだ。
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 そんなことを調べるのは下心があるからだろうと勘ぐる向きもあるだろうが、どんな取材でも万全の準備を整えるのが記者というものだ。
 ビキニ禁止の理由は、観光客の安全確保と、タイ文化の尊重。安全確保というのは、毒虫やヒルに襲われる危険を減らすという意味らしい。文化尊重というのは、タイの常識に従うということだ。確かにエラワンを訪れるタイ人女性の服装は、しとやかで、慎み深いものが多い。泳ぐときもあまり肌を露出させない。
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 地元タイ人女性は水着でも露出控えめ

 しかも、エラワンは神聖な場所であり、僧侶もよく訪れる。エラワンの名は、ヒンズー教の神話に登場する三つの頭を持つ白いゾウに由来するという。7段のうち、一番上の段の滝が似ているらしい。ヒンズー教と仏教は違うではないかという疑問もあるだろうが、タイではかなり混然一体化している。仏教に登場する神々はたいてい、ヒンズー教に由来しているのである。
◆首なしマネキンの恐怖
 また、遊歩道のあちこちで、きらびやかなドレスや装飾品が飾り付けられた大木を見かける。美しく着飾った首なしマネキンもあって、まるで心霊スポットのようだ。夜に訪れたらさぞかし恐ろしい光景だろう。
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 しかし、これは大木に住むと信じられている木の妖精に捧げられたもの。妖精を喜ばせ、幸運を授かるために、人々が貢物を贈っているのである。
 つまり、きわどいビキニ姿で道を歩くことは、仏教王国タイの公序良俗に反し、神聖な場所を汚し、妖精を怒らせるということだ。昆虫記者にとっては、きわどい水着は嫌悪感ゼロで、むしろ好感度が高いのだが、国によって、また、人それぞれに物の感じ方は違うのである。
◆ビキニ規制の実態は
 そして実態はどうかというと。「オオッ。けっこうきわどいじゃないか」。
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 西洋人女性たちは国立公園局の通達など全く気にせず、堂々とビキニ姿で遊歩道を歩いている。それをとがめる人はだれもいない。規制は有名無実のようだ。もしかすると、心の広い昆虫記者のような人々の間でビキニ擁護運動が展開され、規制が覆ったのかもしれない。
 また目の前をビキニ姿の西洋人女性が通り過ぎていく。「やめてくれ、気が散るぞ。虫なんか撮ってられないぞ。でも嬉しいぞ」。