虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑨

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑨

6月21日木曜

 海外虫旅では、泊まるホテル自体が虫撮りの拠点となり、作戦基地となり、虫と昆虫記者の生死を賭けた戦いの場となることが多い。従って、その選択は極めて重要である。ジャングルが近ければ近いほどいいし、ジャングルの中であればなおいい。タイのサイヨーク国立公園での宿も、ジャングルの中だった。

 サイヨークと言えば、クウェーノイ川沿いの景勝地である。水上に並ぶ涼しげな山小屋風の宿泊施設「シャレー」に泊まって、ラフティング、カヌーなどの水遊びに興じるのが、正当なサイヨークの楽しみ方である。ここは典型的な水辺の観光地なのだ。

 それでも昆虫記者は、あえてジャングルの中の宿を選ぶ。宿の名はホーム・フュ・トイ。たいていのホテルは「リバー○○」や「△△ラフティング」など、水辺にちなんだ名だが、ここは違う。いろいろ調べて、一番気に入った。何がいいかと言えば、まずは敷地の広大さ。そして、充実した散策路。ホテルの周辺での虫探しだけで、何日もかかりそうな環境なのである。

 川を見下ろす高台のジャングルの中に位置し、プール、ホットスパもある。広い池の上にはロープが張られていて、フィールドアスレチックによくあるターザンロープの巨大版も楽しめる。泰緬鉄道関連の展示施設もあって、歴史の勉強もできるから、勉強熱心な昆虫記者にはぴったりである。つまり、虫撮りなどしない普通の観光客も十分に楽しめる施設をいろいろと備えているのだ。

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サイヨークのホテル、ホーム・フュ・トイ

 しかし、夕方に宿に到着して最初に目に入ったのは、幽霊列車だった。旧日本陸軍が建設した死の鉄道、泰緬鉄道を走っていた列車が、ぼろぼろに朽ち果て、ジャングルの中にたたずんでいた。近くに白骨が散らばっていてもおかしくない。突然貨車の扉が開き、すり切れた軍服を身にまとい銃剣を手にした旧日本軍兵士の亡霊の一団が現れても、全く違和感のない風景である。夜中に1人で歩くのはかなり怖そうだ。耳なし芳一の怪談に出てくる平家の亡霊を思い出して、泣きだしてしまいそうだ。

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朽ち果てた泰緬鉄道の列車

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貨車からは旧日本帝国軍の亡霊が現れそうだ

 しかしなぜ、ホテルの敷地内に、こんな恐ろしげな幽霊列車があるのか。実は、ホテルの泰緬鉄道展示施設の目玉なのである。だが、カンチャナブリの町の博物館などに展示されている、きれいに塗り直された列車と違い、ここの機関車はさびだらけで、今にも崩れ落ちそうだ。

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太平洋戦争当時の写真も展示されている

 戦時中からずっと放置されていたらしく、歴史を感じさせる効果は抜群なのだが、迫力があり過ぎて、恐ろしさも倍加されている。

◆小さなサソリはお友達

 恐ろしい夜がやってきた。一人きりで部屋でテレビを見ていても仕方がない。お化けは怖いが、虫に会うには外へ行くしかない。残念ながら、新月には来られなかったから、収穫は限られる。月夜には、灯火に虫が集まってこないのである。本当は、ライトトラップで楽をして虫撮りしたい。でもそんな、取りたい時に休みが取れる身分ではない。家庭の事情、仕事の都合、色々あるのである。

 

 懐中電灯を手に、夜の森に向かう。月明かりの中に幽霊列車が浮かび上がる。生暖かい風が吹いてくると、何か出てくる予感がする。しかし、考えてみれば、熱帯の夜は熱帯夜だから、風はいつでも生暖かい。恐れることは何もないのだ。

 ライトで暗闇を照らす。街灯の下にカミキリムシがいた。黄色の紋をちりばめた、なかなかにハンサムなカミキリだ。

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 ジャングルの小道に入ると、もはや街灯の明かりもなく、懐中電灯を消すと真っ暗闇だ。ジャングルの中、一人っきり。何の物音もしない。黒い悪魔のような闇が迫る。旧大日本帝国軍の亡霊も襲って来る。一体何をやっているのか。なぜ懐中電灯を消したのか。肝試しなのか。

 その時、昆虫記者はポケットからおもむろに別の小さなライトを取り出し、点灯した。ぼんやりとしたかすかな青白い光が闇に放たれる。紫外線を照射するブラックライトだ。

 すると、暗闇の中に次々と浮かび上がる恐怖の光景。青白く光る物体があちこちに。恐れていた亡霊がついに現れたのか。

 だが、幽霊が紫外線を浴びて光るという話は聞いたことがない。紫外線で光る生物と言えば、サソリである。恐怖の光景とは、毒針をちらつかせるサソリの姿であった。

 普通の方々はサソリを怖がるかもしれないが、昆虫記者は何度も出会っているから、親しみを感じるぐらいだ。幽霊は怖い。それは、まだ本物の幽霊に出会ったことがないからだ。幽霊も出会い慣れてしまえば、親近感が生まれてくるに違いない。

 サソリに会える場所、会える方法は、マレーシアのタマンネガラ国立公園で習得済み。ジャングルなら、たいていどこでもサソリに会える。しかし、ホテルの敷地内でサソリに会えるのは、なかなかに好ましい環境だ。夕食後の一時、隣家の友人に会いに行くような気軽さで、サソリさん宅のドアをノックすれば、愛想よく迎えてくれるというのは、心安らぐシチュエーションではないか。

 しかも、ブラックライトを当てると光って「ほら、ここにいるよ」と、サインを送ってくる。ホテルの敷地内なら、猛獣が出てくることはないだろうから、安心して夜のサソリ散歩ができる。

 ホテルの周りの切り株や倒木をブラックライトで照らすと、あちこちでサソリのはさみが青白く光っていた。タマンネガラのサソリは、ハサミが太いチャグロサソリ系だったが、ここのサソリは妙にスマートなのが多い。はさみはまるでピンセットのようだ。八重山諸島にもいるというマダラサソリの仲間だと思われる。

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樹皮の下に隠れているマダラサソリ。ブラックライトがなければ、まず見つからない

 めくれかけた木の皮の下に、わりと良型のマダラサソリがいた。そっと樹皮を持ち上げると、サソリが地面に落ちた。予想外に素早い。長い尾をくねらせながら、一気に昆虫記者の足元に迫る。だが、昆虫記者は慌てない。サソリに人を襲う度胸はない。ただ、隠れ場所を探しているのである。昆虫記者の靴の横がちょうどいい隠れ家と見えたようで、靴の横で止まった。こんな風にして、夜の間に靴の中に入り込んだりするのだろう。朝、その靴を履いたら、一瞬で眠気が吹き飛ぶはずだ。

 マダラサソリ系のはさみは細いが、まだら模様になっていて芸術的だ。普通のフラッシュで撮ると茶色くて目立たないマダラサソリだが、ブラックライトの光を加えたカクテル光線の中では、暗い海の底で発光する深海生物のように美しい輝きを放つ。

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普通の懐中電灯の光で見たマダラサソリ

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ブラックライトを当てるとこんな姿に

 サソリは、そのフォルムが美しい。非常に洗練された生き物の一つだと言える。被写体として極めて魅力的なのだ。ブラックライトを手にして、東南アジアの夜のジャングルに行けば、必ずサソリに会える。そして、サソリのファンになること間違いなしだ。今回は足元にいるサソリを思う存分撮影させてもらった。

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もう一匹見つけた。

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LEDライトとブラックライトを合わせるとマダラサソリも芸術的色彩に

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マダラサソリの正面顔

 マダラサソリは恐れるに足りない。マダラサソリの毒は弱いのだ。多分弱いと思う。弱いという情報をどこかで見た気がする。だが確信はない。一応用心はしておこう。

◆大型のサソリもへっちゃら

 別の日の朝の散歩では、少数民族「モン族」の村を通り、川を見下ろす見晴らし台を経て、隣の水上シャレー型ホテル「ジャングルラフツ」へ向かった。川沿いのホテル同士は散策路でつながっていて、どこまでも歩いて行けそうだ。

 途中で大きなサソリに出会った。チャグロサソリだろうか。もはやサソリは友達だ。優しく手を差し出して、親愛の情を示す。大丈夫なのか。さすがは昆虫記者、蛮勇と言ってもいいほどの見上げた勇気だ。

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大型サソリを手に乗せる蛮勇。実は死骸。

 しかし、サソリに手を触れるような勇気が昆虫記者にあるはずもない。このサソリは車にひかれて死んでいたのである。でも、遠目には生きているかのようだ。

 タイのジャングルのホテルなら、どこにでもサソリは普通にいる。怖がることはないが、心臓の弱い人は、一応頭に入れておいた方がいい。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑧

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑧

6月20日水曜

◆地獄の炎に焼かれる昆虫記者

 ナムトック・サイヨークから先も、かつての泰緬鉄道は続いていた。しかし今はここで線路が途絶えている。

 ジャングルの中に消えてしまった鉄道。かつて線路があった深いジャングルの中を、秘境の虫を求めてミャンマーまで歩いて行ってこそ、真の冒険であろう。だが、昆虫記者は探検家でも冒険家でもないので、そのような無謀な試みはしない。しかし、ちょっとだけそうした雰囲気を味わうことのできる、とっておきの場所があるのだ。

 それはヘルファイアパス(地獄の炎の道)である。この恐ろしい名は、戦時中の捕虜たちの苦難の歴史を物語っている。泰緬鉄道の歴史を巡る旅ならば、ここを外すわけにはいかない。

 「いつの間に、虫撮り旅が歴史の旅になったのか」と、いぶかしがる向きもあるだろうが、メインはもちろん虫である。ヘルファイアパスは、かつて捕虜として泰緬鉄道の建設に従事したオーストラリア人が保護を提案し、同国政府が資金を拠出して整備したという。このため、今も慰霊の催しに多くの豪州人が訪れており、切り通しの岩壁には豪州国旗や同国人戦没者の写真が多く見られる。つまり、ヘルファイアパスは鎮魂のための道なのである。しかし、ジャングルの中を通る道は、虫の通り道でもある。昆虫記者は、鎮魂の思いを胸に抱きながら虫を探すのである。

 それに、ヘルファイアパスは、宿から一番近い観光地なのである。前日は早起きで疲れた。だから今日はのんびり朝食を食べて、近場観光だ。

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ヘルファイアパスの切通

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 ヘルファイアパス(コンユ・カッティング)は、博物館から4キロほどが公開されている。岩山の中に切通しを作るという、難工事。夜通しの作業で、かがり火が地獄の炎のようだったことから、ヘルファイアと呼ばれたようだ。

 ただ虫を探して歩くだけでも、熱帯のジャングルの蒸し暑さは耐え難い。そんな場所で、過酷な労働を強いられた捕虜たちの苦しみはどれほどだっただろうか。この道がはるか、ミャンマーへと続いていたのだ。42年の6,7月にタイ、ビルマの両端から建設を開始し、1943年10月に完成したという。5年、6年はかかると言われた建設を1年ちょっとで完成させたのだから、すさまじい過重労働だったのだろう。この鉄道はミャンマーまで続いていたのだ。ジャングルの中を。

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切通しの岩壁にいたコノハワモンの仲間。

 枕木一本、死者一人。ジャングルに残された枕木が、重みをもつ。連合軍兵士1万3000人、アジアの労働者8万人が、鉄道建設中に死亡したという。英、オランダ、オーストラリ兵の捕虜が多く犠牲になっている。足元を見ると、黒い大型のアリの行列。自らの体と同じぐらいの大きさの繭を運んでいる。ここで地獄のような作業を強いられた戦争捕虜の姿とダブって見える。

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 現在も線路が日常的に使われ、周辺に町や農地の広がるナムトック駅からクウェー川鉄橋までの区間と違い、ヘルファイアパスは樹林の中に枕木の痕跡が残るだけだ。それだけに、なおさら戦時を思い起こさせる空気が満ちている。

戦場にかける橋はフィクションであって、ウィリアム・ホールデンのようなヒーローが大活躍する物語は、実際にはなかったが、捕虜が置かれた過酷な環境は、映画以上のものがあっただろう。死者の数は、戦時中の日本の軍国主義の中に潜んでいた想像を絶する狂気を感じさせる。クウェー川鉄橋のようなメジャーな観光地ではないので、昼時でも人は少ない。よく整備された博物館周辺500メートル範囲の散策路より先は、昆虫記者以外誰も歩いていなかった。戦争の悲惨さ、平和のありがたみを噛みしめるには、この静けさがちょうどいい。

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落ちた果実にレクタリクイナズマが数匹集まっていた。

 クウェーノイ谷を見下ろすビューポイントでは、落ちた果実に蝶が集まっている。薄曇りの谷に、さわやかな風が吹き抜ける。黄色地に黒の水玉模様の小さなハムシが目の前の草に止まった。驚かさないよう、そっと近づいて写真を撮る。

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ここにもいたヨロイバエの仲間。小楯板が大きな甲羅のように発達して背中を覆ってしまった不思議な姿のハエだ。

  アジアの戦跡を巡る時、日本人は肩身が狭い。ジャングルの中の切通しには、ほかに人の姿はなく、静かだ。虫の音ぐらいしか聞こえない。虫撮りは馬鹿馬鹿しい趣味かもしれない。戦争はもっと馬鹿馬鹿しい。虫撮りとか、虫捕りとかやってる人々は、大日本帝国の非国民。精神的害悪を垂れ流し、戦闘意欲を低下させ、愛国精神を蝕む退廃的やからとみなされてしまうだろう。昆虫図鑑なんて、禁書にされてしまうかもしれない。もちろん昆虫記者のブログだとか、ツイッターだとかは即刻削除だ。

 「いやだー、そんな時代は嫌だー。この平和なカンチャナブリ、平和なサイヨーク、平和な鉄道よ、永遠なれ。

 戦争の悲惨な歴史。繰り返してはならない。想像を絶する数の戦争捕虜、現地で徴用した労働者の命が、鉄道建設で失われた。だが、今は、平和な風景が広がる。

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真っ黒な蝶。たぶんチビコムラサキのオス。メスはコムラサキ風なのにオスはこんな喪服のような姿らしい。

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ジャノメタテハモドキ。地味だが、前出のチビコムラサキよりはましだ。

 何一つ世の中の役に立たない虫撮りではあるが、害も成さないという点で、平和的である。タイの虫、サイヨークの虫、そして戦跡のヘルファイアパスの虫を撮る。そして、いい写真であれば、もしかして誰かが「タイに行ってみたい。泰緬鉄道で旅して、なおかつ虫を見たい」などと思ってくれて、タイの観光業の発展に寄与してくれれば、非常に嬉しい限りだ。

 博物館がただで提供している説明資料(なんと日本語版もある)を手にして、虫撮りに励む。戦争の悲劇を噛みしめながら、虫を撮る。しかし、あまり暑いと、時々資料のパンフをうちわ代わりにして、顔をあおいだりする。なんと不謹慎な。そんなやつは、地獄の炎に焼かれて、恐ろしい末路を迎えるだろう。

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ヘルファイアパスのパンフレット。日本語版もある。暑い日はウチワの代わりにもなる。

 そしてやはり、地獄はやってきた。炎ではなく、豪雨だ。血の池地獄、水攻め地獄がやってきたのだ。ずぶ濡れになり、ぬかるみにはまり、最後は鉄砲水に流されるのだろうか。こんな慰霊のための場所に来てまで、虫撮りをしていたのだから自業自得である。

 しかし、ここでも昆虫記者の悪運が発揮される。雨が降り出したのは、3キロほど散策路を進んで、2キロほど戻ってきた時だったのだ。ポツリ、ポツリと降り出した雨が豪雨に変わったのは、入口近くのコーヒーショップに差し掛かったところだった。

 

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豪雨が屋根をたたく。

 難なくコーヒーショップに逃げ込み、屋根を激しくたたく雨音を聞き、ひさしから流れ落ちる白い筋を眺めながら、優雅にアイスカフェオレを飲み、ヘルファイアパス訪問の感想をメモ帳に書き始めたのであった。「虫撮りなんてものは、とてつもなく平和な場所、平和な時代でなければ、存在を許されない道楽である。そんな道楽が許される今を大切にしなければならない。虫撮りは、世界平和の象徴なのだ」。実に身勝手な感想である。

 

超充実のシンガポール虫旅から帰国

 先週末に超充実のシンガポール虫旅から戻ってきました。そしたら何と、ヤフーのブログのサービス終了のお知らせが入っているではないですか。そこでブログ移転に備えて、はてなブログでも記事を書いてみることに。

 帰国後にベランダの植物(ほとんどが虫の餌用)を眺めると、笹の葉の裏側に何やら怪しい人影、もとい、虫影。だいたいベランダの植木鉢にただの笹を植えていること自体怪しい。怪しさ2倍ですね。

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笹の葉裏の怪しい虫影

 裏側を見ると「オオ!」。厳しい冬を乗り切ったヒカゲチョウの幼虫の凛々しい姿が。

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 猫顔の可愛いやつです。

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キュートな猫顔

 特にこいつは、体側に斑紋があるおしゃれな逸品。これまでの経験では、斑紋のあるのは5匹か、10匹に1匹ぐらいの少数派です。まだかすかな白い点ぐらいの斑紋ですね。

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ベランダの植木鉢にただの笹。これは怪しい家ですね。

 数日後に見ると、斑紋が黄色くなって、茶色のアクセントも付き始めていました。今後の成長が楽しみです。でも蛹化する際に遠い旅に出て、行方不明になることが多いので、その前には保護してやらないといけません。世話の焼けるやつです。

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オシャレな斑紋付きのヒカゲチョウ幼虫

 シンガポール土産を1匹。東南アジアの至る所にいる種類のハゴロモですが、なかなかの美貌。小さくて気付かれにくい存在ですが、お気付きの際には是非記念写真を撮ってみて下さい。

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 普通のハゴロモでさえ南国風ですね。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑦

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑦
◆戦場にかける橋
 ナムトックへの帰りの列車では、「戦場にかける橋」の英語版ペーバーバックを読む。原作はフランス語だが、フランス語は読めないのだ。それなら日本語にすればいいのに、なぜか格好つけて英語である。
 泰緬鉄道で「戦場にかける橋」を読む昆虫記者。格好いいではないか。なかなか絵になるぞ。誰か気づいてくれないかと周囲を見回すが、誰一人気付く者はいない。だんだん恥ずかしくなってくる。インスタ映えを狙って同じことを考えるやつは多そうだし、あまりにも、薄っぺらな観光客的ではないか。
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 アカデミー作品賞に輝いたデビッド・リーン監督の戦場にかける橋の映画(英米合作)を観た人は多いだろうが、あの映画が撮影されたのは、タイではなくて、スリランカである。スリランカの観光当局にとってはウハウハであるが、タイにとっては、残念。せめてクウェー川の上流の霧に沈むジャングルで撮影したシーンでも含まれていればと思うのだが、まあ映画なんてものは、こんなものだ。ストーリー自体、フィクションだから仕方がない。
 映画の原題は「ザ・ブリッジ・オン・ザ・リバー・クワイ」であり、クワイ川(タイ語の発音ではクウェー川)には、日本軍がかけたその橋が今も架かっている。主題曲のクワイ川マーチとともに、誰もが知る橋である。それだけでも、カンチャナブリの観光には絶大な貢献を果たしている。
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 鉄橋の下をのんびり泳ぐシナガチョウ

 クワイ川マーチは、捕虜たちの口笛が印象的だったが、日本の子供たちの間で流行したというサル・ゴリラ・チンパンジーの替え歌も印象的だ。サル・ゴリラと言えば、戦場にかける橋の原作者であるフランスの小説家、ピエール・ブールは、何と、「猿の惑星(プラネット・オブ・ジ・エイプス)の原作者でもある。そのどちらもが、仏領インドシナで第二次大戦中に日本軍の捕虜となり、収容所生活をおくった体験がもとになっているという。戦場にかける橋と、猿の惑星は、発想の原点が同じだったというのは、意外な発見だ。猿の惑星では、日本帝国軍をサル・ゴリラ・チンパンジーに置き換えたというわけだ。
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 線路脇の電線にはアオショウビンの姿も

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 トンボを捕まえた名前不明のありきたりの野鳥 

◆川の名前も変えてしまった映画の影響力
 映画の影響の大きさは、川の名前にも反映されている。戦場にかける橋の下を流れているのは、もともとはメークローン川であり、少し下流で合流する支流こそがクウェー川だった。映画が有名になり過ぎたため、鉄橋が架かっている川はクウェーヤイ(大クウェー)川に改名され、クウェー川はクウェーノイ(小クウェー)川に格下げされたのだ。もともとの名を奪われた旧クウェー川にとっては悲劇だ。二つの川が合流した先はメークローン川のままである。
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 クウェーヤイ川の風景

 ナムトックへの帰りの列車は、進行方向に向かって左側の席に座らなければならない。でないと、クウェーノイ川の景色や、断崖に張り付くように建設されたタムクラセーの木造橋(日本では依然ここにあったアルヒル駅の名からアルヒルarrow hill桟道橋と呼ばれることが多いが、英語ではこの名はほとんど見かけない)を列車が渡る様子を撮ることができない。戦時中に捕虜らの労働力を使って作られたものだという。切り立った崖の側面を這うように作られた鉄道。今も使われているというのが信じられない。当時は過酷な作業だったに違いない。列車は速度を落とすので、写真は撮りやすい。
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◆次から次へとやってくる物売り
 「列車旅と虫旅。この二つを組み合わせれば、最強の旅になる」。などという話は、聞いたことがない。たいていは、列車旅と取り合わせがいいのは、グルメだろう。そういうテレビ番組は数えきれないくらいある。つまり、一般日本人は、列車とグルメなのである。虫は余計物なのだ。やはり、列車にはグルメである。そして、この列車では、社内販売が盛んだ。弁当、果物、飲み物など、色々と抱えた売り子さんが次々とやってくる。これなら、簡単に低予算のグルメ旅番組が作れる。
 日本の社内販売のように決まった制服を着て、ワゴンを押してくるわけではない。どう見ても普段着だし、手にしているかごもスーパーの買い物かごのようなものだ。「絶対制服がいい、制服じゃないと嫌だ」という、制服好きには申し訳ないが、こういう、一般商人的な物売りもいいものだ。タイ人の普段の生活を垣間見た気分になれる。
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 本当は虫の居そうな駅ごとに下車したいのだが、なにせ1日に3往復しかない列車である。下りてしまったら次がない。
 それに、あまり乗り降りを繰り返していると、忘れ物をする危険が増す。なにしろ、昆虫記者は忘れ物キングである。何度も財布をなくしている。傘をなくすなんて、日常茶飯事だ。帽子、カバンも。だから、財布にはチェーンを付けて、常にズボンと一体化させるようになった。持ち物も、できる限り、体と接続する。

◆スタンドバイミー的虫撮り
 列車は昼すぎにナムトック駅に到着した。平日の列車はここが終点だ。線路は、観光名所のサイヨークノイ滝が近くにある次のナムトックサイヨークノイ駅まで続いているが、そこまで行くのは土日の特別列車だけである。今日は平日。虫を撮りながら、線路を1駅分歩いても、安全上何の問題もないはずである。豊かな自然の中を走る線路は、森の散策路と同じだ。必ず虫がいる。鉄道ファンの血が流れる虫好きにとって、虫と線路は最高の組み合わせではないか。
 線路上は実にのどかだ。西洋人の同好の士のカップルが1組、後からやってきて、昆虫記者を追い抜いていった。たいていの観光客は、「ソンテウ」と呼ばれる小型トラックを改造した乗合タクシーでナムトック駅から滝に向かうが、わずか1キロ余りの距離。歩いて行こうという人もいるのだ。
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 この先は平日は列車が通らないので、歩けないことはないが、お勧めはしない

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  「滝に行くのですか」と尋ねると「これが一番の近道だから」と笑って答えるカップル。何だかとても楽しそうだ。線路沿いに冒険の旅に出る。映画「スタンド・バイ・ミー」の世界である。彼女と一緒にスタンドバイミーなんて、いいなー、うらやましいなー「ソー、ダーリン、ダーリン。スタンド、バイ、ミー」と歌ってみても、昆虫記者の隣にダーリンはいない。枕木の間の草を踏みしめ、虫を撮りつつ、とぼとぼと歩く。「昆虫記者のダーリンは虫だけで十分だ」と強がりながら。
 しかし、ここは、クウェー川鉄橋とは違って、人が歩くことを想定して作られた線路ではない。線路上を歩く者にとって想定外の危険個所もあった。小さな川の上を渡る鉄橋のようなところがあったのだ。線路わきの柵すらなく、ただ、線路が川の上を跨いている。枕木と枕木の間は、何もない。枕木の隙間に落ちたら、そのまま谷底だ。
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 忠告を無視して、線路上を歩くと、こういう危険カ所もある。

 さして深い谷ではないが、落ちたら骨折ぐらいはするだろう。先に行ったカップルがもしや落ちていたりしないか、一応チェックする。映画スタンドバイミーとは違って、死体はころがっていなかった。
 ちょっと怖い道ではあったが、ナムトック・サイヨークまでの近道であることは間違いない。あっという間に到着する。それに、結構虫の姿も多かった。フタオチョウの仲間もいたし、以前カオヤイで出会ったことのある、ピンク地に水玉のハムシもいた。想定外の収穫である。
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 たぶんチビフタオチョウ

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 線路上のハイイロタテハモドキ

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 テントウムシ似のゴミムシダマシの仲間(たぶん)

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 ピンクと黒の水玉模様のハムシ。

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 指乗せしてみた。かなり大型のハムシだ。 


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 イナズマチョウの仲間

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 名前不明のハムシ

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 線路上を歩いていたカメムシ。竹でよく見かけたので、竹が主食かも。

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 カバタテハ

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 カバマダラも線路脇にいた

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 ベニボタルの仲間

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 ヤスデとアリが線路上で喧嘩。列車が来ないので、のどかなシーンが展開される。

 だが、他の人にこの道は決して勧めない。絶対行くなとここに書いておく。だから、万が一、鉄橋から落ちて大けがをする人が出たとしても、絶対に昆虫記者の責任ではない。

 そして、サイヨークノイ滝があるナムトック・サイヨークノイ駅に着いた。
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 ナムトック・サイヨークノイ駅が見えてきた。

 観光客のほとんど、99%は、ナムトック駅で待っているソンテウに乗って、滝までやってくるが、歩いても大したことはないだろう。せいぜい1~2キロだ。もちろん、線路上のスタンドバイミー・コースは危険だから禁止である。ソンテウ代を節約したい人は、正規の道を歩こう。どうしても線路上で虫探しをしたいという人は、ナムトック・サイヨークノイ駅側から、鉄橋までの安全な区間だけを歩くのが良い。

 この滝は写真写りはいいが、幹線道路に面した公園のようになっていて、極めて大衆的である。写真で見る限りでは、まるでジャングルの中に突然現れる幻の滝のようだが、そんなとてつもない期待を抱いてここを訪れると、かなりがっかりするかもしれない。特に乾季にここを訪れたりすると、岩壁にチョロチョロと水が滴るような状態になるらしい。滝が目当てなら、雨季に入る5月以降に来た方がいい。
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 サイヨークノイ滝周辺にもスソビキアゲハがいる。

 サイヨークノイ滝には、ソンテウがたくさん停車しているので、1台つかまえてホテルに戻る。ホテルまでの距離は15キロほど。料金は500バーツだった。ちょっと高いような気もしたが、ホテルで確認したら、適正だという。ホテルからのソンテウも同じ値段だった。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑥

◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑥
◆3匹の野良犬との対決
 泰緬鉄道の列車が通り過ぎた後のクウェー川鉄橋駅。線路のレールの間には猫がねそべっていた。次の列車が来るまで、何時間もあることを知っているのだ。のんびりしたものだ。
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 物欲しそうに昆虫記者を見つめるネコ

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 何ももらえないと分かると、ふてくされて寝そべってしまった。

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 猫の獲物にちょうど良さそうな可愛い鳩

 そして、橋の上を歩いていたのは、観光客ではなく、野良犬が3匹だけ。これはこれで、なかなか撮れない貴重な写真だ。朝5時過ぎにナムトック始発に乗ったからこそ、見られた光景である。と言っても、そんな光景は、だれも見なくないかもしれない。これは「世界猫歩き」ではないし、「世界犬歩き」でもない。「早く虫を出せ」という激しい批判の声が聞こえてくる。いや、空耳だった。どこからもそんな声は聞こえてこない。
 とりあえず、3匹の犬の後をついて、ゆっくりと橋の上を進む昆虫記者。対岸の緑生い茂る河川敷には、いろいろな蝶が飛び交っている。早く行って写真を撮りたい。だが、足は前に進まない。なぜ急がないのか。それはもちろん、犬が怖いからである。野良犬は大の苦手なのだ。
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 「振り向かないで」と願っていたが振り向かれてしまった。

 たかが野良犬と思う人もいるだろうが、歯をむき出して襲ってきたらどうする。ここは逃げ場のない橋の上だ。噛みつかれたらどうする。鉄橋から川に飛び込むしかないではないか。犬たちの機嫌を損ねないよう、まるで犬の存在に気付いていないかのように視線を空に向けながら、のんびり歩く。軽快なリズムのクワイ川マーチを鼻歌で奏でながら。

◆絶体絶命のピンチ
 クワイ川マーチと言えば、言わずと知れた名作映画「戦場にかける橋」のテーマ音楽である。クウェー川鉄橋建設のため捕虜として過酷な労働を強いられた英国兵士らの口笛が印象に残っている人も多いだろう。だが、舌の短い昆虫記者は悲しいことに口笛が吹けないので「ピピッ、ピピピ、ピッピッピー」とはならないのである。鼻歌では「フフ、フフフ、フフフーン」と気の抜けた音になってしまう。
 しかし殺人野良犬は容赦しない。しかも3匹。彼らが振り返り、おかしな日よけ帽子をかぶって変な鼻歌を歌う男にほえかかってくる。おびえ切って防護柵にしがみ付く男。もはや絶体絶命だ。「ギャー、助けてくれ」。
 しかし、野良犬たちは突然興味を失い、3匹連れ立って対岸へと足早に去っていった。昆虫記者は、防護柵からゆっくりと手を放し、醜態の現場を誰も目撃していないことを確認すると、再び鼻歌を歌いながら、蝶の待つ対岸へと向かったのであった。
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 泰緬鉄道の別名は「デス・レールウエー(死の鉄道)」である。戦争の犠牲者への鎮魂の祈りを忘れ、虫撮りにうつつを抜かしていると、罰が当たって、とんでもない事件に巻き込まれかねないことを野良犬たちは教えてくれたのだった。

◆線路上を歩ける鉄橋
 クウェー川鉄橋駅の周辺は、レストランや土産物屋で賑わう。ここは一大観光地なのである。観光資源は「戦場にかける橋」で有名なクウェー川鉄橋と、その下を緩やかに流れるクウェーヤイ川である。
 映画では、爆破されて木っ端みじんになったはずの橋は、今も立派にそびえ立っている。空爆で一部が破壊されたが、すぐに再建されたようだ。そして、この橋は、列車に乗って渡るだけでなく、歩いても渡れるのである。
 列車の鉄橋の上を自由に歩けるというのがすごい。2本のレールの間を歩けるのである。日本では考えられないことだ。なにせ、1日に3往復しかない列車だから、列車が通る時以外は、歩道橋になるのだ。途中には避難場所もあるから、列車が来ても大丈夫。と言うか、列車が来たら超ラッキーということだ。だから列車が来る時間に合わせて、橋を渡る人もいる。
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 列車が来た時に鉄橋上の観光客が避難するスペースが設けられている。

 日本の鉄ちゃんたちにとっては、夢のようなことだ。日本では、関係者以外が、踏切以外で線路の敷地内に入ることは犯罪になりかねないのだ。鉄道営業法違反になる。「無断で線路内に立ち入るべからず」。最近も芸能人が線路に立ち入って写真を撮り、ブログにアップしたとかで、書類送検される事件があった。線路内に立ち入るマナー違反の撮り鉄が問題になることも多い。
 だが、泰緬鉄道では、線路内を歩くことが観光の目玉なのである。泰緬鉄道をめぐる団体ツアーでは、たいていクウェー川鉄橋や、タムクラセ(アルヒル)桟道橋の線路上を歩く時間が組み込まれている。線路わきに設けられた避難場所から、通り過ぎる列車を撮影し、乗客に手を振るのが、旅のハイライトなのである。何と素晴らしい鉄道なのだ。
 鉄橋の防護柵のうち、弧を描くアーチ状のものは戦時中のままで、直線的な防護柵部分は戦後に修復されたものらしい。直線的な柵には、yokogawa brdgeの文字。これも日本製ということだ。
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◆対岸の河川敷は昆虫環境良好
 それで、虫撮りはどうなったのか。もちろん、忘れてはいない。
鉄道ファンに多少すり寄っても、魂までは売り渡しはしないのだ。鉄橋駅から橋を渡った先の河川敷には、いい感じの緑が広がっている。森の間に林道が幾つも通り、草原も点在している。これは、かなり良い昆虫環境だ。
 そして、なかなか良い虫たちが、そこで待ち構えていた。まずはハレギチョウ。いつ見ても、美しい。戦場に散った兵士たち、過酷な労働で倒れた連合軍捕虜たちも、このチョウを眺めて、悲惨な戦争を一瞬だけ忘れることができたかもしれない。
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 日本ではハレギチョウ、英語ではレースウィング。晴れ着のような色合いと、レース編みのような周囲のギザギザ模様が特徴。

 スジグロカバマダラも多い。スジグロは東南アジアのどこでもよく見かけるのだが、黒い筋のない、ただのカバマダラの方はなぜか、これまでほとんど見たことがなく、写真は一枚も撮れていなかった。そのカバマダラもここには、何匹か飛んでいた。どちらも体内に毒をため込んでいるという。
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ツマグロヒョウモン♀の擬態のお手本
 これに擬態して、身を守っていると言われているのが、東京周辺でも繁栄を極めているツマグロヒョウモンのメスだ。確かによく似ている。どちらかと言えば、スジグロでない、ただのカバマダラの方に近い模様だ。だが、カバマダラがいない東京でもツマグロヒョウモンは急増しているから、擬態説もちょっと怪しくなってくる。擬態なんかしなくても、十分繁栄していけるのではないか。
 ツマグロの都会での繁栄は、パンジーなどスミレ科の園芸種を幼虫が食べまくっているためとも言われる。つまり、都会への適応能力が高かったのだ。南国の美しい蝶への擬態は、虫捕り少年に襲われる危険を高めるだけで、東京では逆効果ではないかと思われる。
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左がツマグロヒョウモン♀、右がカバマダラ。確かによく似ている。

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左がツマグロヒョウモン♀、右がカバマダラ。裏側はツマグロの方がはるかに美しい。

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 ちなみにツマグロヒョウモンの♂は、普通のヒョウモンチョウの模様で、カバマダラには全く似ていない

 ドクチョウの仲間のヘリグロホソチョウもゆったりと飛んでいる。こいつらも、毒を体にため込んでいるので、ゆったりと飛ぶのだ。食べたらまずいよ、と広告しながら、飛んでいるのである。
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 見るからにドクチョウの仲間といういで立ちのヘリグロホソチョウ

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◆上空から昆虫記者をバカにするキシタアゲハ
 川が近いのでトンボも多い。以前オーストラリアで出会ったスキバチョウトンボもいた。羽の付け根の黄色の模様がおしゃれである。
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 真下から見上げたスキバチョウトンボ。斑紋の部分だけ見ると、小さな蝶に見える。

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 そして、ワシントン条約の保護対象の大きなチョウ、キシタアゲハがたくさん飛んでいる。しかし、とんでもない高い木の上をかすめていくのだ。全く写真にならない。やつは、昆虫記者が列車に乗っている時も、せせら笑うかのように、車窓すれすれを飛んでいた。今回の旅では、キシタアゲハには馬鹿にされ続けた。いつか徹底的に報復してやらねばならない。
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 昆虫記者をあざ笑うように、はるか上空を旋回するキシタアゲハ

◆地雷のように仕掛けられた牛フン
 虫好きが上を向いて、チョウの姿を追っていると、足元の危険に気付かず、痛手を負うことがよくある。穴に落ちて足をくじいたり、石につまずいたりはしょっちゅうだ。そして、今回待ち受けていた重大な危険は牛のフンである。大きいものは直径30センチはあると思われる。
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 こんな素敵な河川敷の風景の中に、危険が潜んでいる。

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 草原の中に絶妙に配置された牛フン。

  この河川敷には、水分たっぷりでベチョベチョの平べったい牛フンが、あちこちに地雷のように仕掛けてあったのだ。一つめ、二つめは難なくかわした。そして三つめが危なかった。ぎりぎりのところで、脳内の衝突回避機能が作動し、円形のフンの外周部分をわずかに踏みしめただけで、大事には至らなかった。
 それでも、足裏の感触はぐんにゃりと、気持ち悪い。もし直径30センチの中心を踏み抜いていたらと考えると、恐ろしい。そこで、つるりと滑って、尻もちをついたりしたら、大惨事だ。帰りの列車に乗ったら、周囲から臭いもの扱いされるだろう。一体誰が、こんなところで牛を放牧しているんだ。訴えてやる。
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 ベニモンアゲハはジャコウアゲハに近い仲間なので、赤い胴体が毒々しく美しい。

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 たぶんメスシロキチョウ。こういつ草原の蝶に気を取られていると、牛糞の地雷に気付かない。

 いつまでも高い樹上を見上げ、キシタが下におりてくるのを待っていたが、だめだった。そして、あっという間に帰りの列車の時間に。再び橋を渡って、駅へ向かう。さすがに昼近くなったので、観光客が多い。橋の上は、繁華街の歩道橋のようになった。もはや野良犬が渡れる場所ではない。
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 観光客でごった返す昼時のクウェー川鉄橋

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 駅で列車を待つ観光客

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 20分遅れで列車がやってきた。

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 通り過ぎる列車に手を振る幼児。将来の強力鉄ちゃんの素質がありそうだ。

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 鉄橋上の退避場所で、通り過ぎる列車を撮る観光客

 駅で帰りの切符を買う。100バーツだ。どうせ列車は大幅に遅れるのだろうと思っていたら、たったの20分遅れでやってきた。すばらしい。タイ国鉄もきっと、心を入れ替えたのだろう。

葛西のオオツノカメムシ、お目覚め

 たぶん日本一立派な角を持つカメムシのオオツノカメムシ。東京では普段なかなか見かける機会がないオオツノカメムシですが、冬は越冬のため海辺の公園にやってくることがあります。

 葛西臨海公園もそんな貴重な公園の一つ。と言っても、これまでに見かけたのは、今回を含めて2回だけですが。でも老眼、乱視の虫記者が見つけられるのですから、きっとかなりの数のオオツノカメムシが毎年ここで越冬しているのでしょう。
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 今回はなぜか、竹林にいました。最近春のような日もあったので、越冬から目覚めてしまったようです。

 正面顔を撮るため、ちょっと移動させました。右側はすぐ海です。
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 機動戦士系の装束で、なかなかに格好いいカメムシです。
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 ムラサキシジミも、そろそろお目覚めの季節。♀のようですね。この時期まで頑張れば、春の繁殖シーズンまで生き残れるでしょう。
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 ウラギンシジミもずいぶん目立つ場所にいたので、最近お目覚めして、隠れ家から出てきたのでしょう。 
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  こんな細い体で、無防備な場所で、よく越冬できるものだと感心するのが、オナガグモ。
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 どこにいるのか、良くわかりませんよね。斜めに突き刺さった緑の松葉のようなのがオナガグモです。上から見ると、若干クモらしく見えますね。
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葛西のカニを食べるハジロカイツブリ

 葛西臨海公園の海辺にハジロカイツブリ(たぶん)が数羽来ています。潜りの得意なカイツブリ
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 何を食べているのか観察していると、何と贅沢なことに、カニを食べていました。獲物は、ワタリガニのような、中型のカニ
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 何度か突っついて、食べやすくした後、ゴックン。
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 でもあまり水がきれいではない葛西の海岸。健康上は大丈夫なのか、ちょっと心配になりますね。

 コサギも岩場の生き物を狙っているようですが、なかなか獲物にありつけないようです。
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 ここの淡水の池は、圧倒的に多いのがヒドリガモですが、おかしな顔のハシビロガモが毎年やってくるのが、プラスポイントですね。
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