虫撮る人々

地球は人間の所有物と思ったら大間違い。虫も獣も鳥もいる。昆虫記者の私的ブログです。

世界の昆虫、絶滅の危機。大量絶滅期は既に始まっている

「世界の昆虫の41%が絶滅の危機。英国の田園地帯の蝶は1976年以降46%減少。ドイツの自然保護区の昆虫が26年間で75%減少。渡りで有名な北米のオオカバマダラは10年間で80%減少」。

 日本だけでなく、世界の昆虫界でも、大変な事態が起きているようですね。現在は地球史上6回目の大量絶滅期という話はよく聞きますが、どうやら、昆虫界も大絶滅に向かっているようで、悲しいです。人間以外の生物種は、地球史的時間軸で見ると、現在すさまじい勢いで減少しています。でも2、3年の変化となると、非常に小さいので、この地球史的大絶滅を気に留める人は、ほとんどいないそうで、そのこと自体が深刻な問題でもあるようです。

 最初に挙げた昆虫減少の警告は、数日前にBS放送で見たCNNニュースで取り上げられた、英国の昆虫学者の報告にあったものです。

 ニュースは短いものだったので、報告書の原文を探してみました。最近の世界各地での様々な調査を分かりやすくまとめてあり、虫好きの人々にとっては非常にためになる、と言うか、非常に危機感を覚える内容でした。

 普段は気楽な虫撮り遊びばかりしている昆虫記者ですが、たまには世のため人のため(と言っても対象は極めて限定的な虫好きの人々だけですが)学術論文の翻訳にも取り組んでみようと思い立ちました。

 すごいぞ、パチパチ(ごく少数の人々の拍手)。

 

 論文の筆者のデーブ・グールソン氏は英サセックス大学の生物学教授で、生態学と昆虫保護、特にマルハナバチの保護を専門にしています。ウィキペディアによれば、2015年に、英国の野生生物専門誌BBCワイルドライフの「50人の自然保護分野のヒーローたち」で8番目に選ばれています。

 

 それでは以下に論文の抄訳を掲載します(かなり長いので、多少の誤訳等はご容赦ください)。

 

 

 

◎昆虫の減少と、それが重要な意味をもつ理由

デーブ・グールソン

◆概要

 過去15年間、われわれは地球上の野生種の個体数を劇的に減らしてきた。かつては普通に見られた生物種の多くが、いまではほとんど見られなくなっている。大型で人を引き付ける動物が目立って注目されてきたが、最近得られた証拠は、昆虫の個体数が1970年以降、50%ないしそれ以上減少している可能性を示している。

これは問題だ。なぜなら、昆虫は生物の食料、植物の授粉役、リサイクルの仲介役などとして極めて重要だからだ。

恐らくもっと恐ろしいのは、私たちのほとんどが、どんな変化が起きているのか気付いていないことだ。1970年代のことを思い出せる人で、自然に興味がある人でさえ、子供の頃にどれだけの蝶やマルハナバチがいたか、正確に思い出すことはできない。

 エコシステムを機能させる上では、これらの数えきれないほどの小さな生き物は、関心の多くを引き付けやすい大型の動物よりも、ずっと重要なのだ。昆虫は、鳥、コウモリ、トカゲ、両生類、魚など、多くのより大きな動物の餌となる。昆虫は、野の花や作物の授粉、害虫駆除、栄養分のリサイクルなどの面でも不可欠の役割を果たしている。

最近の幾つかの化学的報告では、地球規模での昆虫の急激な減少が報告されており、これらは重大な懸念材料となってしかるべきだ。生物量、個体数、あるいは種類数にしても、動物の大半は、昆虫、クモ、ワームなどの無脊椎動物で占められている。

 これらの研究は、一部地域の昆虫が、壊滅的な生息数の崩壊状態に瀕している可能性があることを示唆している。

われわれは、これと同様の昆虫の個体数の減少が英国でも起きているかどうか、確実に知ってはいない。英国のデータで最も信頼できるのは、蝶と蛾に関するものだ。その数は、特に農村部と南部において、広く減少している。英国のハナバチとハナアブもかなり生息域を減らしている。昆虫の減少の原因については、多くの議論があるが、その中に生息環境の喪失、さまざまな殺虫剤に慢性的にさらされていること、気候変動など が含まれることはほぼ間違いない。

 その影響は明白だ。昆虫の減少が食い止めらなければ、地上および淡水中のエコシステムは崩壊し、人間の健康な生活に深刻な影響が及ぶ。

良いニュースは、まだ遅すぎないということだ。今のところ絶滅した昆虫は少ない。そして生息数は休息に回復し得る。

われわれは、緊急にすべての日常的で不必要な殺虫剤の使用をやめ、私たちの庭、町、市街地、郊外地域に、もっと多くの、もっとうまく接合された昆虫に優しい環境を作り出すことで、自然回復のネットワーク構築を開始する必要がある。

共に行動することによってのみ、われわれは昆虫減少の原因に対処でき、減少をストップさせ、逆転させ、昆虫と私たち自身の持続可能な未来を確保することができる。

 この報告は、昆虫の減少に関して入手可能な幾つかの最も信頼できる証拠をまとめ、昆虫の多様性と個体数を回復するために社会のあらゆるレベルで取り得る包括的な一連の行動を提案するものである。

 

◆昆虫の減少:その証拠

 生物多様性の喪失に関する一般大衆の認識は、特にキタシロサイ、あるいはドードーなどの鳥類のような大型の動物の絶滅の事態が中心になっている。しかし、実際には、絶滅したと知られている種の比率は比較的小さい。1500年以降に雑滅した哺乳類は80種、鳥類は182種だけだ。これはそれぞれ、既知の種の1.5%、1.8%に相当する。こうした数値は、表面上は、われわれが現在6度目の大絶滅期に入っているとか、生物多様性の危機に直面しているとかいった認識とは食い違っているようにも見える。しかし、こうした実際の絶滅に関する比較的落ち着いた数字が示唆するよりも、ずっと深刻な影響が野生生物に及んでいることを示す証拠が最近明らかになりつつある。

 

・生物個体数の減少

 大半の生物種は、まだ絶滅してはいないかもしれないが、その個体数は以前と比べて大幅に減少している。世界自然保護基金(WWF)とロンドン動物学会が2018年にまとめたリビング・プラネット報告では、世界の野生脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類)の総個体数は、1970年から2014年の間に60%減少したと推計されている。

 今生きている人々が記憶している時間の中でも、野生の脊椎動物が半分以下になったのだ。野性生物の個体数に人間が及ぼした影響の大きさを示す例は、イスラエルの科学者らが最近発表した画期的報告に記されている。それによれば、人類の文明が誕生して以来、野生の哺乳類の83%が失われた。

 別の言い方をすれば、野生の哺乳類6匹に当たり5匹が失われた。現在、野性の哺乳類が哺乳類全体の生物量に占める割合は4%に過ぎず、残りのうち60%は家畜、36%は人間だというこの報告の推計も、人間がもたらした影響の大きさを示している。実感を持つのは難しいが、この報告が正しければ、ネズミ、ゾウ、ウサギ、クマ、レミングカリブー、ヌー、クジラなど世界の5000種類の野生の哺乳類すべてを合わせても、その重量は家畜の牛と豚の総重量の15分の1にすぎないことになる。

 また同報告によれば、世界の鳥類の生物量の70%は現在、家禽で占められている。野性の脊椎動物の減少は、しっかりと記録されており、相当な規模だが、もう一つのもっと劇的でさえある変化が静かに進行している可能性が見受けられる。それは、人間の健康的な生活により深刻な影響を及ぼすかもしれない。

 既知の生物種の大部分は無脊椎動物だ。このうち、地上で支配的な存在になっているのは昆虫だ。昆虫に関する調査は、脊椎動物と比べて極めて不十分だ。現在知られている100万種の昆虫の過半数は、その生態、分布、個体数が事実上全く知られていない。われわれが目にするのは、捕獲された場所と日付とともに博物館に展示されている基準標本だけということも多い。

 名前が付けられている100万種の昆虫のほかに、少なくとも未発見の昆虫が400万種いると推定されている。この驚異的な地球上の昆虫の多様性について分類を終えるのは何十年も先になるだろうが、これら昆虫が急速に姿を消している証拠が出てきており、多くの種は、その存在が確認される以前に失われる可能性が大きい。

 

・昆虫種の41%が絶滅の恐れ

 2019年初めに、オーストラリア人の昆虫学者Francisco Sanchez-Bayo氏が、昆虫の減少に関する様々な証拠について行った科学的分析を公表した。彼は、主に欧州と北米における73件の調査を見つけ出したが、それらは、各地域での昆虫種の絶滅が、脊椎動物の8倍の速さで進んでいることを示唆していた。彼の推計によれば、昆虫は毎年2.5%ずつ減少しており、昆虫種の41%が絶滅の危機に瀕している。彼の報告は「われわれは、ベルム紀末(2億5000万年前の大絶滅)以来最大の地球上の絶滅イベントを目撃している」と結論付けている。

 

・クレフェルト昆虫学協会の研究報告

 昆虫の減少について最も大きな話題になった調査報告は、2017年に昆虫学者の組織であるクレフェルト協会が発表したものだ。この調査はマレーズトラップ(Malaise trap)を使って飛翔昆虫を捕獲するもので、1980年代末からドイツ各地の63カ所の自然保護区で行われてきた。マレーズトラップはテントのような構造物で、運悪く飛び込んできた虫を受動的に捕まえる装置だ。ドイツの昆虫学者たちは、1万7000日近くかけて計57キログラムの昆虫を集めた。彼らの報告は、広範な昆虫種を網羅する長期にわたる大規模なデータセットとしては、現存する唯一のものとなっている。その結果、トラップで捕獲できた昆虫の総生物量が、1989年から2014年の26年間で75%減ったことが分かった。

 昆虫の活動がピークとなる真夏に限ると、減少率は82%とさらに著しいものとなった。これら地点の昆虫の生物量が、これほど短い期間に、これほど大幅に減少し得ることは衝撃だった。

 この調査結果は世界中に伝えられ、多くの論議を呼んだ。63の調査地点の中には1年だけしか使われなかった所もあったため、データに信頼性がないと指摘する者もいた。しかし、パターンは極めて明確であり、昆虫の生物量が大幅に減少しているという結論を否定するのは困難だった。われわれはまた、1989年よりもずっと以前から地球に対する人類の影響が生じていたことに留意しなければならない。

レイチェル・カーソンの「Silent Spring(邦題=沈黙の春)が出版されたのは、1989年より27年も前のことだ。この75%の減少は、事実だとすれば、もっとずっと大幅な減少の最後の方の一部分にすぎないのだろうと推察される。殺虫剤と工業化された農業が導入される以前、例えば今から100年前に、どれほど多くの昆虫がいたのかを知ることはできない。

 同様の昆虫生物量の減少が、ほかの所でも起きていたのか、ドイツの自然保護区で何か特別なことが起きていたのかについては、多くの論議があった。しかし、確かなデータはほとんど存在しない。

蝶と蛾についてだけは、1970年以降カリフォルニアや欧州など各地で、広範囲かつ長期間の調査が行われている。これら調査は、全般的な減少パターンを示しているが、ドイツでの調査ほどの劇的な変化を示すものは少ない。その中で最も注目される例は、北米東部でのオオカバマダラの調査だ。同調査では、オオカバマダラの個体数は2016年までの10年間で80%減少した。オオカバマダラは、メキシコの越冬地との間で長距離の渡りをする蝶として有名だ。

 英国では、大型の蛾の個体数が1968年から2007年の間に28%減少した。英国南部では減少幅がより大きく、40%に達した。50%以上の減少を記録した種は、全体の3分の1以上(37%)だった。17種の一般的な草原性の蝶を対象とした欧州全域での調査では、1990年から2011年の間に30%の減少が確認された。

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英国の大型の蛾は40年ほどで28%減少。たまに写真も入れないと読み疲れるので、オオミズアオを入れてみました。

 昆虫の個体数の調査の中で、恐らく世界で最も進んでいるのは、英国の蝶についてだろう。英国の蝶に関しては、バタフライ・モニタリング・スキームの一環として、毎年2500以上の横断的フィールド調査を行って、その数を調べている。これらデータは詳細に分析されており、自然保護の合同委員会は、「広域の田園地帯(wider countryside)」における蝶の個体数は1976年から2017年の間に全体で46%減少したと結論付けた。ただし、キマダラジャノメ、シータテハなどごく一部の種はかなり増えていた。同委員会の推計によれば、生息環境が限定的な蝶は、組織的な保護活動が行われている種が多いにもかかわらず、より減少幅が大きく、77%減になった。

 

・ハナバチの減少

 ハナバチは授粉の仲介役として重要なため、その減少はメディアで大きく扱われてきた。しかし、残念なことに、野生のハナバチの個体数に関する長期的なデータで、蝶に関するデータに比肩するようなものは存在しない。しかし、一部の野生のハナバチ、特にマルハナバチについては、比較的しっかりした調査が行われており、正確な分布図を得ている。われわれはそこから、分布範囲の規模の時系列的な変化状況を把握することができる。

 これらの分布図から、多くの種の地理的生息域の劇的な縮小が明らかになった。種の減少を示す最初の兆候の1つは、生息域の周縁部で姿を消していくことだ。英国では、マルハナバチの仲間23種のうち13種の地理的生息域が、1960年以前と比べて2012には半分以下に縮小した。このうち2種は絶滅に向かっている。

 かつては英国中で見られたセイヨウオオマルハナバチ(great yellow bumblebee)は、今ではスコットランドの極北部と西部でしか見られなくなった。以前は英国南部で多く見られたshrill carder bumblebeeの生息地は、わずか5地点しか残されていない。

ごく最近になって、英国のすべてのハナバチ(マルハナバチだけではない)、およびハナアブの生息域変化のパターンの詳細な分析が完了し、同様のパターンが確認された。どちらの昆虫グループも1980年から2013年の間に減少し、各1平方キロ区分から平均で11種が姿を消した。

全国では1850年以降、花を訪れるハナバチとスズメバチの仲間のうち23種が絶滅した。北米では、過去25年間にマルハナバチの仲間5種が生息域、個体数ともに大幅に減少した。このうちFranklin’s bumblebeeは、世界的に絶滅に向かっている。

 

・昆虫減少による他の動物への影響

 蝿、甲虫、バッタ、スズメバチトビケラ、アワフキムシなど多くの昆虫種に関する系統的な調査は全く行われていないが、昆虫を餌にする鳥の生息数に関しては、しばしば信頼できるデータを目にする。そして、こうした鳥も数を減らしている。北米では、空中で虫を捕まえる鳥類の1966年から2013年の間の減少率が約40%となっており、他の鳥類よりも著しい。

 英国ではムナフヒタキ(spotted flycatcher)の生息数が1967年から2016年の間に93%減となった。かつては普通に見られた他の飛翔昆虫を餌とする鳥類も、同様に減少している。大型の昆虫だけを餌とするセアカモズは、英国では1990年代に絶滅した。

 

◆昆虫減少の理由

何が昆虫の著しい減少の原因なのだろうか。野性のハナバチが減少している理由については、他の昆虫と比べて多くの議論がなされてきた。今も議論は続いているが、大半の科学者は、生息地の喪失、さまざまな殺虫剤に日常的にさらされていること、飼育されるミツバチの間で広がった異国の病気の拡散、気候変動の初期の影響など、人工的ストレスの複合作用が理由との見方を示している。病気の問題は、ほぼハナバチに限定されるが、他の問題はすべての昆虫に影響する。

 

◆なぜ昆虫の減少を心配する必要があるのか

 昆虫に対する見方はさまざまだ。昆虫は美しく、魅力にあふれ、楽しい生き物だと思う人もいる。そういう人々にとっては、昆虫の姿や鳴き声は、春や夏の欠かせない風物詩だ。生態学者、農家、知識豊富な庭師などは、昆虫の果たす役割に価値を見いだすかもしれない。昆虫は、花々の授粉を助け、栄養分をリサイクルし、害虫を駆除し、可愛い鳥たちの餌になるなどの役割を果たしている。その一方で、昆虫が少ないほど好ましいと考える人も多い。昆虫はしばしば、不快感、噛まれたり刺されたりした際の痛み、病原体の媒介などと関連付けられるからだ。

 生態学者や昆虫学者は、一般の人々にとっての昆虫の大きな重要性を十分に説明してこなかったことを深く反省すべきだ。昆虫は既知の生物種の極めて大きな部分を占めており、地上と淡水内の食物網と密接に関連している。昆虫がいなければ、多くの鳥、コウモリ、爬虫類、両生類、小型の哺乳類、魚類は、餌がなくなるため姿を消すだろう。

 すべての植物種のうち87%は、授粉のために動物を必要とするが、その動物の大半は昆虫だ。人間が栽培する作物の約4分の3は、授粉に昆虫を必要とする。その役割は世界全体で、年間2350億~5770億ドルの価値を持つという。金銭的価値はさておいても、授粉の仲介役がいなければ、世界の人口を養うことはできない。

 昆虫の重要性はしばしば、エコシステム上の役割によって説明される。授粉のほかに、テントウ、ハナアブオサムシクサカゲロウなどの昆虫は、害虫駆除などに役立っている。木材を餌とする虫は、枯れ木の栄養分のリサイクルを助ける。トビムシ、シミ、ワラジムシなどの無脊椎動物は落ち葉の分解を助ける。糞虫や蝿がすぐに糞に集まってこなければ、牧場は獣糞の山になる。彼らによってリサイクルされた糞は植物の栄養になる。動物の死骸は、シデムシやウジの餌とならなければ、腐り果てるまで何カ月もかかるだろう。

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糞虫がいなければ牧場は糞の山に。これはゾウの糞を食べるタイの巨大糞虫です。

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シデムシは動物の死骸を処理する「おくりびと」。ヨツボシモンシデムシです。

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日本のきれいな糞虫の代表、オオセンチコガネ

 こうしたエコシステム上の役割は、米国だけでも年間少なくとも570億ドルの価値があるという。

 世界中のロボット工学のエンジニアは、ハナバチが減少し、それに代わるものがすぐに必要になるとの前提で、作物の授粉のためにロボットのハナバチを開発している。これはわれわれが、子供たちのために望む未来だろうか。そこでは子供たちが、頭の上を飛ぶ蝶を見ることがなく、野生の花々はなく、小鳥たちの歌声や虫の羽音の代わりに、授粉用ロボットの単調な機械音が響くのだ。

 そして最後に、人間にとっての利益とは無関係な側面からの議論がある。それは、地球上の人間以外の生物にも、人間と同様に、地球に暮らす権利があるというものだ。地球という惑星で共に生きる者たちの生活を気遣う道徳的な義務が、われわれにはあるのだろうか。

 

◆基準線の変化

 昆虫だけでなく、哺乳類、鳥、魚、爬虫類、両生類も、数十年前より減っている証拠があるが、変化がゆっくりであるため、それを実感することは難しい。科学者らは、「基準線の変化シンドローム」とでも呼ぶべき現象を認識している。それは、われわれはみな、自分が育った世界が、親の世代が育った世界と大きく異なっていたとしても、それを普通の世界と考えるというものだ。

 子供たちの、そのまた子供たちは、現在よりもさらに、昆虫や鳥や花々が少なくなった世界で育つだろう。そして彼らはそれを普通のことだと考える。彼らは、クジャクチョウの羽のきらめきを懐かしく思うことはない。彼らは、美しい生物であふれた熱帯の巨大サンゴ礁というものがかつてこの世に存在したことを学校で習うかもしれないが、それはずっと以前に消滅しており、マンモスや恐竜と同じくらい実感のないものになるだろう。

 過去50年間、われわれは地球上の野生生物の個体数を劇的に減らしてきた。かつては普通に見られた多くの種が、今では希少種になっている。確証はないが、われわれは1970年以降、昆虫の個体数の50%かそれ以上を失ってしまったかもしれない。減少幅はそれよりずっと多いかもしれない。

 おそらくもっと恐ろしいのは、何かが変わったことにわれわれの大半が気付いていない点だ。われわれの基準線がシフトすること、われわれが新たな状況に慣れることは、良い事なのかもしれない。基準線がシフトしなければ、われわれの心は、失ったものへの思いによって引き裂かれるかもしれないからだ。

その一方で、記憶を維持し、喪失感を持ち続けるべきだとの主張もある。変化を記録する自然観察の取り組みはその助けとなる。われわれが、忘れても構わないと考えるなら、将来の世代は、鳥の囀りや蝶の姿やハナバチの羽音がもたらす喜びや驚きを知ることなく、コンクリートと小麦畑ばかりの世界に暮らすことになるだろう。

 

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子供たちが蝶を見る喜びを失うのは悲しい。ナミアゲハの交尾です。

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スジグロシロチョウ♂のレモンのような香りを嗅ぐ女の子

◆力を合わせれば昆虫の減少を逆転させることは可能

昆虫の個体数と多様性の劇的減少に伴うエコシステムの崩壊は、社会が今実際に直面している脅威だ。しかし、それは避けられないものではない。英国での昆虫の減少は、主として生息場所の喪失と、農場や都会の公園などの緑地、家庭の庭などでの殺虫剤の使用によるものだ。

 われわれは、日常的に行われている不必要な殺虫剤散布をやめなければならない。

 政府は、英国内での殺虫剤使用の削減について、強制的な目標を定めなければならない。そしてわれわれは、自宅、公園、庭園、仕事場で、可能な限り殺虫剤や除草剤の使用を控えなければならない。

 われわれは、自然回復のネットワーク構築を開始する必要がある。

われわれは、庭や町や都市や郊外に、より多くの、そしてより良くつながった昆虫フレンドリーな環境を作り出さなければならない。

◆◆◆◆◆

 抄訳は以上です。作物の授粉用ロボットの開発が進んでいるなんて、びっくりですね。長いので読んでくれる人は非常に少ないと思いますが、こういう貴重な論文を紹介するのは、昆虫記者の義務ですね。

 

里山の蝶の4割が絶滅危惧種になりかねないって本当?

 里山の蝶の4割が絶滅危惧種になりかねない危機的状況にあるそうです。これは朝日新聞も、NHKも報道するぐらい恐るべきニュースです。

 「モニタリングサイト1000里地調査」という環境省事業で、日本自然保護協会が調査を担当したというので、信頼性は高そうです。

 調査は里地、里山の身近な生物種が対象ですが、中でも特に蝶の減少が激しくて、50カ所の調査地点での2008~2017年の調査分析では評価対象種(87種)のうち約4割(34種)が、「減少率」を基準にすると、絶滅危惧種に相当する勢いで数を減らしているというのです。

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イチモンジチョウも里山で急減

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都区部だと石神井公園に多いイチモンジチョウ

 10年当たり30%減少すると、この絶滅危惧の基準に当てはまるようですから、この34種は、10年前の3分の2程度、ないしそれ以下に減っていることになりますね。

 

 調査結果が発表されたのは今月12日とのことですが、虫への関心が高まる夏休み前とかに発表されていれば、注目度はずっと高かったのではないでしょうか。その点は残念です。

 ミヤマカラスアゲハやオオムラサキが大幅に減少(絶滅危惧1A類の減少率に相当)しているのは、実感として分かるのですが、アカタテハゴマダラチョウ(同1B類)、キタテハ、イチモンジチョウ、ジャノメチョウ(同2類)まで、危機的状況というのはちょっと驚きです。なんと、都会の公園で一番多く見られる気がするイチモンジセセリさえ、急激に減少しているというからびっくりですね。

 確かにゴマダラチョウは、外来のアカボシゴマダラに圧倒されて苦境にある気がするし、ジャノメチョウも見る機会が以前よりグッと減った感じはします。

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江東区猿江恩賜公園ゴマダラチョウ。都心では希少になってきた。

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水元公園ゴマダラチョウ

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千葉の泉自然公園のジャノメチョウ。最近めっきり見かけなくなった。

 でも、キタテハとかイチモンジセセリとかは、虫撮りに出かけても、わざわざ撮影しようとは思わないぐらいどこにでもいる蝶です。なんて言っていられるのは、今後数年かもしれないなんて考えると、今後はキタテハですら心して撮影しないといけないかもしれませんね。

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どこにでもいると思っていたキタテハでさえ急減しているとは

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確かにアカタテハを見る機会は減った。


 

 

 

環境省と調査を担当する日本自然保護協会が12日、発表した。

 調査は環境省が2003年から全国に1千カ所程度の定点を設けて続ける生物多様性に関する「モニタリングサイト1000」と呼ばれるもので、

環境省と調査を担当する日本自然保護協会が12日、発表した。

 調査は環境省が2003年から全国に1千カ所程度の定点を設けて続ける生物多様性に関する「モニタリングサイト1000」と呼ばれるもので、

環境省と調査を担当する日本自然保護協会が12日、発表した。

 調査は環境省が2003年から全国に1千カ所程度の定点を設けて続ける生物多様性に関する「モニタリングサイト1000」と呼ばれるもので、

シンガポールの沿線昆虫ガイド⑬ブキティマからマレー鉄道跡、セントーサへ

 ブキティマ山のふもとの秘密の小道には、蝶も多かったし、小川にはスッポンもいました。でも、本当は歩いてはいけない危険な道だったのです。

 花に来ているエルナシロサカハチシジミは可愛いですが、実は獣糞など汚いものも大好きです。

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花に来るエルナシロサカハチシジミは可愛いが

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獣糞で吸汁する姿はちょっと引いてしまう

 チャイロタテハ(クルーザー)も吸水に来ていました。

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吸水中のチャイロタテハ

 そして流れの中にはおいしそうなスッポンの姿も。

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シンガポール産の天然物スッポン

 しかし、虫探しを満喫していたその時、騒々しいマウンテンバイクの一団が襲ってきたのです。そこのけ、そこのけとばかりに、全くスピードを落とすことなく、昆虫記者の前後を走り抜けていきます。自転車の暴走族です。か弱い昆虫記者は、身ぐるみはがれて、裸一貫で放り出されるのでしょうか。

 

 しかし、自転車暴走族の連中は、何かの標識を指差して、ぐちゃぐちゃと文句を言っただけで、去っていきました。昆虫記者の気迫に恐れをなしたのでしょうか。

 

 ふと彼らが指差した標識を見ると、何と「ハイキング禁止」と書いてあるではありませんか。ここはマウンテンバイクの専用コースだったのです。こんな素晴らしい昆虫歩道をマウンテンバイク専用にするとは何事でしょう。彼らは鳥や虫や自然には興味がないと思われるので、コースはもっと荒れ果てた場所でいいと思うのですが。

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マウンテンバイク専用の道だった

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ハイキングは禁止

 結局この道は周回コースだったようで、入口に戻ってしまいました。そこからすごい遠回りをして、MRTのキングアルバートパーク駅に着きました。

 

 駅近くの車道の上には鉄橋のような構造物。MRTはここでは地下を走っているはず。ではこの鉄橋は何なのか。実はこのあたりは、以前マレー鉄道が走っていたのです。

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大通りの上には廃線の鉄橋

 鉄道跡地は今はグリーンコリドーという果てしなく長い緑道になっています。

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マレー鉄道跡。一部線路が残っている。

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マレー鉄道の枕木にとまっていたヘリグロホソチョウ

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鉄道跡の緑道がはるかかなたまで続く

 虫も多そうないい緑道なのですが、この日はマウンテンバイク軍団に襲われたりで疲れ切っていたので、MRTでホテルに戻ることに。

 

 列車がホテルのあるテロックブラガに近づいた時、隣のハーバーフロント駅から、有名観光地のセントーサ島へ行こうと思い立ちました。開発が進んだセントーサにはあまり虫はいないでしょう。それなのになぜ行くのか。それは、ここにきれいな白砂のビーチがあるからです。ビーチには水着姿の美女が群れているかもしれません。疲れ切った昆虫記者には、眼の保養が必要なのです。

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セントーサまでの橋を歩いて渡れば無料で入島できるようだ。ムービングウォークはただ。

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一応入島の料金ゲートはあるが、壊れているようで、みんな右端の通路から無料で出入りしている。

 では、お待ちかねの眼の保養をどうぞ。

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セントーサのビーチでくつろぐ乙女たち

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バンジージャンプもできます

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こんな恐ろしい事、昆虫記者は絶対やりません。

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セントーサ島内には、虫のいそうなキャノピーウォークもあります

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虫のいそうな小道もあります。

 でも、眼の保養ばかりしていたので、虫の収穫はゼロ。森の中の小さな滝に鳥が集まっていたのが唯一の収穫でした。

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滝の上にいたアオバト

 

ボルネオの昆虫総まとめ①キナバル山の玄関口、コタキナバル

 ボルネオと言えば、オランウータンやテングザルがいるジャングル。でもキナバル山の玄関口のコタキナバルは結構な都会です。しかし玄関口でさえ、虫がたくさんいる。さすがはボルネオですね。

 ヤフーブログ閉鎖に伴う総まとめ復活作業。今回はコタキナバルとキパンディ編です。その後、キナバル山、キナバタンガン、セピロックと探検隊は進撃していく予定です。

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大きさと美しさを兼ね備えたセミ、タクア・スペキオサ

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コタキナのホテルにいたコキティナヒメイナズマの♀

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ダールマンツヤクワガタ

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キパンディのサソリ

 

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シンガポールの沿線昆虫ガイド⑫シンガポール最高峰ブキティマに火の鳥アカショウビン

 シンガポールの虫旅4日目は、決死の登山。なんて、嘘です。シンガポールに山なんてあるわけないですね。でも、一応現地日本人の間で「山」と呼ばれているのが、最高峰のブキティマ山です。標高はわずか163メートルで、シンガポール人はだれもこれを山とは思っていないでしょう。200メートル以上の高層ビルの多いシンガポールでは、ビルの上から頂上を見下ろせてしまうかも。

 ブキティマのブキは丘の意味なので、実態は小高い丘ですね。では、ブキティマの丘に登ってみましょう。

 MRTダウンタウン線のビューティーワールド駅で降りると、ブキティマまでは歩いて10分ほどです。この駅が出来たのは2015年のこと。それまではブキティマに行くのはバスを乗り継いだりと、非常に面倒でした。交通は便利になったし、自然豊かないいところなので、みなさん是非行きましょう。などと呼びかけても、日本人はほとんど行きません。なぜでしょう。それは、何もないからですね。

 でも、虫はそここそいます。その上今回は、バードウォッチャー憧れの「火の鳥アカショウビンとか、天然物スッポンとか、色々面白いものに出会いました。「何もない」かもしれないけれど、「何か面白いものに会える」かもしれないブキティマです。

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何もないと思っていたブキティマに「火の鳥アカショウビン

 まず、斜めに45度傾いたような、ブキティマ駅出入口の変な形に注目です。駅前の植え込みには、キバラタイヨウチョウというきれいな鳥。さすが南国です。

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斜め45度に傾いたビューティーワールド駅。その先の緑はブキティマだ

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駅前にいたキバラタイヨウチョウ

 ブキティマ山に向かうと、すぐにサルの群れが現れました。

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ブキティマから住宅街に下りてきた猿軍団

 廃線になったマレー鉄道のガードをくぐると、もうブキティマ山入口です。

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青い表示の下をくぐると、間もなくブキティマ山の入口

 まず小さなカマキリを発見。小さな卵嚢はこのカマキリのものかもしれません。

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近付くとすぐに飛んで逃げる小さなカマキリ

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柵のあちこちに付いている小さな卵嚢は前出のカマキリのものかも

 次に現れたのは、アオバハゴロモの巨大版。モンシロチョウぐらいの大きさがありますね。

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アオバハゴロモを大きくしたようなハゴロモの仲間

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飛ぶと、モンシロチョウのように見える

 道は舗装部分が多くて、歩きやすいのですが、健康運動好きの華人たちが、例の後ろ歩きで坂を下りてくるので、衝突事故に注意しましょう。

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エクササイズ好きの華人が何人も、後ろ歩きで山道を降りてくる

 そして、あっという間に頂上。さすがはブキ、丘です。「登頂!」という達成感は全くありません。

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これがシンガポール最高峰の頂上

 遠足みたいなグループも多いです。でも、こんな丘登りでは、子供たちの体力増進にはつながりそうにないですね。

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頂上には遠足みたいなグループも多い

 頂上にはテリを張っている蝶が何種類か。忙しそうに飛び回るコモンタイマイは例によってピンボケに。きれいに撮れたのは、じっとしているコミスジの仲間ぐらいです。

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頂上広場にいたコモンタイマイ

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ミスジの仲間

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オオジョロウグモだろうか。こんなに丸々と太ったのは珍しい

 下りは、左側の脇道のトレイルに入ります。その先には、ちょっと面白いものがあるのです。それは、マレーシアから水を輸入するための巨大水道管。水資源の乏しい島国シンガポールは、毎年大金を払って隣国マレーシアから水を買っているのです。

 

 そんな貴重な水ですから、マレーシアからの水道管は地中にあるか、鉄条網などで厳重に守られている場所が多いのですが、ここだけはなぜか、地上にドドーンと鎮座しているのです。

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マレーシアからシンガポールへ水を運ぶ巨大水道管

 ひやりと冷たい巨大水道管の上に乗って、弁当を食べるのは気持ちのいいものです。しかし、大事な水道管をむき出しにしていていいのでしょうか。テロ攻撃の目標になったりしないのでしょうか。

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巨大水道管の上でくつろぐ昆虫記者

 どこからか突然、テロ対策部隊が現れて「日本人昆虫記者、水道管テロ容疑で逮捕」なんてことになったりしないのでしょうか。ちょっと不安です。

 

 ブキティマ山は、そこそこ人出があるのですが、この水道管のある草原は、見渡す限りだれも歩いていません。なので、ブキティマ山より虫が豊富です。

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目玉模様が自慢のタテハモドキ(ピーコックパンジー

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チョコレートパンジー

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大きなキリギリスの仲間

 タテハモドキなどの蝶を一通り撮ったら、昔通った帰り道を探します。しかし、何ということでしょう。行く手はバリケードでふさがれて、その中では大規模工事が進行中なのでした。この荒れ野のような場所を、小ぎれいな公園にでも作り変えるのでしょうか。荒れ野は荒れ野のままの方が虫が多くていいのですが、一般大衆はそうは思わないでしょう。

 

 工事のせいで、帰り道はふさがれいます。でも工事現場のすぐ脇に、いい感じの林道が口を開いていました。横に小川が流れていて、いかにも虫がいそうな林道です。方向的にも、駅方面に戻れそうです。昆虫記者がそこに吸い込まれたのは当然と言えます。

 

 しばらく林道を進んでいくと、バチャバチャと激しい水音。「もしかして、美女軍団の秘密の水浴場でもあるのか」と期待して、足音を忍ばせて近づきます。すると、そこにいたのは、美女軍団よりも魅力的なバードウォッチャー憧れの「火の鳥アカショウビンでした。

 激しい水音は、アカショウビンが狩りのため、水中に飛び込む音だったのです。アカショウビンは狩りに夢中で、近づいても逃げようとしません。10分ほど、のんびりと狩りの様子を眺めていたのですが、1匹も魚を捕まえることができません。ただ遊んでいるのか、最低の技量のアカショウビンなのかのどちらかでしょう。

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狩りの技量最低のアカショウビン

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何度水中に飛び込んでも

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魚取りに失敗して、また元の枝に戻って来る

 いつまで待っても狩りに成功する気配がないので、見捨てて先に進むことに。しかし、そこで、想定外の襲撃に遭うことになるのですが、長くなったので、今回はこのあたりで打ち切りに。次回に期待をつなぐいい終わり方ですね。

 

マレーシア(半島部)の昆虫総まとめ③思い出のキャメロンハイランド

 ヤフーブログ閉鎖に伴う記事復活総まとめ。今回はマレー半島のキャメロンハイランド。なにせ2012年のことですから、その後開発が進んで今はどうなっていることやら。虫たちの窮状が思いやられます。

 あの頃はまだ、あまりブログに慣れていなかったので、紹介した虫もごくわずかでした。そこで今回は復活記念で、掲載漏れの虫たちに出演機会を提供することに。でもこれから虫探しにキャメロンに行こうという人は、期待しすぎるとがっかりするかも。その後だいぶ虫が減ったらしいという話も耳にしたので。

 

 それではまず、今回貴重な出演機会を得た虫たちです。

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マニアにとっては黄金よりありがたいオウゴンオニクワガタ

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噛まれたら痛そうなセアカフタマタクワガタ

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巨大なオサゾウムシの仲間

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ホテルに飛んで来た水玉模様の大型カミキリ

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擬態の王者コノハムシ。オランアスリが木に登ってとってくれた。

 以下はお目汚しの当時の雑なブログ記事です。

mushikisya.hatenablog.com

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mushikisya.hatenablog.com この旅でジャングルの中を案内してくれたのは、先住民のオランアスリの人たち。彼らの素朴な暮らしは、うらやましいが、都会の害悪に染まった昆虫記者が馴染めるはずはない。

 以下は、オランアスリの人たちとの思い出の写真です。

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苦もなく木に登って虫をさがしてくれたオランアスリの若者

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オランアスリの村。この先に昆虫天国がある

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ビニール袋の網を持って採集に向かうオランアスリの少女。

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ビニール袋の網で上手に蝶をとる

 

日本最小のスズメガ「ホシヒメホウジャク」は蛾だけどかわいい

 たまに日本の虫。1カ月ほど前に自宅で羽化したホシヒメホウジャクです。大きいと不気味なスズメガの仲間ですが、小さいというだけで可愛く見えますね。日本最小だそうです。

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ホシヒメホウジャク。こんなに小さくてもスズメガの仲間です。日本最小です。

 幼虫はホシホウジャクと同じヘクソカズラを食べます。でも、ヘクソカズラでみつかるのはいつもホシホウジャクの幼虫ばかりで、ホシヒメホウジャクを見つけたのは、今回を含めてわずか2回だけです。

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川崎市で見つけたホシヒメホウジャク幼虫。前回見つけたのは浜離宮でした。

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幼虫はこれがほぼ最大サイズ。成虫が小さいので、当然幼虫も小さいです。

 成虫を見たのは、ホシホウジャク1000回に対してホシヒメホウジャク1回くらいの割合でしょうか。

 ホシホウジャクは嫌になるほどいますから、虫撮りに出かけると1日に2、3回は見かけます。なので、ホシヒメホウジャクを見つけると、すごい幸運のような気がするのです。幼虫は金箔を張ったような模様で、おめでたい印象だし。

 

 ヘクソカズラの葉を丸めて蛹室を作ります。

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ホシヒメホウジャクの蛹室

 蛹室の中の蛹はこんなです。

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ホシヒメホウジャクの蛹


 そして羽化。

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小さくて愛おしいですね。

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極小のホシヒメホウジャクですが、大写しにするとホークモスの精悍な姿に。

 羽がちょっと凸凹の変わった形をしています。裏から見るとよく分かりますね。枯れ葉っぽく見せるためでしょうか。

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裏から見ると、凸凹の羽の形が面白い。

 こんなに小さくてもスズメガ。それだけで可愛いと思えるから不思議です。子犬も子猫も可愛いですよね。体重100キロ近くある子象でさえ、親象より小さいというだけで可愛く思えるます。小さくて弱い者が生き残るには、きっと、この可愛さで獲得する愛情が不可欠なのでしょう。